魔界転生(幕末編)
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第55話 龍馬と総司
龍馬は良順に部屋へ招かれると、そこには一人の男がヒューヒューと苦しそうな息をして天井を見つめ寝ていた。
「沖田君、しっかりするぜよ。この坂本龍馬が見舞いに来てやったというのに」
龍馬は沖田の傍にどっかりと座り、青白い顔をした沖田を見つめ声をかけた。
「さ、坂本龍馬?」
その男こそ、天才剣士と名をはせた沖田総司の馴れの果てだった。
「そんな馬鹿なこと、あるわけない」
沖田は眼だけを横に向いて龍馬をみつめた。が、そこには信じがた男の顔があった。
「そ、そんな、本当に龍馬さんなのか?」
沖田は涙声で息も絶え絶えに言った。
「そうぜよ、沖田君。正真正銘の坂本龍馬じゃ。沖田君、元気になってまたわしと鬼ごっこをしよ」
龍馬は大きな声で笑った。
「ははは。龍馬さんらしい。でも、私が知るにあなたは死んだはず。なぜ、今いるのですか?」
沖田の問いにまたその問いかと飽き飽きするようにため息をついた。
「まぁ、いろいろ事情があるんぜよ」
にこりと微笑んで龍馬は答えた。
(まぁ、その事情には沖田君、君も当事者になるとおもうがね)
龍馬は憐みなのか楽しみなのかわからない複雑な感じがした。その時、龍馬と良順をかき分けるように後ろにいた女が沖田に抱き付いた。
「あぁ、沖田様、沖田様」
女は身悶えるように沖田の体に抱き付き、頬と頬をすり合わせた。
「こ、これこれ、おなご。沖田君に近づくことはならぬ。病気がうつってしまうぞ」
良順は慌てて女を引き離そうとしたが、女の身でどこからこんな力がという程の力で抱き付いているものだから引き離すことができなかった。
「ははは、見せつけるぜよ」
龍馬はその様子をみて笑った。
「笑い事ではないぞ、坂本君。君も手伝いたまえ」
良順は息を切らしていった。
「先生、無理ぜよ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでまえというますろ?」
龍馬は女の様子をにやにやしながら眺めて言った。
女は舌を使って沖田の体を嘗め回すように這わせた。
「も、もしや、あなたは?」
その快感に身をゆだねるように悶えながら女の顔をみたとき、驚愕した。なぜなら、その女は、沖田が初めて愛した女であったからだ。
「沖田君、知り合いなのか?」
龍馬は沖田に顔を寄せて聞いた。
「もう逢えないと思っていたのに、こんな時に」
沖田は涙混じりの声で龍馬に答えた。
(なるほどな。沖田君の転生の鍵はこの女というわけか。武市さ達の目論見に乗っかってみるのも面白いかもしれんなぁ)
龍馬はすべてを理解して頷いた。
「沖田君、沖田君は生きたいとねがうかね?」
龍馬は沖田に耳打ちをした。その言葉に沖田は驚いたように龍馬をみつめた。
「沖田君、もし、生きたいと願うなら、その女死ぬまで抱くがいいぜよ。そうすれば、沖田君、君は蘇ることが出来る」
龍馬はにやりと笑った。その笑みを沖田はみつめた。
(なんて不気味な笑顔なんだ)
と、沖田は思った。が、生きたい。生きて勝負したい人が自分にはいるのだと沖田は心の底から思っていた。
「龍馬さん、僕はあなたに乗っかろうと思います。それが、あなたの様な化け物ならろうとも」
沖田は鬼気迫る表情で龍馬を見つめた。
(さて、武市さ、お膳立てはできたぜよ)
龍馬は心の底でほくそ笑んだ。
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