英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~旅の終わり~後篇
~紅葉亭・夜~
「…………………………………」
キリカが考え込んでいると、ジンが温泉のある建物からやって来た。
「早いわね、もう上がったの?」
「おいおい、これが早いって?たっぷり1時間は浸かってたと思うんだがな。」
キリカに尋ねられたジンは意外そうな表情で答えた。
「そう………」
「なんだよ、珍しく考え込んでるみたいだな。」
そしてジンはキリカに近づいた。
「ええ………あと一押しがなくてね。」
「そうか………」
キリカの答えを聞いたジンは重々しく頷いた後、キリカのように中庭を見つめ、そして口を開いた。
「リュウガ師父が亡くなってもう6年か……ずいぶん旅をしたらしいな?」
「ええ、あちこちね……でも、旅だなんてそんな格好のいいものじゃないわ。ただ、大陸中を流れ流れてその片隅に引っかかっただけ……川を行く落ち葉がいいとこよ。」
「……………それで、前に言ってた答えとやらは見つかったのか?」
キリカの話を聞いて頷いたジンは尋ねた。
「ふふ、答えなんてものは今も見つからないわ。あえて言うなら、そうね……結論のようなものは見出せたのかもしれない。」
「結論………」
「ねえ、ジン………どうして私が直接戦う事のないギルドの受付になったと思う?」
「そうだな……俺やヴァルターのような阿呆共と同じ道を歩きたくなかった。案外、そんな所じゃないか?」
キリカに尋ねられたジンは考え込んだ後、自分の出した推論をキリカに尋ねた。
「ふふ……あなたたちが阿呆というのは確かに否定はしないけど。」
「おい、そこは一応否定してくれよ!」
「…………………………………私はね、確かめたかったの。父が説いてくれた活人拳の意味を。戦いを通して互いに高め合うという、その理念を。確かに………その理念は理想に近いのかもしれない。……でも、そもそも戦いが前提なのはどうかと思ってしまった。」
「ふむ………」
「武人として、生をまっとうすることの意義はわかる。その上で死が訪れても後悔がないのも理解できる。その考え自体は私だって今も変わらないわ。でも………父が亡くなって、ヴァルターが居なくなったときにふと思ったのよ。戦いを通さない活人の道……そんなのがあってもいいんじゃないかって。」
「………………」
キリカの話を聞いたジンは驚いた表情で黙っていた。
「その答えを求めて大陸中を巡り歩いたわ。そして旅の途中で幾つもの争いや暴力を見ては自分の無力さとぉ痛感した。………そんな時に駆け込んだのがこのリベールのギルドだった。どんな時も民間人の安全を第一に行動するという組織理念………その理念の下で働いていれば答えが見つかる気がした。だけど……結局は戦いから逃れることができなかった。」
「…………………………………『人が人である以上、どこまでも闘争はつきまとう。なら、その戦いを通してどう争いを治めるか―――その”現実”を見添えた上で”理想”を謳う。』……それが師父の言葉だったな。」
「ええ……そして、その考えからすると……私は現実から目を逸らしたことになるわ。」
「おいおい……だからと言って、そうじゃないことはお前だってわかってるだろう。師父の言う”現実”は何も戦いだけを指しているわけじゃないんだからな。」
キリカの言葉を聞いたジンは呆れた後、真剣な表情で言った。
「……いいえ、それとこれとは別問題なの。この数年間……私はけっして自分の足で歩こうとしなかった。新たな活人の道……それを探すと言い訳しながら私は放棄していたのよ。……ギルドの居心地の良さに甘えながら、ね。」
ジンの言葉を聞いたキリカは答えた後、苦笑した。
「…………………………………」
「その意味で私は……父の弟子の中では一番の落ちこぼれかもしれないわね。その在り方の是非はともかく………あなたにしてもヴァルターにしても己の道を選び、歩き続けてきた。父の説いた活人拳に正面から向かい合って自分の答えを出した。
そしてそれぞれのやり方でこの世界という”現実”と向き合っている……まあ、ヴァルターはその結果、”死”という”現実”を受け入れなければならなかったけど………結局……私だけが歩いていなかった。」
「…………………………………いや……お前はちゃんと歩いてたさ。」
「え?」
考え込んでいたジンが呟いた言葉を聞いたキリカは驚いてジンを見た。
「ただ……それは他人のための道だったというだけだ。ギルドにいたお前は他人が進む道を踏みならすためにひたすら歩いた。そしてそれは……まさに活人の道だったと思うぞ。」
「…………………………………ふふ……もしかしてそれで慰めているつもり?」
「ぐっ……悪かったな口下手で。と、とにかく俺が言いたいのはだな……お前はあまりにも強すぎてあまりにも生真面目すぎるんだ。そして、その強さと真面目さがお前自身を縛っているように見える。」
「あ………」
「だから……キリカ。少しは肩の力を抜けよ。少し……ほんの少しでいい。そうすりゃ、お前なら色々と見えてくるはずだぜ。」
「…………………………………」
ジンの話を聞き終えたキリカはジンに背を向けて黙って考え込み、そして口を開いた。
「………ねえ、ジン。」
「ん、なんだ?」
「私が国に戻ったら嬉しい?」
「な、なんだ、いきなり。」
キリカの唐突な問いにジンは戸惑った。
「いいから答えて。」
「う、うむ………そりゃあ。どちらかと言われれば嬉しいに決まってるだろ。」
「…………………………………」
「そ、それがどうした?」
「いえ……大統領の誘い、受けることにするわ。」
「お、おい!?そりゃ一体どういう……」
キリカの結論を聞いたジンは驚いてキリカを見た。
「勘違いしないで。ただ、旅を終わらせるきっかけが欲しかっただけよ。それと、自分の力をより活かせる場所をね……」
キリカが結論を出した翌日、エルザを加えたキリカ達は紅葉亭を後にした。
~エルモ村・朝~
「はあ~、久々にぐっすり眠れたわ。お2人とも、楽しんでもらえたかしら。」
「ええ、そりゃあもう。」
「おかげで英気を養えました。少なくとも、新しい環境に挑戦してみようと思うくらいには。」
エルザに尋ねられたジンは頷き、キリカも頷いた後口元に笑みを浮かべてエルザを見つめた。
「そ、それじゃあ………」
「……謹んでお受けします。ただし、条件が一つ。」
「なに、聞かせて?」
「私はあくまでも自分の信念に基づいて組織に身を置くつもりです。もしも組織の運用に少しでも疑問を感じたときは………組織そのものの在り方を容赦なく正していくつもりです。それでもよければ、大統領閣下によろしくお伝え下さい。」
「ふふ、勿論よ。……遊撃士協会というある意味、危ういバランスで成り立っている組織にいた人間。それをスカウトするという事は正にそういった役割も大統領は期待していると思うわ。」
キリカの話を聞いたエルザは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「ふふ、どうでしょうか。それと仕事の引き継ぎもあるので帰国は2,3ヶ月後になります。その点もご了承ください。」
「まったく問題ないわ。共和国で会えるのを楽しみにしてるわよ。」
「ええ、こちらこそ。」
そしてエルザは一足早くエルモ村を出て、ジンとキリカは2人並んで話しながらエルモ村を出ようとした。
「ふむ………」
キリカと歩いていたジンは立ち止まって考え込んだ。
「何か考えごと?」
ジンの様子に気付いたキリカは立ち止まってジンを見て尋ねた。
「いや、さっきの話さ。引継ぎが済むまで2,3ヶ月って言っただろ?」
「ええ、そうだけど………それがどうかしたの?」
「向こう(カルバード)も忙しいだろうがそこまで緊急の仕事が待っているわけでもなさそうだ。それなら俺も、まだしばらくリベールに居ようかと思ってな。」
「何を言うかと思ったら………私に付き合う必要はないわ。あなたはとっとと帰りなさい。」
ジンの提案を聞いたキリカは呆れた後、ジンを見て言った。
「ふう………まったく冷たいヤツだな。」
「ふふ、いいじゃない。どうせこれからは嫌でも顔を合わせる事になるのだから。」
「あ………」
キリカの言葉を聞いたジンは呆け、それを見たキリカは歩き出した。
「………はは、そうだな。何も焦る事はない……か。」
「ジン………何をぼうっとしてるの?」
「ハッ!?お、おう………スマン。ってお前も一人でとっとと行こうとするなよ!」
そしてジンはキリカと共にエルモ村を出た。
その後ジンはカルバードに帰国し………その数ヶ月後にはキリカもカルバードに帰国し、新たな道を歩み始めた……………
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