ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第十三話 独りでは何もできないのです。
前書き
ついにチート同士(民間人)が対面します。それにしても、二人で話すときには何語を使うんでしょうか。日本語???
帝国暦479年11月27日――
ノイエ・サンスーシ
■ アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン
カロリーネ皇女殿下に拝謁が決まったのは、だいぶ時が過ぎてからだった。俺の体調が思ったほど元に戻らず、ずっと帝都の邸宅内で静養していたというのが主な原因だ。皇女殿下もそれを聞くと、無理にとは言わず、俺の回復を待っていたようだ。恐縮である。
さて、ノイエ・サンスーシはやはり聞きしに勝る壮麗さだった。まるで十八世紀のフランス王朝のような華やかさだ。いたるところに貴族、軍人、そして貴婦人が闊歩し、庭園、回廊、豪奢な部屋で話に花を咲かせている。俺が皇女殿下の侍従武官に案内される間、ずっと周りの視線が刺さるようで痛かった。
「そう硬くならずともよろしいです。周りの者の視線など気にしていたらきりがありません。堂々とおなりなさい」
そう言ったのは随行のシュタインメッツではなく、先導していたファーレンハイトだった。俺が貴族ぶらない人柄だと知った時から、ものおじせず意見してくるようになった。さすがは剛直さで鳴らしたファーレンハイトだ。OVAで既に見ていたが、こうして実物を見ると、やはり実物の方が稀代の名将のオーラが出ている。この人こそ武人だろう。
シュタインメッツのほうもファーレンハイトと打ち解けたようでほっとしている。まだどうなるかわからないが、願わくはファーレンハイトとシュタインメッツを双璧の様に遇したいものだ。
そうこうするうちに皇女殿下の居室の前に着いた。ファーレンハイトがノックをし、中から返事が聞こえる。通されたのは、白を基調とした調度の居間だった。大理石の暖炉の中のマキがパチパチと暖かそうにはぜている。その前に向かい合わせの様に白いソファがしつらえてあった。床は板張りだがほんのりと暖かい。きっとセントラルヒーティングがあるからだろう。だったら暖炉など必要ないのではないかと思ったが、そこは帝国、旧いものが良いとされている風潮なのだからだろう。
扉を開けてくれた侍女は、皇女様をお呼びいたします、と一礼し下がっていった。
俺たちが立っていると、奥の扉が開き、愛くるしい茶色の髪を後ろでまとめ渦を巻いて左肩にたらした美貌の少女が入ってきた。大きな茶色の瞳には知的な聡明さと、いたずらっぽそうなかがやき、そして、気の強さが渦巻いていた。
これが・・・カロリーネ皇女殿下、そして、転生者かもしれない、人なのか・・・・。
■ カロリーネ・フォン・ゴールデンバウム
部屋に入ると、3人の人間がたってる。ま、ファーレンハイトは私の武官だし、シュタインメッツはすぐにわかるわ。やっぱり実物の方が武人っぽいよね。がっしりした体つきよ。グレーチェンと結ばれずに戦死したのはさぞ残念だったでしょうね・・・。
そして、間に挟まれているようにたってるワインレッドの髪、白面の顔、うん、美形には違いないけれど、ちょっと頼りないかなぁ。でも、この子が転生者かもしれないかもなアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンなのね。ふうん、素直そうじゃない。そしてひたむきそうな感じ?
「ファーレンハイト、苦労を掛けた。アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンよくぞきたのう。さ、そこにかけてたもれ」
あ~しんどい。早くこんなしゃべり方は卒業したい。あ、そうだ。ちょっと人払いをしないとね。私が顔を向けると、理解した侍女たちが一礼して退出。うん、空気は読みましょう。それでよし。あ、駄目駄目!シュタインメッツとファーレンハイトは居残りね。
「ファーレンハイト、シュタインメッツ、そちらは残ってたもれ」
顔を見合わせた二人。ま、いいじゃないの。残って話を聞いてくれないと進まないのよね。
遠慮する三人を強引に座らせ、さらに私が強引にお茶を入れて振る舞ったので、3人ともすっかり恐縮してる。まぁ、そうなのよね。お茶を入れるなんて前世では私は日常茶飯事だったもの。
「アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン」
「はっ!」
お~緊張してます。緊張してます。おかしい。でもそんなに緊張しなくてもいいのに。
「この度の事、さぞ気落ちしていると思うが、決してそちだけの責任ではない。作戦を決定しそれを実行するのはあくまでも司令官じゃ。上司たるもの部下の動きについて責任を取るために存在するのだからの」
「ですが・・・私の策のせいで・・・・」
「バカ者。そちの策は的を得ていたとファーレンハイトらから聞いた。敵が見事すぎたのじゃ。それにそちはまだ幼年学校生と聞く。にもかかわらず敵の動きを読んで見せたその戦術眼は見事じゃ」
「いえ、皇女殿下。結果として敵に裏をかかれてしまったからには策など何の意味もありません。ですが・・・・」
「ん?」
「ご無礼をお許しください。この失敗はわたくしは決して忘れることはありません。将来軍属になり、少しでも多くの兵を救うための糧としたく思います」
ほ~~!!!そういったか!!なるほどね、ここでウジウジウジウジウジウジウジウジずうっとしていたら蹴り飛ばそうかと思ったけれど、そんな必要なかったわけね。うん、いいんじゃない?!精進は大切よ。
「シュタインメッツ」
「はっ!!」
「妾が申すのもどうかと思うが、どうかアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンを助けてやってほしい。アルフレートもそちを頼りにしていよう」
皇女殿下御自ら声をかけられて、シュタインメッツ感動してます。な~んて第三者がみたらそういうほどシュタインメッツ、赤くなってる。そうね、あなたにはラインハルト派ではなく反ラインハルト派、つまり私たちの方についていてほしいからね。
「ありがたきお言葉、このシュタインメッツ、肝に銘じておきましょう」
「うむ。頼むぞ」
「はっ!」
恐縮して一礼するシュタインメッツに代わり、アルフレートが私に質問してきた。
「皇女殿下。ご無礼をお許しください。いささか伺いたいことがあるのですが」
「よいぞ」
「今回の戦いに一個艦隊が差し向けられましたが、この発案、皇女殿下だということを耳にしました。失礼ながらそのような戦略眼、どのようにお気づきになったのでしょうか?」
「妾にはファーレンハイトがおるでの。よく戦いの話を折に触れてきく。特に妾はイゼルローン要塞が好きでの。あのあたりのことはよく地図などで見て知っておるのじゃ」
嘘ばっかり。本当は原作知識があるからなのだけれどね。でも、地図見たってのはほんとよ。だって原作だとそれぞれの星域が実際どこら辺にあるのかなんてわかんないんだも~ん!!アルフレートはちょっと首をかしげていた。たぶん納得はしてなかったんじゃないかな。
「アルフレート、シュタインメッツ」
『はっ!!』
「どうかこれからも妾を気軽に訪ねてくるが良いぞ。何なりと力になろう」
『ありがたき幸せ』
「うむ」
さ~てと、こっからが本番よね。
■ アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン
皇女殿下が思った以上に気さくな方なので、びっくりした。まぁ、何とかなったかなと思い、ほっとしながら退出しようとした瞬間、声がかかった。
「そうじゃ、アルフレート。この機会じゃ。妾が記念の品を下賜したいと思う。すまぬが残ってくれぬか?」
それを聞いたシュタインメッツ、そしてファーレンハイトは席を外した。どういうことだ?俺に記念品?何かあるのか?
俺が不安そうな顔立ちをしていたらしい。皇女殿下が悪戯っぽく笑って、また席をすすめてきた。断ることも出来ず、俺は腰かける。まったく、年下の少女なのだぞ。もっとしっかりしろ、アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン。
「そう硬くなるな。なにたいした話ではない。まずは茶を飲んで落ち着くが良いぞ」
そうだな、非礼かもしれんがそうさせてもらおう。俺はカップに唇を付けた。
「さて、転生者さん。ご気分いかが?」
ブ~~~~ッ!!とお茶を盛大に吹き出してしまった。それどころか逆流したお茶が鼻に入って痛いのなんの。だが、それ以上に驚いた。どうして皇女殿下がタメ語!?どうして皇女殿下が俺の正体を!?!?
「あははは!!ごめんごめん、おどろかせてしまって。はいこれで拭いて落ち着いてね」
俺は皇女殿下が差し出した柔らかいハンカチで顔を拭き、鼻をかんだ。この際なので非礼云々は言ってられない。
「し、失礼いたしました。ですが皇女殿下、今の話は・・・・・」
「あら、違ったの?」
俺は一瞬迷った。元々ここに来たのは皇女殿下が転生者かどうかを確かめることにある。だとすればこの機会だ。ごまかさずに一気に聞いてしまった方がいいというものだ。
「いいえ、そうです。そしてそれを知っているということは皇女殿下もまた転生者でいられるのですね?」
「敬語はいいわよ。あ~でもあれか、前世の年齢によっては敬語かどうか決まるか。あなたいくつだったの?何してたの?」
俺が22歳の学生だということを話すと、皇女殿下はおかしそうに笑った。
「勝った~!!私27歳のOLだもの。あなたがこの世界じゃ年上だけれど、私の方が一応年上なのね。だったら私の方はタメ語で構わないよね?」
むろんだ。というか前世でも現世でも俺がタメ語ではなせるわけがないじゃないか。
「さて、時間がないから本題に入るわね。私たちは今の立場上原作からいけばラインハルトに滅ぼされてしまう運命にあるわ。私は皇族、あなたは貴族なのだから」
順当にいけばそのとおりだ。まぁ、貴族の中でも生き残った開明派はいるが、俺の家は大貴族だ。そうはいかないだろうが、最も俺が家名を捨てれば話は別だ。
「その通りです」
俺はそう答えるにとどめた。
「でしょ?だとすると二人で手を組んで、ラインハルトを滅ぼしてしまったほうがいいと思うのね」
やはりそうなるか、しかし本当にできるのだろうか?俺の疑問符を読み取った皇女殿下が応える。
「できるわよ、なんてったってこっちには原作知識あるもの。それが二人もそろってるんだから勝てないわけないじゃない。それにシュタインメッツやファーレンハイトは既にこっちに収めたわけだし」
一流の武人が名品扱いか。ちょっとかわいそうだな。
「どう?」
「少し考えさせてもらえませんか?まだラインハルトもこの世界で貴族を滅ぼすと決まったわけではないですし、私たちが生まれたことで原作からかい離する可能性だってあるわけですし・・・・」
「人の性格はそんなに簡単に矯正できないわよ。幼いころから仕込まれない限りはね」
皇女殿下が一転、冷たい声で言う。
「今この場で決めて。もっともあなたが断るのなら、私は私の身を守るだけよ」
そうか、一転して俺の罪を鳴らすか、それともバウムガルデン家もろとも俺を殺すか、それとも・・・・。皇女殿下はここまで腹を割ったのだ。皇女殿下が転生者だと俺が知っていれば後々俺自身ある意味やりやすくなるし、俺がラインハルト陣営に入ってしまえば、そのことを暴露して注意喚起もできる。色々な波紋があるだろう。それを阻止するために俺を殺そうというのか・・・・。
「お願い」
不意に両肩をつかまれていた。驚いて顔を上げると、皇女殿下がすぐ近くに立っている。顔は見えない。うなだれている。はらりと前髪が顔にかぶさっていて表情は見えない。けれど・・・・。
「お願い・・・・・・。私を助けて。私は・・・・この世界でたった独り。大好きだったパパもママもいない。独りじゃ何もできない・・・・」
「皇女殿下・・・・」
「お願い・・・・」
乾ききった声だったが、悲しみが渦を巻いていた。そういえば、この皇女殿下は早くから母親を亡くし、ずっと一人ぼっちで育てられたと聞いている。いや、そもそもそれ以前に前世から訳の分からないままここに飛ばされてきたんだ。俺もそうだが。頼れるのは原作知識。それだけを武器に貴族、ラインハルト、ひいては自由惑星同盟と渡り合わなくてはならない。そうだ、一般人の俺たちなど、英雄なんかじゃない。独りでは何もできはしない・・・。
「わかりました」
そう言った瞬間俺は覚悟を決めた。この皇女殿下と運命を共にすることを。
「及ばずながらこのアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン、皇女様のお力になります」
俺は静かにそう言った。
「アルフレート・・・・・。ありがとう・・・・・」
皇女殿下が俺の手を取った。涙が両頬を伝っていた。
ノイエ・サンスーシ 居間前
■ アレーナ・フォン・ランディール
のぞき見は趣味じゃないけれど、でも今がチャンスなのよね。誰も周りにいないし。
それにしても、チッ。ついに二人が手を組んだか。一般人の二人が生き残るのに必死だってわけか。
でもね、一つ重要なことを忘れているわよ。あなたたちが生き残りたいのと同じくらいにラインハルトだって生き残りたいはずなのだから。
悪いけれど、あなたたちがラインハルトを狙う限り、私たちは全力であなたたちを叩き潰すわよ。英雄を殺そうということはそれくらいのリスクは負うことになるのよ。それ、わかってるんでしょうね?
自由惑星同盟領 レディナント星域――
本星域はエルファシル星域より50光年ほどハイネセン方面に離れたところにある軍管轄の訓練宙域である。大艦隊が展開しやすい宙域から、アステロイドベルトがあって操艦しにくい宙域、さらには恒星風が吹き荒れて電子機器に影響を与える宙域など、様々な場所が存在し、ありとあらゆる艦隊訓練ができる場所として有名である。そのため、各艦隊は必ずと言っていいほどここに集結して訓練を行う。
シドニー・シトレの第8艦隊も先月からここに集結して訓練を行ってきた。各員の練度は最初は寄せ集めというだけあってバラバラだったが、副官として赴任してきたシャロン・イーリス大尉の訓練プログラムを採用した結果、見る見るうちに練度は上昇し、精鋭艦隊とそん色ないくらいにまで成長した。また、シトレ自らも先頭に立ち、大いに腕を振るったので、士気も旺盛になっていった。
今日も猛訓練を終えて、シトレがようやく自室に引き取ったところ、ドアがノックされた。
「失礼します」
「入り給え」
ドアが開けられ、シャロン・イーリス大尉が立っていた。きちっとした軍服を着こなしている。とても20時間連続で訓練に当たっていたとは思えない。
「統合作戦本部から電文が入りました。『貴官ノ訓練ノ成果、甚大ナリ。益々励ムベシ』と」
この電文が来たということは、すなわち統合作戦本部からエル・ファシル星域の奪還命令が来たということである。
「そうか、いよいよか。イーリス大尉、エル・ファシル星域の敵の配置、動向は逐一把握できているかな?」
「むろんです」
シャロンは微笑を浮かべた。
「敵艦隊の総数は7000隻ですが、辺境の非正規艦隊です。当初1万5000隻ほどいた艦艇も、私たちが動く気配を見せないことに慢心したのでしょう、少しずつ本国に引き上げたようです」
もっとも、エル・ファシル星域帝国側回廊付近にはなお非正規艦隊として1万隻が待機していますが、とシャロンは口を出した。
帝国軍には正規艦隊と非正規艦隊とがある。正規艦隊はその名のとおり帝国軍そのものである。非正規艦隊は辺境防衛地方軍、貴族の私兵等いわゆる雑多な編成が多く、練度は当然正規艦隊に劣る。だが、非正規艦隊でも回廊に近い辺境部隊は絶えず同盟などと小競り合いを行っているため、決して侮れない練度でもあるが。
「フッ、敵も存外短慮だな。だが、その短慮が命取りになるのだ」
「増援艦隊を待機させているので、そう簡単には失陥しないのだと思っているのでしょう」
「そこが付け目なのだ。敵の旗艦の配置はわかっているかな?」
これです、とシャロンは端末からリアル3D配置図を浮き上がらせてシトレに示した。そこには驚くべき詳細さで配置が書き込まれている。
「これは誰の情報なのだ?」
「私です」
「何?しかし貴官は――」
「訓練の合間に、数度エル・ファシル星域に単独先行をおこない、情報を集めてきました。」
「まさか、貴官の病気は――」
シトレにシャロンはそっと指を一本立てて黙らせた。上級指揮官に対する礼としてはあるまじきことだが、シャロンの非凡さに気がついていたシトレは黙り込んだ。
訓練中、シャロンは時折頭痛がすると言い、業務を休むことがしばしばあった。それはこのためだったのだ。そのため彼女の評判はあまり芳しいものではなかった。シトレ自身もそう思わないでもなかったが、ブラッドレー大将自らが推薦してきた女性なのだ。何かあるに違いないと思い、何も言わずに放っておいた。
その結果がこれだ。平素の副官の任務のほかにそれまでもこなしていたのかとシトレは頭が下がる思いだった。
「お許しください。敵を欺くにはまず味方からと申します」
「いや、私こそ日頃の言動を詫びよう。すまなかった。貴官には苦労をさせっぱなしだったな」
シャロンは微笑を浮かべた。
「いいえ、お気遣いなく。その言葉だけで充分すぎます。それにまだエル・ファシル星域を奪還できたわけではありませんので」
「その通りだな。では、全艦隊に伝達してくれ。今から丸一日休養を取ってもらうと。その後は別の宙域に移動して最終訓練を行うと。なお、本作戦の真の意図は移動直前に各隊に伝えることとする。それでいいな?」
「はい」
「君も疲れただろう。少し休みたまえ。あれだけの激務だ。今度は本当に頭痛がするだろうからな」
「ええ、ではお言葉に甘えて、失礼いたします」
シャロンが一礼して下がった後、シトレは軍服の襟元をゆるめ、持ってきたブランデーを戸棚から取り出し、次いで、ぐっと飲みほした。二杯目をついで、ソファによりかかる。
「さて、ここからが本番だ。どうなることか・・・・」
シトレの脳裏には早くも敵艦隊との遭遇戦のありとあらゆる想定が動き始めていた。
後書き
艦隊を通常運用するだけでも、巨額の金が飛びます。物資が飛びます。書類が飛びます。戦時中ならもっとなのです。さすがに紙っぺらや段ボールで艦隊を作るわけにもいかないですし・・・・。
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