英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第90話
12月18日――――
~ケルディック~
「………………」
リィンが町を見回っているとゲルドが心配そうな表情で領主の館を見つめていた。
「ゲルド?領主の館を見ているようだけど、プリネさん達に何か話があるのか?」
ゲルドの様子が気になったリィンは尋ねた。
「あ……リィン……うん……この町の一番偉い人たちにどうしても伝えたい事があって……」
「プリネさん達に……?――――!まさか……また未来の出来事が”見えた”のか?」
ゲルドの話を不思議そうな表情で聞いていたリィンだったがすぐに察して真剣な表情で尋ね
「…………」
ゲルドは静かな表情でコクリと頷いた。
「そうか……じゃあ、是非伝えてあげないとな。ゲルドの”予知能力”は”本物”である事が証明されたし。問題はどうやってプリネさん達に会うかだよな……以前は運よくツーヤさんと出会えたからよかったけど……」
プリネ達に会う方法が難しい事を理解していたリィンはその場で考え込み
「ねえ、リィン。ARCUSで連絡を取って会う事はできないの……?確かこれには”通信機能”……?という機能がついているのよね?」
「!その手があったか……!プリネさん達がARCUSをまだ持っていたら繋がるはずだ……!」
ゲルドの助言を聞いてすぐに思いつき、プリネのARCUSに連絡をした。その後二人はプリネの手配によって領主の館に入り、客室の一室に通された。
~領主の館・客室~
「―――お待たせしてすみません。」
「あ……」
二人がソファーに座って待っているとプリネとレーヴェが部屋に入って来た。
「―――久しいな、シュバルツァー。」
「お久しぶりです、レオンハルト教官。それと……プリネさんも久しぶり。」
レーヴェに視線を向けられたリィンは会釈をした後懐かしそうな表情でプリネに視線を向け
「フフ、ようやく再会して話をする事ができましたね。随分前にケルディックに寄って頂いた際は仕事で会うことができず、申し訳ございませんでした。」
プリネは微笑んだ後申し訳なさそうな表情をした。
「そ、そんな!プリネさんはケルディックの臨時領主として忙しい事は知っていたから、俺は気にしていないよ!プリネさんこそ、無理はしていないか?内戦の影響で臨時領主としての仕事が増えて相当忙しい事をツーヤさんから聞いているけど……」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。状況はようやく落ち着いて来ましたし、双龍橋が正規軍によって占領された事によって、少しはマシになると思います。それにこれも臨時領主として……そして皇族としての”義務”ですから、泣き言を言う訳にはいきません。」
「………………」
プリネの答えを聞いたリィンは複雑そうな表情で黙り込み
「―――それで何の用でここに来た?そして何故そのゲルドとやらの身元不明の謎の魔女もこの場に連れてきたのだ?」
レーヴェは静かな表情でゲルドに視線を向けて問いかけた。
「えっと実はゲルドが臨時領主であるプリネさんに伝えたい事があるそうなんだ。」
「私に、ですか?一体何でしょうか?」
リィンの説明を聞いたプリネは不思議そうな表情でゲルドを見つめた。
「……………いつかはわからないけど、この街は複数の人達の手によって、焼き討ちされる所が”見えた”わ。私はそれをこの街の一番偉い人である貴女に伝えたかったの。」
「何だって!?」
「ええっ!?ケ、ケルディックが何者かによって焼き討ちをされるのですか!?」
「……………………シュバルツァー。その魔女は何者だ?記憶喪失である事は聞いているが。」
ゲルドの言葉を聞いたリィンとプリネは血相を変え、目を細めて黙り込んでいたレーヴェは静かな表情でリィンにゲルドの正体を尋ねた。
「その、実は――――」
そしてリィンは二人にゲルドには”予知能力”があり、実際にゲルドの予言が的中した話を説明した。
「”未来が見える”能力―――”予知能力”ですか……しかもゲルドさんの予言通り、リィンさんはユミル郊外にある雪山の墓場にてアルティナさんと”契約”し……更に領邦軍によって双龍橋に連行されたフィオナさんの件を考えると……」
「既に2度も的中しているゆえ、”灰の騎神”を使った戦闘の際にもその”予知能力”通りになった話も考慮に入れるとなると信憑性は高いだろうな。」
ゲルドの事情を聞いたプリネとレーヴェは真剣な表情で考え込み
「ゲルド……ケルディックを焼き討ちした人達はどんな人達だ?まさか領邦軍か?」
リィンは真剣な表情でゲルドに尋ねた。
「………いいえ、私達が双龍橋で戦った兵士の人達ではないわ。銃を持っていて、双龍橋の砦内にいた魔獣と同じ魔獣に命令をして街に火を放ったり建物を破壊していたわ……」
「……それだけではわかりませんね。一体何者がこのケルディックを……」
「……―――――あくまでも可能性の一つだが、”猟兵”の事を言っているのかもしれんな。」
ゲルドの答えを聞いたプリネは考え込み、ある事に気付いたレーヴェは目を細めて呟いた。
「あ……っ!」
「……確かに貴族連合は多くの猟兵団を雇っているからその可能性はあるわね………」
「?その”猟兵”という人達はどういう特徴がある人達なの?」
「……”猟兵”の特徴とは――――」
不思議そうな表情をしているゲルドにレーヴェは”猟兵”の特徴についてわかりやすく説明した。
「うん……多分、その人達だと思うわ。」
「クッ……メンフィルに”報復”をされたのに、懲りずにユミルの件同様………いや、それ以上の卑劣な事をするなんて……!」
レーヴェの話を聞いたゲルドの答えを聞いたリィンは唇を噛みしめ
「エリスさんを救出する際に行った私達メンフィルによる貴族連合への”報復”に対する”報復”かもしれませんね……――――ゲルドさん、その時私達は何をしているのか、わかりませんか?」
複雑そうな表情で推測したプリネは真剣な表情でゲルドに尋ねた。
「………………その時、貴女達はこの館とも比べ物にならないくらいの大きな建物を攻めている双龍橋にいた兵士達が使っている兵器や兵士達の服に刻み込まれてある同じ紋章が刻み込まれてある兵器や兵士達と戦っているわ。」
「え……プ、プリネさん達がクロイツェン州の領邦軍と!?」
「大きな建物……―――まさか”ケルディック要塞”の事かしら?」
「ケルディックを守護する現状の俺達の事を考えるとその可能性は高いだろう。……そうなるとバリアハート方面からケルディック要塞を攻め、俺達がケルディック要塞の防衛に移って街が手薄になった隙を狙った猟兵達がケルディックを焼き討ちすると言った所か。」
ゲルドの話を聞いたリィンが驚いている中、プリネと顔を見合わせたレーヴェは目を細めて推測した。
「問題は猟兵達がどこからケルディックに潜入してくるかだけど……ゲルドさん、それについては何かわかりませんか?」
「……………………難民の人達が住んでいる場所から現れるのが”見えた”わ。」
「ええっ!?な、難民の中に猟兵達がいるって言うのか!?」
「…………………………――――ご忠告ありがとうございます、ゲルドさん。ゲルドさんの予言、決して無駄にはしません。リィンさん、申し訳ありませんが私はそろそろ仕事に戻らないといけませんので……」
ゲルドの答えを聞き、厳しい表情で考え込んでいたプリネはゲルドに頭を下げた後リィンを見つめた。
「……わかった。俺達はこれで失礼するよ。」
そしてリィンとゲルドは領主の館を後にした。
「……レーヴェ、どう思う?ゲルドさんの予言。」
リィン達が去った後レーヴェと共に執務室に向かっていたプリネは振り向く事無く自分の背後に控えて自分の後をついていくレーヴェにゲルドの予言についての信憑性を問いかけ
「貴族連合の内情等も考えると的中する確率は非常に高いだろうな。メンフィルは既に”総参謀”であるルーファス・アルバレアを処刑している。奴を失った事は貴族連合としても相当な痛手の上、何よりもその件を知ったアルバレア公爵が黙っていないだろう。しかもバリアハート方面から攻めてくるとなると……ユミルの件同様アルバレア公爵の暴走の可能性が一番考えられるな。貴族連合の可能性も確かに考えられるが奴等は正規軍を制圧しきれていない所か、双龍橋を失った為連中もわざわざこれ以上敵を作り、自分達が不利になるような真似はしないだろうし、それ以前に”結社”の『幻焔計画』の遂行を”盟主”から託されている”蒼の深淵”が計画の妨げになるような事を許さないだろう。」
レーヴェは静かな表情で推測した。
「……………………―――レーヴェ。もし、ゲルドさんの予言通りバリアハート方面から領邦軍が攻めて来た場合は貴方はケルディックに残って兵達を指揮して出来る限り被害を抑えて。最悪建物への放火や破壊は放置してもいいから、民達の避難や身の安全を最優先にして。”結社”にいた経験によって猟兵達の行動を読みやすい貴方にしか頼めないわ。第二の”ハーメルの悲劇”を生み出さない為にもお願い。」
「…………それはいいが…………」
立ち止まると共に振り向いて真剣な表情で自分を見つめるプリネの言葉を聞いたレーヴェはかつての出来事―――”ハーメルの悲劇”を思い出してプリネの身を心配したが
「フフッ、もしかして私の事を心配してくれているのかしら?以前の私と違い、今の私は”執行者”であったかつての貴方以上の腕前はあるし、ツーヤを始めとした多くの心強い仲間達がいるわ。だから私の事は心配しないで。」
「…………確かにそうだったな……―――いいだろう。遊撃士協会にも先程の予言の話をしておく。事が起こった際に遊撃士達と手分けして対処に当たれば少なくても民達の犠牲を防げる可能性を高める事はできるだろうしな。特に”重剣”あたりなら今の話を聞けば事が起こった際に張り切り、普段以上の実力を発揮するかもしれんな。」
プリネの話を聞いて納得した後真剣な表情で答え、そしてある人物を思い浮かべて静かな笑みを浮かべた。
「フフ、確かにそうかもしれないわね。――――でも、それは貴方も同じではないのかしら?貴方も自分自身で言っていたわよね?ラヴェンヌ村の廃坑でアガットさんと自分と似た部分があるって事を。」
「………………フッ、また一本取られたな。」
そしてプリネに微笑まれたレーヴェは一瞬固まった後苦笑しながら呟いた。
~ケルディック市内~
「ありがとう、リィン。リィンの協力がなければ、私はこの街に襲い掛かる危機を伝える事ができなかったと思うわ。」
領主の館を出たゲルドはリィンに微笑み
「いや、お礼を言いたいのはこっちの方だよ。―――ありがとう。ゲルドの”予知能力”は本当に凄いな……そう言えば気になっていたけど、自分自身の”予知”はできないのか?そうしたら失った記憶も思い出すかもしれないのに……」
対するリィンもゲルドに微笑んだ後ある事が気になって尋ねた。
「……私もその可能性を考えて何度か試した事はあるのだけど、私自身に関してはまるで霧がかかったように”何も見えない”の……」
「そうか…………ゲルドは辛くないか?名前と年齢以外何もわからない事に。」
ゲルドの答えを聞いたリィンは辛そうな表情で尋ねた。
「辛くないと言えば嘘になるけど、今の私には貴方達――――多くの友達がいるから平気よ。リィン達の為にも、もっと頑張るつもりよ。」
「……前々から思っていたけど、ゲルドは優しいな。」
「え…………どうしてそう思うの?」
リィンの言葉を聞いたゲルドは目を丸くした後不思議そうな表情で尋ねた。
「記憶喪失なんて事になったら、普通は自分の事で手一杯のはずなのにゲルドはいつも自分の事より俺達の事を気遣っているじゃないか。」
「……そうなの?」
「(ハハ、自覚していないのか……)……さっきの件もまさにそうだと思うぞ?ケルディックの人々の為に領主であるプリネさんに何とか接触する方法を必死で考えていたようだし。」
不思議そうな表情で首を傾げているゲルドの様子を苦笑しながら見つめていたリィンは答えた。
「それはこの街に住む人々に傷ついて欲しくないから……」
「ほら、今も失った記憶を思い出す努力をするよりも真っ先に他の人達―――それもゲルドにとっては赤の他人であるケルディックの人々を心配しているじゃないか。そう言う所が”優しい”って言ってるんだ。」
ゲルドが答えるとリィンは苦笑しながら指摘し
「あ……………………」
指摘されたゲルドは呆けた様子で声を出した。
(ふふふ、いつも如く無意識で始めましたね。)
(うふふ♪その娘も落とすのね♪)
(クスクス、もしゲルドの記憶が戻った際、彼女に恋人がいれば大変な事になるでしょうね。)
(リ、リィン様……後何人落とせば気が済むのですか……?)
(……クロウ・アームブラストの情報にあったマスターの固有スキル―――――『女殺し』の発動を確認。…………相変わらず不埒な方です。)
二人の様子をリザイラ達が微笑ましそうに見守っている中、メサイアは疲れた表情をし、静かな表情で呟いたアルティナはジト目になった。
「………フフ、どういたしまして。それじゃあ私は集合時間になるまでは街を見て回るわね。」
少しの間固まっていたゲルドは我に返るとリィンに微笑んだ。
「ああ。」
そしてリィンはゲルドと別れて街の徘徊に戻り
「……………………リィンに『優しい』って言われた時から感じ続けているこの苦しくも暖かい気持ちは一体何なの…………?」
自分から去って行くリィンの背中を見つめていたゲルドは無造作に片手をトクントクンと鼓動し続ける心臓がある部分においてリィンをジッと見つめていた。するとその瞬間、夜空の下で自らリィンに口付けをする瞬間が映った!
「!?今”見えた”ものは一体…………あんな事をするのはその人の事が好きな人達だけだと思うけど…………もしかして私、リィンの事…………」
一瞬見えた光景によって頬を赤らめたゲルドは静かな表情でリィンが去って行った方向を見つめていた。
一方街に徘徊に戻ったリィンは大市の一角で考え込んでいるトワが気になった為、トワに話しかけた。
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