五歳児が行くVRMMO
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であい
君の目の前に広がる世界は、どんな風に映っているのだろう。活気があって、笑い声や客寄せしている声が聞こえているのだろうか。それとも、いかつい顔したおっさんや、人を見下してそうな青年が喧嘩しているような声だろうか。君はどれも興味なさそうにすぐ横を通り抜けたり、間を突っ切っていく。そんな君は周りから見たらどう映っているのだろうか。そんなこと、君は考えもしないだろうけれど。そんな君が進んで辿り着いた場所は、路地裏にある廃れた酒場。君は自分のことなど考えずに中に足を踏み入れた。酒場の中に居る人は、やる気のない店員とど真ん中のテーブルで料理を食べている女の二人組み。君はそんな現状に何かを思ったのかキョロキョロと見渡すけれど、いくら見ても人数は変わらない。君は首をかしげながらカウンターのほうへと向かう。
「ミルク、水。どっちだい」
カウンターの隅でやる気がなさそうにしていた店員がカウンターの席に必死になって座ろうとしていた君に問いかける。君は動きを止めて考えた素振りを見せたあと、大きな声でミルク、と注文を飛ばした。店員は君の言葉を聞いて、少しニヤリと笑いながら奥へと消えていった。君はその間にイスに登り終わり、ちょこんと座っていた。そしてソワソワとしながらミルクが来るのを待つ。
「ほら」
店員はぶっきらぼうにそう言いながらドンっとミルクと、あるものを君の目の前に置いた。君は不思議そうに目をパチクリさせながらにんまりと笑う。そして、ありがとう、と小さく言ってあるものを手に取った。その瞬間あるものは消え、カウンターの上には店員が置いたミルクだけが残る。君はんふふーと笑ってミルクに口をつけた。美味しい、と嬉しそうに君は笑って飲み干すとじゃーね、と言って酒場から出て行く。店員は何も言わずに君が出て行く姿を懐かしそうに見つめていた。君はそんなことなど知らずに意気揚々と街の路地裏を歩いていく。薄暗くて、狭い道。もう少し年を重ねたらちょっぴり怖いな、なんて思いながら避ける道を君は楽しそうに、嬉しそうに進んでいく。君はどんな気分でその狭い道をとっているのだろう。どんなことを考えながら進んでいくのだろう。きっと、周りの景色は不思議なものであふれていて、君の目に映る景色は輝いているんだろう。目の前を通り過ぎる猫に興味をもち、後ろを着いていく君はとても嬉しそうに笑っている。んしょ、んしょ、と言いながら狭い道を進み、狭い穴を潜り抜け、細い塀の上をものともせず君は猫を追いかけた。が、猫はとても素早い動きで近くにあった屋根へと飛び移り、次の瞬間君の視界から猫が消えてしまう。そのとき、君はようやく自分の居る場所に気がついた。とても高い塀の上。どうやって来たのか、どうやって上へと来たのか、分からない。君は塀にしがみついて近くに誰か居ないか探そうと辺りを見渡した。だが、誰も居ない。来る気配もない。薄暗い細い路地裏の、塀の上なんて、誰も来るわけもないし、誰も通らない。君はそんなことも分からず、ひたすらに辺りを見渡し続けるものの、少し経つと疲れたのか塀の上でしがみついた状態でうとうとし始めた。
「おやおや……こんな薄暗い路地裏の、しかも塀の上に子供とは珍しいですね……」
路地裏に優しそうな男性の声が落ちる。君はうとうとしながら必死に身体を起こして辺りを見渡そうとしたが、眠いのかうまく動かせていない。
「全く。この子の親はどうして目を離したりしたんですかねぇ」
君の体が宙へと浮かぶ。君の目の前には優しそうに微笑んだ青年の神父さんがいた。
「始めまして。恵まれし者。私はルージュ。君の名前を教えてもらえますか?」
神父さんは優しく君の身体を包み込むようにしてお姫様抱っこをすると、そういった。君はうとうとしながらはーちゃんは、はーのって言うの、と小さな声で呟いた。神父さんはそうですか、と優しい笑顔で言った後、ゆっくりお休みなさい、と言って君の目を閉じさせる。君はんん、と一瞬駄々をこねようとしたけど、睡魔には勝てなかったのか、すやすやと寝息を立て始めた。
「ここまで似ている子供も珍しい……」
神父さん――ルージュ――は君を優しそうに、懐かしそうに見つめながら大通りへと出るように路地裏を進んでいった。
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