英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第92話
~ケルディック・風見亭~
「フィー……?」
「………すう、すう……」
「なんだ、寝ているだけか。それにしてもこんな所に座り込んで……(……考えてみれば”家族”を目の前で失ってしまったんだ。フィーなりに気を強くしていたのかもしれないな。それにしても、こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうかな……?)」
「……すう……すう……」
(そうだな……せっかくぐっすり眠ってるんだし。起こさないようにゆっくりベッドまで運んでやるか。よっこいしょっと……)
眠り続けているフィーを抱き上げたリィンはベッドがある部屋に入った。
「……むにゃ……」
(それにしても軽いな……ちゃんと食べているのか?内戦中とはいえ成長期なんだからよく食べてよく寝ないと……って、寝てはいるのか。)
眠り続けているフィーを見つめたリィンはベッドに近くまで来た。
(……よく見ると、この年齢でかなり鍛えられているんだよな。あまりにも戦闘に特化した、無駄のないしなやかな筋肉……こうして抱えているだけでもフィーの半生がわかるような……)
「……ん……リィン……?」
リィンの腕の中で目覚めたフィーは眠そうな目でリィンを見つめた。
「っと、悪い、起こしたか?」
「ん、別に……何してるの?次はわたしに手を出す気……?」
「人聞きの悪い事を言うな!」
(悪いも何も、現状を考えるとその通りとしか思えないのですが。)
(ア、アハハ……私も思いました……)
ジト目で自分を見つめるフィーの言葉に必死の表情で答えるリィンの答えを聞いたアルティナはジト目になり、メサイアは苦笑し
(ふふふ、今日は飛ばしていますね。)
(うふふ、そうね♪しかも彼女は家族を失ったばかりなのだから、そこに付け込めば意外とあっさり落ちるでしょうね♪)
(さすがにそんな事はしないと思うけど……リィンの事だから無意識にしてしまうのでしょうね。)
リザイラと共に微笑ましく見守っているベルフェゴールの念話を聞いたアイドスは苦笑した。
「フウ……うたた寝をしていたからちゃんとベッドで寝かせてあげようと思ってさ。」
「ベッドに連れ込んであげようと……?」
「誤解を生むような聞き間違えをするんじゃありません。」
フィーの呟きを聞いたリィンはジト目で指摘した。するとフィーはジッとリィンを見つめた。
「……フィー?どうかしたのか?」
「……ん、大した事じゃない。夢を、見ていた。10年くらい前……団長に拾われた時の……」
「……そうか……」
フィーの言葉を聞いたリィンは目を伏せた。
「リィンに抱えられていたからかな……また会いたいな……団長に……」
「フィー……」
フィーが呟いた言葉を聞いたリィンがフィーを見つめているとフィーは再び眠りに落ちた。
「すう……」
(半分寝ぼけているみたいだな。俺を”団長”に重ねたのか……?……俺達Ⅶ組は、確かにもうフィーの”家族”も同然だ。でも、”団の代わり”にはなれないんだぞ……?)
真剣な表情でフィーを見つめて考え込んでいたリィンだったがフィーの寝顔を見て、考える事を止めた。
(起きたら忘れていそうだし、聞かなかった事にしておくか。)
そしてリィンはフィーをベッドに寝かせて毛布と布団をかけた。
「すう………すう…………」
(これでよし。集合時間が近づいたらまた声をかけてやるとしよう。)
部屋を後にして宿酒場を出て街の徘徊に戻ったリィンは出入り口付近にいるエマを見つけて話しかけた。
~市内~
「委員長、もしかして町の外に出るつもりなのか?」
「あ、リィンさん………はい、ちょっと北西の様子を見に行こうかと。」
「北西と言うと……もしかしてルナリア自然公園か?前に来た時、あの場所には上位属性の気配があったが。」
「ええ、セリーヌからも同じ事を聞いていまして。魔女として、一度様子を見に行った方がいいと思ったんです。ふふ、どうか心配なさらず。この辺りの魔獣なら一人でもなんとかなるでしょうし、いざとなればヴァレフォルさんもいます。」
「(ルナリア自然公園か……俺もついていったほうがいいか?)委員長、よかったら俺にも付き合わせてくれないか?あの公園があれからどうなったのか、この目で見ておきたい気がするし。」
「リィンさん……ふふ、ありがとうございます。では一緒に向かいましょうか。」
リィンはそのままエマと一緒に街道に出て、異変のあったルナリア自然公園へと向かった。
~ルナリア自然公園~
「……確かに、何かが乱れてしまっているようですね。旧校舎と同じく、上位属性の気配も感じます。」
自然公園の出入り口に到着したエマはその場で集中し、自分が感じた気配を呟いた。
「公園の周囲までは影響が広がっていないのは幸いだが。もしかしてここにも、ローエングリン城のように”幻獣”が……?」
「いえ、今の所そこまでの強い霊気は感じません。上位属性が働いているのも、この公園の一帯だけみたいですし……霊脈に近い場所ですから、帝国全土で起きている乱れや歪みに呼応しているだけだと思います。これ以上影響が拡大しないとは言い切れませんが……」
「委員長?」
公園をジッと見つめて考え込んでいるエマが気になったリィンは不思議そうな表情をした。
「いえ、何とか鎮められないか……やれるだけやってみようと思います。少し、離れていてください。」
そしてエマは魔導杖を取りだして天へと掲げるとエマの足元に魔法陣が現れた。
「霊脈よ、我が霊力の導きによって彼の地の乱れを鎮めよ―――――」
少しの間集中していたエマだったが効果は無い事を悟り、術を中断した。
「……どうだ?」
「……駄目、みたいですね。やはり、今の私の力ではこの範囲の乱れは鎮められないみたいで。多分、セリーヌのサポートがあっても……」
「そうか……まあ、仕方ないさ。」
「…………」
深刻な様子で黙り込んだエマが気になったリィンは声をかけた。
「大丈夫か……?」
「きっと……ヴィータ姉さんならなんとかできたと思います。彼女の”深淵の魔女”の力があれば……それにひょっとしたらゲルドさんでも…………」
「あ……」
「……思えば、私はいつだって姉さんの後ろについてばかりでした。魔女としての途轍もない才能にただ憧れるばかりで……いえ、劣等感すら感じていたと思います。優秀な姉さんの傍にいれば、いやでも自分の未熟さを思い知らされるから……最近ゲルドさんを見ているとまるで姉さんを見ている気分に陥る事もあるんです……彼女は私や姉さんとは異なる”魔女”ですが、彼女の使う”魔法”……そして”予知能力”はあの姉さんをと同じかそれをも超える程凄まじいとしか言いようがありませんから……」
「委員長……」
「ごめんなさい、リィンさん。こんな未熟者がついてしまって。私にもっと力があれば……こんなことじゃ、姉さんの場所に辿り着く事なんて……」
肩を落としている様子のエマをじっと見つめていたリィンはやがて口を開いた。
「誰だって、最初から何でもできるわけじゃないさ。剣だって同じ……誰かと比べても仕方ない。あくまでも自分のペースで頑張るしかないんじゃないかな?」
「自分のペースで……」
「ああ、そしてⅦ組のペースでだ。俺達と一緒に進む中で、委員長も少しずつ成長したらいい。そうしたら、きっといつかクロチルダさんに届くはずだ。」
「……そうですね。とにかく今は一つずつ……やれることを片付けていかないと。すみません、ちょっと焦っていたのかもしれません。
「はは、いいさ。それにせっかく”公園”まで来たんだ。あたりでゆっくり日向ぼっこでもして、気分転換していかないか?」
「ふふ、そうしましょうか。」
その後、しばらく公園の周辺でゆっくり休んでからケルディックに戻ったリィンはエマと別れた後街の徘徊に戻り、元締めの家で元締めと会話をしているアルフィン皇女とその隣にいるエリスが気になり、二人に近づいた。
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