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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)

作者:sorano
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第203話

~エルベ離宮・待機室~



「エ、エレボニア皇帝の代理をメンフィル帝国の皇族が務める上セドリック皇太子の教育をメンフィルに任せたいって……!」

「オイオイオイ……!そんなのアリか!?」

「め、滅茶苦茶すぎるわ!代理とは言え他国の皇家の方に皇帝の権限を渡す事もそうだけど、他国に自国の皇太子の教育を委ねるなんて事をしたら様々な問題が浮上するわよ!?」

端末で会議の様子を見守っていたロイドとランディ、エリィは信じられない表情で声をあげ

「というかメンフィル皇家の方がエレボニア皇帝の代理を務めた上セドリック皇太子の教育までメンフィル帝国がしたら、エレボニア帝国はメンフィル帝国に隷属したも同然状態ですよね?」

「へえ……まさかあんなありえない提案を採用するなんて、マジで驚いたよ。」

ティオは戸惑いの表情で呟き、ワジは目を丸くして呟いた。



~紋章の間~



「メ、メンフィル皇家の方にエレボニア皇帝の代理を務めてもらう上、セドリック殿下の教育までメンフィル帝国に委ねるなんて事をしてしまったら……!」

「……メンフィル帝国に隷属したも同然の状態だと思われるが……」

「………………」

「……………………念の為に確認しておきますがユーゲント陛下は先程の話を承知しているのですか?」

オリヴァルト皇子の説明を聞き終えたクローディア姫は信じられない表情で声をあげ、アルバート大公は重々しい様子を纏って呟き、ユーディットは信じられない表情で絶句し、アリシア女王はオリヴァルト皇子達を見つめて尋ねた。



「はい。父もそうですが当事者となるセドリックにも了承してもらっています。」

「なお、”四大名門”の”ログナー侯爵家”と”ハイアームズ侯爵家”の当主の方々にも直接お会いし、事情を説明して納得して頂きました。」

「…………会議が始まるまでの空いた期間にログナーとハイアームズに会っていた理由は”それ”だったのか。」

オリヴァルト皇子とクレア大尉の答えを聞いたリウイは考え込みながら呟いた。



「……お主達、正気か?一時的にとは言え自国を占領した国の皇族に皇帝の権限を渡す事もそうだが、跡継ぎの教育まで余達に任せたいとは狂気の沙汰じゃぞ。」

「メンフィル帝国によってエレボニア帝国が搾取されたり疲弊されたりする事もそうですが最悪乗っ取られる可能性がある事に加えてメンフィルがセドリック皇太子をメンフィルに従属させるような教育をする恐れがある事等を考えなかったのですか?」

エレボニア帝国の正気の沙汰とは思えない提案に信じられない思いでいるリフィアの言葉の後にイリーナが質問した。

「――逆に尋ねさせて頂きますが今回の会議のような国際会議で……各国のVIPの方々がいらっしゃる前でエレボニア帝国と約定したメンフィル帝国がそのような卑劣な事をするのでしょうか?だとすればメンフィル帝国は心が狭く、誇りすらない大国だと思われ、それに付随してメンフィル帝国が謳っている理想――――”全ての種族との共存”にも弊害が出てくると思われます。ここは”勝者の余裕”として各国のVIPの方々にメンフィル帝国の寛大な心や誇りを見せて各国のメンフィル帝国に対する印象を良くしてはいかがでしょうか?」

「!!………………」

「なるほど……確かにリィンさんの言う事にも一理ありますね。」

「ぬう……まさか各国のメンフィルに対する印象どころかメンフィルが掲げている”理想”まで利用してくるとは……」

「に、兄様………」

リィンの主張と提案を聞いたリウイは目を見開いた後目を細めてリィンを見つめ、イリーナは静かな表情で頷き、リフィアは唸り声を上げて考え込み、一歩間違えればリウイ達所かメンフィル帝国自身に対する挑発とも取れる言葉を口にしているリィンをエリゼは表情を青褪めさせて見つめていた。



「―――リウイ陛下。以前のケルディック焼討ちが起こった後にわたくしに持ちかけた”条件”の際にこう仰いましたよね?『我らメンフィルはエレボニアと違い、一度結んだ約束は破らん。』、と。お恥ずかしい話ですがもしエレボニア帝国が存続できたとしても内戦勃発を止める事ができなかった父―――ユーゲント三世がエレボニア帝国を立て直す事は厳しいでしょう。かと言ってまだ未熟なセドリックでは尚更厳しい状況です。なので将来親類関係になるメンフィル皇家の方々の手腕や一度結んだ約束を決して違えないという所を信頼して一時的にメンフィル皇家の方々に頼る事にしたのです。」

「………………」

「………少し質問がある。」

アルフィンの説明を聞いたリウイが黙って考え込んでいる中、ヴァイスが横から口をはさんだ。

「はい、何でしょうか。」

「取引とは関係のない俺が口を挟んで申し訳ないがオリヴァルト皇子。他国に任せるくらいなら貴方がエレボニア皇帝に即位した方がよほどリスクは少ないと思われるが。」

「……オリヴァルト皇子はアルフィン皇女同様内戦終結に向けて積極的な活動を行っていた事から民達もオリヴァルト皇子には好意的な目で見ていると思われる為、セドリック皇太子が即位するまでの”繋ぎ”としての役割は十分に果たせると思われますのに、何故わざわざ他国の皇家の方に頼む必要があるのでしょうか。」

「そこに付け加えて”尊き血”を重視する貴族の方々は殿下が即位する事に反対する可能性は考えられますが、その貴族達は内戦を引き起こしてエレボニア皇家である殿下達に反逆したという”重罪”がある為エレボニア皇家の判断に反対できる立場ではありません。よって今の状況ですとオリヴァルト殿下の即位も容易だと思われるのですが……」

「……確かにヴァイスハイト陛下達の仰っている事にも一理あります。ですが皇帝の権限を一時的に渡す……これが今のエレボニア帝国がメンフィル帝国に対してできる最大の謝罪と誠意の行動なのです。」

ヴァイスやエルミナ、ユーディットの意見に頷いたオリヴァルト皇子は静かな表情で語った。



「…………”取引”と言ったな。仮にメンフィル帝国がエレボニア皇帝の代理を務める件とセドリック皇太子の教育の件を引き受けた場合、エレボニア帝国はなにを”代償”にするつもりだ。」

一方黙って考え込んでいたリウイはオリヴァルト皇子達を見つめて尋ねた。

「”救済条約”の第4項の放棄と”救済条約”を実行した際に相殺されるはずであった”戦争回避条約”の第9項の実行を代償にする所存です。」

「”救済条約”の第4項というと……メンフィル軍に爆撃されたバルヘイム宮の修繕費の7割をメンフィル帝国が負担する件ですな。」

「更に”戦争回避条約”の第9項を実行するという事は……ええっ!?」

「……エレボニアは”帝国”の名を捨てるおつもりなのですか?」

クレア大尉の答えを聞き、アルバート大公に続くように資料にある”戦争回避条約”や”救済条約”のコピーを読み直したクローディア姫はある事に気付いて驚き、アリシア女王は信じられない表情でオリヴァルト皇子達を見つめて尋ねた。



「はい。”百日戦役”や”クロスベル問題”、そして内戦勃発を始めとした多くの不祥事を起こした挙句”国”自身が存亡の危機にまで陥ったエレボニアには”帝国”を名乗る資格はないと判断し、今後は”王国”を名乗るつもりです。」

「――以上がメンフィル帝国とクロスベル帝国にエレボニアの存続を認めて頂き、領地の一部を返還して頂きたい”理由”です。どうか御慈悲をお願いします……!」

オリヴァルト皇子の後に説明をしたアルフィンは頭を深く下げ、アルフィンに続くようにオリヴァルト皇子達も頭を深く下げた。そしてその場は静寂に包まれていたがやがてエイドスがリウイ達とヴァイス達を順番に見回して口を開いた。


「リウイ陛下、リフィア殿下。それにヴァイスハイト陛下。情状酌量を認め、エレボニアが国として存続できるようにする事……私からもお願いします。エレボニアの民達の為に……そしてエレボニアを存続させたいと強く願うエレボニア皇家の方々や貴方達にとって将来親類関係になるリィンさんを始めとした多くの方々の為にも。」

「エイドスさん…………」

エイドス自らがリウイ達に対して嘆願の言葉を口にして頭を下げた事にリィンは驚きの表情でエイドスを見つめ

「………七耀教会も女神と同じ意見です。どうかエレボニアに御慈悲をお願いします。」

セルナート総長はエイドスに続くように頭を下げた。



「……………………フッ、さすがに新興の国家であるクロスベルがゼムリア大陸の多くの人々が崇める存在の言葉を無視するという愚かな事はできんし、威厳やプライドを捨ててまで国を存続させたいというエレボニア皇家の思いを無下にしては俺達クロスベル皇家やクロスベルの”器”が小さいとゼムリア大陸の多くの人々に思われるだろうな。そのような事は俺の”皇”としての”誇り”が許せん。」

「え…………そ、それでは……!」

「クロスベルは情状酌量を認めて頂けるのでしょうか?」

静かな笑みを浮かべて語ったヴァイスの言葉を聞いたアルフィンは明るい表情をし、オリヴァルト皇子は真剣な表情で尋ねた。

「ああ。クロスベルはメンフィルの”戦争回避条約”によって指定され、後にクロスベルに贈与される予定だった領地――――ラマール州全土とノルティア州の”ルーレ市”を始めとしたこちらが指定する一部以外の領地を全てエレボニアに返還する。ノルティア州の4分の3は返還されると思って構わない。」

「あ…………」

「あ、ありがとうございます……!」

「クロスベルの寛大なお心に心から感謝致します。」

ヴァイスの答えを聞いたクローディア姫は明るい表情をし、リィンとクレア大尉はそれぞれ頭を下げて感謝の言葉を述べた。



「更にエレボニアが望むのであればセドリック皇太子の教育にクロスベルも担当する。勿論その際は俺やギュランドロス自身もセドリック皇太子を教育するつもりだ。」

「え……そ、それは本当ですか!?」

ヴァイスの口から出た予想外の申し出に驚いたアルフィンは驚きの表情で尋ねた。

「ああ。後はエレボニアの民達の為に少ないかもしれないが10兆ミラを”寄付”するつもりだ。―――エルミナ、ユーディ。異存はないな?」

「はい。他国の民達を思い、10兆ミラという莫大な大金を寄付する事を決めた陛下の寛大なお心を反対するような愚かな事は致しませんわ。」

「………………私も異存はありません。」

ヴァイスに視線を向けられたユーディットは静かな表情で答え、ヴァイスの予想外の申し出に一瞬判断に迷っていたが新興の国家であるクロスベルに対する他国の印象を少しでも良くする為に必要と判断したエルミナも同意した。



「そのような大金を”寄付”して頂けるのはありがたいが……本当によろしいのでしょうか?」

一方ヴァイスの予想外の申し出に驚いたオリヴァルト皇子は驚きの表情で尋ねた。

「ああ。幸いにもクロスベル帝国が没収したクロイス家の財産が相当溜め込んであってな。メンフィル帝国程ではないが莫大な”国家予算”がクロスベル帝国にはある。10兆ミラ”程度”でもこちらの懐は痛まないから気にする必要はない。」

「何と……!クロイス家は10兆ミラでも”程度”といえる程莫大な財産を溜め込んでいたのですか……」

「遥か昔から”銀行家”の仮面は被っていただけはある……と言う事ですか。それでクロスベルは情状酌量を認めるようですがメンフィルはどうするおつもりですか?」

ヴァイスの答えを聞いたアルバート大公は驚き、アリシア女王は静かな表情で呟いた後リウイ達を見つめ、アリシア女王の言葉を聞いたその場にいる全員はリウイ達に注目した。するとリフィアと小声で短いやり取りをしていたリウイが口を開いて答えた。



「メンフィルもクロスベル同様情状酌量を認め、今回の戦争で制圧したサザーランド州の領地全て並びに帝都ヘイムダルと”ジュライ特区”をエレボニアに返還する。またケルディック焼討の件で追加されていた”戦争回避条約”の”第14項”――――”謝罪金並びに賠償金の追加金”の金額を5割から2割に軽減する。」

「更に救済条約にあったバルヘイム宮の修繕費負担の件じゃが7割等けち臭い事はせず、全額負担してやろう!」

「え……そ、それは本当ですか!?」

リウイとリフィアの口から出た予想外の答えに驚いたアルフィンは信じられない表情で尋ねた。

「うむ!それと先程のエレボニアが持ち掛けた”取引”――――エレボニア皇帝代理の件とセドリック皇太子教育の件も引き受ける。皇帝代理につくメンフィル皇族は相応の人物を用意するつもりじゃし、セドリック皇太子の教育についても余やリウイ、そして我が父シルヴァンを含めた多くのメンフィル皇族自らが教育してやろう!」

「あ、ありがとうございます……!」

「メンフィル帝国の寛大なお心に心から感謝致します。」

「先程バルヘイム宮の修繕費も全額負担すると仰いましたが……私達が持ち掛けたエレボニア皇帝代理を務めて頂く件とセドリック殿下の教育の件に対する”代償”の内に入っているバルヘイム宮の修繕費の件については必要ないという事でよろしいのでしょうか?」

リフィアの言葉を聞いたアルフィンとオリヴァルト皇子が明るい表情で感謝の言葉を述べている中、ある事が気になったクレア大尉は真剣な表情で尋ねた。



「ああ。―――ただし、エレボニアの国王代理についてはいくつか条件がある。」

「え……じょ、条件ですか?」

「一体どのような条件なのでしょうか?」

リウイの口から出た不穏な言葉を聞いたアルフィンは戸惑い、オリヴァルト皇子は真剣な表情で尋ねた。

「まず一つ。当然だがエレボニア皇帝……いやエレボニア国王には”王”としての絶対の権限がある。条件の一つはエレボニア国王代理を務める者の”判断”に従う事だ。」

「先に言っておきますが私達メンフィル皇家は平民、貴族問わずに”罪”を犯せば相応の処罰を受けさせます。例え罪を犯した者が”四大名門”のような大貴族でもその者が”重罪”を犯したのならば厳しい処罰を受けさせますよ。」

「なおメンフィル帝国が行っている処罰の中には”公開鞭打ち”や”公開処刑”もあります。」

「ええっ!?あ、あの……幾ら何でも直接身体に危害を加える”鞭打ち”や民達の前で”処刑”をする”公開処刑”は余りにも惨い処罰だと思うのですが……」

イリーナの説明を捕捉したエリゼの話を聞いて驚いたクローディア姫は不安そうな表情で指摘した。



「”公開処刑”や”公開鞭打ち”は重罪を犯した者に直接苦痛を与える事や”見せしめ”を行う事で被害にあった者達の無念を晴らさせ、罪の抑止力や王を始めとした皇族への忠誠心を維持する方法としての有効な処罰だ。……言っておくがこの処罰の方法はメンフィルだけでなく俺達の世界―――ディル=リフィーナでの多くの国々でも行われている処罰方法だ。ゼムリア大陸の国家からすれば残忍な処罰方法かもしれないが今のエレボニアにとっては必要と思われる方法だ。」

「……それは一体どういう意味でしょうか?」

リウイの説明を聞いたアリシア女王は真剣な表情で尋ねた。 
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