英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第149話
12月31日、同日6:20――――
翌朝リィン達はようやく完成したゼムリアストーン製の”騎神用の太刀”の前に集まっていた。
~トールズ士官学院・グラウンド~
「これが……―――これがゼムリアストーンを加工した”騎神用の太刀”ですか。」
ヴァリマールの中にいるリィンはゼムリアストーン製の太刀を驚きの表情で見つめていた。
「フン、その通りだ。全長7アージュ余り―――特殊な形状のため精錬と加工は困難を極めた。そこの偏屈な弟子がいなければ完成はしなかっただろう。」
ヴァリマールの中にいるリィンに説明したシュミットはマカロフ教官に視線を向けた。
「アンタにだけは偏屈なんて言われたくないんですがね……」
「ハハ……確かに。」
マカロフ教官の言葉を聞いたジョルジュは苦笑しながら頷いた。
「それにしても……まさかマカロフ教官まで博士の弟子だったなんて。」
「前に工科大学にいたのは聞いたことがありましたけど。」
アリサとサラ教官は興味ありげな様子でマカロフ教官を見つめた。
「ま、昔の話ですよ。」
「まったく、貴様といい、ジョルジュといい……私の元で研鑽を積んでおれば更なる高みに登れるものを。」
「いやぁ~、そんな畏れ多い。」
「ジョルジュ、はっきり言ってやれ。アンタの傲慢で独善的な研究姿勢にはとてもついて行けませんってな。」
シュミット博士の言葉に苦笑するジョルジュに指摘したマカロフ教官の言葉を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいた。
「そ、それはともかく………素晴らしい輝きの刀ですね。」
「はい……これ程の輝き、今まで見た事がありません。」
「それに刀からウィル様に創って頂いたこの武具以上の凄まじい魔力を感じますわ……」
アルフィン皇女の言葉にエリスとセレーネはそれぞれ頷き
「ゼムリアストーン……七耀脈を通じて結晶化する謎の鉱石か。」
「……前の剣と比べると、どれほどの威力があるのかしらね?」
アンゼリカの言葉に続くようにゲルドは静かな表情で太刀を見つめながら呟いた。
「正直、名工の鍛えた物と斬れ味は比較しないでくれ。だが、多分ヴァリマールの”手”には馴染むと思うよ。」
「わかりました―――それでは。」
ヴァリマールが太刀を手に取ったその時、ヴァリマールの核と太刀の柄にはめ込まれた球体が反応し合った!
「これは―――」
「騎神と刀が共鳴し合っている……?」
「うんうん、間違いないよー!」
共鳴し合う騎神と刀の様子に仲間達が驚いている中、ヴァリマールは刀を構え直した。
「す、凄いや……」
「……見事だな。」
「ん、カッコいい。」
「フフ、姉様にも今の兄様を見て頂きたいです……」
「エリゼお姉様もきっと驚くでしょうね……」
刀を構え直したヴァリマールにエリオット達が見惚れている中、エリスとセレーネはそれぞれ微笑み
「よ、よくわからないがとんでもないのはわかるぞ。」
「ああ、これならばきっと―――」
マキアスの言葉に頷いたユーシスは静かな笑みを浮かべた。
「武装でばいすカラノふぃーどばっくヲ完了―――タシカニ”手ニ馴染ム”心地ダ。」
「はは、そっか。」
「行けそうね?」
「……ああ、想像以上だ。これで何とか―――クロウの背中が見えて来た。」
セリーヌに視線を向けられたリィンは静かな表情で頷いた。
「シュミット博士、マカロフ教官。ジョルジュ先輩も―――本当にありがとうございました。」
「フン、礼は無用だ。私は私の知的好奇心を勝手に満たしただけのこと。それを貴様がどのように使うかは関知するところではない。」
「はは、照れ隠しとかじゃなくて本当にそう思ってるんだからな……」
「列車砲に機甲兵、導力波妨害装置と同じ……設計図を引いて完成したら途端に興味がなくなるわけだ。」
シュミット博士の答えを聞いたジョルジュは苦笑し、マカロフ教官は呆れた表情でシュミット博士を見つめた。
「ハッ、それのどこが悪い?―――私はカレイジャスで休んでいる。ルーレについたら起こせ。」
「ちょ、ちょっと、博士!?」
マカロフ教官の指摘に対し、鼻を鳴らして答えた後カレイジャスへと向かって行くシュミット博士の様子を見たリィンは冷や汗をかいた。
「ともあれ……これで準備は整ったか。」
「はい、そろそろ召集しようと思います。」
「うふふ、いよいよですねぇ。」
ヴァンダイク学院長の言葉にトワは頷き、トマス教官は口元に笑みを浮かべていた。
「―――残念ながら、皆さんができる事は”もう何もありません”わ。」
するとその時不吉な言葉が聞こえた後愛馬を連れ、甲冑を身に纏ったシグルーンがその場に現れた。
「え…………」
「シグルーンさん……」
「シ、シグルーン様?今の言葉は一体どういう意味なのでしょうか……?」
シグルーンの言葉を聞いたリィンは呆け、ゲルドは辛そうな表情でシグルーンを見つめ、セレーネは戸惑いの表情で尋ねた。
「―――エリスさん。短い間でしたが私が貴女に伝授した我が奥義と絶技を習得出来た事に正直驚きましたわ。さすがはリィンさんとエリゼの妹―――いえ、こんな言い方をしてはエリスさんに失礼ですわね。全ては貴女の努力が実を結んだ結果と貴女自身の”才能”ですわ。」
「ハ、ハア……?ありがとうございます……?」
「アルフィン皇女殿下。皆さんに混じって殿下も戦闘訓練に率先的に参加し続けた事やログナー候への勅命を見た時には私の目が曇っていた事を痛感させられました。殿下やユーゲント陛下達もオリヴァルト殿下と同じかのドライケルス帝の血を引く誇り高きエレボニア皇族ですわ。―――今までオリヴァルト皇子を除いたエレボニア皇族の方々を失礼な思いで見ていた御無礼、お許しください。」
「シ、シグルーン中将閣下……?」
シグルーンに称賛されたエリスと称賛された後謝罪されたアルフィン皇女は戸惑いの表情でシグルーンを見つめ
「ユーシスさん。貴方もエリスさんやアルフィン皇女殿下、そしてⅦ組の皆さん同様まだまだ伸びしろがあるのですから、愛馬と共に鍛錬を続ければメンフィルでもトップクラスの騎士に成長すると思いますわ。」
「あ、ああ……だが、その言い方は何だ?まるで別れの際に告げる言葉のようだぞ?」
同じようにシグルーンに称賛されたユーシスは戸惑いの表情で頷いた後不思議そうな表情で尋ねた。
「そ、それにシグルーン様、最初に出会った時のように甲冑を身に纏っていますけど……」
「!まさか…………―――――”戦争回避条約”の”期間”が終わったの!?」
セレーネが不安そうな表情でシグルーンに尋ねたその時、ある事を察したサラ教官が厳しい表情で声をあげた。
「!!!!!!!」
サラ教官の言葉を聞いたその場にいる者達はゲルドを除いて全員目を見開いてシグルーンを見つめ
「ええ。私が皆さんに協力する”期間”は既に終えています。――――短い間でしたが、お世話になりましたわ。皆さんに明るい未来が訪れる事を”かつての協力者”として心からお祈りしておりますわ。」
シグルーンはその場にいる全員が絶望する言葉を口にして静かな表情で会釈した。
「シ、シグルーン中将閣下、今のお話、冗談……ですわよね……?」
アルフィン皇女は現実と判断するのを恐れるかのように表情を青褪めさせて身体を震わせながら懇願するかのような表情でシグルーンを見つめたが
「―――いいえ、残念ながら冗談ではなく”事実”です。既にメンフィル・クロスベル連合軍はエレボニア帝国滅亡に向けて本格的に動き出しています。」
「そ、そんな……」
「姫様、しっかりしてください!」
シグルーンの答えを聞いて崩れ落ちかけ、それに気付いたエリスは慌てた様子でアルフィン皇女を支えた。
「そ、そんな……エレボニアが……」
「あ、後少しで内戦を終結させられたのに………!」
「クッ……!」
「……ッ……!」
「……タイムリミットか。」
「………………」
エリオットは表情を青褪めさせ、マキアスとラウラは悔しそうな表情で唇を噛みしめ、ユーシスは辛そうな表情で唇を噛みしめ、フィーは複雑そうな表情で呟き、ガイウスは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「待ってください!せめて今日1日だけでも待って下さい!後少しで内戦を終結させられるんです!お願いします!」
「リィン…………」
その時ヴァリマールから必死な様子のリィンの声が聞こえ、その様子をゲルドは悲しそうな表情で見つめていた。
「――失礼。どうやら言葉が足りていなかったようですわね。私が皆さんに協力する”期間”は”昨日の時点で終えていますわよ”。」
「え…………」
「何ですって!?」
「き、”昨日の時点”って……!」
「よりにもよって士官学院を奪還する日と同じ日に期限が切れていたなんて……僕達がもっと早く太刀を完成させていれば……!」
「……シグルーン中将閣下。昨日のいつに、”戦争回避条約”によって設けられている”猶予期間”が切れたのですか?」
シグルーンの答えを聞いたリィンは呆け、サラ教官は厳しい表情で声をあげ、トワは表情を青褪めさせ、ジョルジュは悔しそうな表情で身体を震わせ、ヴァンダイク学院長は真剣な表情で尋ねた。
「昨日の11:00前後に”特務支援課”の方々が”悲願”を達して”碧の大樹”から脱出し……そして12:00ちょうどにクロスベルの”碧の大樹”の消滅が確認されました。――――つまり皆さんがトールズ士官学院奪還の作戦を開始した時刻と同じ頃ですわ。」
(”特務支援課”の”悲願”………”零の至宝”―――キーアさんの奪還の件ですね……)
「な……っ!?そんなにも前から期限が切れていたのですか!?」
「どうして……シグルーン中将閣下は私達の”協力者”だったのに、どうして教えてくれなかったのですか!?」
シグルーンの説明を聞いたトマス教官は複雑そうな表情をし、ラウラは信じられない表情で声をあげ、アリサは悲痛そうな表情で声を上げた。
「―――”協力者”だからと言って、国家の情報や軍事機密を話すとお思いですか?私はあくまで皆さんの”戦力”としての協力者に過ぎません。それを言ったら、例えば貴女達のクラスメイトであるミリアムさん。彼女が知る”情報局”全ての”情報”を皆さんに教えなければならないという事になりますわよ?」
「ちょっ、そこでボクを例えに出すなんて、酷くない!?」
シグルーンの答えを聞いたミリアムは驚きの表情で声をあげ
「例えそうだとしても、何で翌日になるまで黙っていたのよ!?期限が切れたのが奪還作戦が始まった時と同じ頃だからあたし達に伝えなかった理由はまだわかるわよ!でも、士官学院を奪還した直後に教えてくれるのが”筋”じゃないの!?」
サラ教官は怒りの表情でシグルーンを睨んで指摘した。
「―――”常任理事”を務めているリウイ陛下の皆さんへのせめてもの”情け”として”命令”されていたのですわ。悲願を果たしたその日だけは、皆さんに辛い現実を知ってほしくないという陛下の心遣いです。」
「リウイ陛下がですか!?」
「エレボニア帝国を滅亡させるメンフィル軍の総大将なのによくそんな事ができるね。」
シグルーンの説明を聞いたエマは信じられない表情をし、フィーはジト目になって呟き
「それと皆さんが士官学院を奪還した直後あたりの時間にプリネ姫の元に訪れたクレア大尉もプリネ姫に嘆願したそうですよ。せめて悲願を果たした皆さんに辛い現実を教えるのは悲願を果たした翌日にして欲しい、と。」
「ほえっ!?クレアが!?」
「も、もしかして昨日父さん達の様子がおかしかったのは……!」
「……メンフィルとクロスベルによるエレボニア帝国侵攻の件を知っていたからか……」
「そしてわたくし達を気遣ってくれていたのですね……」
「……それで戦況は今どうなっているんですか?」
シグルーンの口から出た予想外の話にミリアムは驚き、ある事に気付いたエリオットは表情を青褪めさせ、ガイウスとセレーネは辛そうな表情で呟き、マカロフ教官は真剣な表情で尋ねた。
「昨日の時点でクロイツェン州を除いたエレボニア帝国の全ての州に”大侵攻”を行い、既にノルティアとサザーランド全土は制圧した上、ラマール州も昨日の戦いによって連合の迎撃の為に大部隊を展開していた領邦軍は壊滅し、残留軍が首都であるオルディスを守っていますが……本日に一気に攻勢を仕掛け、今年中にエレボニア帝国全土の制圧を完了する予定ですわ。」
「そ、そんな………は、早すぎるよ…………」
「たった二日でエレボニア帝国全土を制圧するなんて……」
「これがメンフィル帝国の”本気”か……」
説明を聞いたトワは表情を青褪めさせ、エリスは信じられない表情をし、ヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏って呟き
「―――父上は!?ノルティアの貴族や領邦軍の兵士達はどうなったのですか!?」
「アン……」
血相を変えてシグルーンに尋ねるアンゼリカの様子をジョルジュは心配そうな表情で見つめていた。
「ログナー侯爵は”機甲兵”に自ら搭乗し、クロスベルの”元帥”の一人―――エイフェリア・プラダ元帥に一騎打ちを申込み、その結果敗北しました。」
「そ、そんな!?あれ程降伏するように念を押したのに!?」
シグルーンの説明を聞いたアルフィン皇女は表情を青褪めさせて声をあげ
「ご安心ください、アルフィン殿下。ログナー侯爵は大怪我は負っていますが命に別状はないとの事です。現在はルーレの病院にて治療を受けているとの事です。」
シグルーンはアルフィン皇女を安心させるかのように微笑みながら答えた。
「よ、よかった……」
「うん……命があるだけでも、本当によかった……」
「しかし何故一騎打ちなんて申し出たのでしょうね~?」
アルフィン皇女とゲルドが安堵している中、トマス教官は真剣な表情で考え込みながら呟いた。
「……父上の事だ。例え”勅命”を破ってでも、エレボニア帝国を守る為に戦いたかったんだろう。それでノルティアの貴族や領邦軍には手を出していないのですよね?」
アンゼリカは静かな表情で推測した後シグルーンに尋ねた。
「ええ。―――それともう一つ。帝都ヘイムダルも昨日の夕方頃には完全に制圧したとの事です。」
「何だと!?」
「帝都まで制圧されていただと!?」
シグルーンの説明を聞いたユーシスとラウラは厳しい表情で声をあげ
「!!お父様達は……カレル離宮にいるお父様やセドリック達はどうなったのですか!?」
「陛下達と一緒にいる父さんもどうなったのですか!?」
アルフィン皇女とマキアスは血相を変えて尋ねた。
「ユーゲント三世を始めとしたアルノール家の方達並びにレーグニッツ知事は”降伏”し、連合によって”保護”され、現在はリウイ陛下達の配慮によってこのトリスタに送り届けられている最中ですわ。」
「ええっ!?」
「と、父さん達がこちらに向かっているんですか!?」
シグルーンの答えを聞いたアルフィン皇女とマキアスは驚き
「……待てよ?帝都を制圧したって事は……”黄金の羅刹”と”黒旋風”はどうなったのですか?」
ある事に気付いたマカロフ教官は真剣な表情で尋ねた。
「そ、そう言えばオーレリア将軍とウォレス准将が正規軍との決戦に向けて、帝都防衛の任に当たっているって情報が入っていたけど……」
「……まさかあの二人をも撃破したのですか?」
マカロフ教官の質問を聞いてある事を思い出したトワは不安そうな表情をし、ヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏って尋ねた。
「ええ。率いている兵達が全滅してもなお、激しい抵抗をし続けたオーレリア将軍はメンフィルの、ウォレス准将はクロスベルのそれぞれの”将”が単独で討ち取ったとの事ですわ。先に言っておきますがウォレス准将を討ち取ったクロスベルの”将”は”六銃士”ではありませんわよ。」
「なっ!?クロスベルの”将”があのウォレス准将をたった一人で討ち取ったのですか!?」
「……相当な実力者なのだろうな。」
「”六銃士”以外に一体どんな化物がクロスベルにいるの~!?」
「それに機甲兵に乗ったログナー侯と一騎打ちを行ったっていうクロスベルの”元帥”とやらも相当な実力者なのでしょうね……」
「しかもあのオーレリア将軍まで討ち取られていたなんて……!」
「……ま、さすがに”英雄王”や”空の覇者”相手だと荷が重かったと思うよ。」
シグルーンの答えを聞いたラウラは驚き、ガイウスは真剣な表情で考え込み、ミリアムは信じられない表情で声をあげ、サラ教官は厳しい表情で呟き、信じられない表情をしているアリサに続くようにフィーは自分の推測を口にした。
「……クロウは……クロウはどうなったのですか!?」
「あ………………っ!」
ヴァリマールから聞こえて来たリィンの声を聞いたトワは仲間達と共に血相を変え
「……リィンの話じゃ、あのバンダナ男は修理の為に”蒼の騎神”を”結社”に預けたって話だけど……」
「そ、それに……ヴィータ姉さんもどうなったのですか……!?」
ヴァリマールから複雑そうな表情をしているセリーヌの声が聞こえ、エマは表情を青褪めさせてシグルーンを見つめて問いかけた。
「うふふ、それについてはレンが答えてあげるわ♪」
するとその時上空から片手にレンを乗せたパテル=マテルがリィン達の前に着陸し、レンがパテル=マテルから飛び降りてヴァリマール達の前に着地した!
ページ上へ戻る