英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第15話
風車小屋に戻ったリィン達が定時連絡の時間まで待っていると、通信機から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
~東ケルディック街道・風車小屋~
「―――あーあー。定時連絡、定時連絡。こちらエリオット―――聞こえる、マキアス?」
「こちらマキアス―――ああ、通信状態は良好だ。フィーも近くにいるな。そっちの状況はどうだ?」
「”双龍橋”の周辺を可能な限り探ってきた。さすがに警備は厳重みたい。」
「橋を越えるには、貴族連合かクロイツェン領邦軍の許可証が必要になるみたいなんだ。民間人や商人なんかも完全に足止めを食らってるみたいでさ。やっぱり、ここを通過するのは難しいかもしれないね。」
「そうか………何か策を講じないとな。―――ところで、二人とも。いいニュースがあるんだが。」
「へ……?」
「???」
マキアスが通信機に向かってある言葉を言うと通信機からそれぞれ首を傾げている様子のエリオットとフィーの声が聞こえて来た。そしてマキアスとリィン、セレーネは互いに顔を見合わせて頷き、リィンとセレーネは順番に通信機に話しかけた。
「―――エリオット、フィー。聞こえるか?」
「お二人とも、お久しぶりですわ♪」
「!!!?こ、この声って……!―――リ、リィン!リィンなの!?」
「しかもセレーネの声も聞こえて来たね。二人ともそこにいるの……?……マキアスの声マネじぇないよね?」
二人の声を聞くと通信機から興奮した様子のエリオットとどこか喜んでいる様子のフィーの声が聞こえて来た。
「ガクッ……そんなわけないだろう。とういうか、リィンはともかく女性のセレーネの声マネを男の僕が出来る訳がないだろう……」
フィーの指摘を聞いたマキアスは疲れた表情で指摘し
「クスクス……でも、わたくしの声マネをするマキアスさんの姿にはちょっと興味がありますね。」
「あのな……」
微笑みながら言ったセレーネの言葉を聞いたマキアスはジト目でセレーネを見つめた。
「はは……間違いなく俺だ。さっき、ようやくマキアスと合流することができた。遊撃士のトヴァルさんやセリーヌも一緒にな。」
「フン、まあそういうことね。」
「よっ、お邪魔してるぜ。」
リィンの報告に応えるかのようにセリーヌとトヴァルはそれぞれ通信機に話しかけた。
「あ、あはは……なにがなんだか。これ、夢なんかじゃないよね―――あいた!」
「……違うみたい。」
「つ、つねるなら自分の頬にしてよ……」
通信機から聞こえて来たフィーがエリオットの頬をつねっていた様子を聞いたリィン達は脱力した。
「こらこら……遊んでるんじゃない。」
「はは……二人とも相変わらずで安心したよ。」
「ええ……元気そうで何よりです。」
「と、とにかくよかった!リィンとセレーネが無事で……!今、風車小屋にいるの?これから何とか会えないかな?」
通信機から今すぐにでもリィン達を会う事を望んでいる様子のエリオットの声が聞こえて来た。
「ああ、今ちょうどその話をしようとしていたんだ。」
「これから二人のところに向かおうと思っている。どこか安全な場所で落ち合えないか?」
「安全な場所……」
「だったら”双龍橋”手前の”ポイントD”だね。ちょうど死角になってて領邦軍の目も届かないはず。」
「”ポイントD”……東ケルディック街道の外れだな。わかった、そこで落ち合おう。僕らもすぐに出発する。」
「うん、わかった。僕らもさっそく向かうよ。」
「じゃ、また後で―――OVER(オーバー)。」
リィン達が通信を終えたその頃、街道で通信をしていたエリオットは立ち上がって安堵の溜息を吐いた。
~東ケルディック街道~
「はあ~……!よかった、リィンとセレーネが無事で!感謝します、女神様……!」
「”女神”ならリィンの傍に常にいるから、エリオット、アイドスに感謝しているの?」
「アハハ……勿論アイドスさんにも感謝しているよ。でも、セリーヌはともかくなんで遊撃士の人と一緒なんだろ?」
フィーの指摘に苦笑しながら答えたエリオットはある事が気になって不思議そうな表情をした。
「後で聞いてみるしか。とにかく、これでわたしたちも本格的に動き出せそう。」
「うん、そうだね……!とにかく急ごう、フィー!早く二人に会いにいかなくちゃ!」
「ん。」
エリオットの言葉に頷いたフィーだったが何かに気付いて目の前の建物と巨大な橋―――”双龍橋”に視線を向けた。
「……………………」
「フィー……?どうかしたの?」
「―――エリオット、先に行ってて。ちょっと確認しておきたい事ができたから。」
一方その頃、通信を終えたリィン達は風車小屋から出立しようとしていた。
~風車小屋~
「―――それでは、さっそく”ポイントD”に急ぐとしよう。場所は東ケルディックの先…………小川を越えた先の地点になる。」
「”双龍橋”の手前あたりか……気を付けた方がよさそうだな。」
「ええ、十分に注意しましょう。案内は頼んだぞ、マキアス。」
「ああ、任せておいてくれ。」
「それじゃあ、出発しましょ。」
「はい……!」
その後風車小屋を出たリィン達は”ポイントD”に向かっていたが、途中の道のりでメンフィル帝国軍が陣を展開していた為、立ち止まった。
~メンフィル帝国軍・ケルディック地方・双龍橋方面国境防衛部隊~
「こいつは……」
「メ、メンフィル帝国軍!?どうしてこんな所に……」
メンフィル帝国軍の拠点を見たトヴァルは真剣な表情をし、リィンは驚き
「もしかして国境を守る部隊でしょうか……?」
「恐らくそうでしょうね。昨日自国領で”あんな事”があったんだから、警戒しているんじゃないかしら?」
「しまったな……今朝プリネ達から前もって聞いていた話を伝えるのを今の今まで忘れていたよ……」
セレーネとセリーヌの推測を聞いて何かに気付いたマキアスは疲れた表情で溜息を吐いた。
「マキアス?」
「何か知っているのですか?」
「ああ。今朝プリネに呼び出されて”検問”の件を聞いた際に、メンフィル帝国軍が近い内にバリアハート方面―――”ケルディック要塞”だけでなく、”双龍橋”方面の国境にも軍を展開して”貴族連合”の襲撃に備える警備や検問を開始して、検問を通過するには”通行証”が必要な話を聞かされたんだ。」
「なるほどな……」
「……でも幾ら何でも早くないかしら?確か彼女は検問は明日から始まるって言ってたと思うけど。」
マキアスの説明を聞いたトヴァルは頷いて考え込み、セリーヌは眉を顰めてメンフィル帝国の拠点を見つめた。
「……とりあえず、メンフィル兵達に聞いてみよう。」
そしてリィン達はメンフィル帝国軍の拠点に近づいた。
「―――止まれ。現在メンフィル帝国領は非常厳戒態勢だ。ここを通過したいのならば”通行証”を提示せよ。」
「その……”通行証”が必要なのは、明日からだと聞いていますが……」
自分達を足止めしたメンフィル兵の話を聞いたリィンは戸惑いの表情で指摘した。
「国境の検問に関しては陣を築き次第早急に始めよと先程レン姫から指示があった為、既に検問を開始している。」
「レ、レン姫からですか?」
「何を考えているのかしら?アタシたちが来た事はツーヤから聞いているでしょうに。」
兵士の話を聞いたセレーネは戸惑い、セリーヌは目を細めた。
「もしかしたら、”薔薇”のお嬢さんがプリネ姫に俺達がケルディックに来た事を伝えた時、その場にいなかったからかもしれんな。」
「恐らくそうでしょうね。しかし、困ったな。既にプリネから”通行証”を貰っている僕や、遊撃士のトヴァルさんは大丈夫だけど、リィン、セレーネ。二人は”通行証”を持っているか?」
トヴァルの推測に頷いたマキアスは困った表情でリィンとセレーネに視線を向け
「いや……残念ながら持っていない。」
「ど、どうしましょう……?これではエリオットさん達と合流できませんし……」
リィンは首を横に振って答え、セレーネは不安そうな表情をし
「………――仕方ない。二人に連絡して、落ち合う場所を変えるしかないな。二人なら”通行証”を持っているから、メンフィル帝国軍の検問を通過できるはずだ。」
マキアスは考え込んだ後結論を出した。
「―――その必要はありません。」
するとその時聞き覚えのある女性の声が聞こえたリィン達が声が聞こえた方向―――空を見上げると飛竜に乗ったサフィナが飛竜をリィン達の傍に着地させた。
「あんたは確か……ケルディックの臨時領主の一人のメンフィル帝国軍の竜騎士軍団の団長さんか。」
「サフィナ元帥……!」
サフィナの登場にトヴァルは目を丸くし、リィンは驚いた。
「―――皆さん、お久しぶりです。マキアスさんやセレーネとこうして顔を合わせるのはトリスタ以来ですね。」
「はい、サフィナ元帥もお元気そうで何よりです。」
「……あの時は本当にありがとうございました。」
サフィナに話しかけられたセレーネとマキアスはそれぞれ会釈をした。
「えっと……どうしてサフィナ元帥がこちらに?」
「先程ケルディック要塞から戻ってきたレンから国境の検問を予定より早くした話を聞いた際、貴方達が立ち往生しない為に急遽私達が発行した”通行証”を届ける為に来ました。―――こちらがリィンさんとセレーネの”通行証”です。これがあれば、エレボニア帝国領に隣接しているメンフィル帝国領内で敷いている検問は全て通過できます。」
リィンに尋ねられたサフィナは説明をした後リィンとセレーネにそれぞれの”通行証”を手渡した。
「あ、ありがとうございます……!」
「お忙しい所をわたくし達の為に届けてくれて、ありがとうございます。」
”通行証”を手渡された二人はそれぞれサフィナに感謝の言葉を述べた。
「いえ、私もちょうど双龍橋方面の陣を状況を確認しようと思っていた所ですから。よければ、少しだけ陣の状況を見て行きますか?」
「は、はい!サフィナ元帥がよろしければ、是非。」
そしてサフィナと共にメンフィル帝国軍の陣の中に入ったリィン達は”アハツェン”と一緒に配備されている驚くべき存在――”機甲兵”を見つけた。
「なっ!?」
「あ、あれは……!」
「”貴族連合”の主力の”機甲兵”……それも隊長機の”シュピーゲル”、だったかしら?それもあるわね……」
「し、しかも見た事のないタイプの”機甲兵”まであるんだが……!?」
「オイオイオイ……何でメンフィル帝国軍にアレがあるんだ?」
機甲兵を見たリィンが驚いている中、セリーヌは目を細め、マキアスは信じられない表情で新型の”機甲兵”を見つめ、トヴァルは真剣な表情でサフィナに尋ねた。
「以前、レンがルーレに行った際に”ラインフォルトグループ”にハッキングを仕掛けて様々な情報を手に入れた際、その中に”機甲兵”の情報もあり、その情報をレンが本国に持ち帰った後本国で量産が開始されているんです。」
「なっ!?」
「…………………………」
「え、えっと……相変わらず凄いですね、レン姫って……アハハ……」
「もし貴族連合がメンフィル帝国軍とぶつかり合った際、アレがメンフィル帝国軍にある事に驚くでしょうね。」
サフィナの説明を聞いたリィンは驚き、マキアスは口をパクパクし、セレーネは冷や汗をかいて苦笑し、セリーヌは呆れた表情で呟き
「そりゃ、自分達が隠し持っていた”切り札”の情報が他国の軍に既に渡っている事に驚かない方がおかしいだろう……」
セリーヌの言葉を聞いたトヴァルは疲れた表情で指摘した。
「その”機甲兵”についてですが……レンが時折エレボニア帝国に対して仕掛けているハッキングで手に入れた情報を見る限り、貴族連合は新型の”機甲兵”を開発し続けています。目の前にある新型の機甲兵―――”ヘクトル”や”ケストレル”もその一部です。」
「なっ!?」
「し、新型の”機甲兵”!?」
「一体どのような機能を備えているのでしょうね……」
「……今後の事を考えると頭の痛くなる話ね。」
「ああ……というか、今の話を聞く限り、メンフィルはエレボニアと開戦する気満々じゃねえのか?”殲滅天使”の行為を咎める所か利用して、更にエレボニアの情報を手に入れ続けているみたいだしな。」
サフィナの話を聞いたリィン達がそれぞれの想いを抱えている中、トヴァルは真剣な表情でサフィナを見つめた。
「あ…………」
「「……………」」
トヴァルの指摘を聞いたセレーネは呆け、リィンとマキアスは複雑そうな表情をした。
「…………否定はしません。先日のエレボニア帝国の卑劣な行いに、リフィア殿下だけでなくシルヴァン陛下やリウイ陛下もエレボニア帝国に対して相当な怒りを抱いているそうですから。また、ユミル襲撃の件は既に本国中にも知れ渡り、その件を知った多くの民達がエレボニア帝国に対して怒りを抱いている話も聞いています。」
「そんな……!クッ、せめてあの時俺がもっと注意していれば、二人は誘拐されずにすんだのに……!」
「お兄様………」
「マズイな……メンフィルの民達が開戦ムードになりかけている事に加えて、よりにもよって皇帝と皇帝の跡継ぎがユミルの件を起こしたエレボニア帝国に対して怒りを抱いているから、開戦は避けられねぇかもしれねぇな……」
サフィナの答えを聞いて悔しそうな表情で拳を握りしめるリィンをセレーネは辛そうな表情で見つめ、トヴァルは厳しい表情で考え込んだ。
「ま、待ってください!ユミルの件は”貴族連合”がやった事ですよ!?エレボニア皇家は勿論、正規軍も絶対にメンフィル帝国との開戦を望んでいませんし、そのような卑劣な行いを絶対に許しませんよ!?悪いのは”貴族連合”じゃないですか!」
その時マキアスはサフィナに反論したが
「無駄よ。”エレボニア帝国の大貴族が雇った猟兵がメンフィル帝国領を襲撃した”というのは事実だから、襲撃された側の他国はこっちの事情を知っていても、一切気にしないと思うわよ。」
「俺も同じ意見だ。しかもよりにもよってエレボニア皇家に次ぐ権力を持つ大貴族――――”四大名門”が仕出かした事なんだから、”エレボニア帝国”は絶対に言い逃れはできないな。戦争を回避する為には恐らく、エレボニア帝国にとって相当不利な条件を受け入れる必要があるか、最悪メンフィルに隷属する羽目になるかもしれねぇな…………」
「それは…………」
セリーヌとトヴァルの指摘を聞き、複雑そうな表情で黙り込んだ。
「その……サフィナ元帥はメンフィル帝国がエレボニア帝国と開戦するかどうかについて、どう思われているのですか?」
その時リィンは複雑そうな表情でサフィナに尋ねた。
「…………申し訳ありませんが、今はまだ明確な答えは言えません。戦争はできれば避けるべきだと思いますが、民を守る”皇族”として……そして”騎士”としてエレボニア帝国の卑劣なる行いは許せないのというのは私自身の偽りなき気持ちです。少なくともエレボニア帝国が自分達の非を認め、素直に謝罪してエリスさんを返還するまではこの気持ちは変わりません。」
「そう……ですか……」
「「………………」」
サフィナの口から出た答えを聞いたリィンは肩を落とし、マキアスとセレーネは複雑そうな表情で黙り込んでいた。その時兵士がサフィナに近づいてきた。
「サフィナ元帥、よろしいでしょうか?」
「ああ。何かあったのか?」
「ハッ!どうやら双龍橋で足止めを食らっている者達の一部がケルディックに一端戻る為にこちらの通過の許可を求めていまして。”検問”の件も説明した所、”通行証”を今すぐ発行して欲しいとの事でして。」
「―――わかった、すぐに向かう。それでは私はこれで失礼します。皆さんが、はぐれた仲間達と無事合流出来る事、私も祈っています。」
そしてサフィナは兵士と共にその場を去り、サフィナが去るとリィン達は黙って考え込んでいた。
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