おぢばにおかえり
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第二十八話 誤解のもとその十
「けれどね」
「何ですか?」
「阿波野君を野放しにするのもね」
目をじろりとさせて言いました。
「かなり危ないし」
「僕何もしないですよ」
「存在自体が危ないのよ」
こう本人に言いました。
「もうね。かなりね」
「またそんなこと言うんですか?」
「だって今までの行動とか発言とか」
疑うに足るどころじゃないですから。確信できるものがあります。
「本当に三年間やっていけるの?」
「やっていけますよ」
「自分で言ってれば世話ないわよ」
こんなのだからこう言うってことが全然わかっていません。
「全く。お気楽なんだから」
「まあまあ」
「とにかくよ。色々回るのはいいけれど」
言っても無駄だと思いながらもそれでも注意はしておきました。
「怪しまれないようにしなさいね」
「天理高校の制服着てるから大丈夫ですよ」
「だから余計に心配なのよ」
不安の種が消えません。消えるどころかどんどんそれが大きくなっている感じです。この感触がどうしても拭えない状況です。
「制服を着てもいい加減なことされたら」
「じゃあ先輩が一緒だとどうですか?」
「私が?」
「心配なんですよね」
阿波野君から言ってきました。
「だったら。どうですか?」
「どうですかって」
「本当に何するかわかりませんよ、僕」
やけににやにやした顔になっています。
「ですから」
「ですからってね。まあいいわ」
何か負けたって感じがどうしてもします。何故かわからないですけれど。
「とにかく。次はね」
「ええ。帰られるんですか?」
「お墓地。行きましょう」
こう阿波野君に提案しました。
「お墓地にね。どうかしら」
「お墓地?」
「そう、お墓地だけれど」
「そんなのあるんですか」
やっぱり知りませんでした。天理高校に入りたてだと無理もありません。
「ここには」
「ええ、あるのよ」
「へえ。それで何処ですか?」
「北寮のすぐ側よ」
このことも阿波野君に教えました。
「そこだけれどね。知らないわよね」
「お墓地も北寮の場所も」
「だから。案内してあげるわ」
「教えてくれるんですね」
「先輩だからね」
つい顔が綻んでしまいました。何か今の阿波野君は本当に弟みたいな感じで少し可愛く感じたり。こんなことを言ったらまた調子に乗ってくるんでしょうけれど。
「一緒にね。いいかしら」
「ええ。じゃあ御願いします」
阿波野君も頷いてくれてこれで決まりです。こうしてお店を出てまずは神殿の西のところを通り過ぎます。左手に小川がある道を二人で通ります。阿波野君は左右をちらちらと見ています。不意に左手に見える瓦の大きな建物を見て私に聞いてきました。
「あの建物がよろづ相談所ですよね」
「そうよ。さっき行ったね」
「向こうにも同じ建物が見えるんですけれど」
「あれは天理教校学園高校よ」
「あのブレザーの学校ですよね」
「それは知ってるみたいね」
どうやらこれは知ってるみたいです。思わないところでよく知ってます。
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