戦国異伝
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第二百五十五話 帰りの旅その十
「我が国でもじゃ」
「牛を多く育て」
「そして乳を手に入れ」
「そのうえで、ですな」
「蘇等も多く作っていきますか」
「そうする」
こう家臣達に言うのだった。
「他の食いものも同じじゃがな」
「では上様」
蜂須賀がここで大きな声で言って来た。
「さすれば他の食いものも」
「その通りじゃ」
「蘇等以外もですな、では」
ここでこう言った蜂須賀だった。
「河豚も」
「いや、それは駄目じゃ」
「あの魚はですか」
「そうじゃ、あれは確かに美味いそうじゃが」
「毒があるからですか」
「この大坂では河豚を捌くのに慣れた者が多いそうじゃが」
それでもというのだ。
「わしはあれは食わぬ」
「左様ですか」
「あれは鉄砲じゃ」
こうも言うのだった。
「当たれば死ぬからな」
「鉄砲と同じく」
「だからじゃ」
「河豚はですか」
「食わぬ」
こう言うのだった。
「それはな」
「ううむ、美味いですが」
「美味くてもな」
それでもというのだ。
「用心はする」
「ではそれがしも」
「というかです」
秀長が残念そうな蜂須賀を咎めてきた。
「小六殿、河豚は」
「もう食ってはいかぬか」
「はい、あれの毒は非常に強うございます」
それ故にというのだ。
「ですから」
「やはりそうか」
「はい、止められるべきです」
「この大坂でもじゃな」
「大名ともなれば」
誰もば美味いものを食える世になってもというのだ。
「慎まれるべきです」
「だからか」
「左様です、とかくです」
「わしはか」
「その辺りが昔のままなので」
「ううむ、飾ることはな」
彼の気質からだった。
「好きではないからのう」
「そのざっくばらんはよいですが」
「それでもじゃな」
「慎まれるところはです」
「慎んでか」
「食されることにも」
「仕方ないのう」
蜂須賀も納得するしかなかった、秀長に言われては。
「それではな」
「はい、では」
「それに美味いものは他にもあるな」
こうも言ったのだった。
「何かとな」
「そうです、この牡蠣にしましても」
「昆布もな」
「昆布でだしをとりますと」
「美味いのう」
「驚く程に」
「ではわしはじゃ」
蜂須賀はあらためて言った。
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