英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第38話
12月9日――――
翌朝、リィン達は男爵邸に集合していた。
~シュバルツァー男爵邸~
「おはようございます、皆さん。昨晩はよく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで体調も万全です。」
「朝ごはんもすっごく美味しかったよねー。」
「ん、なんだかリィンが羨ましくなったかも。」
「はは………そうか?」
仲間達の言葉に頷いたフィーの意見を聞いたリィンは苦笑した。
「ふふ、一昨日からシャロンさんも手伝ってくれましたから。おかげで料理のレパートリーが増えてやりがいがあります。」
「わたくしもユミルの郷土料理はとても勉強になっていますわ。いずれ皆様にも振舞えるように精進したいところですわね。」
「あはは……さすがはシャロンさん。」
「シャロンさんでしたら必ずユミルの郷土料理も習得するでしょうね……」
「ふう、あまり人様のお宅で出しゃばらすぎないようにね。」
ルシア夫人とシャロンの会話を聞いたエリオットとセレーネは微笑み、アリサは呆れた表情で指摘した。
「ふふ、心得ておりますわ。」
「それはそうと……男爵閣下の容態は如何ですか?意識を取り戻したとはいえ、いまだ万全ではないようですが。」
「ええ、教区長様にも診ていただきましたが……やはり今は体力を取り戻すのが先決だろうと。ただ、ちゃんと食事をとって安静にしていれば心配はいらないとのことです。」
「ハハ、それはよかった。」
「本当に……安心しました。あまり無理はしないよう伝えておいてください。」
シュバルツァー男爵の容態が徐々に回復している事にトヴァルとリィンは安堵の表情をした。
「―――いや、それには及ばない。」
するとその時シュバルツァー男爵がリィン達の前に現れた。
「あ……」
「まあ、あなた。お休みになっていはずでは?」
「その、起きても大丈夫ですか?」
「ああ、傷自体は完全に塞がっているからな。長い間眠っていたせいか少々足元は覚束ないが……息子たちの出立を見送るのも父としての役目だろうと思ってね。まあ、これくらいの見栄は張らせてくれ。」
ルシア夫人とリィンに心配されたシュバルツァー男爵は苦笑しながらリィン達を見回した。
「父さん……」
「ふう、あなたったら。」
「フフ、さすがはリィンの父上といったところか。」
「確かにそっくりかもね。」
リィンとルシア夫人が呆れている中、感心するガイウスの言葉にセリーヌは頷いた。
「リィン―――お前なら必ずや仲間達との再会を果たせるはずだ。そして見極めてみるがいい。この混迷のエレボニア帝国においてお前達が進むべき道標を。」
「……わかりました、父さん。何としてもみんなと合流して、ここに戻ってきます。それまで、郷のことをよろしくお願いします……!」
「うむ、任された。行ってくるがいい、我が息子よ……!」
男爵夫妻に見送られたリィン達は渓谷道のヴァリマールが待機している場所に向かった。
~ユミル渓谷道~
「休眠状態ヨリ復帰―――再起動完了。―――”起動者”及ビ”準契約者”タチノ波形ヲ感知。」
リィン達が近づくとヴァリマールは起動した。
「ん、霊力は十分に復活しているみたいね。」
「ああ、これならいつでも”精霊の道”を開けそうだ。」
「はあ、何度見てもとんでもないわね……機甲兵は確かに凄いけど”騎神”は格が違うというか。」
「実際”機甲兵”単騎が相手なら相手にならないのではないかと。量産性、戦術的な運用では機甲兵にも利がありそうですが。」
溜息を吐いているアリサにシャロンは真剣な表情で説明した。
「これまでのことを考えると、”灰の騎神”への警戒も強まっているでしょう。何より、貴族連合には”蒼の騎神”がある―――使いどころをよく考えないと、足元をすくわれるかもしれません。」
「ん、言えてるかも。」
「……ええ。肝に銘じておきます。」
クレア大尉とフィーの忠告にリィンは重々しい様子を纏って頷いた。
「それでも……この”騎神”を見ていると何かを期待してしまうな。」
「要所要所で大活躍していますものね。」
「フフ……確かに。実際、ノルドを救えたのも彼やリザイラ達がいてこそだったからな。」
「あはは、ヴァリマールのあれはカッコよかったよねー。」
「はは……」
ヴァリマールの感想を言い合っている仲間達の様子を苦笑しながら見ていたリィンはすぐに気を取り直して仲間達の方に振り向いた。
「―――とにかく、俺達なりに頑張っていくしかないだろう。決して騎神に頼りすぎず、俺達自身で経験し、考えて……そうやって、少しずつ”答え”を見出していけばいい。」
「うん、そうだね……!」
「ま、お兄さんも及ばずながら力添えさせてもらうぜ。それで――――次の目的地はレグラム方面でいいんだったな?」
「ええ、そちらにプリネさん達以外の残りのⅦ組のメンバーがいるはずです。ヴァリマール、念のためレグラムだけもう一度調べてみてくれるか?」
「承知シタ―――南南東”れぐらむ”方面―――2名ノ波形ヲ確認。イズレモ生体反応ニ異常ナシ。」
リィンに指示されたヴァリマールはリィン達の予想外の答えを返した。
「2名……」
「逆算すれば、誰がいるかは何となくわかりそうね。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!2名って……前は3名だった筈だろう!?」
「あ……」
「……そうだったな。」
リィンの指摘にセリーヌは呆け、トヴァルは目を伏せて呟いた。
「え、それって……」
「僕達”Ⅶ組”の残りはクロウ先輩とプリネ達を除けば3名……」
「ユーシス、ラウラ、委員長か………」
「そのうちの一人がレグラム方面から消えた……?」
「何かあったのでしょうか……?」
仲間が一人消えた事にリィン達はそれぞれ黙って考え込んでいた。
「―――探知ハ完全デハナイ。地脈ノ影響ヲ少ナカラズ受ケル。」
「あ……」
「そうね、移動中とか飛行船に乗ってたら探知できないはずよ。」
「なるほど……その可能性もありそうね。」
ヴァリマールの説明を聞いたリィンは呆け、セリーヌとアリサは納得した様子で頷いた。
「……内戦の状況も刻一刻と変化している筈ですし、シグルーン中将の話から推測するとメンフィル帝国のエレボニア帝国への開戦の動きも本格化し始めている筈です。その程度で動じていては為すべき事も果たせませんよ?」
「そういう意味じゃ、今気にしても仕方ないってことだ。とっととメンバーを決めてレグラムに向かった方がいいだろう。」
「……そう、ですね。わかりました。メンバーを決めましょう。行くのは前回と同じく4名―――トヴァルさん、クレア大尉のどちらかに同行してもらう形でいいですか?」
クレア大尉とトヴァルの指摘を聞いて気を取り直したリィンは仲間達を見回した。
「ふふ、できればその選択肢にわたくしも加えていただけると。お嬢様が行くかどうかに関わらず誠心誠意、サポート致しますわ。」
「シャロンさん……」
「まあ、シャロンなら安心できるとは思うけど。」
「郷に二人残れれば守りも更に強化できますし。」
「いいんじゃないか?」
「わかりました。ありがたく力をお借りします。それじゃあ――――」
そしてリィンはアリサ、ガイウス、シャロンを同行メンバーに選んだ。
「―――よし、それじゃあさっそく出発しよう。準備はいいか、みんな?」
「みんな、留守の間はよろしく頼む。」
「レグラムのギルドには恐らくエステル達がいる。もし立ち寄ることがったらよろしく言っておいてくれ。エステル達ならきっとお前さんたちの力になってくれるはずだ。」
「ええ、わかりました。」
「皆さん、どうかお気をつけて行って来て下さい。」
「あはは、行ってらっしゃ~い!」
「ふふ……それでは参りましょうか。」
「ええ―――よろしく頼む、セリーヌ。」
「任せておきなさい……!―――ヴァリマール、”精霊の道”を開くわ!行き先はレグラム方面―――霧深い湖畔の地よ!」
「承知シタ―――残存スル霊力ヲ展開―――”精霊の道”ヲ起動スル―――!」
そしてリィン達は仲間達に見送られ、ヴァリマールの”精霊の道”によって”レグラム地方”に向かった。
”精霊の道”によってレグラム方面へと転移したリィン達はエベル街道に到着した。
~エベル街道~
「ここは……」
「どうやら無事に到着したみたいですわね。この濃い霧――――話に聞いていた通りですわ。」
「しかし……この場所は見覚えがあるな。」
「レグラムに通じる”エベル街道”の高台付近……以前の実習のときに”人形兵器”と戦った場所か。」
仲間達と共に見覚えのある周囲を見回したリィンは目的地に辿り着いた事に安堵した。
「………それだけじゃないわ。どうやらこの一帯の全域で”上位属性”が働いているみたい。」
セリーヌの忠告を聞いたリィン達はそれぞれ顔色を変えてセリーヌに視線を向けた。
「ノルドで”幻獣”が現れた時と同じ……?」
「……確かにそんな気配を感じるな。この地にもケルディックやノルドのような異変が起きているのか……?」
「ええ、どうやら気をつけて進む必要がありそうですわね。」
「街道を南に下ればすぐにレグラムの街だわ。まずは聞き込みをしてみるのがいいんじゃない?」
「ああ、それがよさそうだな。さっそく行くとしよう―――……って、セリーヌもレグラムに来た事があるのか?」
「あー、細かいことはいいでしょ。とっとと行くわよ。」
その後リィン達は街道を進む、レグラムへと向かった。
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