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変装の果てに

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4部分:第四章


第四章

 次の日だ。またマジックや変装を客達に見せていた。この日も色々な顔になってみせていた。人は多く今日も実に多忙な彼だった。
 その中でだ。彼は言うのだった。
「あのですね」
「うん」
「何ですか?一体」
「ちょっと自分で自分のしたい変装をしてみていいですか?」
 こう周りに話すのだった。
「それをして」
「んっ、何をするのかな」
「そうよね、一体」
「何を?」
「はい、これです」
 言いながらメイクの道具を出してだ。そしてだった。
 いつも通り瞬く間に変装してだ。なったのは。
「えっ!?」
「それって」
「まさか」
 驚く周りにだ。この言葉を言ってみせたのだった。自分でも。
「こんな顔かい?」
「あはは、のっぺらぼうか」
「顔がなくなった?」
「そうだよな、これって」
「変装し過ぎて顔がなくなったの」
「いやいや、参りました」
 驚き笑う彼等に自分から話した。
「何か顔が消えてしまいましたね」
「けれどそれじゃあ困るだろ」
「そうよね。見えて食べられはするみたいだけれど」
「それでも」
「そうですね。これではどうしようもありません」
 その目も鼻も口もない顔でも言う。彼は腹話術も仕えるのでここではそれを使ってだ。そのうえで周りに対して話をするのだった。
「どうしましょうか」
「ううん、そうだな」
「ここは元に戻ったら?」
「そうだよな、のっぺらぼうから」
「奇術師さんの顔にね」
「そうですね、それがいいですね」
 彼は周りのその言葉を受けて頷いた。
 そしてだ。またメイク道具を出してだった。
 これまた瞬く間にだ。変装を解いた。そのうえでまた言うのであった。
「これでどうですか?」
「うん、戻ったよ」
「奇術師さんの少しの顔にね」
「戻ったよ」
「ちゃんと」
「それは何よりです」
 彼は周りのその言葉ににこりと笑って述べた。
「私の顔にですね」
「戻ったよ」
「ちゃんとね」
「それは何よりです」 
 わざと鏡を出してそのうえで見る。そうしてだった。
 鏡の中を見ていると当然そこに彼の顔がある。その顔を見てだ。しみじみと思うのだった。
「そうか、これが僕の顔なんだ。ちゃんとここにあるんだな」
「あれっ、奇術師さん」
「一体どうしたのよ」
「急にしんみりとして」
「何かあったの?」
「あっ、いえ」
 周りの言葉に我に返ってだ。慌ててそちらに戻った。
 そしてだ。いつもの明るい調子で言うのだった。
「何でもありません。しかしです」
「しかし?」
「それで?」
「顔が戻って何よりです」
 奇術師に戻っての言葉だった。
「いやいや、本当に」
「そうだよな。それじゃあ」
「今度は私の顔になってくれるかな」
「次は俺な」
「それでその次はうちの顔に」
「はい、待って下さいね」
 自分の顔を確かめられてそれで喜んでいるのは隠して彼等に応じる。そしてだった。
「じゃあどんどんならせてもらいますよ」
「御願いするわね」
「それじゃあな」
「はい」
 こうしてだった。彼はまた他の人の顔になるのだった。だが彼の本来の顔がちゃんとあることがわかってだ。確かな気持ちでそれになれるようになっていたのだった。それが今の彼だった。


変装の果てに   完


                 2010・9・29
 
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