悪意の風
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4部分:第四章
第四章
「閣下、これではとてもです」
「侵攻どころではありません」
「わかっている。それは中止だ」
彼はその苦い顔で答えた。
「何もできはしない」
「わかりました」
「ではその様に」
「そしてだ」
独裁者はさらに言う。重厚な声で。
「ワクチンは開発できるか」
「それも可能です」
「化学者達に命じますか」
「急げ。さもないと崩壊するのは我が国だ」
こう部下達に述べる。
「わかったな。すぐにだ」
「ではまず閣下に」
「閣下に投与させて頂きますので」
「私のことはいい」
だが、だった。ここでだ。
独裁者は部下達の言葉を一蹴した。そして気力で席に座った状況で言うのだった。
「国民に回せ。完成したらすぐにな」
「では閣下はですか」
「後で宜しいのですか?」
「いい、私のことよりも国民のことを考えろ」
独裁者だ。だが独裁者だからこそこう言ったのだった。
「いいな。死ぬ病ではないのだしな」
「わかりました。それでは」
「まずは国民に対して」
「ワクチンを投与しろ。完成すればな」
こう言ってだ。彼は国民にワクチンの投与を急がせた。本当に彼のことは後回しにさせた。この間国際社会からの援助の申し出があったがそれは断った。それは彼がウィルスを作成させたことが公になってしまう恐れがあったからだ。
だからそれは断り自力で何とかした。ワクチンは程なく開発された。ウィルスを作ったならばそのワクチンを開発できるのは自明の理だった。こうしてだ。
ワクチンは国民に投与されて騒動は収まった。最後に独裁者もワクチンを受けた。
そして回復してからだ。彼はこう言った。
「政策を変える必要があるな」
「ではウィルスはですか」
「最早」
「製造方法から何から何まで資料は全て破棄しろ」
そうしてだ。存在自体を闇に葬れというのだ。
「化学者達にも固く口止めしろ」
「はい、わかりました」
「ではそう伝えます」
「喋るのなら残念なことになる」
この言葉は本気だった。紛れもなく。
「このことも念を押しておく様に」
「畏まりました」
「ではその様に」
部下達は敬礼と共に彼の言葉に応えた。そうしてだった。
ウィルスの存在を完全に抹消することが決定された。だが政策の変換はこれだけではなかった。
独裁者は部下達にだ。次はこう言ったのだった。
「そしてだ」
「そして、ですか」
「次の政策の変換は」
「隣国のことだ」
彼が常に併合を考えているその国のこともだ。政策を変換するというのだ。
部下達はこのことを聞いて思わずその顔を驚愕のものにさせた。だがそれでもだ。
彼は確かな顔でだ。こうその部下達に告げた。
「すぐにわかった様だな、君達も」
「併合を諦められるのですか」
「それを」
「そうだ。今回のことはだ」
細菌戦を仕掛けようとして自分達が風の動きの変化で逆にウィルスに襲われた。この事実から言ったのである。
「神、私はあまり信じていないがな」
「その神の意志ですか」
「この事態は」
「科学的根拠はないがそうかも知れない」
だからだというのだ。
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