英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~奇跡の結婚式~前篇
――リベル=アーク崩壊より4ヶ月後―――
~メンフィル帝国・マルーダ城・城門~
リベールの『異変』より数ヶ月後、メンフィル帝国の帝都ミルスではいよいよリウイとイリーナの結婚式の日が来て、街中はかつてないほどのお祭り騒ぎになり、民の誰もがリウイとイリーナの結婚や伝説上の2人の皇帝夫妻が再び出て来た事を祝福している中、ルースは式に出席する人物達のチェックをしていた。
「ご協力ありがとうございます。………どうぞ。入口に案内の者がおりますので、その者について行ってください。……フウ………後少しか……」
「あの~、すみませ~ん!あたし達も確認お願いできますか?」
式に招待されている人物を確認して、チェックをしていたルースに誰かが声をかけた。
「はい、招待状を見せて頂いても構いませんか?」
「は~い……お願いしますっと。」
「………お願いします。」
そしてルースは差し出した人物達をよく確認せず、リストを見ながら招待状に書かれてある招待客の名前を見た。
「マリーニャ・クルップ様に……エクリア・フェミリンス様……と。………………何!?」
リストにチェックをしていたルースはある事に気付き、驚いてリストから目を離して、顔を上げて目の前にいる人物達を見た。そこにはいつものメイド姿のマリーニャとエクリアがいた。
「姫、”姫将軍”!?なぜ貴女がここに………!」
「……………イリーナ様に招待され、こちらに参りました。」
「なっ!?」
エクリアの話を聞いたルースは驚き、招待状を読んで、招待した人物の名前を確認した。
「…………確かにイリーナ様が招待したようですが……しかし…………」
招待した人物の名前や筆跡を確認したルースは少しの間考え込んだ後、エクリアを見て言った。
「……私では判断できないのでファーミシルス様に確認させていただきますが、よろしいでしょうか?」
「……はい。」
「わかりました。……少々お待ち下さい。」
そしてルースは急いで城の中に入って行った。
「ねえ、エクリア。”姫将軍”って、もしかしてあなたの事なの?」
「………ええ。かつて私はカルッシャという国の王女であると同時に将軍の一人だったのよ。」
「エクリアが王族!?しかも将軍だなんて………初耳ね~。王女で将軍だから、”姫将軍”か。それにしても何であんなに驚いていたのかしら?」
エクリアの話を聞いたマリーニャは驚いた後、ルースの様子を思い出して首を傾げていた。
「……それは私がかつて敵対していた国の者だったからでしょうね。」
「げ。エクリアの国って、メンフィルと敵対していたの!?」
「……ええ。」
「そりゃ、確かに驚くのも無理はないわね……というか本当に大丈夫かしら?…………あら、どうやら来たみたいよ。」
エクリアの説明を聞いたマリーニャは溜息を吐いた後、ファーミシルスと共に来たルースに気付いた。
「ルースに聞いた時は最初は何の冗談かと思ったけど、まさか本当に貴女がここに……しかもよりにもよってこの時に来るなんて………こんなにも早く貴女とまた会う時が来るとは思わなかったわ、”姫将軍”。」
「………お久ぶりです、ファーミシルス大将軍。」
冷静な表情で自分を見つめているファーミシルスにエクリアは会釈した後、ファーミシルスを見つめて尋ねた。
「それで早速尋ねたいのですが……本当に私も式に出席してもよろしいでしょうか?」
「………招待状は本物だし、式に出席する権利はあるけど………リウイ様にとって仇の貴女が本当に式に出席するつもりかしら?式が終われば、パーティーがあり、その時に招待客がリウイ様達に祝福の言葉をかける事は知っているわよね?」
「はい。……ですが私はリウイ様の気分を損なわせない為に、リウイ様達と会うつもりはありません。万が一、リウイ様が私に気付いた時、私に何かの処分を命じられた時、私は処分を受け入れる覚悟はあります。……お願いします、私も式に出席させて下さい………!」
ファーミシルスに静かに尋ねられたエクリアは深く頭を下げた。
「……………………………………一つだけ、尋ねるわ。そこまでの覚悟を持って、どうして式に出席したいのかしら?」
エクリアの様子に若干驚いていたファーミシルスは目を閉じて考え込んだ後、目を開いて尋ねた。
「………イリーナ様が幸せになる時をこの目で見たい……ただそれだけです。」
「…………………わかったわ。ただし、その代り武器の預かりは当然として、貴女には式が終わるまでの間、魔術の封印処理もさせてもらうわよ。……私について来なさい。」
「はい、ありがとうございます。マリーニャ、貴女は先に行ってて。」
ファーミシルスの話に頷いたエクリアはマリーニャを見て言った。
「……わかったわ。それとファーミシルス大将軍だっけ?貴女に一つ言っておくことがあるわ。」
「……何かしら?」
「もし、エクリアに危害を加えたらあたしもそうだけど、ご主人様達だって黙っていないんだから!」
「フン、心配しなくても”姫将軍”が何もしない限り、危害を加えるつもりはないわ。一応、招待客の一人なのだから。」
そしてファーミシルスとエクリアは城内に入り、マリーニャも続くように城内へと入って行った。
~マルーダ城内~
「フフ………本当にこの日を迎えられる日が来るなんて………」
一方、王城のある一室で真っ白なウエディングドレスを身に纏ったイリーナは鏡の前にいる自分を幸せそうな表情で見つめていた。その時、扉がノックされた。
「どなたかしら?」
「……あたしです、イリーナさん。」
「ツーヤ?どうしたの?」
扉の先から聞こえてきた人物――ツーヤの声を聞いたイリーナは尋ねた。
「ご家族の方達が到着され、イリーナさんに面会したいとの事でここまでご案内しましたが、いかがなさいますか?」
「まあ、お祖父さまとエリィが?お通しして。」
「はい。……どうぞ。」
イリーナの言葉に頷いたツーヤはスーツ姿のヘンリーとドレス姿のエリィを部屋に通した。
「あたしは扉の外で控えていますので、何かあれば遠慮なくお呼び下さい。」
「わかったわ。」
そしてツーヤは部屋を出た。
「あの……お久しぶりです、お姉様。ご結婚、おめでとうございます。」
「おめでとう、イリーナ。そのウエディングドレス、とても似合っているぞ。」
「ありがとう、2人とも。エリィとはこうして顔を合わせて話すのは本当に久しぶりね。」
エリィとヘンリーに祝福されたイリーナは幸せそうな表情で微笑んだ。
「……それにしてもリウイ陛下と共に家に尋ねて、陛下よりお前と結婚する事を説明された時、最初は信じられない思いだったぞ。」
「私もお祖父さまから聞いた時、最初は嘘じゃないかと思いました………」
「フフ……使用人の私が隠居しているとはいえメンフィル皇帝――リウイと結婚するなんて、普通はありえない事だものね。」
「お、お姉様………あのリウイ陛下をもう呼び捨てで呼んでらっしゃるのですか……?」
「ええ。私達は”夫婦”なんだから。エリィもそんなかしこまった呼び方をしなくていいと思うわよ?貴女にとってリウイは義兄になるんだから。」
「う”。そ、そうですね………ハア…………」
イリーナの言葉を聞いたエリィは唸った後、疲れた表情で溜息を吐いた。
「?どうしたの、エリィ。」
エリィの様子を見たイリーナは不思議そうな表情で尋ねた。
「……エリィは未だにリウイ陛下とどう接するか悩んでいるんだ、イリーナ。」
「まあ…………やっぱり、リウイが皇族だからかしら?」
「はい………皇族の方と……それも皇帝陛下と気軽な態度で接するなんて、恐れ多いですよ……」
ヘンリーの言葉を聞いて驚いて尋ねたイリーナにエリィは溜息を吐いて答えた。
「フフ……リウイでそんなに悩んでいたら、リフィア達のような他の皇族の方達と接する時はどうするのかしら?」
「それを言わないで下さい、お姉様!できるだけ考えないようにしていたのに………」
「ごめんなさいね、エリィ。……それより、エリィ。貴女はお付き合いしている方はいるの?」
「フム、それは私も気になっていた所だ。どうなのだ?エリィ。」
「いません。いたとしても少なくともお2人にはどんな方かお知らせします。……婚約をするまで隠していたお姉様と違って。」
イリーナとヘンリーに尋ねられたエリィは呆れた表情で答えた後、ジト目でイリーナを見て言った。
「フフ、驚かせてごめんなさいね。それはそうとエリィ。もし今後お付き合いする人が貴女以外の複数の女性とも付き合っていたなら、遠慮なく相談して。結婚とかの件でエリィを含めた皆さんが幸せになれるように力になってあげるわ。」
「あの、お姉様。少なくとも私はそんな男性を好きにならないと思います。……だって、複数の女性と付き合っているなんてロクな男性じゃないでしょうし……」
「そうね。……でもリウイのように無意識で女性を惹きつける素敵な男性もいるのだから。もし本当にそういった男性に惹きつけられたらせめて、自分が正妻になれるように他の女性達より誘惑して、自分が一番になれるように頑張りなさい。」
「……複数の女性と結婚しているリウイ陛下の正妻になるお姉様が言うと冗談になっていませんよ………そんな男性に惹きつけられるとは思いませんが、一応心の片隅にとどめておきます。………そうだ。お姉様達に紹介したい方がいらっしゃいますので紹介しても構いませんか?」
イリーナの言葉を聞いたエリィは疲れた表情で溜息を吐いた後、尋ねた。
「私達に?見た所、ここには私とお祖父さましかいらっしゃらないけど…………もしかして、エリィ。貴女、リウイやプリネ達のように誰かと契約をしたの?」
「はい。………メヒーシャ!」
驚いた様子のイリーナに尋ねられたエリィは大天使――メヒーシャを召喚した。
「て、天使!?」
「メヒーシャ、この方々が私の姉と祖父です。」
「……そうか。我が名はメヒーシャ。”大天使”だ。エリィ・マグダエルには恩があり、彼女と契約している。」
「まあ………まさか天使と契約するなんて………!一体、何があったの?」
メヒーシャの登場にヘンリーは驚き、一方イリーナはエリィに尋ね、エリィは2人にメヒーシャと契約した経緯を説明した。
「そんな事が………フフ、そちらの世界で天使と契約した人間は貴女で2人目になったかもしれないわね。」
「え?」
「なんだと?私以外の天使がエリィの世界にいて、しかも人間と契約しているだと?」
イリーナの言葉を聞いたエリィは驚き、同じように驚いたメヒーシャは尋ねた。
「もしかして……”ブレイサーロード”ファラ・サウリン卿と契約している精霊や幻獣達――”六異将”の事か?」
「ええ。”力天使”ニル・デュナミス………新たな契約主を探して、正式な順序を守って、そちらの世界に行って、エステルさんと出会って契約したそうです。」
「なっ………!中位の天使が……!?一体、何故人間と契約を………」
イリーナの答えを聞いたメヒーシャは信じられない表情で呟いた。
「フフ……それなら本人に会って実際に聞いてみるのがいいですよ。今日の結婚式にエステルさんも出席していますし。」
「……そうか。後で会って聞いてみるとしよう。エリィ、私は一旦戻る。」
イリーナの言葉に頷いたメヒーシャはエリィの身体の中に戻った。
「エリィも後でご挨拶したらいいと思うわ。貴女とあまり変わらない年齢だから、きっと仲良くなって
貴女にとって良い友人になれると思うわ。」
「そ、そんな……私なんかがリベールの英雄……それもあの”ブレイサーロード”と友人になるなんて……」
「そんなに固くならなくて大丈夫よ。エステルさんは自分の身分をほとんど気にしない人だから。」
「は、はあ。………そうだ。それよりお姉様に尋ねたい事があるのですが……」
「何かしら?」
「お姉様に頼まれた件―――ベールガールを務めるのはいいのですが、お姉様のお話しだと私以外にもう一人頼んでいると聞いているのですが……どなたなのですか?その方にご挨拶をしておきたいのですが………」
「ああ、その件ね。エリィも知っている方だし、貴女とほぼ同年代の方だからそんなに固くならなくていいわよ。」
「え?その方とは一体……?」
イリーナの話を聞いたエリィが不思議そうな表情をしたその時、扉がノックされた。
「イリーナさん、マスターがいらっしゃいました。」
「ちょうどよかったわ。通して頂戴。」
「はい。マスター、どうぞ。」
「ありがとう、ツーヤ。」
イリーナの返事を聞いたツーヤは扉を開けて、ドレス姿のプリネを部屋に通した。
「イリーナ様、そろそろ式の時間ですのでご用意の方を………あら?貴方達は………」
「プ、プリネ姫!?」
「……お久ぶりです、プリネ姫。……この間はとんだご迷惑を……」
プリネに見つめられたエリィは驚き、ヘンリーは会釈をした。
「そんな……こちらこそ、迷惑をかけてしまって申し訳ありません。……それと……お久しぶりですね、エリィさん。数年前、出会った時と比べて魅力的な女性に成長されましたね。」
「そ、そんな……!私なんかよりプリネ姫の方が、今では”姫君の中の姫君”と称されるほど、魅力的な女性に成長されたではありませんか。」
「フフ……そんなに固くなる必要はありませんよ。今日から貴女と私は親戚になるのですから。」
恐縮している様子のエリィを見たプリネは優しい微笑みを浮かべて言った。
「そうよ、エリィ。それにプリネが貴女と共にベールガールを務めるのだから、そんなに固くなっていたら失敗するわよ?」
「え!?プ、プリネ姫が………!?」
「ええ、よろしくお願いしますね、エリィさん。」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
プリネに微笑まれたエリィは会釈をした。そしてイリーナはヘンリーを静かな表情で見つめて言った。
「お祖父さま……お父様達に代わり、今まで私を見守って頂き、本当にありがとうございました……それに私の我儘を聞いてくれて………」
「何、それが祖父の義務というものだ。……それにお前のその我儘があったからこそ、今こうしてお前は最高の幸せを手に入れるんだ。……逝ってしまった2人の分も含めて、幸せになりなさい。」
「はい………!そうだ……実はお祖父様たちにお知らせするさらに幸せな出来事があるんです……!」
ヘンリーに微笑まれたイリーナは喜びの涙を流して頷いた後、嬉しそうな表情で言った。
「フム、何があったんだい?」
「はい………今の私のお腹の中には私とリウイの赤ちゃんがいるんです……!」
「なんと……!そうか……まさか曾孫を見る年まで生きていられるとは思わなかったな……!」
「え!?お、お姉様、もう妊娠していらっしゃるんですか!?」
イリーナの話を聞いたヘンリーは驚いた後嬉しそうな表情をし、エリィは信じられない表情で尋ねた。
「ええ、まだ1ヵ月目だけどね。」
「フフ……お母さまから聞いた時は私も本当に驚きました。」
幸せそうな表情で語るイリーナに続くようにプリネは微笑みを浮かべて頷いた。
「そ、そうなんですか………おめでとうございます、お姉様。」
「ありがとう、エリィ。フフ……それにしてもエリィ、早く結婚しないと成長した私とリウイの子供から未婚の貴女が”エリィ叔母様”と呼ばれてしまうわよ?」
「お、お姉様!それを言わないでください!」
その後、リウイとイリーナの結婚式は滞りなく進み、バルコニーから現した2人の姿を見た国民達は熱狂の声を上げると同時に2人を最大限の祝福の言葉を叫んだ。そしてパーティーが始まり、式に出席した招待客達はリウイ達に祝福の言葉をかけた後、オリビエやクローゼはそれぞれミュラーとユリアを伴って、メンフィルの皇族や貴族達への挨拶回りを始め、他の招待客達―――エステル達は久しぶりに会う仲間達との交流を楽しみ始めた……
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