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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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after days
  第二話



時夜side
《自宅・自室》
PM:2時12分


「…これ、ホントにこんなにどうするのかなぁ?」

『…確かにね、凍夜達の親バカにも本当に困ったものね』

「……全くだよ」


時切の言葉に、俺は心底同調する様にげんなりと頷く。

……本当に、解りきっていた事ながら家の両親は言うまでもなく果て無く親バカと言える。
それが今回の一件で、更に拍車が掛かってしまった。まぁ迷惑を掛けてしまった手前、俺には何とも言えない。

その目の前の光景を目の当たりにして、思わず溜息が零れる。
何度現実逃避したとしても、目の前の現実は変わらない。まるで、逃げるなと言わんばかりに。


(……嬉しかった、か)


お父さんが先に口にした言葉が胸内で反芻される。そして、時夜の心の内に少しの影が射す。
そこまで愛されている事を嬉しいとも思う。けれど、だ。

今の自分はそんな愛してくれている両親に生まれてからずっと、偽りを見せている。


(……何時か、ちゃんと言わなきゃ)


今は、まだ怖い。だけど何時か、それと必ず向き合わなきゃならない時がきっと来る。
だから、その時にちゃんと伝えよう。

例え、俺という存在が。倉橋時夜という存在が否定されたとしても。
そう心内で一区切りをうち、今は決別する。

再度目の前の光景を見て、数度目かの溜息が零れる。

分厚い装丁の標本、それが数える事が面倒になる程に積み重なり、本の山を形成している。
それが連峰をなす様にして、いくつも積み上がっている。

ベッドから立ち上がり、その前に立つ。今の俺の身長を優に超す程に巨大な本の塔。

……あれから、お父さんは二往復程して図鑑を運び込んできた。
そのお蔭か、広い筈である俺の部屋の約三分の一程の空間がこの本達によって占領されていた。


「…リアが戻って来たら、内部貯蔵に入れてさせて貰おうかな」


そう心にもない、そして心にもある言葉を呟く。

まぁ、高位神剣の第一位をそんな収納スペースの様に使うな、という話だ。
リアが許可しても、そんな事をするのは俺位のものだろう。

そうして、俺は自身に術式を施して空中に浮遊する。
簡単な浮遊術式。これ位は神剣のサポートがなくても使用出来る様になった。少しは成長しているのだ。

山を崩さない様に、一番上にあった図鑑を慎重に手に取る。
その後、連峰に崩れない様にマナを操作して術式を施す様に時切に告げる。


「時切、この山が倒れてきたら怖いから“固定”してくれない?」

『…了解よ。本が雪崩れを起こして今度は永眠されても困るもの』


空間を凍結する。
時切の能力を使用し、時間ごとに空間に物体を固定する。

永遠存在はそこまで柔ではない。冗談めかして言っているが、時切なりの心配をしてくれている。

うん、時切マジツンデレ。
きっと化身化出来る様な高位な神剣であれば、その容姿は貧乳系ツインテ娘一択だろう。


「……時夜、何か良からぬ事を考えなかったかしら?」

「…ううん、気のせいだと思うよ」

「……まぁ、いいけどね」


リアほどではないが、時切も俺と契約している為に、ある程度の事は互いに理解出来る。
故に、女の感という訳ではないが、内心見破られる事も多い。それなりの付き合いだ。

今回は口に出さなかったという事はバレてはいないだろう。

時切はどちらかと言うと、直感に任せて言葉を口にするタイプだ。
ズバズバと物を申して心に刺さる事もある。けれど、俺にとってはかけがえない支えの一人だ。

そうして、一冊手に取った重量感のある図鑑を携えてベッドに戻る。


「…さてと、あれは何ていう花なのかな」


そう口の中で呟く。本を開いて、パラパラ…とページを捲る。
そうしていると、時切が声を掛けてきた。


『それにしても、急にどうしたの?花の図鑑が欲しいだなんて』

「…うん、ちょっとね。気になる事があるんだよ」


探すのは、あの夢で、あの島で見た緋色の花だ。
それがどうも、頭から離れなかった。


「……文が持って来てくれたのは、白のガーベラ、花言葉は…希望か」


ページを捲っていると、文の持って来てくれた花が写真付きで記載されていた。

この図鑑はご丁寧に花言葉まで載っている。いや、他の図鑑もそうなのか。判断基準が解らない。
花なんかとは前世でも、そして今世でもあまり縁がなかった為に、勉強になる。

花瓶に活けられた白のガーベラに目を向ける。あのガーベラは文が昨日持ってきてくれたものだ。
……あの花にはそう言った意味合いが込められていたのか。

初めてお見舞いに来てくれた時も、同様のモノを持ってきてくれたと言う。

俺は三日の間昏睡状態に陥っていた。
あのガーベラは、文なりに俺の快気を願っての意が込められていただろう。


「さてと、探しますか」


無言で暫しの間、ページを捲る。その音だけが、静かに部屋に木霊する。


「……あった」


数分後、俺は目的の花を見つけた。多分これで間違いはない筈だ。
図鑑の写真に映るのは今も記憶に新しい、あの時に見た鮮烈な緋色の花。

その花の名前は―――


「―――アマリリス、か」


何故かは解らないが、緋色の彼女とその緋色の花が俺には関係なくはないと思った。
まるで切り離せない表裏の様に。

それよりもだ。あの場所で彼女に出会って、最後に緋色の少女は気になる事を俺に言い放った。
警告と取ってもいいだろう。

―――敗者の王にお気を付けなさい。

それが何を意味しているのかは、俺には今はまだ解らない。
けれど、それは決して忘れてはいけない事の様にも思える。

ただただその言葉が深く、俺の胸裏に余韻を残こしていた。







1







「…ふぁあ」


意識が、朧気ながらも現実へと覚醒していく。狭い感覚が徐々に広く拡散していく様な感覚。
ベッドから上体を起こして、眠り眼を擦り、欠伸を噛み殺す。

―――…もぞ…もぞ…


「……んっ?」


布団の中で何やら小さく動いている。
そして、下半身部分に何やら人体の様な温かな柔らかさを感じる。

―――…何だ?

怪訝に思い、俺は布団を捲って中を覗いた。一瞬、寝起き故に思考が硬直したと思った。
その後、直ぐに布団を元の場所へと戻す。


「…ファッ!?」


思わず、奇声が口から出た。そうして、少し落ち着いてから悪いとは思ったけれど中を覗いた。
まだ、夢を見ているのかと思ったからだ。

直ぐに首を振って否定する。…いや、これは現実だ。
今の出来事で俺の目は完全に覚醒していた。

だってさ、自分と同じ布団の中に見ず知らずの、それも同い年位の女の子がいると思うか?

それだけならば、まだいい。いや、良くはないけれどさ。

問題なのは、その風貌だ。一切の衣服を纏っていなく、隠す所も隠していない。
一千纏わぬ、生まれたままの姿だ。

……正直、目線に困る。


「……うみゅ……っ」

「あの、出来れば起きてくれないかな?」


俺は布団の中の碧銀色の髪をした少女にそう呼び掛ける。
そうして、漸く起きる態勢へと移る。


「……んっ?……う、ん」


眠り眼を擦り、少女が朧気な蒼い瞳をうっすらと開く。そうして、俺と視線が交差する。


「……あっ、パパだぁ!」


無邪気な笑顔を浮かべて、そう言葉を発して俺に抱き着く少女。


「…なぁ?!ちょっと!?」


抵抗など出来ず。
一千纏わぬ少女が俺に抱き着いてきて、その女の子特有の柔らかさと匂いが俺を包む。

それよりも、少女の言動に気になる事があった。

……パパ、だと?


「…なぁ、時切?これは現実かな?」

『…現実よ。時夜、紛れもなくね』


…全く、気が休まらないな。
とりあえず、一難去ってまた一難と言った所か。


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