英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第3話
挨拶周りをする前に両親に一声かけて行こうと思っていたリィンは台所で料理の用意をしているセレーネとルシア夫人に気付いた。
~シュバルツァー男爵邸・台所~
「ああ……いい匂いですね。もしかして、今煮込んでいるのは?」
「ふふ、あなたの好きなキジ肉のシチューです。夕食に精をつくものをと、あの人が仕留めてきてくれたのですよ。」
「そうですか……セレーネはもしかして手伝いか?」
「はい、こちらに滞在させてもらえるのですから、せめてものお礼に手伝える事があれば手伝おうと思いまして。」
「フフ、私達は別に気にしていないのですけどね。貴女も私達にとっては家族同然の存在ですし。」
リィンの質問に答えたセレーネの言葉をルシア夫人は苦笑しながら聞いていた。
「ハハ……よく見てみれば、それ以外の料理もかなり気合が入っていますね?」
「ふふ……経緯はどうあれ家族が貴方とエリスが帰ってくるのは久しぶりですから。皇女殿下に加えてセレーネさんもいらっしゃって、二人も娘ができたみたいに賑やかになりましたし。母親としては、ここが頑張りどころでしょう。」
「はは……やっぱり母さんは凄いですね。どんな時でも、俺達を変わらない温かさで迎えてくれて。俺も……息子として見習えたらよかったんですが。」
「お兄様………」
優しげな微笑みを浮かべるルシア夫人の言葉を聞いて複雑そうな表情をしているリィンをセレーネは心配そうな表情で見つめているとルシア夫人がリィンを抱きしめた。
「あ……」
「……そんな事はありません。あなたやエリスの行方がわからない間……心配で、心配で仕方ありませんでした。それこそ、胸が張り裂けてしまいそうなくらいに。それでも、無事を信じていたから”母親”であり続けられたんです。あなた達が疲れてしまった時に、帰ってこられる場所であろうと。リフィア皇女殿下の下でご奉公をしているエリゼもきっと私と同じ気持ちでしょう。」
「母さん…………」
(…………お母様…………)
二人の様子を見守っていたセレーネは2度と会えない自分とツーヤの母親を思い出して静かな表情をしていた。
「少なくともここにいる間は、あなたは私達の息子です。辛いことや苦しいことがあったら、構わず胸に飛び込んでいらっしゃい。そうして羽根を休めたら……また歩き出せばいいのですから。」
「…………ありがとう、母さん。なんだか少しだけ……心が晴れた気がします。」
「ふふ……」
リィンの答えに満足したルシア夫人はリィンから離れてセレーネを抱きしめた。
「え――――」
「――――勿論、貴女もリィン達のように私達の胸に飛び込んできてもいいのですよ、セレーネさん……私達は貴女の事も本当の娘のように思っているのですから……」
「ルシアさん…………はい……!」
ルシア夫人の言葉に目を丸くしたセレーネは嬉しそうな表情で頷き
「ところでリィン?先程セレーネさんから聞いたけど貴方がセレーネさんどころかエリゼ達を将来娶る話を聞きましたが。」
「う”っ!?え、えっと…………」
ルシア夫人の口から出たある言葉を聞いたリィンは表情を青褪めさせて大量の冷や汗をかいて言葉を濁した。
「―――少なくとも私は貴方達の結婚には賛成ですよ。幼い頃からずっと貴方の事を想っていた娘達の恋が報われるのは母親として嬉しい事ですし、私もそうなる事をずっと願っていましたから……」
「母さん…………」
「フフ……それにしても今の時点で既に4人もリィンに嫁ぐ事が決まっているのですから、将来はもっと増えて賑やかな家庭になりそうで今から楽しみです♪」
(た、確かにまだまだ増えそうですわよね……アルフィン皇女もそうですし、ベルフェゴールさん達だって最終的にはそうなるでしょうし……)
嬉しそうな表情でリィンを見つめて言ったルシア夫人の推測を聞いたセレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。
「ハ、ハハ…………え、えっと……母さん…………その……落ち着いたら改めて報告しますのでまだ父さんには言わないでもらえないでしょうか……?その……まだ覚悟ができていませんし……」
「フフ、わかっていますよ。―――この場にはいないエリゼやアリサさん達、そして今後増えるかもしれない貴方の伴侶達が全員揃って私達に報告してくれる日を楽しみにしていますからね?」
(さ、さすがにそれ以上は増えないと思うんだけどな……ハハ…………)
その後リィンは執務室で仕事をしている父親に会いに行き、ユミルの現状を聞いた。
~執務室~
「帝国の主要都市は一通り占領されてしまったが……さすがに12年前の戦争で大敗した相手であるメンフィル帝国の領土にまでは手を出していないようでな。ここユミルも、内戦の影響はそれほど受けていない状況だ。」
「ええ、そうみたいですね。小雪がちらつく以外は2ヶ月前と変わりなくて……少しだけ安心しています。内戦が始まってから、メンフィル帝国の政府からは何も言われていないのですか?実際、エレボニア帝国と隣接しているユミルを除いた他のメンフィル領は内戦が始まる前から警戒を強めているそうですし。」
「一応いざという時の為に郷に正規軍の派遣をするという申し出の通信がリウイ陛下から来たが、断っておいた。無暗に郷の民達を不安がらせたくはない上、そのような事をすればエレボニア帝国とメンフィル帝国の戦争の勃発を誘発する可能性も考えられたしな。」
「そうですか…………」
シュバルツァー男爵の話を聞いたリィンは静かな表情で頷いた。
「…………しかし、私達を頼って郷に避難して来た皇女殿下の安全の為にも、リウイ陛下に連絡して一度は断った正規軍の派遣を嘆願すべきかと迷っている所だ。」
「……そうですね。ユーゲント皇帝陛下や皇太子殿下が貴族連合の手に落ちた今……殿下も追われる身のはずです。手伝える事があったら、遠慮なく申し付けてください。」
「ああ、頼りにしている。……だがリィン。あまり焦らぬようにな。何もかも背負い込めるとは決して思いこまぬ事だ。人一人の手で持ち切れるものなど所詮、限られているのだから。」
「父さん……」
「ふふ、ユン老師の受け売りだがな。とにかく滅多にない機会だ。今は心と身体を休めるがいい。」
「……はい。―――あ。そう言えば、エリゼの事ですが……エリゼは今も本国のリフィア殿下の下にいるのですから無事なんですよね?」
父親の言葉に頷いたリィンはエリゼの存在を思い出して尋ねた。
「ああ、内戦に巻き込まれて行方不明になっていたお前やエリスの事を随分と心配していたぞ。―――それと最近の連絡で老師より”皆伝”を頂いたという報告があったぞ。」
「へ……………か、”皆伝”ってまさか”八葉一刀流”の!?」
シュバルツァー男爵の話を聞いて呆けたリィンだったがすぐに察して信じられない表情をした。
「ああ。―――”理”には”触れた”程度だそうだが、免許皆伝を受けた際に老師より、皇族―――リフィア殿下の護衛を務めている事にちなんで”守護の剣聖”という称号を贈られたらしい。」
「け、”剣聖”…………エリゼが…………ハハ……まさかこの剣で守ると決めた妹が俺にとっていつか越えるべき”壁”になるとは思いませんでした………」
大切な妹が自分より遥かな高みへと成長した事に呆然としたリィンは我に帰ると冷や汗をかいて苦笑していた。
「フフッ、まあお前ならいつかエリゼを超えるられるさ。焦らず、お前なりの成長の仕方でエリゼを超えればいいと思うぞ。」
「父さん……はい、わかりました……!」
シュバルツァー男爵の言葉にリィンは力強く頷いた。
その後リィンは外に出て郷の住民たちへの挨拶回りを始めた。
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