レイフォン・アルセイフはロリコンだった。
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第1話
前書き
気分転換に書いてみました。よろしければどうぞ。
決して綺麗な大地と呼べない荒野。周りの大気は汚染され、そこには人間も動物も、果ては植物でさえ存在しない。人は、その空気を体内に摂取するだけで、焼けるような感覚に負われ、内からあっという間に朽ち果てる。その大気は皮膚に触れるだけでも火傷のような害を為す。つまり死だ。例外はあれどほとんどの人間は必ず死に至る。
だが、そんな悪夢のような大地には、もう一つの悪魔が潜んでいる。
汚染獣―――汚染された大地に生きることが許された唯一の生物。生物というがそんなカテゴリに収まる存在ではない。
人を襲い、人を食い散らかし、人を捕食しようとする。普通の人間には勝ち目なんてものは元からない。そう、一般人には。
武芸者―――そう呼ばれた彼等は違う。生まれもって秀でた人間の潜在的力を駆使し、自分の力を最大限発揮できる錬金鋼《ダイト》という得物を片手に、凶悪な汚染獣に立ち向かう。
だが、人は息を吐く。そして吸う。つまり、空気が死んでいては、いくら武芸者という人間を超越した彼等が居ても、一般人も武芸者も危機的状況下に置かれているのには何ら変わりはない。
故に、人は生きるために、自律移動型都市《レギオス》の中で、人生を消費するしか他なかった。そしていずれレギオスの中で死に絶えるしかない。ここはそんな世界―――
湿り気のない土と、ところどころに何かの傷を残した抉れた大地、岩が散乱したそこで、バスのようなものが高速の勢いで突っ走る。
それはバスと言うには程遠く、かけ離れた様をしたまるで戦車のような頑強なバスが大地を突き進む。
ガタン―――ゴトンガタン――ガタンガタンと不規則に揺れる放浪バスの中、1番後ろの席に座っていたレイフォンは、外の景色を窓辺から微かな恐怖心を募らせていた。
(もし、汚染獣にこのバスの居場所を知られたらどうしようもないよね)
縁起でもないことをふと心の中で呟く。
こんな汚染された大地の中で汚染獣にでも襲われたら、いくら放浪バスが普通のバスよりも強化された鉄の塊とはいえど、汚染獣の前では紙切れに等しい。だから常に放浪バスの運転手は気を張らなければならない。汚染獣に見つかる前に、気付き、岩陰に隠れるか、そこから遠くへ移動する。隠れる場合なんて、何十時間待つことも余儀なくされる。
ふと、もし、自分が錬金鋼《ダイト》を持っていたら汚染獣くらい―――なんて無粋な事を考えてしまった。その考えをすぐに霧散させ、苦笑してしまう。
レイフォンは砂塵によって見えなくなった外界から、目を離す。
そういえば―――と、今の今までちゃんと寝てないことに今更ながら気づく。仮眠はとっているし、別に寝ないといけない。脳がそう警告するほど追い込まれてはいない。だけど疲れは取れはしない。自分の目的地である都市に着くには、まだ時間がかかる。もちろん汚染獣等のアクシデントらがあれば、それは長引くのも強いられるけど。
(まだ時間はあるし、少し寝ようかな……)
そう思い、両の瞼をと仕掛けた時、肩をトントンと、不意に叩かれる。
「あ、ごめん。もしかして今から寝るところだった……?」
重くなりかけていた瞼をすっと開け、声の主の方へと視線を落とす。
そこにいたのは上目遣いで、こちらを伺う金髪のツインテールをしたミィフィ・ロッテンと、その隣に座る赤髪の少女であるナルキ・ゲルニ。そしてナルキの後ろに隠れながらこちらの様子を伺うメイシェン・トリンデン。彼女達は前の都市で会った三人組の幼馴染み―――らしい。お互い顔を見合わせた場所は、彼女達の出身都市、都市ヨルテムであり、放浪バスが発車するまでその都市で少し話した仲である。
最も偶然同じツェルニの学生として入学する同級生だという事で、多少の自己紹介も兼ね、親密には話してはいない。つまり、レイフォンにとってまだ知り合いに近い。
「ううん、目が冷めたから気にしないで。元々眠くて寝たわけじゃないし」
「うー、それってやっぱり私がレイフォンの睡眠の邪魔ちゃったのは変わりないし」
「まあ、許してやってくれ、レイフォン。こんな長旅じゃ話のネタも尽きてしまってね。話し相手になってくれないか? もちろん私達もな、メイ?」
「う……うん…ご、ごめんねレイフォン」
「い、いや、僕もこんな長旅じゃ寝ることしかなくて。うん、話し相手なら歓迎だよ」
ミィフィ・ロッテンは申し訳なさそうに、ゴメンネと両手を合わせ、ジェスチャーする。
その後にミィフィの幼馴染みであるナルキ・ゲルニが続き、メイと呼ばれたメイシェンがレイフォンに謝るかたちとなる。
しどろもどろになるしかないレイフォンは言葉を選んで慎重に事を進めていた。
正直なところ友人は作りたい。ツェルニには知り合いも友人もいないレイフォンにとって、ツェルニという都市は不安要素しか存在しない。友人を作ることが得意でもないし。
せっかくこんな自分に自ら話かけてくれる同級生がいるのだ。上手く行けば友人になってくれるかもしれない。
よし、とレイフォンはミィフィたちの話に耳を傾ける。
「あ! それでね、レイフォンのあだ名を決めようかなぁってナルとメイで話してたんだぁ。レイフォンはどう思う?」
「あだ名……?」
「ああ、私達三人は小さい頃から、ナッキ、メイ、ミィで呼びあってきたんだが、レイフォンもそうしようとさっき話し合っていたんだ」
「わたしはメイシュンのことメイっちって呼ぶけどね」
ミィフィは乾いた喉を潤いしながら、再び乾いたパンのようなものを頬張る。
「そ、そうなんだ。えと、じゃあよろしくお願いします」
「むっ、レイフォンも一緒に考えるんだぞ」
「えっ、そうなの!?」
レイフォンは困惑する。自ら自身のあだ名を考えるのはちょっと抵抗感があったりして。痛いというか。他人に決められるならそれに何のためらいもなく頷けるのだが。
「れい………とん、とか、どう…かな?」
控えめにメイシェンは案を繰り出す。
「そうそう! やっぱりメイっちもそれがいいよね。 ね、じゃっレイとんで決定! 」
「………れ、レイとん?」
大仰にミィフィが賛同する。
どうやらもう既に、自分のあだ名の候補は決まっていたらしく、ポカンとするしかないレイフォン。
―――レイとん。
これまでの人生で、女友達にそんな呼び名はされなかった。幼馴染みのリーリンでさえも。
「まあ、待て。レイと……レイフォンはレイとんでいいのか? 」
一度、ナルキは置いてけぼりになったレイフォンに援護を入れる。
「えっと……うん、僕は―――」
「はい、決まり。ということで、レイとんで決まりねー。じゃそゆことで自己紹介よろしく。というか私たちから聞いちゃうね」
頷いたつもりはなかったのだが、ミィフィには最早どうでもいい事らしい。ミィフィは身を乗り出して、興味津々にレイフォンに問い詰める。他の二人も好奇の視線をレイフォンに飛ばす。
「あれ、 自己紹介僕らしなかったったけ?」
「うーん、あれって自己紹介って言うのかなぁ。簡潔過ぎたし、時間なかったし、レイとんに話しかけづらかったのもあったし、ぶっちゃけあまり話してないしさ」
確かに、お互いの名前と出身都市と軽くツェルニについて話をしただけ。そして、ツェルニの学園でどの学科に入るかどうかの話も含め、軽く話しあった仲。
それ以降はあまり会話はしなかった気がする。
ただ、話かけづらい、とはどういうことだろう。首を捻らせ、少し考えるも、褒めるほどの脳を持ち合わせてないレイフォンは答えを出せず、結局それを察したナルキが代弁した。
「バスの中で、何度も話しかけようとしてたんだが……レイとんがあまりにもむつかしい顔をしていたから、私達も声を掛けづらくてな」
「そう、なんだ。……ごめん」
「はいはい。そんなことより聞きたいことがあるんだけど、私から質問していい?」
「まったく、お前のせいでレイとんが謝る羽目になったんだぞ。代わりに私が謝る、すまん」
「なによー、わたしが悪いみたいじゃなーい」
「悪いから、言ったんだろ?」
「うーーーっ」
「ミィも落ち着いて、ね?」
「うーーーっ。メイっちに言われたわたしはもうレイとんの質問にこの憤りをぶつけるしかない! うん!」
「……でさっそくミィから質問を投げていくがいいか、レイとん」
どうせ拒否権はなさそうだし、おどおどとこちらの様子を伺うメイシェンを見れば、何となく断る気もなれない。
どの道、親しくなる貴重な機会なのだ。断る理由もない。
「うん、僕が答えられる範囲ならどうぞ」
「よしっ! じゃレイとんの好きな女性のタイプは?」
「おい、いきなりだな」
「え……え、す、好きなタイプ……」
初っ端、その質問だとレイフォンが答えに躓くと、ナルキと、メイシェン、更にはその質問をしたミィフィも内心思ってはいた。
レイフォン・アルセイフは三人の目からして、かなりのイケメンだと言える。ただ、気弱な雰囲気が否めない。さっきの場面だってそうだ。ナルキの発言に、レイフォンはすぐに謝るだけ。呼び名だって何の意見もせず、黙って流されて行くだけ。ぶっちゃけ冴えないイケメンと命名するまでだ。
だから、この手の質問は話を逸らすか、言い淀んで、結局違う質問に移るそんな展開になると何となく感じてはいた。
だが―――レイフォンの答えは三人の予想を斜め横に突いてきた。
「小さい、子かな」
「……………ん? 」
三人の幼馴染みは揃ってミィフィの質問に即答したレイフォンの顔を見る。
「 ? 僕の顔になにか付いてる?」
首を捻らせ、不思議そうに見返すレイフォンに、三人組は「まさか……いやまさか」とゴクリと緊張で乾いた喉を湿らせ、勇気とともに、三人は同時に聞く。
「もしかしてレイとんって、ロリコン(なのか)……?」
「へ」
間抜けな声が放浪バスで響いた。
その時だった。
レイフォンは周りの空気が張り詰めるのを感じる。
音だ。
レイフォンは耳に劈くような音を微かに拾う。
今度はレイフォンだけじゃない。次第に大きくなっていくその音は周りの乗客にも聞こえるぐらいになっていく。
ギチギチ……………ギチギチ…………ギチギチ…………
「なに、これ」
乗客らはその異様な雰囲気に、身を屈んで見えない恐怖心に身を隠す。
レイフォンはすぐにその音の正体に気づく。
(……汚染獣)
放浪バスの運転手もそれに気づいていた。エンジンを切り、急停車する。そして逆走に転じる。
「お、おいっ! 何があったんだ!?」
「汚染獣だ! 何でもいい、何かに捕まれ!」
「そんな……」
乗客らの絶望に追い討ちをかけるように―――
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ………
すぐそこまで迫る奇怪な音。
羽根同士が、お互いを擦り合い嫌な音。聞くだけで身体がぞわぞわし、耳を伏せぎたくなる。
「おいっ! バスのスピードを上げろ!」
放浪バスの乗客は悲鳴をあげる。放浪バスの運転手は混乱に気を取られまいとひたすらアクセルを踏み続ける。
だが、皆が恐怖に煽られ、叫びたいのを震える手で抑え、奴らに音で悟られないように、空を飛行する残忍な破壊者たちを凝視する。
何匹も―――何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も―――空に群がっていた。
もはや空なんてどこにもない。見上げれば、汚染獣の大群が青い天井を色黒い肌が支配していた。
レイフォンはその束になった汚染獣を数える。数はおよそ1500前後。その汚染獣の大きさは、さほど驚くものではない。だが、群れをなして作るそれは脅威をはらんでいた。
(思ったより……少ないな。でもこの汚染獣もしかして―――)
「いやっ」
小さい悲鳴がレイフォンの耳に届く。隣を見ると、メイシェンが尋常じゃない震えに身体を抱いていた。彼女の瞳にあったのは、死に対する恐怖心。汚染獣を間近に見たことによって、死の瀬戸際にたったことを自覚した初めての死の恐怖。
「メイっち大丈夫だから落ち着いて、ね?」
「そうだぞメイ。ふん、もし汚染獣に襲われたとしても、私がこてんぱんにしてる、だからミィの言う通りリラックスだ」
「ナッキって汚染獣との戦闘経験あったっけ?」
「………ない、がもしそうなったら私が戦うしか他ないだろ」
ナルキは錬金鋼《ダイト》を片手でもち、戦う闘志を燃やして言う。だが、怯えていた。ミィフィも、恐怖心に屈していたメイシェンだってナルキのその様子に気づいていた。それは同じ都市でずっと過ごしていた所以なのだろう。
なんだかんだで落ち着きを取り戻したメイシェンに、幼馴染み2人は安心したところ。
ミィフィはこの死と隣にあわせという状況下で、微かな動揺も見せない青年に、意地の悪そうに声をかける。
「それにしてもレイとんの落ち着きようは流石、グレンダン出身者だねぇ」
「うん……まあ、この数の汚染獣ならまだ少ない方だからね」
その言葉に少し目をナルキは見開く。
「グレンダンは武芸の本場だと聞いているが、もしや武芸を嗜んでいたりしているのか?」
「……ほんと嗜んでいる程度だけどね」
「つまり武芸者でもあるのか。グレンダンで武芸を嗜む程度であれ、武芸科でももしかしたら通用するのではないか?」
それは単なる疑問。別にレイフォンの強さなんてものは、手合わせもしていないし、知りもしない。だが、グレンダンは都市間を、通じて武芸の本場だということは既知の事実である。強引かも知れないが、ナルキは、嗜む程度であれ、あのグレンダンで武芸に触れた人間が―――何故ツェルニで武芸科ではなく、それとは遠くかけ離れた一般科を選んだのか。きっと他の幼馴染みだって思っていることだろう。
「そう、かもしれないけど、僕はもう……武芸は辞めたんだ。それに武芸者が全てじゃないしね」
「むむっ、そこを肯定する感じを見るに、やっぱりグレンダンの武芸者としての自信があるの? ほれほれっ、正直に言っちゃいなよぉ」
「おい、ミィ……」
ミィフィはにやにやと笑う。相対的に、ナルキはミィフィを諌める。
ナルキは感じたのだ。そして、問い詰めた自分に反省していた。メイシェンもこの会話の中で感じた。
レイフォンが武芸を辞めた。その言葉を発する時に見せた彼の影を作った表情。誰だって話したくないことはぼちぼちとある。だから、これ以上聞いてはいけない。
少なくとも、三日前に放浪バスで出会った人間、そして友人となったレイフォンとはまだ接した月日は短いのだ。幼馴染みはともかく、これから親しくなってから聞けばいい話。ミィフィだって、それに薄々気づいてはいるのだが。
当の幼馴染みはナルキとメイシェンの心情とは裏腹に、興味津々にレイフォンの答えを待つばかり、食いついていた。
対してレイフォンは淡々と答えた。
「どちらかというと自信はある……かな」
ほうほう、とミィフィは何やらメモ帳を手にペンで書き込んでいた。ミィフィはさらに質問を重ねようとしたところに、ナルキは話を変えるべく、横槍を刺す。
「んんんっ……それより汚染獣から逃げれたようだな」
「……本当だ……なんか分からないけど助かったみたいだねぇ」
「ほん……とうだ。…………ほんとうに……良かった……」
涙ぐんだメイシェンは緊張に張り詰めていた身体から一気にその緊張が抜けたのか、へたりと椅子にもたれかかる。
レイフォンは窓を見やる。
そこには汚染獣はいない。空も本来の青い色を取り戻し、先ほどの地獄絵図はもはや見る影もなかった。
レイフォン達は話にこんでいたのか、気づけば乗客らの緊迫感もとっくの前に消え失せてたようで、陽気な話、雑談、笑い声でで溢れかえっていた。
当然といえば当然だろう。
汚染獣は鼻からからこちらを狙っていたわけでもないし、幸いにして放浪バスの存在にも気づいてはいなかった。
汚染獣から逃走を図る際に、逆走をし、目的地のツェルニまでかなり遠回りをしたが、命と天秤をかけるなら別に気にはしない。
ただこのままだと入学式ギリギリ遅刻確定かもしれない。入学式初っ端遅刻からの学生生活は人生ハードモードすぎる。隣にいる彼女達はまだしも、人付き合いがどちらかというと不得意なレイフォンとって非常に悩みどころであった。
なんて、レイフォンは憂鬱気味に考えていた矢先、視線を感じた。
「………誰だ?」
人間ではない。汚染獣でもない。
決定づけるのは、この視線は生きてるものではない。機械のような精巧した何か。
「レイとん……どうしたの?」
レイフォンの異変に気づいたメイシェンの疑問に答えず、放浪バスの窓辺の先にある方を向く。
「………別に盗み見をするつもりはありませんでしたが、気づかれましたか」
ほのかな光を放つ花弁から、それは聞こえた。
冷たい女性の声。
そうレイフォンは思った。
豪邸。宮殿。
そんな贅沢な一室で、女王はふと青年のことを思い出す。
「レイフォンのやつ今頃小さい子を見つけてウハウハしてるのかしら」
「何を言っているのですか、陛下……。そんな事よりどうかお仕事をお務めください」
縋るように女王に迫り込む女性は女王と同じ顔をした影武者。その容姿は美貌を我がものにしたかのような美しいの一言。
そして女王も、まだ同様。
女王は、ピクリとも反応しない影武者に、少しばかり面白くなかった。
「あんたレイフォンのこと気にしてないのぉ? 仮にも同じ天剣授受者でしょうが」
「元々、このグレンダンから追い出したのは、アルシェイラ女王でしょう」
「だってあいつ私のこと―――BABAって言ったんだもん」
「……………あの青年がそんなことを言うなんてにわかに信じ難いのですが……」
女王の見た目とそのBABA、即ちババー。その二つは合致しない。それにこの女王にそんなことをいうこと自体自殺行為。
「そりゃ私だってそうよ。でも言われたらちょっとカチンと来ちゃって。私まだピッチピチなのにねぇ。だから、全部バラして追い出しちゃったのよねぇ」
ピチピチ……貴女見た目は剄で抑えても、中身は案外年取ってるのでは―――とは言えず、影武者は違うことに思考を変える。
「闇試合のことですか……」
「なーに? もしかしてバラしたことに文句あるのかしら? ……まあ、私だって怒りに任せてやり過ぎた感は否定できないけど………どうせ私がバラさなくとも、近い内にボロは出てたわ」
「そうですが……」
「それにあいつの要求を聞いてあげたのよ。孤児院の金銭的な補助をね。だから、チャラよ」
女王はかけていた椅子からすっと立ち上がり、どこか焦燥した面持ちでドアに手をかける。
「でも、せっかく集まっていた天剣も一人欠けるなんてね」
「彼は天剣に相応しくなかった。それだけです陛下」
「……それもそうね」
来るべき運命までに天剣は12人集めなければならない。
だが、一つレイフォン・アルセイフという青年が欠けてしまった。もし、彼が天剣に相応しかったのだったら、また再び彼はこのグレンダンに戻って、この地で戦場を駆けるのだろう。
だが、もし影武者の言う通り、違ったのならば、また新しい天剣の持ち主になる素質を持った人間を探すしか他はないだろう。
「はぁ、本当面倒くさいわね……。あとは宜しくね、カナリス」
「え………」
瞬きすれば、女王はこの室内から消えていた。
影武者であるカナリスは嗚咽を漏らしながら、結局女王の分の仕事に取り掛かる。
後書き
実はこれ2話目のやつを1話に引っつけただけなので、もし既視感がある方がいれば、後半は正真正銘第2話で、前半はそこまで変わりはありません。話の繋げ方が上手くいかなくて強引に繋げ、再投稿致しました。
息抜き程度なので不定期更新ですが、宜しくお願いします。
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