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仮面ライター

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第1話Bパート

 
前書き
お待たせしました。
Bパートになります。

この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。

この作品は以下のサイトでも公開しております。
・ハーメルン
・pixiv  

 
光の中で門司はまず、自分の腕にプロテクターのようなものが装着されたのを感じた。続いて、手、足、胴体、そして頭にも同じようなものがまとわりついて全身が覆われたようだった。
「なんだったんだ……今の」
ようやく視界がはっきりすると、真っ先に自分の両手が目に入った。
黒い手袋のようなものがはめられている。さっきの感触はこれだったのかと知ると同時に右手で持っていたライターもその形を少し変えていることに気がつく。
いつの間にか、電子手帳のようなものが握られていた。
二つ折りにぱかっと開いていたが、銀のベースカラーとその重量感。そして何より、光の中でもライターを手放さなかった感触がそのまま残っていることがそれが元ライターであることの証明になった。
「成功ね」
門司を変身させた女がつぶやく。
「もしかして……俺がその怪物と?」
フィクションの世界でしか見たことのなかったその空気と感覚。
怪物を目撃した段階で覚悟しておくべきだったはずだが、思った以上に話が急すぎたためにその言葉の先をわかっていても言いたくはない。いや、信じることができない門司に女は容赦なくその先を告げる。
「闘うのよ。そのためのLWRihterDriverなのだから」
突きつけられた答え。だが、ライターを持ち去ったのは自分。興味を持って飛び込んだのも自分。言われるがままに変身したのも自分。
運命がそう仕向けたのかはわからないが、自分が身にまとっているのはそうした自分の行動が招いた『責任』だった。
すう、と深呼吸して覚悟を決めた。
「わかりました。こうなってしまったらやります」
両手を構える。目の前の怪物は自分を敵と認識し、こちらを向いた。
「ありがとう。私は動けないけど、口だけならまだ大丈夫。サポートに徹するわ」
女に門司はこくりと頷き、自分に突進してくる怪物に左の拳をぶつける。
が、その拳はあっさりと押し返されて門司はタックルをもろに食らって吹っ飛ばされた。
「痛え……なんだこれ、全然強くなっていないじゃないか!」
門司の抗議に、女は口に手を当てるいかにもなジェスチャーを取りながら叫ぶ。
「あ、素手じゃ無理よ。ライターデバイスを使って!」
「そういうのは先に言ってください!」
門司は改めてデバイスを開く。
(電子手帳というより小型のワープロみたいな形だな)
デバイスは左側に枠いっぱいの液晶とその下にボタンが1つ、右側にキーボードが付いていた。
「液晶はタッチパネルになっているわ。まずは液晶でもキーボードの右端でもいいから数字の『1』を入力して」
「『1』……これか」
門司が言われた通りに液晶の『1』を押すと、どこからともなく黒い棒が降ってきた。
「これが武器ですか?」
「そうよ。それが……」
『MODE1:Fountainpen Spear!!』
棒は見てくれはただの大きな万年筆にしか見えなかった。
「デバイスをベルト横のポケットに入れて応戦して」
門司はデバイスをしまい、槍を手に取り、怪物に突き刺す。
「どうだ!?」
それまで静かだった怪物がうめき声を上げる。
口は見当たらないが、完全に喋れないわけではないようである。
「このっ……このっ……」
相手が怯んでいるのをいいことに、門司はひたすらに槍を突き刺し続ける。
「なんか、あなたの闘い方はぎこちないわね」
「そんなこと言われても、こんなことやったことないから仕方ないでしょう!?」
門司がツッコミを入れた直後、怪物は一際大きく唸った。
「どうしたんだ一体……」
「気をつけて、ここからが本番よ」
怪物の体が小刻みに震えだしたと思うと、2つ3つと分裂し始めた。
「これが、最も警戒すべき能力。その分身は全て実体を持っているわ」
「なっ……既に10体ぐらいまでに増えていますよ!?」
十数体になった怪物が一斉に門司に迫る。
「慌てないで!対策はあるわ!」
「いいから早く教えてください!」
追われる身になると急に相手が速くなったように思えてしまうのは自分の恐れが生み出した錯覚なのだろうか、と思いながら必死で逃げていた門司だったがそのうち囲まれてしまった。
「デバイスの『4』を押して!」
「は、はい!」
門司がデバイスを取り出して液晶を押す。
すると、槍が素早くその形を変えてやがてまた別の形の棒になった。
先ほどの万年筆程ではないが長く、派手な赤を基調とした少しカラフルなものだった。
『MODE4: Fireworks Sabel!!』
「今度は……手持ち花火?」
「さっき火を点けたようにその先にも火を点けるの」
「でも、今はライターとしては使えないんじゃ……」
「よく見て、液晶の裏部分はそのままライターになっているわ」
門司が見直すと確かに蓋の意匠が残っていた。
蓋を開け、そのまま棒の先に火を点けようとした瞬間、怪物が一斉に蔓を伸ばしてきた。
と同時に、ライターを近づけた棒の先から赤い炎が噴き、蔓を塵にした。
「す、すごい」
「どう?これがその剣の真の刃よ」
「これなら……いける!」
囲った状態から距離を詰めてきた怪物たちを門司が花火を持ってはしゃぐ子供のように回転して一気に切り裂くと、怪物たちの体から火が上がり残らず爆散した。
「やった……のか?」
「ご苦労様。……!!」
門司と女が安堵をつこうとしたその時、女の顔に緊張が戻った。
「どうしました?」
「まずいわ……あれを見て」
一体だけ、離れたところに色の薄い怪物の分身が残っていた。
自分が生き残ったことに気づかれたせいか、背を向けいそいそと逃げ出した。
「一番薄いのがオリジナル。おそらくあいつがそうよ」
「なら、急いで倒さないと!」
「ええ。……っ!まだ私は動けそうにないわ。あなた一人で追って頂戴」
「これが最後ですからね」
倒れたままの女を残し、怪物を追い始める門司。
途中後ろから、「最後の切り札は『9』」と聞こえたので門司は9、9と唱えながら走った。

門司が怪物に追いつくのにそこまで時間はかからなかった。
河川敷を逃げる怪物に後ろから飛びかかり、はね退けられつつも歩みを止めることに成功した。
互いに起き上がり、対峙する門司と怪物。
しかし、ここで門司の思いもよらない事態が起こった。
「おいおい!そんなにひっぱるなよドグ!……うわああああ!?」
子犬をリードで連れた小学生ぐらいの子供が門司の後ろから出てきて怪物の前に飛び出したのだ。
(なんでよりにもよってこんな時に!)
「ド……ドグぅ」
震えながら小さく吠える犬と、立ちすくむ子供。
そして、彼らの目の前に立ち塞がる怪物。その歪な形の手は容赦なく振り下ろされた。

「おおおおお、おかあさーん!」
大声で叫んだ直後、自分の体が何ともないことに気づくと、少年はゆっくりその瞼を開いた。
彼は目の前で、見たこともない姿をした人が怪物の腕を掴んで制止しているのを目撃した。
直後、その人物は横に弾かれた。しかし、目の前に現れた『ヒーロー』によって彼の恐怖は期待と興奮へと徐々に塗り替えられようとしていた。

(なんでだろうな……もう二度と、自分の意思以外で人と関わらないはずだったのに)
だが、門司が目の前の子供を庇ったのは事実としてそこにあった。
本来なら剣で受け止めるべきだったのだろうが、確実に怪物の腕を止められるか絶妙な間合いだったので仕方なく右手で止めるしかなかったのだ。
しかし、やはり素手。先ほどと同じようにあっさりと押し返されて弾き飛ばされてしまった。
「ぐおっ。やはり無理があったか。……しまった」
反撃を受けた拍子に剣を離してしまったらしく、かなり遠いところまで飛んでいた。
門司は剣を取りに行こうとしたが、怪物は容赦なく連続で蔓を叩きつけてくる。
「がっ……うあっ……」
「ががが頑張れ!はやくそいつをや、やっつけてよ!」
お構いもなく子供の声が後ろから聞こえる。
(何をやっているんだ俺は……あの子供に気にせず普通に切り込んでいれば怪物も倒せて全てが終わっていたはずなのに)
怪物の執拗な追い討ちの中で、門司の意識は少しずつ遠のいていった……。

遠ざかる意識の中で、浮かび上がってきたのはかつての学園祭での姿だった。
(当時の俺は自分の書いた脚本の舞台で仮面を被った謎の怪人の役を演じていた。あの時の俺は舞台の上とはいえ、何も気にせずにただ自分の役を全うできていた……)
記憶の奥から聞こえる拍手と歓声。その音は門司の中で再び響き渡った。

「……なんでだよ!負けたまま終わるなんて『ヒーロー』失格じゃないか!はやく立てよ!」
子供の激励もむなしく、門司は動かない。
怪物は、動かなくなった敵を見て次の標的に狙いを定めるがごとく子供の方を振り向いた。
その時だった。
「おいおい……アンコールがなったんだぜ?ここからが『第二幕』の始まりってことだろう?」
さっきまでピクリとも動かなかった門司がゆっくり立ち上がる。
その姿は先ほどと特に変わりなかったが、マスクの奥の目とLWRihterDriverに灯された炎だけは青白く燃え盛っていた。
少し遅れて気づき、振り向いた怪物に火を噴く剣が振り下ろされる。
「そいつはさっきのお返しだ。まぁ、まだチャラになっただけだがな」
余程のダメージだったのか、ここにきて怪物は初めて大きく叫んだ。
(確か『切り札は9』だっけか?)
怪物がふらふらとよろめくうちに、門司はデバイスを取り出しキーボードの『9』を叩いた。
手にしていた剣が再び万年筆の形になり、高く飛ぶ。
門司も続けてより高く飛び上がった。
「お前という紙に結末を刻んでやろう」
『MODE9:Finish LWRihting!!』
そう言うと、門司は万年筆を蹴って怪物に突き刺し、そのまま突き抜けた。
怪物は今日一番の爆発と共に跡形もなく消え去った。
それを確認した門司は子供と犬に背を向け立ち去る。
一部始終を目撃し、興奮のあまり口が開きっぱなしだった子供が一言。
「かっけぇ……」
とつぶやいたが、門司の耳には入らなかった。
 
 

 
後書き
B(attle)パート終了です。
Cパートに続きます。 
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