英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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異伝~遥かなる記憶 最終話~(5章開始)
~エメローゼ市・礼拝堂~
「はい、こちら七耀教会、エメローゼ市礼拝堂―――」
通信器が鳴っている事に気付いたケビンは通信器を手に取って、通信を始めた。
「あら………ケビン、あなただったの。まだ到着していないと思ったから教区長様に伝言をお願いしようと思ったのだけど………」
「って、ルフィナ姉さんか。オレの方は昼前にはこっちに着いてしもうたわ。姉さんの方はどうなんや?」
「それが、事故があったとかで列車が遅れているみたいなの。そちらに到着するのは夕方くらいになっちゃうかな。」
「そっか、だったらそれまでここで待たせてもらうとするわ。オレだけ先に帰ったりしたらリースやチビたちもガッカリするやろうし。」
「うふふ、そんな事あるわけないと思うけど。そういえば………リースの機嫌を直す方法、ちゃんと考えている?」
ケビンの話を聞いた通信相手――ルフィナは微笑んだ後尋ねた。
「へへ、任せとけって。任務で回った各地の名物をどっさり土産に買うてきたわ。これで機嫌も直してくれるやろ。」
「うーん、それはどうかしらねぇ………あの年頃の女の子ってそう単純には行かないわよ?」
「んー、そういうもんか?そういや、あいつも13か。出会ったばかりの頃の姉さんと同じくらいやないか?」
「うふふ、言われてみればそうね。」
ケビンの話を聞いたルフィナが微笑んだその時、通信の向こうから何かのベルの音が聞こえてきた。
「いけない………そろそろ列車が出るみたい。それじゃあ、また後でね。何だったら私よりも先に帰ってくれていいから。」
「わかった、また後でな。」
そしてルフィナとの通信を終えたケビンは通信器を置いた。
「そっか………あれから9年になるんか。そして里帰りは2年ぶり………は~、リースのヤツ、めっちゃ怒ってるやろうな。」
通信器を置いた後、ケビンが昔を懐かしんでいたその時
「ケ、ケビン君!」
ケビンが滞在している教会の教区長が慌てた様子でケビンに近づいて来た。
「教区長さん………どないしました?そんなに慌てた顔をして。」
「そ、それが………先程、街外れで黒ずくめの怪しげな連中を見かけた者がおるそうだ。何でも山道に向かったとか………」
「!?山道って………まさか!?」
教区長の説明を聞き、教区長の話に出てきた怪しげな者達が向かう先を察したケビンは顔色を変えた。
「ああ………おそらく”紫苑の家”だろう。何か心当たりはあるかね?」
「いえ、少なくとも騎士団絡みやないと思います。………わかりました。とりあえず確認してきますわ。」
「ああ、よろしく頼む。そうだ………ルフィナ君はどうしたのかね?」
「列車が遅れてるらしく夕方くらいに到着するそうです。着いたら教区長さんから事情を説明したってください。」
そしてケビンは自分が育った施設――”紫苑の家”に単身で向かった。
~紫苑の家~
「クソ、どこぞの傭兵………いや『猟兵団』ってやつか………気配からして数は5から10………しかし何でまた教会の福音施設なんかに…………………」
紫苑の家の近くにある木に隠れたケビンは施設の門の前に見張りとして立っている猟兵達を見て舌打ちをした後、考え込んだが
「………ぐずぐずしてたらリースやチビたちが危ない。仕方あらへん。何とかオレ一人で仕掛けるか。叩き込まれた武術と法術………役立てる時が来たみたいやな!」
すぐにリース達を救出する事を決意し、決意の表情でボウガンを構えた後、行動を開始した!
~数日後・封聖省・星杯騎士団本部~
「顔を上げろ、ケビン・グラハム。」
「……………………セルナート………教官………?」
部屋に入って来た女性――――守護騎士セルナートの声にケビンはやつれた顔を地面に向けたまま呟いた。
「やつれたな………食事どころか、水分の補給すらロクにしていないそうじゃないか。」
「……………………………」
守護騎士セルナートに対してケビンは何も答えず黙り込み続けていた。
「報告は聞いている。ルフィナのことは残念だった。だが、不幸な事故というものは往々にして起こるものだ。我々のような手合いには特にな。」
「……………………………殺して………ください…………」
「………なに……………」
顔を地面に下に向けたまま呟いたケビンの嘆願を聞いた守護騎士セルナートは驚いた後、目を細めてケビンを見つめた。
「もう………オレが騎士として………やっていく意味なんてない………それどころか………生きてる………意味すらも………教官にやったら………文句はないです…………痛みを感じるヒマもなく………一思いに………やってくれそうですし………」
「解った、いいだろう―――なんて言うと思ったか?」
「……………………………」
「痛みを感じる暇もなくひと思いに殺して欲しいだと?笑わせるな。君にそんな権利があるとでも思っているのか?その血と肉を七耀の理に、魂を女神に捧げたはずの君に?」
「…………っ…………………」
責めるような口調の守護騎士セルナートの正論同然の問いかけにケビンは唇を噛んだ。
「クク……そんな泣き言が言えるくらいなら遠慮なく告げられるというものだ。さすがの私も今回ばかりはいささか躊躇われたからね。」
一方ケビンの様子を見た守護騎士セルナートは不敵に笑った後、溜息を吐いて答えた。
「……………?………………」
「―――従騎士ケビン・グラハム。本日をもって貴公を”守護騎士”第五位に迎える。これは封聖省による決定事項であり、法王猊下もすでに承認されたことだ。」
「……………………………え…………」
守護騎士セルナートの言葉を聞いたケビンは黙り込んだ後、わずかに顔を上げて信じられない様子で呆けた。
「君とてここ数十年、『第五位』が空位だったのは噂程度には知っているだろう。おめでとう―――君がその『第五位』だったわけだ。」
「……………………………」
「フッ、これで君と私は同格………長らく主のいなかった伍号機もようやく日の目を見るというものだ。」
「………なんや………それ………」
「ああ、それと守護騎士は自ら渾名を名乗る習いでね。君も今の内に適当に考えておくといいだろう。ちなみに私のそれは知っての通り”紅耀石”――――味も素っ気もないものだがな。」
「そ、そんなこと………聞いてるんやない………な、なんでオレが………そんな………姉さんを………ルフィナ姉さんを………から守れんかったオレが………」
「『―――それは特に問題ではない。問題はルフィナ・アルジェントが極めて優秀な騎士だったという事だ。聖痕が顕れなかったとはいえ彼女の問題解決能力は時に守護騎士をも凌駕していた。その”損失”に見合うだけの働きを第五位には期待しておこう―――』―――枢機卿猊下のお言葉だよ。」
呆然としたケビンの疑問に答えるようにセルナートは淡々とした口調で答えた。
「……………………………クク………ハハハ…………なんやそれ………なんなんやそれ………ひゃははははッ!!」
「……………………………」
守護騎士セルナートの言葉を聞いたケビンは声を低くして笑って呟いた後、やがて顔を上げて大声で笑い、その様子を守護騎士セルナートは黙って見守っていた。
「クク………オレが!?ルフィナ姉さんを守りたくて騎士になったこのオレがっ!?その姉さんを喰いものにして守護騎士に選ばれるやと………!?あはは、傑作や!傑作すぎて笑い死んでまうわ!ひゃー――っははははははッ!!」
「……………………………」
「………クク………ハハハ………ふふ………はは………………………」
「――――さて。どうするケビン・グラハム。ちなみに君にはこの要請を辞退する権利がある。もっとも騎士団千年の歴史で守護騎士に選ばれながら辞退した者はただの一人もいないという話だがね。」
ようやく笑い終えたケビンに守護騎士セルナートは静かな口調で問いかけた。
「フフ、そうでしょうな………」
守護騎士セルナートの問いかけにケビンは嘲笑した後、やがて顔を上げて凶悪な笑みを浮かべ、さらに目をどす黒く濁らせ、守護騎士セルナートを見上げて答えた。
「―――”守護騎士”第五位、謹んで拝命させてもらいます。さっそく今日からでも仕事を回してくれて結構ですわ。」
「………そうか………わかった、そう取り計らおう。」
ケビンの疑問に守護騎士セルナートは重々しく頷いて答えた。
「ああ、回すんならなるべくハードなのを頼みます。おっと………それから渾名でしたっけ?うーん、そやな………」
守護騎士セルナートに頼みごとをしたケビンは考え込んだ後
「”外法狩り”―――そんな感じで行くとしますわ。」
自分がこれから名乗る渾名――”外法狩り”を口にした。
ここからが”外法狩り”ケビン・グラハムの始まりであった……………
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