英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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序章~星杯騎士~ プロローグ
―――リベル=アーク崩壊より半年後―――
七耀暦1203秋。リベル=アーク崩壊事件から半年あまり―――
エレボニア帝国東部、クロイツェン州上空―――
~飛行客船・ルシタニア号~
豪華客船、”ルシタニア号”内の広間ではたくさんの料理が並んでおり、そして仮面を付けたエレボニア帝国の貴族達が談笑していた。
「えー、皆様。本日は、私どもコンラート社の主催するパーティーにお越し頂き、誠にありがとうございました。皆様もご周知のことと存じますが本日は記念すべき………」
主催者らしき人物が演説をしている中、緑の髪を持ち、仮面を付けたスーツ姿の紳士が端のほうで退屈そうに聞いていた。
「うふふ……退屈そうですわね?でも、聞くフリだけでもしておいた方がよろしくってよ。この場所にいらっしゃる以上、あの方がどういう人物であるか、ご存じのはずでしょうから。
紳士の様子に気付いた一人の仮面の婦人が紳士に尋ねた。
「―――ヘルマン・コンラート。かの”百日戦役”の折に財を成し、新興ながら帝国有数の資産家として名を馳せている死の商人。そして数年前からラインフォルトグループと提携し、取締役を兼任しているほどの人物――……いやはや、経歴だけを見たら確かに大した御仁です。……こうして実物を見ているといささか拍子抜けではありますが。」
「クスクス。そんな事を口にしてしまって………いくら仮面を付けているとはいえ、あちらにいる黒服の方々に取り囲まれても知りませんわよ。」
紳士の言葉を聞いた婦人は口元に笑みを浮かべて忠告した。
「フフ、恐ろしい話ですな。大方、私のような無粋者は摘み出されてしまうでしょう。………その窓を破ってポイ、とね。」
「うふふ、本当に面白い方ね。マスコミの方………いえ、意外とお役人さんだったりするのかしら?」
「フフ……ご想像にお任せしますよ。それにしても……船の中とはとても思えませんね。ましてや地上何千アージュの高みにいるとは……」
婦人に尋ねられた紳士は口元に笑みを浮かべて答えた。
「新造されたばかりのラインフォルトの飛行客船……今の所、世界最大級の飛行船、という触れ込みでしたかしら?」
「全長120アージュというとそういう事にはなるでしょうね。……あくまで表の世界で、ですが。」
婦人に尋ねられた紳士は口元に笑みを浮かべて意味ありげな事を言った。
「うふふ、思わせぶりですわね。そんな謎めいた言葉で女を惹きつけようとするなんて。まだお若い様子なのに随分手馴れていらっしゃること。」
「おっと、お見通しでしたか。やれやれ……これ以上、尻尾を出さぬうちに退散した方がよさそうだ。」
「クスクス……気が向いたらまたお喋りに付き合ってくださる?このような名も知れぬ相手との楽しい語らい、滅多にある機会ではありませんもの。……何でしたら、このパーティーが終わってから貴方のお部屋ででもゆっくりと。」
紳士の言葉を聞いた婦人は上品に笑った後、紳士の耳元で囁いた。
「ふふ……光栄です、マダム。………女神達の目を盗むことができたら喜んで。貴女の部屋ではいけない理由は、まあ、聞かないでおきましょう。」
「イヤな方。」
そして紳士は婦人から離れて、ある程度歩くと振り返って大勢の仮面の貴族達と談笑している主催者を見た。
(宴もたけなわ……そろそろ頃合いだな。彼のプライベートルームは甲板デッキを抜けた最上階……よし……動くとするか。)
紳士は広間を出ようとしたが、何かの気配を感じて振り返った。すると一瞬だけ黒いローブ姿の仮面の男が現れたが、男は透明だった為紳士には見えなかった。
(………………妙だな………誰かに見られていたような………まあいい、とっとと始めるとしよう。)
気を取り直した紳士は目的の場所に向かった。目的の場所の前には黒服の者達がいたが、紳士は何かのペンダントを掲げて、黒服達を眠らせ、そして部屋内を物色して隠しスイッチを見つけて順番に押して行き、隠し扉が現れた。隠し扉を開ける為にパスワードが要求されたが、紳士は正しいパスワードを打って、扉を開かせ、その中に入って行った。
紳士が隠し扉の中に入ると、そこはさまざまな宝物品や大量のミラがあり、そして真ん中の台座に何かのペンダントが置かれていた。
「”愚者のロケット”―――身に付ければ、大抵の嘘を相手に信じさせることが出来る禁断のアーティファクトの一つか。やれやれ……武器商人風情が大それた物を。」
紳士は台座に近づき、溜息を吐いた後アーティファクト―――”愚者のロケット”を台座から取った。すると警報が鳴り、入って来た扉が閉まった!
「フン……」
それを見た紳士は慌てず、不敵な笑みを浮かべていた。一方隠し扉の先では黒服達が集まって、隠し扉を睨んだ。
「クッ、どういうことだ!見張りの連中はいったい何をしていた!?」
「……2人揃って仲良く眠らされてたぜ。針か噴射器を使ったらしい。」
「フン……同業者かもしれんな。このままパーティーが終わるまで中に拘束する。コンラート様に報告するのはその後にするぞ。」
「仲間がいる可能性は?」
「監視カメラの記録を見る限りこいつ一人のようだ。ただ、バックアップが他にいる可能性は高いだろう。」
「今のうちに招待客全員をマークした方が良さそうだな。」
黒服達が隠し扉の前で相談をしていたその時
「フフフ……」
妖しげな笑みが聞こえてきた。
「今のは……」
「おい貴様!何がおかしい!」
「いや、なに……侮っていたことを詫びようと思ってね。猟兵崩れのチンピラかと思えばなかなかどうして大それた練度だ。」
黒服が扉を蹴って怒鳴ると、扉の先から紳士の声が聞こえてきた。
「こいつ………」
「フン……そちらこそ大した度胸だ。貴様の背景は何か知らんがコンラート様は容赦のない方だ。このまま無事に済むと思うなよ。」
「ククク……舌を噛み切った方がマシだと思えるような目に遭わせてやる。」
「フフ……それは魅力的なお誘いだ。ただ生憎、こちらも先約があってね。」
黒服達の脅しの言葉を聞いた紳士の声が響いた後、なんと扉を何かの槍が貫いた!
「なっ!?」
「な、なんだ……?」
「ああ、一つ言い忘れていた。―――君ら、早うそこから離れとったほうがええで?」
突然の出来事に黒服達が驚いている中、紳士の声が聞こえた後、扉に何度も巨大な槍が貫き、そして扉は吹っ飛ばされた!
「なっ……!?」
「ば、馬鹿な……導力砲の直撃にも耐えられる扉だぞ!?」
「やれやれ、この技、手加減すんのが難しいんやで?あんまり手間、かけさせんといてや。」
黒服達が信じられない表情をしている中、隠し扉の先からボウガンを構えた神父――ケビンが現れた!
「な、なんだ……」
「教会の……神父?」
「一応、正真正銘の神父やで。今なら懺悔、格安で聞いたってもええよ?兄さんら、ずいぶん後ろ暗い過去持ってそうやし。」
「くっ……」
「惑わされるな!一斉にかかるぞ!」
「はー、そこは『懺悔でミラ取るんかい!』って突っ込んで欲しかったんやけど。……まあええわ。あんま時間もない事やし。まとめてかかって来い。」
そしてケビンは黒服達との戦闘を開始した!黒服達は3人に対し、ケビンは一人だけだったが、苦戦する事無く黒服達を気絶させ、ケビンは途中で襲い掛かって来る黒服や猟犬を倒しながら、先ほどまでいた広間に向かった。
「な、なんだ………一体何がおこっている!?」
広間では主催者――武器商人のコンラートが慌てた様子で黒服達に尋ねた。
「お、恐らく侵入者かと………」
「しかもどうやら……かなりの手練れのようです。」
「ええい、何の為に貴様らを雇ったと思っている!殺しても構わん!とっとと排除するがいい!」
黒服達にコンラートが怒鳴ったその時
「や~、そいつは無理ですわ。」
招待客達の中から堂々とケビンが現れた!
「な、なんだ貴様………教会の神父―――まさか!」
ケビンの登場に戸惑っていたコンラートだったが、心当たりを思い出し、顔色を変えた。
「はは、さすがにこんな物を持っとったらオレらの存在は知っとるか。」
コンラートの言葉を聞いたケビンは笑った後、”愚者のロケット”を目の前に掲げた。
「き、貴様ッ……!返せええええッ!!それは私の物だああッ!!」
「残念やけど、こいつは女神に還すべき物。一個人が気軽に持っていていいもんやない。」
大声を上げて怒鳴ったコンラートに対し、ケビンは淡々と答えた。
「こ、殺せ……早くこいつを殺してロケットを取り戻せええっ!!」
コンラートの怒鳴り声の指示に従うかのように黒服達は銃を構えた!それを見た招待客達は逃げ出した!そして黒服達はケビンに銃を連射したが、ケビンは”星杯”のロケットを掲げて透明な障壁をはって防ぎ、それに驚いて攻撃の手を止めた黒服達に素早く矢を撃って、気絶させた!
「う、あ………」
「ヘルマン・コンラート。教会法に基づき、空の女神の名において貴殿の身柄を拘束する。容疑は”アーティファクト”の無断所持、および不正使用や。」
ケビンの強さにコンラートが呆けている中、ケビンはゆっくりとボウガンを構えたまま、近づき真剣な表情で言った。
「こ、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!?いくら七耀教会とはいえ、ラインフォルトの取締役である私に手を出したら……」
「あー、それに関しては先方とも話は付いとるわ。どうせあんた、コイツを使って相当無茶なことしてたんやろ?さすがに、各方面で色々と問題が起きたみたいやで?」
「!!!」
「あんたみたいな外様やとさぞかし敵も多そうやしね。ま、運が悪かったと思って大人しくお縄に付いてや。」
「ううっ……うわあああああッ!」
ケビンの言葉を聞いたコンラートは呻いて一歩下がった後、叫びながら銃を構えた!しかしケビンが一瞬の動作でコンラートの腹に拳を入れた!
「ぐうっ………」
そしてコンラートは気絶した。
「ったく。余計な手間、かけさせんなや。」
気絶したコンラートを見て、ケビンは呟いた後、コンラートを担いだ。
「今回はえらい簡単な任務やと思ったけど……生かして捕えるんもそれなりの面倒やなあ……」
「そこまでだ!」
疲れた表情のケビンが呟いたその時、男の声が聞こえた!すると武装した猟兵達が現れた。
「おっと……完全武装して来たか。さすが名高き”北の猟兵”。迅速な対応やね。」
「黙れ……!こうして武装した以上、先ほどのように行くとは思うなよ!」
「言っておくが、この船には1個中隊の戦力が控えている!人質を取ったからといって貴様の逃げ場はどこにもないぞ!」
感心している様子のケビンに猟兵達は怒鳴った。
「ふう……今回はお互いラッキーやね。」
「は……!?」
「な、何を言っている?」
ケビンが突如呟いた言葉を聞いた猟兵達は戸惑った。そしてケビンは話を続けた。
「もし、この小悪党が”外法”に認定されてたら………あやうく君ら全員を”狩る”ことになってたわ。」
「な………」
「こいつ……」
ケビンの冷笑を見た猟兵達は信じられない表情をした。
「ま、これにめげずに故郷復興のために励んでや。”騎士団”の獲物にならん程度にな。」
そしてケビンは背後のガラスに突進してわって、飛び降りた!すると小さな飛行艇が現れ、ケビンは飛行艇に着地した!ケビンを乗せた飛行艇はルシタニア号から素早く離れて行った。
「ば、馬鹿な………」
「”星杯騎士団”………なんという連中だ……」
一方猟兵達は信じられない様子で呟いた。
「フフ……なかなか楽しませてくれる。だが、お話はこれからだよ。ケビン・グラハム―――なにせ”王”はまだ目覚めたばかりなのだから。」
猟兵達のように一連の出来事をあっけにとられている観客達の中で先ほどケビンが視線を感じた人物――黒衣姿の謎の人物が妖しげな笑みを浮かべていた…………
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