サイボーグ軍人
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7部分:第七章
第七章
その口でだ。彼は言うのだった。
「全くな」
「はい、その通りです」
「それは」
「軍人は与えられた命令をしていく」
彼の言葉は続く。
「それだけだ」
「では我々は今は」
「こうしてですね」
「そうだ、戦う」
言いながらだ。右手首を外してそこからミサイルを放つ。ビルを一個吹き飛ばした。だがそれだけであった。
戦いは続いた。結局モスクワは陥落させられずにだ。戦局は泥沼化していき挙句にはである。気づいてみれば首都ベルリンは包囲され。そして陥落してしまった。
その陥落し廃墟と瓦礫の山になった街にだ。ハルトマンはいた。ベルリンは至る場所に屍が転がり黒焦げになった建物が無惨な姿を晒していた。
そして道にあるのは破壊された欠片ばかりであった。そしてソ連軍の将兵達が勝ち誇った声をあげドイツ人達は死んだ目で彷徨っていた。
その中でだ。彼は言うのであった。
「これが結末か」
「中将、生きていたのか」
そこにだ。上級大将の階級を付けた男が来た。そのうえで彼に声をかけてきた。
「西部戦線で戦っていたと聞いたが」
「はい、生きています」
ハルトマンは彼に顔を向けて言葉を返した。
「何とか」
「そうか、何とかか」
「あくまで何とかです」
無念な声での言葉だった。
「しかし。ドイツは」
「そうだな。最早な」
「ベルリンに戻ってみたのですが。この有様ですか」
「ドイツはもう終わりだ」
その上級大将、即ち彼はこうハルトマンに言うのだった。
「ベルリンは赤軍のものになった。それで御覧の有様だ」
「総統は自殺されたそうですね」
「おそらくな」
こう返す将軍だった。
「そう聞いている」
「そうですか」
「そして政府は降伏した。海軍のゲーニッツ元帥が総統としてな」
「ゲーニッツ海軍元帥が!?」
その名を聞いてだ。ハルトマンもいぶかしむ声になった。彼が総統になったということがハルトマンにとってはあまりにも意外なことだったのである。
「あの方がですか」
「意外か」
「意外です」
実際にそうだと述べた。
「あの方は党とは関係なかった筈ですが」
「そういう意味では君と同じだな」
「そうです。純粋な軍人だった筈です」
「しかし総統は最後の最後に元帥を選ばれた」
将軍はあえて事務的にハルトマンに答えた。
「ゲーニッツ海軍元帥をな」
「そして今に至りますか」
「そうだ、降伏しドイツは終わった」
「そうですか」
「我々の身柄も間も無く拘束されるだろう」
将軍はハルトマンにこうも述べた。
「連合軍は我等を徹底的に裁くつもりらしいな」
「勝者が敗者を裁きますか」
「絶対の正義になる為だ」
その為だともいうのだった。
「その為にな」
「我々は罪人になりますか」
「我々にはもう何も言えん。敗れたのだからな」
「敗れたからこそ」
「今は何も言えない。それは諦めることだ」
「わかりました」
ハルトマンも感情を込めずに述べた。彼にしても認めるしかない、そして受け入れるしかない現実だったからだ。現実は避けられないものである。
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