相良絵梨の聖杯戦争報告書
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戦争とは外交の一形態である
「死体は色々と語るんだよ」
最初から素敵な事をのたまわってくれるのは咲村警部。
聖杯戦争がらみの資料を開示した事で冬木のいくつかの未解決事件が魔術がらみとわかって、実に顔が怖い。
そんな彼が私に見せてくれたのは死亡届。
冬木大災害の混乱と協会の隠蔽工作にも関わらず、咲村警部は面白いものを見つけ出す。
「この第四次聖杯戦争の参加者の死亡届けだが、色々面白い事が見えるぞ。
あの時の災害前に死んだ奴と災害後に死んだ奴を分けてみた」
机の上に書類が幾つかに分かれる。
一つは、震災前に死んだ三人。
雨生龍之介、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、ラソウ・ヌァザレ・ソフィアリ、言峰璃正の書類を咲村警部は指でつつく。
「この四人は殺人事件として警察が捜査をしようとして、謎の圧力がかけられた事件だ。
その後で大災害が起こってうやむやになったが、聖杯戦争なんてものが起こっていたのなら、容疑者は絞れるわな。
全員銃器によって殺害されている共通点もある」
咲村警部はつついて指をそのままスライドさせて隣の書類をつつく。
アイリスフィール・フォン・アインツベルンと久宇舞弥の二人。
「ここは災害時に死亡という形で届出が出されている。
実際に災害で死んだかどうかは知らんが、そういう事になっている。
という事は、この二人の死亡を届けた人間が居るという事だ」
実に人の悪い浮かべる咲村警部。
それを届けた人物はちゃんと書かれているのに。
衛宮切嗣の名前が死亡届に書かれていたのだから。
「で、最後の災害後に死んだ連中。
こいつらが色々個性的でな。
間桐雁夜は失踪届が出されてからの死亡。
震災に巻き込まれたという形になっている。
本当に震災に巻き込まれたのか怪しいがな」
失踪から死亡という形になっているので、実際にいつ死んだのかも分からない。
咲村警部の口調に私も苦笑する。
なるほど。
死亡届の提出時期だげても見えるものがあるのだ。
「一番面白いがこいつ。
遠坂時臣だ。
彼は震災後に病死という事になっている」
第四次聖杯戦争の情報は、生存者の一人であるウェイバー・ベルベットの情報提供に頼っている。
その彼曰く、アーチャーのマスターだった遠坂時臣は終盤まで生きており、あの災害の中心地に居たのだろうと。
という事は、最後で敗退した彼は災害で死んでいないといけない。
にもかかわらず、彼の死亡届だけは災害後に彼の弟子である言峰綺礼によって出されている。
これらを見ても、魔術協会の裏工作の後がたっぷりと残っているのだ。
「嘘を嘘で覆い隠す典型だな。こりゃ。
嬢ちゃん。
これ、かなり根深いぜ」
残った最後の一人の書類に目を通す。
衛宮切嗣。
聖杯戦争から五年後に病死。
彼は養子を取っていたが、その養子は未成年だったために死亡届等の処理は冬木の暴力団藤村組組長である藤村雷画の手を借りていた。
表だけ見ても怪しいことこの上ない。
「遠坂時臣については、一応説明がつけられますよ。
明かしていい情報として開示しましょう」
私の存在理由はこんな所にある。
神秘をぼかしながらも、表側への利益供与。
だからこそ、皆私に一目おいているのだ。
私は魔術刻印の話をする。
魔術師が代々引き継いで根源を目指す証で、彼につけられていた刻印は娘の遠坂凛に受け継がれていた。
移植には当然儀式がいる訳で、聖杯戦争後のごたごたでそれができる訳が無く、必然的にずらされたと考えるのだ妥当だろう。
「という事は、嬢ちゃんもその魔術なんとかとやらを持っているのかい?」
ある意味当然の質問に、私は苦笑して用意していた答えを口にした。
「そんなものが無いからこそ、私達は表で占い師なんてやっているのですよ」
と。
魔術刻印なんてのが無くても、私は魔法が使えるなんて言うつもりはまったくなかった。
「で、そんなのを持っていそうな人たちを集めてどうするつもりなの?」
若宮分析官がうまく私達の話に加わってくる。
今回は行政側の色々な事を彼女にお願いしているから、結構頭が上がらないのだ。
必然的に説明も丁寧にならざるを得ない。
「そりゃ、戦争なんですから、まずは『外交』から始めませんとね。
柏原さん。
確認お願いします」
冬木の地で工作をしてくれている柏原さんの部下によって映されているモニターには穂群原学園の校長室が映り、そこの生徒達が集まっている。
遠坂凛、間桐慎二、間桐桜、衛宮士郎、沙条綾香の五人。
彼らを呼びだしたのは学校の校長で、もちろん若宮分析官の根回しである。
「ご苦労様です。
校長先生。
ここからは、生徒達と話をしたいので。
ええ。
教育委員会の方には、私から先生の功績はちゃんと伝えるつもりですので……」
下手に冬木に行けば聖杯戦争に巻き込まれかねない。
ならばどうするか?
人を使い科学の力に頼ればいい。
学校の校長室を使ったのは、そこが個室で電話があるからだ。
「はいどうぞ。
絵梨ちゃん」
「こちら柏原。
校長が部屋から出たのを確認した」
若宮分析官から受話器を受け取り、ボイスチェンジャーボタンを押す。
この時の為に、校長室の電話機はオンフックのファックスつきに変えているのだ。
では、私の聖杯戦争を始めよう。
「はじめまして。
魔術師の皆さん」
その第一声にモニターの中で立ち上がって激昂した女生徒が一人。
たしか、遠坂凛だったか。
「ちょっと待ちなさいよ!
あなたこんな場所で……」
「こんな場所で無いと話せないような所から私は派遣されているのです。
今回、あなた方に集まってもらったのは、この学校の魔術師および魔術師関係者でこちらが把握している方々です」
「衛宮っ!
お前魔術師だったのか!」
「慎二こそ魔術師だったのか!?」
モニター向こうで起こっているのは、暴露による混乱だった。
魔術師は神秘を秘蔵するがゆえに、身内ですら身バレを避ける傾向がある。
とはいえ、この暴露の結果遠坂凛は激昂し、沙条綾香は彼女を宥め、間桐慎二と衛宮士郎の二人は驚きで困惑しているという感じか。
間桐桜だけが表情を見せていないように見えた。
「あー。
そろそろ落ち着きましたか?
端的に言います。
聖杯戦争の事を知っていますか?」
私の一声にぴくりとしたのが三人。
遠坂凛、沙条綾香、間桐慎二か。
見た感じだと衛宮士郎は何も知らないみたいで、間桐桜は表情が読めない。
「じゃあ、とりあえず簡単にまとめたものをFAXで送りますので、みんなで読んでくださいね」
「だから待ちなさいよ!
あんた何を考えているの!?
こんな場所で、こんなにあっけらかんと、神秘の秘蔵はどうなっているのよ!!」
遠坂凛が私の言葉を遮って叫ぶ。
ある意味彼女が魔術師としてキレてくれる事で、こちらの異様性は認識できただろう。
彼女に感謝しつつ、私はアンジェラ書記官に目配せし、彼女はウインクで返事をする。
では、こちらの正体を明かすことにしよう。
「ああ。
失礼しました。
こちらの自己紹介がまだでしたね。
我々は政府機関の者です」
「「「「…………」」」」
魔術師とその関係者である彼らをして政府機関からお話が来るとは思っていなかったみたいで、皆一様にどういう顔をすればいいか迷っているのが見える。
混乱が収まっていないので、情報を小出しにして彼らの思考を誘導してみよう。
「具体的に言うと、この国の色々内緒にしないといけない部署の者です」
「というと、CIAみたいな?」
口を挟んだのは衛宮士郎か。
アンジェラ書記官の方を見ると、言われ続けているらしく『はいはいCIACIA』と顔で語っている。
まあ、映画やコミック等のフィクションで大活躍だからなぁ。CIAは。
「そんな所です。
もちろん、CIAともお付き合いがありますよ」
「何でそんな所が、聖杯戦争なんかに口を挟むんだよ!」
キレた口調で間桐慎二が叫ぶ。
モニター越しに彼らを見ているのも、彼らが聖杯戦争参加者になった場合のキャラクター解析になつかるからだ。
そんな彼に私は穏やかに語りかける。
「むしろこっちが聞きたいのですけど。
仮にも『戦争』なんて名がついているものに国家が絡まない訳ないじゃないですか」
魔術儀式として聖杯戦争を見るからその違和感に気づかない。
戦争として見た場合の聖杯戦争のまずさを。
「マスターとサーヴァントによる殺し合いだけだったら、警察に任せて我々が出ることはありませんよ。
ですが、第四次聖杯戦争によって冬木大災害が起こったとしら、あなたがたはどうします?」
その一言でモニターの中の彼ら彼女らは皆固まる。
冬木大災害はこの地に色々な影響を与える羽目になった。
彼ら彼女らの多くも身内等の親しい人をあの大災害で失っているのだ。
その原因が聖杯戦争にあるなんて知りもしなかったのだろう。
いや。
知っているっぽい顔を見せたのが二人。
遠坂凛と間桐慎二か。
この二つの家は聖杯戦争の御三家として長く聖杯戦争に関わっている。
多分出るだろうと私は判断していた。
「その話は本当なのか?」
呟くように声を出したのは衛宮士郎。
その顔には動揺が見て取れる。
先の聖杯戦争の勝利者である衛宮切嗣から何か聞かされていると思ったが、モニターの様子からして何も聞かされていないみたいだ。
「こういう場所を設けて、嘘がつけるのでしたらこっちも幸せなんですけどね。
さてと。
今、FAXを送りました。
最低限のことはそれに書かれているのでご確認を」
こちらで掴んだ聖杯戦争の概要。
おそらくは、情報精度としてはかなり薄いものだがそれを食い入る様に見たのは衛宮士郎一人のみ。
間桐桜と沙条綾香は目を通したが表情は変わらず、遠坂凛と間桐慎二の二人はさっと目を通しただけで書類をテーブルに置いた。
「長くなりましたが、前置きはこんな所で。
本題に入りますね。
今からFAXするものに参加者全員に一枚ずつ渡るようにして目を通して下さい」
続いて送られたFAXを見た五人がそれに書かれた文字を読む。
意味がわからないという思いをこめて。
「「「「「聖杯戦争参加表明書ぉ!?」」」」」
「はい。
我々は聖杯戦争そのものを止めたり介入するつもりは基本的にはありません。
とはいえ、我が国の中でこんな殺し合いが行われているのを黙ってみているつもりもありません。
ましてや、今回の聖杯戦争の参加者には未成年が加わる可能性がある以上はね」
私の説明に遠坂凛と間桐慎二が苦い顔をする。
その顔を見て出るつもりだったと確信する。
「そんな未成年を殺人犯にさせるつもりもありません。
ですから、参加する場合は保護者のサインをもらってFAXに書かれた番号に送ってくださいね」
「ちょっと待ちなさいよ!
介入するつもりはないなんて言っておきながら、これは立派な介入じゃないのよ!!!」
遠坂凛の怒り声もモニター向こうからでは迫力が落ちる。
だから私は、安全な所から彼女を容赦なく叩きのめす。
「これもお役所仕事でしてね。
未成年殺人犯を裁く場合は色々大変なんですよ。
少なくとも、この件に関して、参加して犠牲者が出た場合その参加者は殺人犯で裁くのでそのつもりで」
わざわざこうして集めたのもその恫喝が目的でもある。
互いに見知ったうえで殺し合いなんて普通の人はしたくないし、できないものなのだ。
覚悟を決めた連中を除いて。
(笑った?
いや、嘲笑した……ね)
間桐桜が見せたその笑みを私は見逃さなかった。
そして、間桐兄弟は聖杯戦争に参加すると確信する。
「そのFAXに書かれた番号に送ってもよし、聖杯戦争を監督する言峰神父に送ってもよし。
どちらでもいいですよ。
要件は以上です。
では」
「ちょっと!待ちなさ……」
遠坂凛の怒り声を最後まで聞くこと無く私は受話器を置いた。
後書き
原作ブレイク始まるよー
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