英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第213話
~バリアハート・クロイツェン州統括領主の館・客室~
「え……」
「し、”試練”ってもしかして……!」
「”三国”や”空の女神”の”試練”のように誰かと戦えって言うのかしら?」
エリゼの口から出た予想外の答えにエリスは呆け、ある事を察したエリオットは信じられない表情をし、セリーヌは驚きの表情で尋ねた。
「はい。なお”試練”は2回あります。」
「に、2回もあるんですか!?というかそもそも私達は今度はどなたと戦うのでしょうか……?」
「まさかアンタがあたし達の相手をするつもりかしら?」
「…………私の”試練”の場所は三国の”試練”の際に皆さんがレオンハルト様と剣を交えた場所です。私は先に行って待っていますので、準備を整えてから来てください。」
エマとサラ教官の問いかけにエリゼは答えずリィン達に背を向けて歩き出したが、ある事を思い出して立ち止まった。
「一つ言い忘れていました。”試練”に挑む際は”Ⅶ組”やエリスのように”Ⅶ組”に協力しているメンバー全員を連れて来て下さい。それとクロウさんとクロチルダさんは申し訳ありませんがその状態で”試練”の場所まで兵士達に移送してもらいます。」
「ええっ!?み、みんなに加えてクロウとクロチルダさんも!?」
「ね、姉様!?一体何を考えていらっしゃるのですか……!?」
エリゼの説明にエリオットは驚き、姉の思考が理解できないエリスは信じられない表情でエリゼを見つめて問いかけ
「……私の”試練”を乗り越える事ができれば、”Ⅶ組”が全員揃う事になるから、Ⅶ組や彼らに協力する方々全員が”最後の試練”を見届ける必要があると思ったからよ。」
「エリゼ…………」
「………………(”時は来た”という事か……)」
エリゼの言葉を聞いたリィンは真剣な表情でエリゼを見つめ、リフィアは目を伏せて黙り込んでいた。
「―――失礼します。」
「姉様…………」
「フム………彼女は何の為に”試練”を持ち出したのだろうね?リフィア殿下、何か心当たりはあるかい?」
エリゼが退室するとエリスは辛そうな表情をし、オリヴァルト皇子は考え込んだ後リフィアに尋ねたが
「心当たりはあるが、今は言えん。」
リフィアは静かな表情で答えを拒否した。
「”試練”に挑む際は覚悟を決めて挑みなさい。彼女のあの目……あの決意に満ちた目は”鉄血宰相”を殺す為に活動していたクロウとどこか似ていたわ。」
「ええっ!?じゃ、じゃあやはりエリゼさんの”試練”の相手は……!」
「”守護の剣聖”―――――つまりエリゼ自身って事ね。」
「で、でもそうだとしてもエリゼちゃん、”試練”は『2回ある』って言っていたよね?2回目の相手は誰なんだろう……?」
(マスター、まさかとは思いますけど2回目の相手は……)
(…………ええ。もしかしたら彼女はこの時の為に、ヴァイスリッターの操縦を必死で練習し、二大国侵攻の時もヴァイスリッターで戦っていたのかもしれないわね……)
クロチルダの忠告を聞いたエマは驚いた後信じられない表情をし、セリーヌは目を細め、エリオットの推測を聞いてある事を察したツーヤの念話にプリネは重々しい様子を纏って答え
「他の連中はともかく、リィン。今のエリゼ嬢ちゃんは俺なんざ軽く一蹴できる程の腕前だ。生半可な気持ちで挑むんじゃねえぞ。」
「ああ……わかっている。」
クロウの警告にリィンは決意の表情で頷いた。その後準備を整えた後リィン達は”紅き翼”の面々を呼び寄せ、指定された場所に向かうとそこにはエリゼがリィン達を待ち構え、少し離れた場所にリフィアやレン、そしてクロウとクロチルダがいた。
~オーロックス峡谷~
「うふふ、ちゃんと全員来たみたいね♪」
「えっと……レン姫が何故こちらに?」
「もしかして”殲滅天使”がエリゼの”試練”の相手の一人?」
レンを見たセレーネは戸惑い、フィーは警戒した様子でレンを見つめた。
「いいえ、レンは”観客”としてこの場にいるだけよ。1回戦もそうだけど、2回戦は興味深い対戦カードになるしね♪」
「”興味深い対戦カード”、ですか?」
「……………………(”灰”と”白”のぶつかり合いの事ね……)」
レンの答えを聞いたラウラは不思議そうな表情をし、ゲルドは複雑そうな表情をしていた。
「クロウ君……!よかった、無事で……!」
「拘禁されていたって聞いていたけど、元気そうで何よりだよ……」
「フフッ、どうやら悪運だけは相変わらずあるようだね。」
クロウの姿を見たトワやジョルジュ、アンゼリカは安堵の表情をし
「よお……悪ィな。久しぶりの再会がこんな無様な姿で。」
「あ……」
「手錠か……」
「先輩とクロチルダさんは拘禁の身だから仕方ない、か。」
クロウがわざとらしく見せた手錠を見たトワは悲しそうな表情をし、ガイウスは重々しい様子を纏って呟き、マキアスは複雑そうな表情をしていた。
「エリゼ!せめて二人の手錠を外してあげてよ!二人は逃げるつもりが無い事はもうわかっているでしょう!?」
「――――”試練”を乗り越えた際にお二人の手錠の鍵も差し上げます。」
「え……じゃ、じゃあエリゼさんがお二人の手錠の鍵を……」
アリサの懇願に静かな表情で答えたエリゼの話を聞いたアルフィンは目を丸くし
「―――それで”試練”の相手は一体誰だ?」
「まあ~、状況を考えたら相手はもうほとんどわかったようなものだけどね~。」
ユーシスの問いかけに続くようにミリアムは意味ありげな表情でエリゼを見つめていた。
「――――皆さんのご想像通り1回戦の相手はこの私で、そちら側の人数は6人までです。なお三国の”試練”のルール同様皆様が契約している異種族はメサイア様以外は禁止とさせて頂き、特別ルールとしてⅦ組のメンバーは6人中最低4人は参加して頂きます。」
「!!」
「ええっ!?エリゼお姉様一人で6人も相手をするんですか!?」
「ま、相手は”八葉一刀流”の”皆伝”だからな。1対6でも下手したら俺達の方が苦戦するかもな。」
「さすがにアリオスさん程ではないとは思うけどね……」
「リィンさん、メンバーはどうされますか?」
エリゼの説明を聞いたリィンは目を見開き、セレーネは驚き、トヴァルとサラ教官は警戒した様子でエリゼを見つめ、クレア大尉はリィンに判断を仰いだ。
「…………みんな、悪いけど今回の戦いは俺一人に任せてもらえないか?」
「ええっ!?」
「……勝算はあるのか?同じ”八葉”の使い手とはいえ相手は”皆伝”。対するお前は”中伝”だぞ。」
「エリゼ君はあのカシウスさんと同じ”剣聖”。さすがにリィン君一人だと厳し過ぎると思うのだが……」
リィンの突然の申し出にエリオットは驚き、レーヴェは真剣な表情で尋ね、オリヴァルト皇子は心配そうな表情でリィンを見つめ
「…………もしかして”あの力”を使うつもりなの?」
「あ…………」
「兄様…………」
フィーの推測を聞いたアリサとエリスはそれぞれ心配そうな表情をしていた。
「―――いや、今の状態で戦うつもりだ。」
「……そんなんでエリゼに勝てるの?言っておくけどエリゼ、エヴリーヌ達程じゃないけど結構強いし、少なくてもリィンより強いよ?」
「それでも俺は一人で越えなければならないんだ……ロイドさんが言っていた俺にとっての”真の壁”――――エリゼを。」
「あ…………」
エヴリーヌの疑問に答えたリィンの話を聞いたアリサはリィンとロイドとの一騎打ちの時の会話を思い出した。
エリゼさんか。君と”帝国解放戦線”のリーダーの事情をレン達から聞いたけど、後から考えて見ればオルディーネに引導を渡した彼女こそが君が超えるべき”真の壁”だと俺は思ったよ。
「ロイドさんがそんな事を……」
「……ですが確かにその通りですね。」
「………………」
リィンの話を聞いたプリネとツーヤはそれぞれ複雑そうな表情をし、リフィアは目を伏せて黙り込み
「姉様。ロイドさんは姉様がオルディーネに引導を渡したと仰っていましたが、あれはどういう意味ですか?」
「そ、そう言えばレン姫もオルディーネに止めを刺したのはエリゼ君だって言っていたよな!?」
「何ですって!?」
「な――――オルディーネに止めを刺したのがエリゼ嬢ちゃんだと!?」
エリゼを見つめるエリスの質問とマキアスの言葉を聞いたクロチルダとクロウはそれぞれ驚きの表情で声を上げた。
「……その件については1回戦を乗り越えた時に答えさせて頂きます。―――それより兄様。本当に兄様お一人で挑むおつもりですか?しかも兄様がずっと悩み続けていた”あの力”も使わずに。」
「ああ。エリゼとの戦いは”試練”である前に”兄妹喧嘩”だ。”兄妹喧嘩”に手出しは無用だ。それにエリゼという俺にとっての”真の壁”を越える為にはあの力も使うべきではないし、この後に”最後の試練”が控えているんだからその時に備えて使う訳にはいかない。」
「…………出し惜しみをした事で後悔しても知りませんよ。幾ら相手が兄様とは言え、今回の戦いだけは手加減をする訳にはいきません。」
「――望む所だ。全力で来い。俺も相手がエリゼだからと言って手心を加えず、本気で行く。―――それとエリゼ、”試練”を乗り越えた際の条件―――クロウとクロチルダさんを”紅き翼”に加える事の他にももう一つ条件を加えさせてもらってもいいか?」
「え……どのような条件でしょうか。」
リィンの口から出た予想外の答えにエリゼは戸惑いの表情で問いかけた。
「エリゼ、お前の”試練”を乗り越える事ができた時はお前も俺達の元に来い。――――代わりにもし俺が乗り越える事ができなかった場合は俺は”紅き翼”を抜けてお前と共にオズボーン元宰相との決戦に挑む。俺と契約しているベルフェゴール達の実力を考えれば、メンフィルにとっても俺がリウイ陛下達の部隊に加わる事は利益になるはずだ。」
「ええっ!?」
「リ、リィン!?」
「!!に、兄様……自分の仰っている事を理解しておられるのですか……?」
リィンの出した条件に仲間達が驚いている中エリゼは信じられない表情で問いかけ
「―――ああ。メンフィルでずっと頑張り、俺達を陰から支え続けて来たエリゼを俺達の傍に来させるにはそのくらいのリスクを負う必要がないと、陛下達は納得できないと思う。」
リィンは決意の表情で答えた。
「で、ですが陛下達の許可がなければそのような事は――――」
リィンの答えにエリゼは反論しようとしたが
「―――よかろう。もしエリゼの”試練”を見事乗り越える事ができればエリゼもお主達”紅き翼”に協力させる事をメンフィル皇女にしてメンフィル帝国の次期皇帝たるリフィア・イリーナ・マーシルンの名において確約する事を宣言する。」
「リフィア………」
「……ありがとうございます。」
リフィアの助け船に呆け、リィンは静かな表情でリフィアを見つめて感謝の言葉を述べた。
「礼はいらぬ。その代わりもしお主が乗り越える事ができなかった時は双界をかけた決戦に大切な仲間達と共に挑む事ができない覚悟もできているのだな?」
「はい。ですがその覚悟は必要ないかと。俺は必ずエリゼの”試練”も乗り越えますので。」
「兄様…………―――わかりました。その条件、喜んで守らせて頂きます。ですがそう簡単に乗り越える事ができると思ったら、大間違いですよ?」
「ああ……勿論それもわかっているさ。」
二人はそれぞれの得物である”太刀”を構えて対峙した。
「―――八葉一刀流、六の型奥義皆伝、エリゼ・シュバルツァー……リィン・シュバルツァーの”壁”として立ち塞がらせて頂きます!」
「―――八葉一刀流、中伝。リィン・シュバルツァー、参る!」
互いに名乗り上げた二人はそれぞれ全身から膨大な闘気をさらけ出し始めた!
「やあああっ……!」
「はあああっ……!」
そしてエリゼとリィンは戦闘を開始した!
今ここに!運命が改変された兄妹による”一騎打ち”が始まった……!
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