英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第121話
~隠者の庭園~
「リース!おい、リースってば!」
リースを追って行ったケビンはリースの名を呼びながら歩き続けているリースに走って近づいた。
「……………………………」
「なあ………なに怒ってんのや?あ、そっか………さすがにお前の知らへん連中ばっかやもんな。なのにオレだけ盛り上がって………少し無神経やったかもしれん。………本当にスマン、謝るわ。」
「……………………………まだ誤魔化すの?」
謝罪してくるケビンにリースは何も答えず、ある程度歩くと立ち止まり、ケビンに背を向けたまま尋ねた。
「へ…………」
「確かに………私が少しだけ疎外感を感じていたのも事実。さすが、例の事件で一緒に危機を乗り越えてきた仲間なだけはあるって思った。」
「はは………まあ、色々とあったしな。」
「正直………寂しかったし、羨ましかった。この5年間、ケビンはずっと私のことを避けていたから…………………私の知らないところで仲間を作っているケビンを見てほんの少しだけ………哀しかった。」
「リース………」
寂しげな雰囲気を纏わせて語るリースにケビンは返す言葉がなかった。
「でも………それでもいいと思った。あの日、姉様があんな事になってケビンは傷ついていたから………自分を責めて、追い込んで汚れた仕事ばかり引き受けて………擦り切れそうになっているのが噂で聞いてもわかったから………だから………気を許せる仲間ができたことは寂しかったけど、嬉しくもあった。」
「リース、あのな――」
リースの話を聞いたケビンは溜息を吐いた後話そうとしたがリースの続きの言葉を聞いて驚いて口を閉じた。そしてリースは振り返って真剣な表情でケビンを見つめて更に話を続けた。
「ケビンは………あそこにいる誰に対しても気を許したりはしていない。心が冷め切っているのに表面だけ調子を合わせてるだけ。感情を完璧にコントロールして気さくな人間のフリをしてるだけ。しばらく見ててやっとわかった。」
「……………………………はは、そりゃまた妙な心配をされたもんやな。悪いけど、オレはそこまで器用やあらへんで。嬉しい時は嬉しいし、怒りだってそう抑えられへん。お前も昔から知ってる見たまんまのわかりやすい男や。」
リースの説明を聞いたケビンは呆けて黙った後、いつもの陽気な様子で答えた。
「確かに………”影の王”の言葉には本気で動揺してたみたいだね?」
「……………っ………………」
しかしリースの言葉を聞くと表情を一変させ、辛そうな表情でリースから目を逸らした。
「ケビンは気付いている………あの人たちが何を言ってるのかを。なのに他の人にはわからないフリをしている。ううん………ひょっとして自分自身にも。」
「はは………何言って………」
「『新たな供物を喰らい汝が印を発言させるがいい。』………あれはどういう意味なの?」
「……………………………なあ、リース。お前は少し疲れてるんや。」
「え………」
自分の質問に何も答えず考え込んでいたケビンの言葉を聞いたリースは呆けた声を出した。
「オレへの怒りと不満………それが変な風に結びついて見当外れな方向に向かってる。疲れてるからそんな風に悪い方、悪い方に考えるんや。」
「……………………………」
「……正直、お前には悪いことをしたと思ってる。忙しかったのは確かやし………合わす顔がなかったいうのも正直なところや。でも、これからは一緒に仕事することになるんやから―――」
「………もういい。」
「へ………」
リースの答えを聞いたケビンは呆けた。するとリースはケビンに近づいて、ケビンの頬を叩いた!
「あ………」
「………いい加減にして。そんな空言………私に通用すると思うの?」
叩かれた頬を抑えて呆けているケビンをリースは睨んで訊ねた。
「……………………………」
「従騎士失格だけど………このまま一緒にはいられない。これ以上、空っぽなケビンを………私は見ていたくないから………だから……………………………」
何も答えないケビンをリースは悲しげな表情で見つめた後、ケビンから走り去った。
「あ……………………………………」
「………ケビンさん?」
リースが走り去った方向を見つめて考え込んでいるケビンにヨシュアが近づいて声をかけた。
「ヨシュア君か………はは、みっともない所を見せてしまったみたいやな。」
「いえ……………………………」
「………なあ、ヨシュア君。君、オレのことある程度は調べたんやろ?」
「…………それなりに。……………”外法狩り”ケビン・グラハム。星杯騎士団率いる十二名の”守護騎士”の一人。そして許されざる大罪人の処刑を一手に引き受けているという代行者。」
「はは、さすがやな。エステルちゃんに近寄る男の経歴くらいは徹底的に調べてるか。」
自分の正体を全て語ったヨシュアをケビンは苦笑しながら見つめていた。
「ええ………しかしあなたは罪人以外、決して危害を加えた事がない。その意味では当面は危険はないと判断したんです。」
「ふふ………なるほどな。」
「やはり……ワイスマンはあなたが?」
自分の話を聞いて苦笑しているケビンに、ケビンの経歴を知って”外法”に当たるワイスマンがケビンに殺害された事を確信していたヨシュアはケビンがワイスマンを殺害したかどうかを確認した。
「ああ………オレが滅した。元々、オレの任務はヤツを消すという事だけや。それ以外のことは全て仕込みと目眩ましにすぎん。君らとの協力関係も、な。」
「………わかっています。エステルが”グロリアス”に連れ去られた一件………あれも多分、あなたは最初から見越していたはずだ。」
「くく………そこまで見抜くか。そう、オレはエステルちゃんが攫われる可能性に気付きながら何の対応もせぇへんかった。彼女をエサにすることでワイスマンや、居場所の不明な君の動向を掴むつもりやった。」
ヨシュアの推測を聞いたケビンは冷たい微笑みを浮かべて頷いた。
「………そうでしょうね。それに………姉さんに正体を隠させていた事やイオンさん達の”極秘任務”も全てワイスマンを殺害する為の布石だったのでしょう?」
「はは、参ったわ………そこまで気付いていたとはな。そうや……ワイスマンを滅する過程でカリンさんの存在は何が起こるかわからん不確定要素やったからな。エステルちゃんという君やワイスマンに対するエサがあるのに、そこにエステルちゃん同様君やワイスマンに対するエサが増えたら君達の動向を掴みにくくなる可能性が出てくる上、彼女を保護しているイオンが彼女をエサにするなんて非道な事を許す訳がない。やから”カリン・アストレイは一度死んだという事実”を利用して、彼女にはオレの任務―――ワイスマンの殺害が完了するまで正体を隠してもらったんや。ちなみにイオンはワイスマンにオレの存在に気づかせないための目くらましや。守護騎士が一人でもエステルちゃん達に力を貸していたら、普通はそっちを警戒するやろ?」
「………………姉さんはケビンさんがワイスマンを滅する事等知っていて正体を隠していたんですか?」
冷たい微笑みを浮かべて語ったケビンの話を黙って聞いていたヨシュアは複雑そうな表情で訊ねた。
「いや……彼女には”結社”―――ワイスマンに彼女の生存を知られたらオレ達の”極秘任務”に支障が出るって説明したら深い事情も聞かずに納得した。まあ、彼女はイオンに保護されてからずっと”星杯騎士団”に関わっていたからな………薄々オレ達がワイスマンを滅する事が真の目的である事を悟っていたかもしれんな。」
「そうかもしれませんね………それでも僕は………あなたに感謝しています。」
「え…………」
心から愛している女性や大切にしている姉を利用したにも関わらず感謝の言葉を口にしたヨシュアの答えを聞いたケビンは呆けた。
「あなたの協力がなかったら僕は教授の操り人形のままだった。何よりも大切なものを………この手で壊してしまう所だった。その借りは一生かかっても返せないと思っているくらいです。」
「はは、大げさやな。言っておくけどアレは君のためにやったんやないで。君の呪縛が解けることでヤツを動揺させて隙を作る………それを狙ってやったことや。」
「それでも僕は………あなたに感謝せずにはいられない。その正体を知ってもなお好意を抱いてしまうくらいに。」
「はは………君、”結社”を抜けて正解だったかもしれへんな。向いてへんで、どう考えても。」
自分の本性を知ってもなお優しげな微笑みを浮かべているヨシュアにケビンは苦笑した。
「ふふ………今更ですが僕もそう思います。―――リースさんの代わりはしばらく僕が務めましょう。彼女ほどではないでしょうがケビンさんのバックアップを務められると思います。」
「だから借りとか考えなくてもええっちゅうのに………でも、まあええか。君かてエステルちゃんやレーヴェ君のことが心配で仕方ないところやろうし。ありがたく力を貸してもらうで。」
「ええ、そうしてください。」
その後ケビンはメンバーを編成し、ケビン、ヨシュア、ジン、オリビエ、ガイ、ティアのメンバーで”第三星層”の終点にある転位陣で次なる”星層”へ向かった………
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