英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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第34話
~隠者の庭園~
「そっか………そんな事があったんだ。」
「他に世界がある事も驚いたけど、まさか僕が書いたと思われる日誌があるなんて………確かにいつか今までの冒険の事を書こうとは思っていたけど………だから、君達はフィーナ達の事を知っていたんだね?」
仲間達から状況を聞いたエステルは溜息を吐き、アドルは驚きの表情で呟いた後、考え込んだ後エステル達に尋ねた。
「といってもここにいるみんながあなたの事を詳しく知っている訳ではありません。多分、エステルが一番じゃないですか?エステルは例の日誌が大好きで何度も読み返していましたし、最近産まれた弟にアドルさんと同じ名前をつけたんですから。」
「そうなのかい?」
ヨシュアの説明を聞いたアドルは驚いた後エステルに尋ねた。
「えへへ………そうよ。あ、そうだ。あたし、アドルさん、”アルタゴ地方”旅立ったばかりって言ってたけど、あたし、それ以降の話も覚えているわよ?」
「全く………その記憶力をちょっとでも他の事に回せばいいのに………」
エステルの話を聞いたシェラザードは呆れた表情で呟いた。
「そうなんだ。………でも、悪いけど話さないでくれるかな?今後訪れる新たな土地への夢や期待が薄れてしまうし。」
「あはは、さすがは”冒険家”ね。わかったわ。それにしてもまあ、聞けば聞くほど信じられない事ばかりって事ね。」
アドルの言葉にエステルは苦笑した後、話を戻して考え込んだ。
「うん………ただ、見えてきたことも結構あると思うんだ。この場所が”影の国”という不思議な法則によって構成された世界である事………そして僕たちが何らかの理由で選ばれて取り込まれたということ。」
「そして、それを踏まえた上で改めて疑問が整理できると言える。疑問その①。”影の王”及び”黒騎士”の正体は?疑問その②。”方石”及び”女性の霊”の正体は?疑問その③。”影の国”の成り立ちと真相は?」
「た、確かに………」
「疑問はつきませんが………大別するとその3つに整理できそうな気がしますね。」
「ふむ、俺達の世界―――ゼムリア大陸にはいないはずのあり得ない魔物が徘徊している理由なんかは3番目に入るってことか。」
ヨシュアとオリビエの話を聞いたティータとクローゼ、ジンはそれぞれ頷いた。
「なるほど、そう言われると色々と見えてきたかも。あれ、でも………ケビンさんが気絶したことはどう関係してくるのかな?聞いた限りだと、巨大な悪魔とやり合った時のことが原因みたいな気がするけど………」
「私達を拘束していたあの結界を破った力………そしてその時に現れた紅い紋様のような光ですか………」
エステルの疑問にプリネはある事を思い出して考え込んだ。
「あの紋様が現れた時ですけど………あの方からすざましい”負”の気があふれるように噴き出ていました。普通の人間の方なら呑み込まれると思うのに………」
「うん………なんかあの時のケビンさん………以前ロレントでルシオラさんが起こした事件―――昏睡事件の時、凄く怒っていたプリネさんのお父さんに近かったよ?」
「それと私の”魔槍”に憑りつかれず、自分の力とした事ですね。正直、あれには驚きました。」
「ふむ、さすがにそれはボクも見当が付かないね。七耀教会に伝わっている法術あたりかもしれないが…………」
プリネ、ミント、リタの話を聞いたオリビエは溜息を吐いた後、真剣な表情で呟いた。
「……………………………」
一方ヨシュアは心当たりがある様子で黙り込んでいた。
「………ヨシュア?何か心当たりでもあるの?」
ヨシュアの様子に気付いたエステルは尋ねた。
「うん………そうだね。確信は持てないけど………あれは多分”聖痕”だと思う。」
「え………!?」
「それって………ヨシュアの肩に出ていた!?」
そしてヨシュアの推測を聞いたエステルは驚き、ジョゼットは真剣な表情である事を口にした。
「うん………あれは、教授が僕を制御するために深層意識に埋め込んだイメージが肉体に現れていたものだったんだ。ケビンさんのあれも同じ………ただし僕に刻まれたものよりも遥かに強力なものじゃないかと思う。」
ヨシュアが頷いて答えたその時
「………よく気付きましたね。」
リースの声が聞こえ、聞こえてきた方向に振り返るとリースとティナが現れた。
「リースさん………それにティナさん………」
「その………ケビンさんの調子はどう?」
「ええ………小康状態といったところです。」
「ですが精神にかなりの負荷がかかっていますのでしばらく身体を休ませないといけません。」
エステルに尋ねられたリースは答え、ティナが補足した。
「そっか………」
「やれやれ…………ヒヤヒヤさせてくれるわね。」
2人の説明を聞いたエステルは頷き、シェラザードは安堵の溜息を吐いた。
「しかしリースさん………精神に負荷ということはやはり………」
「ええ………お察しの通り”聖痕”です。ただし………あなたに刻まれていたものと違い、彼のそれは”原型”と言えるもの。”守護騎士”にのみ顕れると言われる魂の刻印です。」
ヨシュアの言葉を続けるようにリースは真剣な表情で答えた。
「”守護騎士”………?」
「…………………」
「ふむ、聞いたことがある。”星杯騎士団”を統率する十二名の特別な騎士たち。噂では、一人一人が恐るべき異能を持つという。」
リースのある言葉が気になったエステルは首を傾げ、リフィアは黙り込み、オリビエは答えた。
「ええ、その通りです。………そしてその異能とは各々の”聖痕”の力によるもの。通常では考えられないような肉体の強化や高度な法術の使用を可能にしてくれる力の源泉です。ケビンは、その”聖痕”を持つ十二名の”守護騎士”の一人………”第五位”の位階を持つ人間です。」
「なるほど。だから私の魔槍をも使役できたんですね…………」
「「……………………………」」
(フン、どうやら奴から感じるすざましい”負”の気はそれが関係していそうだな………)
「な、なんだか別の人の話を聞いてるみたいですね………」
「それでは、ケビンさんもヨシュアさんと同じように何らかの処置を受けて………?」
リースの説明を聞いたリタは納得した様子で頷き、エリザスレインとニルは目を細めて黙り込み、サエラブは鼻を鳴らし、アネラスは信じられない表情をし、クローゼは不安そうな表情で尋ねた。
「いえ、本来の”聖痕”は意図して埋め込まれるといったものではありません。あくまで自然発生的に顕れるものだとされています。そして”守護騎士”の数は歴史を通じて常に十二名―――どの時代にも必ず、”聖痕”を宿す者がどこかに現れて”守護騎士”になると言われています。」
「な、なんだか不思議な話ね………それじゃあヨシュアにあった”聖痕”っていうのは………」
「あれは多分………本来の”聖痕”を疑似的に再現したものじゃないかと思う。………かつてワイスマンは七耀教会の人間だったからね。」
「あ、そんなこと言ってたわね。」
ヨシュアの話を聞いたエステルは”グロリアス”でのワイスマンの話を思い出した。
「………背信者ワイスマンは”星杯騎士団”の上位にあたる”封聖省”に所属する司教でした。彼は司教職にある時から”身喰らう蛇”に通じており、様々な秘蹟を盗み出したようです。守護騎士の”聖痕”に関する膨大な文献と研究もその一つ………彼はそれらを参考に意図的に”超人”を造り出す技術を結社で完成させたと推測されています。」
「やはり………そうでしたか。」
(…………背信者の司教………か………)
「ふむ、本来の”聖痕”がどういうものであるのかは何となくわかったが………しかし、どうしてケビン神父はそれで倒れる事になったのかな?”聖痕”というものはその力を引き出すにあたってそこまでのリスクを伴うのかい?」
リースの説明を聞いたヨシュアは納得した様子で頷き、アドルはかつての旅で戦い、滅したある人物の事を思い出し、オリビエは頷いた後尋ねた。
「………それは……………理由はわかりませんがケビンは”聖痕”の力を滅多には解放しないそうです。唯一、それを解放するのは”外法”を狩る時のみ………”後戻りできない”大罪人を処分する時だけと聞いています。」
「しょ、処分………」
「な、なんか物騒な話だね………」
「………神父さんが処刑をするなんて………」
「そ、そんなの聖職者じゃないの!」
リースの話を聞いたティータは信じられない表情をし、ジョゼットは真剣な表情で呟き、信じられない表情で呟いたナユタの言葉に続くようにノイは不安そうな表情で呟いた。
「”外法”………か。”神殺し”のご主人様もきっとその中の一人に入るんでしょうね………」
「……………………」
「う~………ご主人様、本当はすっごく優しいですのに~。」
「フン、もしセリカに害を為そうものならわらわが相手になってくれる!」
「わたし………も…………」
一方真剣な表情で呟いたマリーニャの言葉にシュリは不安そうな表情をし、サリアは頬を膨らませて呟き、不愉快そうな表情で呟いたレシェンテの言葉にナベリウスが同意した。
「あれ?って事はもしかしてケル………いや、ワイスマンはケビンさんに………」
「はい。滅せられました。………実を言うとエステルさん。あなたも”外法”に認定されるかもしれない所だったのです。」
「ええ!?な、なんで!?」
(なっ!?)
「ぴえっ!?エ、エステルさんが!?」
「どー、どーしてですか!エステルお姉ちゃん、何も悪い事をしていないのに!」
「そうだよ!」
リースの話を聞いたエステルとパズモ、テトリは驚き、ティータとミントはリースを睨んで言った。
「…………”輝く環”を破壊した件………それが七耀教会――”封聖省”にとって大問題になったようなんです。」
「自分達が崇めている”空の女神”が残した”至宝”の破壊……それが奴らにとって看過できない出来事だったようだ。」
「ま、神が遺した宝を壊すなんて教会の人間達からしたらとんでもない罰当たりだもんね。」
「で、でも!あんな物があったら人の為にならないでしょう!?って、なんでプリネ達が事情を知っているの??」
プリネ、リフィア、エヴリーヌの説明を聞いたエステルは言い返したがプリネ達が事情を知っている事に疑問を持って尋ねた。
「………実はお祖母様や私にメンフィル大使―――リウイ陛下からその件の話があったんです。どのようにしてその情報を手に入れたのかはわかりませんが、陛下はエステルさんやその娘であるミントちゃんを守る為に七曜教会に話をつけに行くことを”輝く環”と深い関わりであった私達に説明し、リベールからもエステルさん達を守る為に七耀教会の本山―――アルテリアに説明しに行ったんです。」
「そ、そうなんだ…………」
クローゼの説明を聞いたエステルは驚きの表情で呟いた。
「………と言ってもリベールはともかく、メンフィルは我々――”封聖省”や”星杯騎士団”を脅迫したようなものでしたが。」
「きょ、脅迫!?何それ!?リウイの奴、教会の人達に何を言ったの?」
リースの話を聞いたエステルは驚いてリースに尋ねた。
「『―――我が戦友にして恩人、さらに新たなメンフィルを創る人物であるエステルやその娘、ミントに危害を加えたのならお前達――七耀教会の”裏”の部分―――”封聖省”や”星杯騎士団”の実態を大陸中に白日の下にさらし、さらに全戦力を持ってお前達を滅する。その時は”剣聖”も黙っていない事を覚えておけ―――』………以上が使者として来られたファーミシルス大将軍の伝言です。」
「い、いくらなんでもそれはさすがに脅し過ぎでしょ……もうちょっと穏便なやり方ぐらい、あるでしょーに………」
「メンフィルの全戦力どころか先生、それにもしかしたらアーライナ教まで敵に回るのを想像したら、誰だって頷くわよ………」
リースの説明を聞いたエステルは呆れた様子で溜息を吐き、シェラザードは疲れた様子で溜息を吐いた。
「………まあ、それがなくてもミントさんやニルさん、そして”蒼翼の水竜”の存在がありましたから元々エステルさんの”外法”認定は撤回される所だったんですが。」
「へ?」
「ほえ??」
「あら、どうしてかしら?」
さらに続けたリースの説明を聞いたエステル、ミント、ニルは首を傾げた。
「………ニルさんは天使の中でも中位の位階である”力天使”。それに教会の定義で言えば竜は神聖な生物で、特にミントさんは私達のように人型に変化している竜。そのような竜はもはや”神の使い”と定義されてもおかしくありません。………以上のように私達より高位の神聖な方達がエステルさんを見守っているのですから、ただの人間である私達がそれを無視するわけにもいきませんし。」
「あ、あはは………」
「えへへ………さすがにそれはちょっと言い過ぎだよ~。」
「そうだよね………だとするとあたしも同じになっちゃうし………」
「フフ、まさかそのような理由でニルの存在が役に立ったとはね。」
そして理由を知ったエステルは苦笑し、ミントは恥ずかしそうに笑い、ミントの言葉にツーヤは頷き、ニルは微笑んだ。
(………我も”聖獣”として崇められているのだがな………)
(あはは、永恒達の場合はユイドラ限定だから仕方ないよ。)
(フフ、彼も今までユイドラの人々を守って来た”狐炎獣”としての誇りもありますから仕方ありませんよ。)
一方サエラブは唸り、サエラブの念話を聞いたウィルとセラウィは苦笑していた。
「ま、そいつはともかく………要するに滅多に使わない力をいきなり使ったせいで目を回しちまったってとこか。」
「そう……なのかもしれません。」
「ねえ、ティナさん。ティナさんでも駄目なの?ティナさん、昔は凄い治癒術師だったじゃない。」
アガットの推測にリースは悲しげな様子を纏わせて頷き、エステルはティナに尋ねた。
「はい。魔力や”気”とはまた異なった何かの力―――恐らくその”聖痕”によって消費される”力”で、その”力”が何なのかもわかりませんので………」
そして尋ねられたティナは悲しそうな表情で答えた。
「なるほど………ケビン殿の事情は了解した。しかし、いいのか?我々に話してしまっても。」
一方ユリアは重々しく頷いた後、真剣な表情で尋ねた。
「はい………すでにケビンも皆さんには一通り説明するつもりだった様子。私も今後の探索を進める上で皆さんの協力を得る為に必要な事であると判断しました。」
「そっか………って、もしかしてリースさん………!?」
「はい、しばらくの間は私がケビンの代わりを務めます。探索の記録も含め、皆さんの先導を務めさせていただければ幸いです。」
「なるほどな………」
「で、でもいいんですか?リースさん、ケビンさんのこと本当は看病していたいんじゃ………」
リースの話を聞いたジンは頷き、ティータは心配そうな表情で見つめた。
「………倒れる前、ケビンは私に”方石”を託しました。ならばこれも従騎士の務め。どうか気にせず皆さんに協力させてください。」
「リースさん……」
「ふむ、そういう事ならあえて反対する理由はあるまい。」
「ケビンさんのことならどうか心配しないでください。残ったメンバーで分担して看ることにすれば大丈夫です。」
リースの決意を知ったティータはリースを見つめ、ミュラーは重々しく頷き、クローゼはリースを元気づけた。
「はい………どうかよろしくお願いします。」
「……………………………」
「………?エステル、どうしたの?」
考え込んでいるエステルに気付いたヨシュアはエステルに尋ねた。
「うん………あの、リースさん。一つお願いがあるんだけど。探索に向かうんだったらあたしも同行させてくれないかな?」
「え………」
「エステル?」
「ママ、どうしたの?」
エステルの提案を聞いたリースは驚き、ヨシュアとミントは不思議そうな表情で尋ねた。
「ほら、その………目を覚ましたばかりだから色々と肌で知っておきたくて。一応、これでも遊撃士だから色々とお手伝いもできると思うし。えっと………どうかな?」
「…………………………………わかりました。どうかよろしくお願いします。」
「えへへ、どうもありがとう。………ヨシュア、ミント。勝手に決めちゃってゴメンね。」
「いや………うん、君の判断に任せるよ。リースさんのサポート、よろしくね。」
「頑張ってね、ママ!」
「うん、任せといて!………あ、そうだ。すっかり聞き忘れたけどアドルさんはこれからどうするの?」
ヨシュアとミントの言葉に力強く頷いたエステルはアドルを見て尋ねた。
「勿論、僕も自分の世界に帰る為に協力させてもらうよ。………それに僕の世界とは異なる世界の冒険………僕自身、凄く楽しみにしているし、よかったら探索の時にエステルみたいに僕も連れて行ってくれないかな?今までの冒険で培った経験が役に立つかもしれないし。」
「………わかりました。よろしくお願いします。」
「えへへ………よろしくね、アドルさん!」
「ああ、こちらこそ!」
リースとエステルの言葉にアドルは力強く頷いた。
その後リース達はメンバーを編成し、リース、エステル、アドル、シェラザード、リフィア、エヴリーヌのメンバーに編成し、”第四星層”にある次の”星層”に行く転位陣の近くにある石碑へ転位した……………
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