夜空の武偵
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Ammo03。修行の成果
3日後。
俺は、あの日出会った少女や蘭豹、綴と共にルーマニア正教会のミサに参加していた。
ミサが開かれる教会、『セントリヴル教会』は首都の郊外にあり、当日待ち合わせしていた少女とそこの正面入り口前で再会した。その時少女の名前を知ることとなった。
少女の名前はアリスと言い、なんとルーマニア貴族で伯爵令嬢らしい。
いるんだなー、本物の貴族様って。
アリスは腰まで伸ばした金髪と緑っぽい色合いをした目が特徴の美少女で、年齢は俺と同じ10歳。
そんな彼女の招待客として、教会に潜入した俺は『開祭の儀』での聖歌隊の合唱に感動した。
初めて生で演奏聞いたけど、綺麗な歌声は心に残るなー、来て良かったぜ。
そんなこんなで、ミサは進んで……。
今は『交わりの儀』が終わり、残りは『閉祭の儀』のみとなったところだ。
(今のところ怪しい動きはないな。………父さん、そっちはどう?)
子供用のタキシードにつけた小型の発信器に語りかけていた。
この発信器にはGPS機能と小型のマイクが内蔵されており、何かしらの動きがあれば即、武偵局が介入する手はずとなっている。
『こちらルークス、問題なし。引き続き聖なる祭を楽しみたまえ!』
ルークスというのは父さんが自分に付けたコードネームだ。何故ルークスなのかと尋ねると、昔爺ちゃんが戦地でノリと勢いで沈めた米国駆逐艦から取った名前らしい。
ノリと勢いで駆逐艦沈めちゃう爺ちゃんも爺ちゃんだが、それをコードネームにしちゃう父さんも父さんだ……。ラテン語で『光』って意味だからじゃないのかよ!
あの人達は本当にもう……。
「やぁ~少年、楽しんでいるかな?」
父さん達に内心突っ込み入れてると、『閉祭の儀』が終わったのか、聖堂の司祭に話しかけられた。突然声をかけられて思わずキョドってしまった。
(ミサの終了に気付かなかったのは俺の落ち度だが、司祭が一旅行者の子供に直接話しかけるなんてどういうことだ?)
だが、すぐに冷静さを取り戻す。そして司祭に無難な返事を返すことにした。
司祭は日本語も話せる為、会話は日本語だ。
「はい、今日はありがとうございます。日本ではなかなか見れない光景なので新鮮で面白いです」
「そうか、そうか。それは何より。はるばる日本から来たのだから、ぜひ楽しんでくれ。ああ、ミサの後には特別なパーティーもあるから良かったら参加したまえ‼︎ では、また後で会おう!」
そう言い、去っていく司祭。
特別なパーティー?
……怪しいな。
それから30分ほど経った頃、俺達は司祭に呼ばれ聖堂内部にある食堂へと連れていかれた。
食堂には俺達の他にも数人の子供がいた。年齢、性別、人種、国籍もバラバラで、統一性はない。
唯一の共通点は子供というだけだ。
それと、食堂に入ってから用紙を渡され、名前と年齢、そして何故か血液型を書かされた。
……これ、絶対にそういうことだろうな。
「さて、今日は日本から特別なお客様がお見えになっています。
……昴君です。一緒にパーティーを楽しみましょう~」
司祭はそういい放つと子供の親を含めた大人達は奥の部屋に消えて行った。残ったのは数名の子供と食堂の扉の前や窓の前に配置された黒服の男達だけになった。
出入り口は封鎖されてる。
黒服達は隠しちゃいるが全員、武装してるな。
マイクロUZIらしきものがチラッと見えたぞ?
さて、そろそろ仕掛けてくる頃合いか?
俺の予想は当たり、黒服達はマイクロUZIを出すと威嚇射撃を始めた。
「餓鬼共、おとなしくしろ‼︎」
一人だけ、マイクロUZIじゃなく、両手でPfeifer Zeliskaを持つ男が声を荒げて通告してきた。
(チィッ、9ミリ弾丸の20倍の威力を誇る銃弾を撃てる銃を子供に向けるんじゃねえよ!)
パイファーツェリスカとは重量約6Kg。銃身が長く.600ニトロエクスプレス(.600.N.E.)、.458ウィンチェスターマグナムなど主に象狩り等に用いられる大型の動物を仕留めるための大口径マグナムライフル弾を使用する拳銃で蘭豹の持つS&WM500と共に『世界最強の拳銃』の称号を持つ超大型の回転式拳銃だ。その威力は9ミリ弾の20倍、デザートイーグルの.50AE弾の5倍の威力を誇り……もはや、ソレ拳銃じゃないだろうっていう突っ込みどころ満載なシロモノだ。
普通は狙撃銃のように固定して撃つか、塹壕などで匍匐した体勢で撃つ銃で、決して常人が固定せずに両手持ちとはいえ、立ったままで使えるもんじゃない!
そこの黒服さん、アンタも人間辞めてんなー!
「待て! 人質には俺がなる。……だから、他の子供達は解放しろ!」
俺は両手を挙げて男達に抵抗の意思はないことを示す。
蘭豹に通訳を頼むと、蘭豹の言葉を聞いたその男は一拍おいてから日本語で返事を返してきた。
日本語も公用語になってんのか?
「ほう、素直な餓鬼でおじさん、助かるぜー。よし、じゃあ解放してやるよ……なんてな」
リーダーと思われる男はいきなり手に持つ銃を俺……の隣の少女に向けた。
不味い⁉︎ このままじゃ、アリスに当たる。下手したら死んじまう。そんなこと……させるかー!!!
俺はポケットから緋色のナイフを取り出すと右手に握り締めた。
ナイフを握った瞬間に左手は光り輝く!
そして、身体は軽くなり、まるで風のように素早く駆け抜ける。
アリスを庇うように前に出た。
その直後、男は銃のトリガーを引き発砲した。
俺一人ならガンダールヴの速度で躱せる。だが……アリスは無理だろう。躱せば彼女に当たる。
どうする? どうすればいい?
……簡単なことだ。
なら、こうすればいい!
俺はナイフを縦に構える。
銃弾が迫る。
そして……。
ギィィィンッッッ!
俺はナイフで______銃弾を斬った。
______銃弾斬り! ……原作で遠山金次が使う技の一つで、ナイフや刀剣で銃弾を斬る、ちょっと度胸がいる技を実戦で初めて使った。
そのままでは斬った後の銃弾が後ろにいるアリスに当たる可能性があったから、銃弾を斬った直後ナイフの刀身で弾き僅かに軌道を逸らした。
その為、アリスに実害はない。
銃弾は綺麗に真っ二つに切断された。
発砲した男は驚愕し、『今、何が起きたんだ?』と俺の周りの人がよくやる反応をする。
成功して良かった。訓練では100発100中だったけど、実戦で誰かを守りながら使ったことはなかったので実は内心かなりヒヤヒヤしている。
「餓鬼ィ、お前、プロだな?」
「いんや、見習いだよ」
「嘘つくんじゃねえよ、お前ほどの実力で見習いは通じねえぞ!」
「嘘じゃない。俺はちょっと銃を使えるただの小学生だよ」
「てめぇみたいな小学生がいてたまるか!!!」
突っ込まれた。本当のことを言っただけなのに……あの祖父や両親に戦闘訓練受けさせられたら誰だって、銃弾くらい斬れるようになるのに、大袈裟だな。
キレた男は俺に向けて第二射を射つ。
俺はタキシードの胸元に入れていた左手を抜き、愛銃……デザートイーグルを取り出し発砲した。
ギィィィンッッッ!
放たれた黒服男の弾丸は俺の放った二発の弾丸により反らされ、俺や少女には当たらず、右横の壁に向かって飛んでいく。
______銃弾撃ち______! ……これまた、遠山兄弟が得意とする銃撃技。
銃弾を銃弾で弾く、曲芸を披露する。
修行の一環で父さんから教わった技がこんな形で役にたつとはな。
辛くても訓練続けてて良かった。
もっとも、デザートイーグルの.50AE弾一発では威力負けするので、一発目を撃った直後、直ぐに二発目を撃つ。『目にも見えない早撃ちを行う』銃技、『不可視の銃弾』……いや、俺の場合自動式拳銃で使うし、見えない弾というより見えない銃撃って感じな『不可視の銃撃』だな。
その技を使用して、銃弾撃ちで僅かに逸らされた弾を『不可視の銃撃』で撃った弾で弾き返す。
ただそれだけの動作で銃弾は軌道をずらし、俺やアリスにはかすり傷一つなし。
黒服達は驚いた顔でぽかーんとしてる。
「まさか……銃弾弾く小学生がいるとは世界は広いな……なら、これならどうだ?
おし、てめぇら、一斉射撃だ!」
リーダーの男の声により、我に返ったのか周りの黒服達も銃を俺に向けてきた。
こんな子供相手にそんなもの向けるんじゃねえよ。
まあ、全然怖くねえけどさ。爺ちゃん、父さんが向ける殺気に比べたら全く怖くない。
判断基準が可笑しいのかもな……普通ってなんだろう?
とは、いえ、さすがに一斉射撃を防ぐ技はまだ覚えてない。
原作の技では……。
ガガガァァァ、と迫り来る銃弾。
俺は抵抗しないで身体一つでそれを受け止める。
この技に銃や刃物は必要ない。
身体一つあれば誰にも出来る。
(ちょっと痛いけど、少しの我慢だ)
いくぜ。星空流防弾格闘術。
『筋肉銃弾返し!』
銃弾が俺の体に当たった瞬間、ギィィィーンッ!
銃弾は弾かれて180°方向転換して撃った男達の銃身にそのまま返り。
ガガァン!
内部破壊を始めた。
それは原作金次がやっていた全身を使って銃弾を相手に弾き返す銃弾返し、そして銃弾を銃口に撃ち返す銃口撃ち……の筋肉版。
技の原理は非常に簡単だ。迫る銃弾を身体の筋肉のみで弾く、ただそれだけ。
道具も装備もいらない。原始的な防衛術。
筋肉一つあれば誰にも出来る!
五年ほど筋トレすれば出来るようになる!
筋肉は最強! 筋肉は正義!
筋肉ハ嘘ツカナイ。
サア、御一緒ニ……!
「筋肉ハ世界ヲ救ウ?」
ナゼカタゴトで疑問系なのかは自分でもわからん。
ただ、爺ちゃんや父さんとの訓練の日々を思い出しながらやったらそう言ってた。
筋肉ハ最強! もう、それでいい。
何も考えるな、感じろ。
唖然とするリーダーの男に俺はナイフを持ったままガンダールヴの速度で近づき左手でバリッツ……これも父親仕込み……を仕掛けて投げ飛ばし、無力化し、手錠をかける。
「馬鹿な……お前、本当に人間か?」
「さっきも言ったけど、ただの小学生だよ。
ちょっとした特異体質を抱えるどこにでもいる普通の、ね」
つい金次みたいなことを言ってしまう。
しかし今なら金次の気持ちが良く解る。
先天性筋形質多重症なんてもんを先祖代々受け継いでる家系に生まれ育っちまったせいで、肉体的にはバケモノだからな。俺は。精神的には普通のつもりなんだが………まあ、考えても仕方ないな。
さて、後は……
「おらおら、死ね、死ね! 死に晒せ______!」
「ふん、こんな程度かぁ。戦いがいがないな。ま、この後の尋問では楽しませてくれよ?」
黒服達を制圧する蘭豹と綴をどうやって止めるか、だ。
とりあえず、あの二人が暴走する前に応援呼ぶか……。
(父さん、早く突入して!)
外に待機してるであろう父さんに連絡して後は丸投げする。
俺にしては良く働いた方だ。後始末くらいしてくれよ?
「クソ、血液さえ渡せば大金が入ったのに……バケモノ共め!」
「相手が悪かったな、蘭豹達みたいなバケモノを相手にしたのが間違いだったな!」
などと言ったら蘭豹、綴、アリス、そして黒服の男にジト目をされた。
何故だ?
こうして、無事に請け負った任務は完了した。
その顛末はというと、武偵局の強制捜査が入り、司祭ならびに教会関係者、一部の子供の親などが捕まり教会の支配力は事実上弱体化した……。
司祭はブラドの手下の一人から話を持ちかけられ、取引は首都から近い森の中に建つ古城でおこなっていたことを自白した。
そして、俺は父親から『昴君達で行きなさい。その方が相手も警戒しないだろうし、なにより面し……いい経験になるから』などというふざけた理由で依頼として押し付けられ、蘭豹、綴と一緒にブラドの住まう古城へと行かされることになった。
いや、ふざけんな!
俺は行かないぞ。絶対行かないからな! 絶対だぞ!
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