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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第160話

~ルーレ市・ダイニングバー『F』~



「改めて―――こんばんは、リィンさん、フィーさん、レン姫。きちんとした形で話すのはこれが初めてですね。」

「ええ……そうですね。俺も一度、きちんと話したいと思っていました。」

「あら。」

「うふふ、もしかしてクレアお姉さんも落とそうと思っているのかしら♪」

リィンの答えを聞いたクレア大尉は目を丸くし、レンはからかいの表情で問いかけ

「やっぱりわたしお邪魔虫だった?」

フィーは首を傾げてリィンに尋ねた。



「そういう意味じゃないから。それとレン姫、”クレア大尉も”ってどういう意味ですか。――――ミリアムの件といい、正直、疑問が多いのも確かです。ですが根本的な質問を一度したいと思っていました。あなた方は――――いえ、オズボーン宰相は一体、何をしようとしているんですか?」

「……!」

「へえ?」

リィンの問いかけに驚いたクレア大尉は表情を引き締め、レンは興味ありげな表情でリィンを見つめた。



「夕方の領邦軍との対立……市街で装甲車を持ち出した彼らに共感を覚える事はできません。ですが、地方の治安維持は元々領邦軍の役割だったはずです。あなた方の活動はそれを土足で踏みにじっている挑発行為に思えてなりません。」

「確かに、ケンカを売ってるようにしか見えないかも。」

「まあ、領邦軍にとって設立されてまだ数年の”余所者”に好き勝手される事は間違いなく怒りを覚えるでしょうね。」

「……確かに、そういう側面があるのは否定しません。ですが、帝国における対立はもはや一触即発に近い状況です。加えて現在、独立が盛んに議論されているクロスベルや、民族問題で揺れるカルバード、隙あらば漁夫の利を狙って来るメンフィル……そんな状況で、より広い治安維持のネットワークを構築せざるを得ません。そして―――それができるのは鉄道憲兵隊や情報局だけなのです。」

リィン達の指摘に静かな表情で答えたクレア大尉は真剣な表情でリィンを見つめた。



「それは……」

「でも、そういう対立や混乱……拍車をかけてるのもあなた達のボスだよね?」

「……否定はしません。ですが閣下は―――オズボーン宰相はある意味、誠実に行動なさっています。”どこかの誰かたち”のようにテロリストを支援するなどという一線を越えたことはなさらない。それだけは信じてあげてください。」

「あ……」

(うふふ、”赤い星座”を雇った事に突っ込めばどう答えるか興味があるけど、ここは空気を読んで黙っておいてあげましょう♪)

「言っちゃったね。やっぱり、連中(テロリスト)の背景には”貴族派”がいるんだ?」

クレア大尉の遠回しな言い方にある事に気付いたリィンは呆けた声を出し、レンは口元に笑みを浮かべ、フィーは真剣な表情で尋ねた。



「もはや否定できないかと。少なくとも四大名門の筆頭、”カイエン公”が背後にいるのは間違いないでしょう。彼らが使った3隻の飛行艇も海都オルディスから流れた物である調べもついている状況です。」

「―――加えて通商会議の時にプリネお姉様が世間に公表した領邦軍に”帝国解放戦線”の身分を保証するカイエン公爵の印籠が押されてあった書状もあったしねぇ?」

クレア大尉の話に続くようにレンは口元に笑みを浮かべた。

「そうでしたか……」

「カイエン公……ケバケバしいオジサンって聞いたけど。確か、ユーシスのお兄さんがレグラムに迎えにきたんだっけ?」

「ああ……聞いた話によるとね。そして今回、そのルーファスさんが秘密裏にルーレを訪れていた……―――教えてください。このルーレで起きていることを。そして……アリサの実家が、”ラインフォルトグループ”がそれとどう関わっているんですか?」

フィーの問いかけに頷いたリィンはクレア大尉に話を促した。



「ふふ……ようやく本題に入る事ができますね。―――現在、鉄道憲兵隊では『ラインフォルト第一製作所』への強制査察を検討しています。」

「強制査察……」

「第一製作所……RFグループの一部門ですか。」

(うふふ、狙いはいいけど、それはダミーよ?)

リィン達と共にクレア大尉の話を聞いているレンは口元に笑みを浮かべた。



「ええ、鉄鋼などを中心に手がけるラインフォルトの主要部門ですね。その部門に、我々は今、ある疑いをかけている状況です。……お二人とレン姫は、RFグループに様々な派閥があるのをご存知ですか?」

「そうなの?」

「ああ、アリサとシャロンさんがそんな事を漏らしてたけど……」

「まあ、大陸全土に支店を広げている巨大重工業メーカーだから、当然あるでしょうね。」

クレア大尉の説明である事が気になったフィーに尋ねられたリィンとレンはそれぞれ答えた。



「ええ、レン姫の仰る通りです。鉄鋼、鉄道、兵器、工作機械など、RFグループは巨大な各部門によって構成されています。問題は、それらの一つ一つが、あまりにも巨大になりすぎた事……そして―――それぞれの部門が貴族派、革新派にわかれている事です。」

「そ、そうなんですか!?」

「……そんな所まで。」

「まあ、”戦争”をするからには兵器の製造元を抑える必要はあるものね。」

クレア大尉の話を聞いたリィンとフィーは血相を変え、レンは納得した様子で頷いた。



「勿論、グループをまとめるイリーナ・ラインフォルト会長もある程度は把握しているでしょう。ですが、独立採算制という彼女が導入したシステムもあって各部門の独立性は極めて高く……イリーナ会長も完全には掌握しきれていないようです。」

「……すると、鉄道憲兵隊が査察を検討している『第一製作所』……やはり貴族派が占めているんですね?」

「ええ、そしてその査察を領邦軍に露骨に牽制されている―――それが夕方起きた小競り合いの”背景”になりますね。おそらくイリーナ会長は各部門をコントロールするため現在、動いているのでしょう。ですが彼女は5年前、グループの実権を掌握するために両勢力から力を借りています。その意味では、根本的な解決は難しいでしょうね。」

「キナ臭くなってきたね。」

「ああ……思っていた以上に危うい状況みたいだ。しかも帝国内の対立状況と完全に連動してしまっている……」

「うふふ、グエン会長から実権を奪い取った時にできた”借り”が肝心な所で返ってきたようね。」

クレア大尉の説明を聞いたフィーとリィンは真剣な表情で呟き、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。



「―――伝えられる情報はここまでとなります。各地でも緊張は高まっていますがルーレは別の導火線も抱えています。”危機”の輪郭も見極め、できれば近寄らないでください。それが今回、”Ⅶ組”の皆さんが実習で学ぶべき経験でしょう。」

「あ……」

「ふふ……それでは頑張ってください。―――レン姫、ホテルまでお送りします。」

「うふふ、ありがとう♪お言葉に甘えさせてもらうわ。―――リィンお兄さん、”西風の妖精(シルフィード)”さん、お休みなさい(グッドナイト)♪」

そしてリィンとフィーに自分の話を伝え終えたクレア大尉はレンと共にその場から去って行った。

「あ……伝票!」

二人を見送ったリィンは伝票をクレア大尉が持っていったことに気付いて立ち上がり

「オゴられたみたいだね。一方的に情報を教えてもらった上に。」

フィーは静かに呟いた。



「はあ……今更追いかけるわけにもいかないし。借りを作ってしまったな。」

「オトナの女性って感じだね。サラより歳下みたいだけど彼女の方が余裕ありそう。」

「うーん、それは確かに。あ……」

フィーの意見にリィンが同意したその時、ARCUSに通信が来た。

「ARCUSに通信?」

「はい、トールズ士官学院、リィン・シュバル―――」

「―――ちょっと!何をやってるのよ!?」

通信を開始したリィンが名乗り上げる前に、聞き覚えのある女子の怒鳴り声が聞こえて来た。



「なんだ、アリサか。」

「な、なんだって何よ!?女の人に呼び出されて出かけたってホントなの!?」

「また懲りずに増やすつもりですか、リィンさん……!アイドスさん達どころかあたしの可愛い妹まで落としておいて、まだ足りないんですか!?」

「お、お姉様、わたくしは気にしていませんので落ち着いて下さい……!」

「なんだなんだ~、色っぽい事になってんのか?よーし、よくやった!」

「よくやった、じゃなーい!」

通信から憤るツーヤを諌めるセレーネの声が聞こえた後、クロウの声が聞こえるとアリサの怒鳴り声が聞こえ

「あはは……フィーがついてるみたいだから変なことはしてないと思うけど。」

「ふう、いずれにしても単独行動は感心しないぞ?」

更に苦笑している様子のエリオットと溜息を吐いた後呆れた様子のマキアスの声が聞こえて来た。



「……戻る?」

リィンの通信を横で聞いていたフィーは口元に笑みを浮かべてリィンに尋ね

「ああ、そうだな。」

フィーの意見にリィンは苦笑しながら頷いた後、フィーと共にラインフォルト家のペントハウスに戻って行った。



~ルーレ市~



一方その頃、クレア大尉はレンと並んでレンが泊まっているホテルに向かっていた。

「……レン姫。そろそろ貴女の―――いえ、”仔猫(キティ)”が持つ我々にとって有益な情報を教えて頂きたいのですが。」

レンと共に歩いているクレア大尉は周囲に人があまりいない事を確認しながら、周囲を最大限に警戒してレンに尋ねた。

「ふふ、そうね。もうすぐホテルにもついちゃうし、”仔猫(キティ)”がお姉さん達に教えられる情報をさっさと開示するわね。――――先程”鉄道憲兵隊”が第一製作所の強制査察を検討している話だけど……―――あそこには”貴族派”の”本命”の兵器は量産されていないわよ?」

「!……………つまり、私達の目を逸らして開発している”切り札”があるという事ですか?」

レンの話を聞いたクレア大尉は目を見開いた後真剣な表情になって、誰にも気取られない為にレンに視線を向ける事無く前を見つめながら尋ねた。



「――――”機甲兵(パンツァーゾルダ)”。それが貴族派の”切り札”の名前よ。」

「”機甲兵(パンツァーゾルダ)”………………まさか人形兵器ですか?」

レンの口から出た聞き覚えのない言葉を聞いて考え込んだクレア大尉はレンに尋ね

「うふふ、名前を言っただけで一瞬で正体を推測するなんてさすがは”氷の乙女(アイスメイデン)”ね。でも、残念ながら不正解よ。”機甲兵(パンツァーゾルダ)”は確かに人形兵器と言ってもおかしくないけどレンの”パテル=マテル”と違って、戦車や軍用飛行艇みたいに”人が搭乗して操縦する”のよ?」

「!?…………………”兵器として”のスペックはどのくらいなのですか?」

レンの答えを聞いたクレア大尉は血相を変えた後真剣な表情で尋ねた。



「そうね……”仔猫”が調べた時点では大きさは約7アージュくらいで、積んでいる武装は接近戦用の武装ばかりで、遠距離用の武装は見かけなかったから”パテル=マテル”と比べれば火力も大した事はないけど、少なくとも帝国正規軍の主力である”アハツェン”や軍用飛行艇を軽く圧倒できるスペックね。しかも”機甲兵”の中にある”隊長機”と呼ばれている種類には”リアクティブアーマー”っていう特殊な防壁があって、その防壁を使えば”アハツェン”の砲撃も無傷で防げるわ。横流しの鉄鉱石の”一部”はそちらの量産に使われているみたいよ?」

「”一部”ですか……残りについては心当たりはありませんか?」

「うふふ、それについても勿論知っているけど、”機甲兵(パンツァーゾルダ)”とは別のお話になるから、その情報については教えてあげられないわ。むしろ、お姉さんに”機甲兵(パンツァーゾルダ)”や”リアクティブアーマー”の話をしただけでも大サービスなのよ?」

「……………………………”仔猫(キティ)”はそのような情報をラインフォルトグループのどの部署から手に入れたのですか?」

レンの話を聞いたクレア大尉は自分の予想以上の兵器を隠し持っている事に厳しい表情で黙り込んでいたが、すぐに気を取り直してレンに尋ねた。

「うふふ、残念ながら”時間切れ”よ。」

「え…………―――あ…………」

レンが呟いた言葉に呆けたクレア大尉だったが、すぐにレンが泊まっているホテルの前に到着した事に気付いた。



「お仕事が忙しい中、他国の皇女のレンをわざわざホテルまで送ってくれてありがとう♪」

「いえ。私は軍人として当然の義務を果たしたまでですし、感謝をするのはむしろ私の方です。私がリィンさん達の前で口にした情報でも釣り合いが取れないくらいの大変貴重な情報を提供して頂き、誠にありがとうございました。もしルーレで何かあればすぐに鉄道憲兵隊にご連絡を。レン姫がルーレでの滞在を無事終えられるように、我々鉄道憲兵隊も出来る限りレン姫の御力になりますので。」

レンにお礼を言われたクレア大尉は敬礼をしてレンを見つめた。



「ふふっ、前向きに考えておくわ。レンの為にそこまで言ってくれたクレアお姉さんには”サービス”にお姉さんの最後の質問に対する答えに辿り着く為のとっておきのヒントをあげるわ♪」

「”ヒント”ですか……―――お願いします。」

「――――”ガレリア要塞”に”列車砲”が搭載された年は今から何年前だったかしらね?」

「え………………」

レンの口から出た予想外の問いかけにクレア大尉が呆けたその時、レンは両手でスカートを軽く摘み上げて上品に会釈をした後ホテルの中に入って行った。

「……”ガレリア要塞”に”列車砲”が搭載された年は1199年。今年は1204年…………レン姫が出したヒントは”今から何年前”。――――!”第五開発部”………!」

そしてレンが去った後レンが口にしたヒントを考え、答えに到達したクレア大尉は真剣な表情でRF本社ビルを見つめた。



~同時刻・ルーレ市北部~



同じ頃、街外れに帝国解放戦線のメンバーが誰かと通信していた。

「―――時は来た。それでは第三の花火を上げるとしよう。」

「うふふ、了解よ。」

「いっちょう派手にブチかましてやるとするか。」

通信機から聞こえて来た声にスカーレットと共に頷いた”V”はスカーレットと共に振り向いて帝国解放戦線のメンバーに号令をかけた。



「聞いた通りだ、てめえら!明日は俺達にとって真の意味での”正念場”になる!」

「”鉄血”の首を獲る最後にして最大の下ごしらえ……みんな、全力を尽くしましょう!」

「応!!」

二人の号令にテロリスト達は力強く頷いた!



そして翌日………………






 
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