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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第34話 ミサカ

 
前書き
すみません

少し短いです

本当は次の話と1話を作る予定でしたが
かなり長くなってしまったので分割しました

多分、連投? 

 
ここは何処?
私は誰?

液体に満たされた容器で彼女は不明瞭な頭で微かに感じ取れる感覚を頼りに懸命に様子を探る。
視界は、ぼやけていてよく見ることができない。

明るい?
暗い?
普通?

耳は、時折掠める泡の流動音と容器の外から注がれる機械音がある。

鼻は、液体で満たされている
甘いのかもしれない

身体は、液体の中で漂う
力も入らず、楽な姿勢だ。
ただ狭い
日に日に容器が狭くなるような圧迫感がある。
小さくなる容器
怖い気がする、硬くて透明なガラスに触れて電流が走る感覚が走り出す。
身体を丸めて脚を抱えるように小さくなろうと努力した。

上手く見えないし、言えもしない
ただ居るだけ
漂うだけ

でもぼんやりとした頭に映像だけが流れ込んでくる
私がみんな動かなくなる過程を描いた映像だ。

「よォ、オマエが実験相手って事でいいんだよなァ」
白い髪の少年が私の前で楽しそうにニタリと笑った。
「はい、よろしくお願いしますとミサカは返答します」
ミサカ(私)は、銃の弾丸を装填すると狙いを付けるように左右に向けて銃口をかざす。
「俺も超能力者(レベル5)と殺るのは初めてだからよォ。楽しみにしてンぜェ」

では実験を開始してくれ

隔離された場所で見下ろす白衣を着た男性がスピーカーを通じて実験の合図を出した。

「先手必勝ですとミサカは攻撃を開始します」
開幕のブザーと同時に横へ飛びミサカ(私)は銃を構えて発砲した。
銃弾は白い髪の少年に当たると予想とは違う角度で跳ね返り、壁に激突した。
「!?」
続けて何度も撃ってみるが、全て白い髪の少年に当たると鏡に反射する光のように弾かれていく。

何かの能力?
「弾道が逸らされいるのですか?とミサカは一度距離を取り分析を......」
少年は力を抜いて立っていたかと思えば、一瞬で姿を消して、すぐ隣に移動しミサカ(私)の耳に言葉を流した。

「ふざけてンのかテメェ」
楽しみに封を開けた玩具が予想より陳腐でツマラナイかのように冷たく吐き棄てると白い髪の少年がミサカ(私)に触れる。
すると触れた箇所から強烈に身体が捻れ出して、乱回転しながら床を転がるように叩きつけられた。
内臓の奥底から染み出す圧迫音が辺りに気持ち悪く反響する。

ふざける?
意味はおどけたり、冗談を言うこと
子供などが戯れること

違います。
ミサカ(私)は真面目にしています

倒れたが身体に力が入らずに這いずるようにもがいているミサカ(私)。
「オイ!どういう事だこりゃ。本当にレベル5のクローンかよ」
ガラス越しに居る数人の白衣を着た研究者に白い髪の少年は、親指を差しながらたった一発で動けなくなった期待ハズレのモノにケチを付けた。

研究者は歯が抜けた口でニタニタて対称ではない笑みを出しながら言った。

オリジナルとのスペック差には目をつむってくれ
だがクローンはネットワークを通して記憶を共有しているので、二万通りの戦闘の間に学習し進化していく
最後の方でも苦戦するかもしれんよ?

「逆に言やァずっと雑魚と戦ンなきゃいけねぇって事かよ」
白い髪の少年は、髪を掻き上げながは入り口へと歩きだした。
時間にすれば五分も経っていない。

「チッ!テンション下がンぜ。今回はコイツだけだったよなァ?帰ンぞ」

ガラス窓から歩いていく姿を研究者はみながら抑揚のない声で指示を出す。

ああ、だが
第一次実験はまだ終わっていない
後ろの実験体を処理するまではね

「あ?」

武装したクローン二万体を処理する事によってこの実験は成就する
目標はまだ停止していない
戦闘を続けてくれ

機能停止
意味は、その物の機能が正常に働かなくなること
ミサカ(私)はまだ機能停止をしていない......
めまいがする中、息を切らしながらミサカ(私)が取るべき行動を考える。

強く打ち付けた肩を摩りながら、ミサカ(私)は傍らに落ちている銃を手にとった。
「了解......しました。実験を続行しますとミサカら命令に従います」
痛みがあるが、これをするのがミサカ(私)の使命

動かなくなるまで
機能が停止するまで......

完全に帰宅するため油断しきっている白い髪の少年に向けて発砲する。
しなければならないのは二つに一つ
白い髪の少年を倒すかミサカ(私)が機能停止をするか

パン!
乾いた簡素な音と共に発砲する。
更に言ってしまえば、生きている限り白い髪の少年を狙わなければならない。
音か、ミサカ(私)が動いたのに気付いたのか白い髪の少年は、見下すように目だけを向けた。
興味が失せたような目をしている。
風が一切吹かない、屋内の実験場。
硝煙が妙に長く棚引いていて、時間感覚を麻痺させる。

弾丸は少年に当たるとそのまま全反射をしてミサカ(私)の左下肋部にめり込んでいた。
じわっと赤い液体が造られた穴から止めど無く溢れ出す。

暖かいような
熱いような感覚だ

「......??」
何が起きたのか思考が現実に追い付かずに、傷口を見下ろす。
答えなんてない。
もちろん、分かった所でどうしようもない。

ただ制服が汚れてしまうというズレた心配をした後に、力が奥底から途絶えて頭から床へと潰れるように無抵抗に倒れる。

今度は寒くなっていく
氷のように芯から

暗い
深い
海の底に沈むような......
これが『死』です......か
と......ミ

停電になったように真っ暗な視界の中で感覚が喪われていく。
死ぬこと
事前の知識からは解らないことだった。

それだけは......嬉しい
機能停止すれば実験成功
役に立つということが嬉しい......?

実験か円滑に進むということは、それだけミサカ(私)が役に立つ(死ぬ)こと。
膨大な『死』のデータを頭に叩き込まれる私にある記号が浮かぶ。

九九八二

今は意味が......解らない。

******

ゴポ ゴポ ゴポポ
学園都市内某研究所に一人の命が軽々しく機械的な産声をあげた。
微睡む目に二つの動く物体があり、首を動かして懸命に動く液体の中で目を凝らす。
「んじゃ、今後のために説明しとくわね」
「よろしくお願いします」
片方はバンダナを頭に巻き、もう一方はバスタオルを抱えている。

「これが実験体として適した状態まで成長させたヤツ。受精卵から一四日間でこうなるわ」
ボタンが押され、液体が抜けていく。
滲んでいた輪郭が詳細に解る。
同時に身体が重くなっていくのも感じた。

「うわー、本物の人間みたいですね」
「そりゃそうよ。そういう風に造られた複製だもの」
初めてみる外の世界に恐怖しかなく、キョドキョドと辺りを見渡すと涙を溜めて泣き出す。

何ココ?
怖い
戻りたい
あの暖かい中に帰りたい
濡れた身体が気持ち悪い

「でも見ての通り、この状態じゃ、精神年齢は新生児並。言葉も理解できないし自力で歩く事すらできないわ」

眼鏡を掛けたもう一人の女性が持っていたバスタオルで濡れた身体を拭いていく。
中身は新生児並だが、見た目は十四歳の女の子の身体だ。
何よりごく普通の人間と変わらない姿をしている。
「何してるの?」
「いや、このままじゃカゼ引いちゃうかなと」

「イチイチそんな事やってらんないわよ。一気に最後まで造るらしいし」

「それ、私も聞いてますけど効率悪くないですか?調整を繰り返さないとあまり保たないんですよね」

「上には上の考えがあるんでしょ。私達は命令通りに進めるだけよ」

「?」
さきほどから、何か音を発しているが何で発しているのか理解できない。


ギュルギュルギュイイイイン
何を吸い込んでいるような音が機械から漏れていく。
今度は、別のカプセルに寝かされて頭にヘッドギアを付けられると膨大な数の知識や経験が圧縮されて入力されていく。
さっきの死の映像よりも無機質で冷たくて嫌な感覚が芽生える。

「で、さっき言った言語や運動•倫理なんかの情報は学習装置(テスタメント)で入力っと」

入力作業が終わり、ヘッドギアが外されて目を開ける。
不明箇所が多かった世界に意味が追加された。
そして私は
私は......ミサカになった。

「ハロー、言ってる意味分かる?」

「日常会話における導入、いわゆる挨拶であるとミサカは判断します」
先ほど入力した知識を披露する。

「検体番号は?」
「九九八二号です」
「ミサカネットにも繋がっているみたいね。とりあえずこれ着て頂戴」
渡された病院着を身につける。

衣服
意味は、身体にまとうもの。

広げて袖を通す、澱みなく行う。
「何てゆうか、こう堂々とされるとこっちが恥ずかしくなってきますね。マルダシ」

液体で満たされたカプセルから今さっき出されたので全く服を着る習慣が身に付いていない。
十四歳の年頃の女の子からかけ離れた振る舞いに、若干戸惑ったようだ。

「もう少し羞恥心とか追加してもいいんじゃないですか?」
「余計な感情を追加して反乱でも起こされたら大変よ。安全装置だって完璧とは言えないんだから」

服を着終わると、次の指示を待つ。
「お待たせしました。次は何を?」

「健康状態は概ねクリアねー。もうすぐ実験も外に移行するし、外部研修が始まるわ。まーそれにちなんで今後は対人応答テストなんてのも実施するそうよ」

ミサカは伸びきった髪を切って貰いながら自分の主張をし始める。
「ミサカは既に完璧に外部の人間に融け込む自信があるので、そのテストの必要性について疑問を投げかけます」

テスタメントで入力されたデータを読み上げながら誇らしげに語る。

ハンバーガーの頼み方からキャッチセールスの断り方まで習得済みです、とミサカは自己の優秀性をアピールします

「この子の知識は何でこう偏ってるのかなぁ」

「それに外に出たらオリジナルと遭遇する可能性もあるでしょう?ま、だからといって実験の障害にはならないだろうけど」
髪型を整えて貰い、ミサカが座っていた椅子を片付けていくが『オリジナル』という単語を聴き動作が止まった。

「?オリジナルとは何でしょうか?」
バンダナを巻いた女性が少しだけ考える。
「そうね『妹達(シスターズ)』の素体......言ってみればアナタ達のお姉さまってとこかしらね」

「............お姉さま......」
意味は姉妹の内、年上の女性。
しかし、これは『姉』の定義だ。
『お姉さま』という響きでは無かった。
ミサカは音の響きを味わうように脳内で反芻した。

お姉さま
お姉さま
家族の一人
何か、とても心が安らぐような揺れ動くようなどちらでもない心境になる。


「うん、心筋•スタミナ•心肺機能も問題なしっと。これで晴れて実験に投入できるって訳よ」
運動負荷時の心電図や心拍数を計測するトレッドミル検査を終えて、順調に身体の具合を効率良く見ていく。

「結構大変なんですね」
出来たら、即座に実験に行くわけではない。
身体を造って、知識を与えて、健康状態を診て、全てが基準値をクリアした時に初めて実験に出すことが出来るモノだ。

「じゃあ、次は常盤台中学と同じ型の制服が支給されているから、それに着替えて......あ、いやその前に五、六人呼んでくるからアレを次の実験までに片しちゃってもらえるかしら」

廊下を歩いていたバンダナを巻いた女性がガラスの先を指差した。
そこには、夥しい数のミサカが血だらけの死体が転がっていた。
支給されているゴーグルは割れて、瞳孔が開き、乾燥でパキパキとヒビ割れを起こしている眼が色を失い、血だらけの惨状を視界に収めている。

白い髪の少年に挑み
敗れていった残骸だ
最後の最期までの視界や記憶は共有され、全てが動かなくなるミサカ(私)に向いている。

ミサカ達にとっての役に立った『死』が当たり前のように覆っている異質な空間だ。
ミサカは、黙って見下ろすと淡々と指示に従うように言った。
「了解しました」

血を綺麗に拭き取るのは大変だ
恐らく何回も洗わなければならない
ミサカ(私)の死体も重いだろう
 
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