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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第10章 エル・ファシル掃討作戦 後編 ③

 エル・ファシル掃討作戦は最終局面を通過し、私自身も2つ目の山場を越えていた。
帝国軍の抵抗は尋常ではなかった。
帝国軍部隊は帝国軍エル・ファシル駐屯軍司令官 コーネル・フォン・マンシュタイン大将指揮下で強靭な徹底抗戦を行った。
南部大陸第4中枢都市コッツウェルに立てこもっていた。
我々も当然そこへ派兵されるものと期待していたが総司令部は1月に増派が決定し、2月に到着した第20機甲師団、第991装甲白兵戦師団、第122装甲白兵戦師団そして第18空中強襲師団を基幹とする第9次増派部隊の一部を投入した。
どうやらこれをしないと議会に顔向けできないらしい。
この第20機甲師団には私の親友のヒロキ・ルブルック大尉が中隊指揮官として所属していた。
それでも、私たちはヴァーンシャッフェ大佐のごり押しか袖の下かよくわからないがそのおかげで攻略部隊の予備兵力として待機することとなった。

宇宙歴793年 4月14日 
作戦は5日目を迎えていた。
コッツウェルに立てこもる帝国軍の抵抗は尋常ではなかった
すでに第20機甲師団は戦力の4割強を失い、第991装甲白兵戦師団は戦力の5割を失っていた。
帝国軍は建物一棟一棟にに機関銃と対戦車ロケット弾をふんだんに配備し、同盟軍はしらみつぶしに制圧しなくてはいけなかった。
その日、ローゼンリッター連隊のうちリン・パオ特殊作戦学校を経ている隊員たちは前線へ派遣された。
彼らは近接航空支援管制官として任務へ向かうのだ。
私はその免許を持っていないので派遣されないと思っていたが、その護衛部隊指揮官として派遣されることとなった。
しかし、護衛であるし、白兵戦が行われることはほとんどといってなかった。
偶然にもブルームハルト大尉が指揮する派遣隊はルブルック大尉の指揮する第5戦車中隊を援護することとなり私は作戦前に打ち合わせで顔合わせしていた。
大尉は相変わらずやんちゃな少年のようなまっすぐなまなざしであった。
作戦会議が終了し、大尉と話していると突然大尉が胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
その写真には若い女性士官とその腕に抱かれた赤ん坊が写っていた。
大尉は
「かわいいだろ!
つい1か月前に生まれたばっかなんだ。
まだこの手で抱くまで実感がわかないけどね。」
と言って子どもと奥さんを見せてくれた。
どっかの小説でよくあるのだが奥さんや子供の話をいつもしないような兵士がいきなりし始めると何か不吉なことが起きるらしい
なんていうことを少し思い出してしまった。
少しぞっとしたが、まあ大尉なら問題はまずないだろうとおもった…

作戦は1200時 大尉の指揮する戦車中隊と第121装甲白兵戦大隊がD333地区に侵入を始めたあたりに開始された。
私の指揮下の第3中隊からは第1・2小隊と狙撃・偵察小隊のみを引き連れていた。
私の隣の天幕の下に座って、近接航空測定器をいじりながら第123攻撃ヘリ飛行隊と通信を取るのはブルームハルト大尉。
ほんの100m先では白兵戦や銃撃戦が繰り広げられている。
しかし、我々は手出しできない。
そのもどかしさにいらいらしながらヒロキ大尉の近接航空支援要請を待ち構えていた。

待つこと20分後
ある商業ビルの前で部隊が立ち往生し始めた。
様子を双眼鏡で見るとどうやらそのビルが問題らしかった。
すると、大尉から近接航空支援要請が来た!
無線から来た地点をブルームハルト大尉に言うと、大尉は指を立ててすぐに準備にかかった。
地図を取出し、ポイントへの重厚な攻撃法を考え出す。
すぐに終わるなり攻撃ヘリ隊に無線連絡がいった。
すぐさま対地攻撃ヘリAH-40 4機が急降下とともにロケット弾と機関砲を連射するなりビルは音を立てて崩壊していった。
そのあっという間な曲芸をに圧倒されていると緊急無線が入った。
先ほどのAH-40が対空機関銃の攻撃を受けて不時着するそうで、その保護に行ける戦力を探していた。
私はうずうずしている部下を見てブルームハルト大尉に派遣を具申した。
大尉は少し考えてから1個小隊を率いていくように言われた。
やはり大尉も少し例の事件が気がかりなようだ。
例の事件とは
近接航空支援管制部隊のみを特定につぶしに来る帝国軍部隊の存在である。
ここ3日間だけでこの地域の近接航空支援管制を取り扱っている第9艦隊第124航空団第78近接航空支援管制隊はすでに8個近接航空支援管制小隊を全滅させられており明らかに対策しなくてはいけないことであった。
全員処刑形式で殺害されており、その殺し方も目を生きたままコンバットナイフでくりぬかれているなど残虐性は無視できないものであった。
航空団所属の警備部隊が護衛についているものの生存した隊員からは
「悪魔だ」
の一言しかヒントを得られなかった。
わかる範囲でも警備部隊ではかなわない戦技をもち、小隊前後の規模で活動している。
そして、何よりも重要なのが
ナイフを好んで使っていることである。
ローゼンリッター連隊員は刃物を好き好んで使うが、創隊から続く「騎士としての心構え」があるので残虐行為は絶対に行わないことになっている。
そういったところから自然と隊員たちの興味はその帝国軍部隊はどこなのか?
やつらの素性は?
部隊規模は?
などに向かっていくことは自然といえた。
まあ、ブルームハルト大尉であれば問題ないが戦力はあるに越したことはなかった。

AH-40は我々から約5㎞離れたところに不時着した。
上空で待機するヘリからの情報で不時着地点へ敵の集団が向かっていることが確認されており、緊急性を要した。
そのため、我々は連隊本部付隊のOH-11小型偵察ヘリに乗って現場へ急行した。
このヘリはあまりにも小さいため中に人が乗るというよりは外に足をぶら下げて腰かけるという乗り方をするヘリであった。
ライフルを肩にかけて、トマホークを握りしめる。
ヘリには4人までしか乗れない。
隣にはオーランド軍曹、後ろには第1小隊長クレメンツ・ホリー予備役中尉とグレン軍曹がいる。
OH-11は機動性・スピードともに申し分ない偵察ヘリだが人員輸送性だけは最低であった。
そういったこともあって第1小隊の半分と狙撃偵察小隊の半分の人員はヘリで、残りの隊員は軽装甲車で向かっていた。
だんだん不時着現場へ近づいてきた。
攻撃ヘリのパイロットがライフルで応戦しているのが上空から見えた。
私たちの乗るヘリのパイロットが
「降下!」
と言ってきたのでロープを下して降下し始める。
するするするとロープを伝って降下する。
あたりは砂埃で何がなんだかよくわからなかった。
後ろを振り返ってオークランド、グレン軍曹とクレメンツ予備役中尉が降下したのを確認するや否や、砂ぼこりの中へ銃声にするほうへ入っていく。
砂ぼこりが収まる前に建物へ侵入しどこからでも援護できるように射界を確保しに行く。
どこかの飲食店だったのかはわからないが通りに面し、射界の開けた場所を確保した。
屋上へ上がって第2陣以降の降下を誘導する
不時着したヘリは向かいの通りに転がっており、パイロットたちは愛機を盾に激しく応戦していた。
私たちも応戦する。
第3陣到着時点で突撃班を編成した。
砂ぼこりは収まりつつあり、このままではヘリパイがやられるのは時間の問題であった。
私は直接突撃班を率いてクレメンツ予備役中尉に援護射撃をさせた。
スモークグレネードを投擲し、さらに視界を悪くさせる。
物陰に潜みながら、予備役中尉に
「援護射撃開始!」
と同時に突撃班とともに飛びだした。
とにかく無我夢中で走った。
私はヘリの残骸に何とか飛び込み、部下を援護するためにライフルを連射した。
その時悲劇は起きた。
道の真ん中でまだ17歳になったばかりのアレン・オースティン1等兵が
「撃たれた!」
と言って倒れこんでしまったのだ!
1等兵は装甲服の腹部非装甲部分を撃ち抜かれ苦痛にうごめいていた。
私は援護射撃を命じて飛び出そうとするとアントン・グリューネ准尉から思いっきり手をつかまれた。
彼は私を見て叫んだ
「敵の狙撃手です!
あそこをクロスファイヤポイントにして狙ってます。
わたしも撃たれました。」
と言って肩を見せてきた。
准尉の装甲服の肩の可動部分から血があふれていた。
准尉は止血剤を当ててもらいながら悲痛そうな目でこちらを見ていた。
1等兵は私を見て
「中尉 私はいいですから任務を達成してください」
と今にも途切れそうな声で話してきた。
こんなところで固まっていたら、ロケット弾が飛んできて一瞬のうちに吹き飛ばされることは明白であったので迷っている暇はなかった。
私はパイロットのカレン・コーネル中尉と兵器管制士官のマーク・シュトナー少尉を保護してここから一気に離脱を図ることにしようとした。
しかし、部下に命令する言葉が心なしか詰まった。
私はこの時初めて判断に迷った。
アレン1等兵を見捨てておいていくべきか
それとも、死傷者を出してでも救出するべきか
はたまた、装甲車部隊を待つのか
私は防御プラスチックを跳ね上げてもう一回アレン1等兵を見る。
負傷の痛みからなのか、おいて行かれることが分かっているからなのか、そのあどけなさの残る顔には涙が浮かんでいた。
その時だった。
やはり戦争、人間とははかないものである。
アレン1等兵の心臓を流れ弾なのかそれとも狙い定めた1発だったのかは不明だが1筋のレーザーが貫通するのが見えた。
私は驚きでトマホークを落としてしまった。
ヘッドセットから
「中隊長!
次のご命令を!」
とクレメンツ予備役中尉のせかす声が聞こえてきた。
予備役中尉に
「これより撤退する。援護射撃を行ってくれ。」
と言って道を思いっきり400mほど迂回して撤退する。少し遠くには1等兵の遺体が転がっていた。
自分の力量不足でまた部下を一人失ってしまった。
我々はその後、最初に確保した陣地で銃撃戦を繰り広げたのち狙撃偵察小隊長のエミール・レイ曹長が指揮する装甲車隊に拾われて撤退した。
アレン1等兵の遺体は何とか回収することができたが、流れ弾や銃火でかなり損傷した状態であった。

装甲車で包囲網を突破するのはそう難しいことではなかった。
帰還途中に同盟軍は思わぬ苦戦を強いられていた。
第121装甲白兵戦大隊は相次ぐ白兵戦と銃撃戦で戦力を3割近く消耗しており、第5戦車中隊は砲弾や機関銃弾が不足してきており、無理な節約を強いられていた。
我々はからの側面援護に回るために44ブロックに急行するように言われた。
この際、総司令部は予備兵力を投入することを決定しローゼンリッター連隊が投入されたことは言うまでもなかった。
連隊は
我々第3中隊は44ブロック
ブルームハルト大尉指揮下の第2中隊は45ブロック
アーロン少佐指揮下の第1中隊は48ブロック
デアデッケン大尉指揮下の第4中隊は49ブロック
そして、シェーンコップ中佐直轄の連隊第1戦車隊を基幹とする装甲強襲大隊は22から28ブロック
から侵入し敵に平面攻撃をかけ、第5戦車中隊の救出および地区掃討を目的とした。
作戦を立案したのはヴァーンシャッフェ大佐と私やブルームハルト大尉、デアデッケン大尉、アーロン少佐の指揮する中隊の上級部隊である、第1大隊の大隊長アレン・ハルトマン少佐であった。
シェーンコップ中佐は久しぶりにトマホークの腕が鳴るぜ
と通信で嬉しそうにしていたが私自身全体的にやる気が起きなかった。
例の一件もあったし、それと同じくらい私を不安にさせていたのがヒロキ・ルブルック大尉との通信途絶であった。
大尉の搭乗しているM-137戦車が損傷しているのは知っていたが、走行には問題なしとのことだったので安心していたが、
大尉の
「我、敵の包囲下にあり
至急救援を要請す。」
という通信文を最後に通信は途絶した。

ヴァーンシャッフェ大佐が
「攻撃部隊全身開始!」
といった瞬間に我々は装甲車に分乗し前進を開始した。
操縦するのはエリック・ジェフリーズ伍長だ
装甲車操縦手としての腕前は連隊でも1位2位を争ううまさで、どんな悪路でも最高速度を維持して駆け抜ける技術を持つ。
車上機関銃を乱射してゆく手を阻む帝国軍を撃破し、突破する
こういうときは止まったらそこでおしまいだ
外ではロケット推進弾の飛び交う音がしていたが、気にもならなかった
とにかくこの忌々しい作戦を完遂して、大尉を救出して生還することしか頭になかった
走ること20分
第3中隊はジェフリーズ伍長の迅速な操縦を先鋒に包囲網突破に成功し、第5戦車中隊が立ち往生していると思われる地区に一番乗りをはたした。
私はそこで全員下車を命じて、小隊ごとに装甲車の援護下で掃討作戦と第5戦車中隊捜索を開始した。
私もトマホークを持って掃討を開始した。
帝国軍は我々の動きを読んで的確に反撃してきた。

掃討戦開始から10分程度のちのことだった
第3小隊が十字路のところで立ち往生を食らっており、第2小隊に迂回して側面攻撃をかけようとしたが、失敗。
狙撃偵察小隊に狙撃させるも、敵は機関銃陣地の周りを鋼鉄で覆っており貫通せず。
完全に手図まり状態であった。

私は装甲車の無線でこの状況を伝えて、すぐに前線へ向かった。
第2小隊がバリケード越しに激しく打ち返しているが、向こうも負けじと撃ち返す。
私も、バリケード越しにライフルを連射する。
エネルギーパック再装填のために伏せて操作をしていると、
ジェフリーズ伍長が
「中尉!
装甲車であの機関銃丸ごとぶっ潰します!
許可をください!」
私は
「どこにロケット弾陣地があるかわからないんだぞ!
そんな無茶な作戦は許可できん!」
伍長は負けじと
「このままでは中隊が貼り付けになっていつ側面を突かれるかわかりません!
どうか許可を!」
私はこれ以上中隊に犠牲を強いたくなかった。
すでにエル・ファシル掃討作戦開始からアレン1等兵を含めた兵士7名が戦死、下士官も6名が戦死していた。
負傷者も兵士9名、下士官4名、士官は第5小隊長グレン・クライスト少尉(宇宙歴793年4月7日昇進)が地雷を踏んで右足を吹き飛ばされたことで1名負傷していた。
どの隊員も第3中隊所属になってから日が浅い隊員でやはり錬成不足が原因だった。
しかし、やらざるを得なかった。
私はジェフリーズ伍長以下3名の装甲車操縦士に命じて、この作戦の実行を命じた。
ジェフリーズ伍長ら3両の装甲車が突撃完了後すぐに前進して敵の掃討に入ることになっていた。
伍長が
「準備完了!」
と言ってきたので
「幸運を祈る。」
と返して装甲車は前進し始めた。
敵に悟られないように1個手前のブロックまで徐行してから一気に左折して突撃する。
左折ポイントまで来たため伍長が
「これより突撃します!」
私はバリケード越しに射撃する第2小隊に撤退を命じて、伍長に
「突入!」
私はバリケード越しににそれを命じて見守った。
私の命令の瞬間に伍長ら3両の装甲車は最高速度で突撃を開始した。
その時だった
十字路敵側の建物4階から対戦車ロケット弾の先端が見えたのだ!
私はとっさにライフルを取り出し
スコープの中心に帝国軍兵士をとらえてライフルをぶっ放した。
おそらく、彼と私が引き金を引いた瞬間はほとんど一緒だったと思う。
しかし、着弾はこちらのほうが圧倒的に有利だった。
そのため、私の狙撃は彼の頭部を貫いた。
が、想定外とはいくらでも起こるものである
彼は私の放ったレーザー着弾のせいで照準を狂わせ、こちらに向けて心なしか放ってきたのだった!
私は
「全員散開しろ!」
と叫んだ
第2小隊員たちはとっさに四方に散らばった。
ほんの数秒であったが第2小隊員たちが散らばったのちに私は動いた。
指揮官としては当然であるが、命とりであることは間違いなかった。
結果として私からほんの数十cm離れたところにロケット弾が着弾した。
私は今でもあの感覚を覚えている
そう
吹き飛ばされて、宙を舞ったのだ
空挺降下や自由降下の時とは違う感覚だった
地上に落ちたら死が待ち構えているという感覚だ
言葉では説明できない恐怖心に襲われた。
私はバリケードの外側に吹き飛ばされ、左腕からなんかが離れてしまっていた。
それは当然義手であったが吹き飛ばされた後の衝撃で息ができなかった。
かろうじて外見は左腕はついているが、中身はちぎれたコードやらなんやらでめちゃくちゃだった。
隊員たちがバリケード越しにこちらを見て私の名前を叫んでいるのが聞こえた。
ちょうどその時だった
ジェフリーズ伍長の通信が耳を突いた
「中尉!
突入に成功しました!
後は頼みます!」
と言ってきたのだ!
私は右手でトマホークを持って、立ち上がり
「中隊突撃!
俺に後れを取るな!」
と肺が痛む中大声を張り上げて伍長らの攻撃で穴の開いた機関銃陣地へ突撃した
後ろから第3小隊長のマースト・リヒトフォーフェン少尉がトマホークを振り上げて突入してくるのが見えた。
私は、敵陣のずたずたになったバリケードに乗り込んで、まず機関銃をこちらへ向けて反撃しようとしていた帝国軍を機関銃ごと薙ぎ倒した。
さらに奥に踏み込みトマホークをふるってくるヘルメットをしていない若い擲弾装甲兵を貫胴で薙ぎ倒す。
私は左腕が邪魔くさかったので、自分のトマホークで使い物にならなくなった左腕を切り落とした。
それを見ていた擲弾装甲兵は私に手出しもしてこなかった。
私は帝国語で
「おい。こんなのでビビってるのか?弱虫キャベツ。」
と言ったら180くらいの背丈の敵弾装甲兵が雄たけびをあげて接近してきた。
こいつも詰めが甘い
首元ががら空きだ
と思ってやつの首めがけて横へトマホークを振り、ななめへすり抜ける。
血しぶき
首を失った擲弾装甲兵の残骸はその場にどさっと倒れ落ちた。
帝国軍は後ずさりをしようとしたが、私はお構いなく彼らの間合いに一気に入り込む。
前と左右に1人ずつ
計3名一気に切り倒した。
私はその一帯がひと段落すると
「第3小隊および第2小隊は道路右側の建物を掃討
第1・4小隊は左側を掃討
第5小隊は予備戦力として俺のもとに来い!
重火器および狙撃偵察小隊は援護と周辺警戒を行うように!」
とさっそく掃討を命じた。
第5小隊長代理のマックス・シュトレーゼマン曹長が私を見てびっくりして
「中尉!左腕を…
衛生兵!」
と呼びに行ってしまうくらい結構私の状態はカオスであったらしい。

そういうこともあったが、私は直下で第5小隊を指揮下において掃討作戦を再開した。
上空援護をしている第123攻撃ヘリ飛行隊の情報では第5戦車中隊の所在が確認されたのはこの十字路の先の交差点であった。
私は自然と歩くスピードが速くなっていた。
それでも、道中どこから湧いて出てくるのか不思議なくらいの数の帝国軍部隊と遭遇した。
十字路から10m前進したところでは約2個中隊と遭遇し数の上では不利だったので重火器小隊と狙撃偵察小隊を前進させた。
私は重火器小隊に命じて機関銃と軽迫撃砲を用いて道路から200mほど左側を重点的に攻撃させ敵に突破地点をあえて見せつけることにした。
これで、敵の戦力を片寄らせ、戦力の不均衡を生じさせることで逆のポイントからの突破を図ることにした。
重火器小隊の正確すぎる迫撃砲攻撃で敵の左翼防御陣地は崩壊していた。
しかし、上空から援護している対地攻撃ヘリからの報告で軽装甲車5両を含めた約1個中隊が右翼から移動したとのことであった。
私はそれから5分後に突撃を開始した。

「第3中隊突撃用意!
突撃!」

の掛け声で一斉に大通りに第3中隊は突撃を開始した。
私は中隊の先鋒である第3小隊とともに突撃する。
フィリップ・リンザー衛生軍曹が装甲車にあった予備の義手を持ってきてくれたおかげで何とか両腕が使えたものの、やはり少し使いにくかった。
大通り自体は300m程度だったのでとにかく走る。
帝国軍が我々に気づいて機関銃を掃射してくるが焼け石に水であった。
帝国軍の機関銃掃射を潜り抜けて我々は帝国軍の左側面から襲いかかった。
迫撃砲攻撃でめちゃくちゃになった防御陣地には我々を待ち構えるべく設置された即席の陣地があった。
私はその陣地の一つに躍り込んで機関銃を構えていた擲弾装甲兵を肩から切り裂いた。
続いて、私にトマホークを振り下ろそうとしていた擲弾装甲兵の首元をトマホークの槍で突き刺す。
不意を突かれた帝国軍は虐殺される対象以外の何物でもなかった。
約10分後にその虐殺は終わった。
私は殺害した15人まで数えていたが、それ以降は何人殺したかなんて覚えていなかった。
我々にこれ以上捕虜を取る理由もなければ、市民にテロ行為を行ったのであるからこの帝国軍兵士たちは悲しいかな、ここで殺されなくても捕虜収容所から一生出れないことは明白であった。
そういったこともあって、我々は捕虜を取るつもりがなかった。
その意を察した擲弾装甲兵も最初とはくらべものにならないくらいの抵抗を行ってきた。
私は第4小隊に帝国軍の防御陣地の掃討を、重火器・偵察狙撃小隊に援護を命じて、て、第1・2・3・5小隊を引き連れて第5戦車中隊が包囲されていると思われる交差点付近に急いだ。
あたりは黒煙やら火災やらで視界が悪く上空からは状況は視認できない。
周囲を警戒しながら向かう。
私の心臓は今にも止まりそうだった。
第5戦車中隊とその指揮官ルブルック大尉の安否が不安でしょうがなかったのである。
そして、走ること約5分
私たちは戦車のキャタピラー痕を発見し、それをたどった。
その周囲には同盟軍の装甲白兵兵士や帝国軍の擲弾装甲兵が倒れており、どの兵士もすでに戦死していて、遺体の損傷は激しかった。
遺体の生死確認も含めて警戒しながら前進していると前方から銃撃戦の音が聞こえた。
我々は建物を盾にしながら、前方に集中する。
前方は黒煙で状況不鮮明だった。
銃撃戦の音はこちらに近づいていた。
私は第1・2小隊とともに前進して状況確認を行った。
前進すること100mほど
約200m前方で同盟軍の破壊されたM-137戦車を盾に同盟軍兵士が3名が向かい側から攻撃してくる帝国軍に対して打ち返していたのだった。
私は第3・5小隊を呼び寄せて帝国軍の側面から襲いかかることにした。
3ブロックほど迂回して帝国軍の側面に出るのはそう難しいことではなかった。
もはや帝国軍もこの地区では戦力を消耗しており、まともな戦力はないに等しかった。
前方2ブロック先で帝国軍は第5戦車中隊の生き残り兵士を叩き潰そうと躍起になっていた。
一気に片づけることが肝要であったので私は第2小隊の援護射撃下での白兵戦でかたをつけるべく実行を命じた。
第1・3・5小隊が1ブロック手前まで来て帝国軍へ第2小隊が援護射撃を開始した。
私はその瞬間に全速力で帝国軍兵士約1個小隊ほどへ突っ走った。
前方にライフルを打つことで精いっぱいな兵士たちはローゼンリッターの無慈悲な攻撃で数分と掛からず全滅した。
私は第5戦車中隊の隊員たちに
「我々はローゼンリッター連隊だ!
救援に来た!
今からそちらに向かうから、撃たないでくれ!」
と言って近づいて行った。
黒煙のなかを歩くと破壊された戦車が幾両もあった。
同盟軍のもあれば帝国軍のもあった。
そして、私はそれをみて唖然とした。
その光景は想像を絶するものだった。
死体が一列に並んでおり、どの死体も処刑形式に頭部を撃ち抜かれていた。
私はその光景の中にルブルック大尉がいるのではないかと一瞬思わずにはいられなかった。
その信じたくもない予測を振り払って生き残った3名の同盟軍兵士のもとへ急いだ。

結果としてその生き残った兵士は第5戦車中隊員であったがその中にあの陽気な顔をしたルブルック大尉はいなかった。
生き残った兵士は小隊長のカレン・ヨハスン少尉、戦車操縦手のグレッグ・バークレー軍曹、同じく戦車操縦手のマック・ケイン軍曹の3名であった。
カレン少尉は私の士官学校同期で勉強はあまりできなかったが武勲多き士官であった。
少尉から第5戦車中隊の状況とルブルック大尉のことを聞いた。
少尉から聞かされたことは第5戦車中隊の圧倒的不利な中での戦いであった。
第5戦車中隊は本来なら市街地で戦うための機動戦車を装備しておらず、この地区での苦戦を強いられるのは必然のことであった。
しかも、師団上層部の意向で歩兵と戦車を合体させた部隊編成を強いられたため戦車特有の機動力はほぼ皆無といってよかった。
これは第20機甲師団の師団長がジョンソン・ダールキスト准将であったことが原因であった。
第20機甲師団の師団長は生粋の戦車乗りであるコーネル・シングルス中将であったが2月にエル・ファシル到着直後、第9次増派部隊の第18空中強襲師団を基幹として第7・8次増派部隊の第12機甲師団、第21空挺強襲旅団、第199予備役軽歩兵旅団そして、第1山岳師団で構成される東部大陸方面軍司令官に任命されたためそちらへ大将昇進とともに転出してしまったのだった。
自然の成り行きとして当然副司令官であったジョナサン・マッケンジー少将が師団長になったが、少将は3月に行われたカルケドン掃討作戦で戦死してしまった。
そこで、師団長に昇格したのが師団参謀長であったダールキスト准将であった。
この問題のダールキスト准将だが、長年統合作戦本部情報部に勤務していた。
しかし、同期の将軍たちが次々に前線で武功を挙げて昇進していくのに耐えられなくなってもともと情報士官なのに前線勤務を志願し、わいろとかいろいろと動かした結果、第20機甲師団師団参謀長に任命された。
あくまでも前半部分は噂だが、功名心が並はずれてでかいのは事実であった。
それは良くても、作戦立案や指揮統率は最低以外の何物でもなかった。
そのため、歩兵部隊からの戦車による援護が必要とされていたのを思いっきり勘違いした准将は上記のようなことを中戦車を装備する第5戦車中隊に命令してしまった。

そんな不利な中で第5戦車中隊は奮戦したが、周囲をあっという間に包囲され退却許可を師団司令部にとるも認められず、果てには周囲の歩兵部隊は全滅し戦車部隊ですばしっこい歩兵部隊を相手にする羽目になってしまったそうだ。
ルブルック大尉は独断で退却を開始した。
それを見た准将は大尉の指揮権の剥奪を勧告するが大尉は
「部下の命は閣下の出世道具ではございません!」
と言って無線機を司令部といって無線機をぶち壊してしまった。
そして、トランシーバーで上空援護中の対地攻撃ヘリに連絡して師団の指揮外の作戦部隊に救援を要請したところ、ローゼンリッター連隊に救出命令が下ったということであった。
しかし、その後ルブルック大尉の乗った戦車は対戦車ロケット弾を2発くらって行動不可能に陥ってしまったそうだ。
大尉は無線で自分を置いて逃げるように部下に命令したが副中隊長のアーネスト・バーンズ中尉がそれを拒絶し、交代を停止して大尉を救出しに行った。
大尉自身は無傷であったが戦車の乗組員であったケイ・バックス少尉とショウ・グレン軍曹がどちらも重傷を負っており彼らを運び出そうとした瞬間に後背からまたロケット弾が飛んできて大尉は吹き飛ばされたそうである。
あたりに黒煙が立ち上りどこに大尉が吹き飛ばされたのかがわからなくなってしまった。
しかし、大尉の無線からは
「逃げろ…
逃げるんだ…
俺を置いて逃げろ」
という命令が聞こえ、カレン少尉たちは脱出したそうである。
しかし、その途中で帝国軍の攻撃に捕捉され結局生き残ったのはカレン少尉以下3名となってしまったのであった。

私はそれを聞いた瞬間に踵を返して大尉を探しに向かった。
部下の制止を振り切って探しに行った。
どの通りにも破壊された戦車や丸焦げになった死体があった。
それにかまわず歩みを進めた。
そして、先ほど帝国軍に側面攻撃を行った地点よりさらに400mほど下がった通りで処刑形式で殺されたと思われる戦車兵の遺体を見つけた。
その遺体は識別できないほど損傷しており、明らかな虐待ののち殺害されたことが分かった。
顔は識別できなかったがその遺体が大尉であることは私にはすぐに分かった。
それは義足である。
そこに刻まれた大尉の名前・生年月日・血液型等で判別がつく。
私は、ヘルメットを外し
大尉の前でうずくまった。
涙が止まらなかった。
大尉とは数か月とはいえ教官仲間として親しかった仲でもあり、何よりも戦友であった。
何分間そこにうずくまっていたかはわからない。
しかし、後ろに気配を感じた。
それもトマホークを振り上げている音が!
私はそれに気づいて一気に右にはねとんだ
そして、コンバットナイフをその方向に投げると奴はそれをよけてトマホークを持ってこちらに突っ込んできた。
私もトマホークを持って反撃する。
いっきに貫胴でかたをつけてやろうと思って貫胴の体勢に入るが嫌な予感が頭をよぎる
このままではやられる
なんとなくそう思ったのだ
私は貫胴をやめて防御態勢のまま突っ込んだ
するとトマホークに敵のトマホークが当たった!
私はそれを切り返して攻撃するが敵も反撃し、かわされる
お互いに間合いをとって、にらみ合う
すると、後ろから
「中尉! 中尉!」
と叫びながら第3中隊員がライフルを射撃しているのが見えた。
すると、奴は煙幕手りゅう弾を私に投げつけて退却していった。
私は追撃しようにも視界不良でできなかった。
あの擲弾装甲兵は何者だ?
という疑問と大きな徒労感から私はその場に立ち尽くしていた。
第3小隊長のリヒトフォーフェン少尉に呼び掛けられるまで、私は呆然としていたらしい。
そして、ルブルック大尉の遺体を見る。
一気に現実に引き戻された。

こうして、その日の掃討作戦は同盟軍の苦い勝利で終結した。
300名以上の犠牲を払って
帝国軍は同盟軍捕虜を虐殺し、死体にさらに損傷を与えるなど残虐行為で同盟軍の士気をそごうとしていた。
同盟軍兵士たちはいきり立つものもいたが、帝国軍の予測通り戦意を喪失し前線勤務を嫌がる兵士まで現れた。
ローゼンリッター連隊はどちらかというと前者のほうであったが、それでも実戦経験の未熟な兵士ほど前者に偏りがちであった。
その日ローゼンリッター連隊はシェーンコップ中佐・ブルームハルト大尉の率いる部隊の異常な前進距離によってこの地域に取り残されていた700名の市民を救出することに成功し、多くの敵部隊を壊滅・撃破したことで殊勲部隊表彰を受けた。
中佐と大尉はそれぞれ第1級殊勲勲章と第2級勲功勲章を授与された。
私自身も不時着したヘリパイの救出作戦での殊勲で銅星勲章(ブロンズスター勲章)を授与された。
第3中隊も連隊長から殊勲中隊賞を授与された。
そんなことは私にとってはどうでもよく、部下を失ったこと、ルブルック大尉が戦死したこと、そしてあの謎の強敵の正体などが頭の中をくちゃくちゃにかき乱しておりどうしようもない徒労感に襲われた。
作戦完了から5日後の勲章授与式・部隊表彰式が完了した後の駐屯地は賑やかであったが私はそういうこともあり自分のテントのベッドに倒れこんだ。
その時はすべてが終わったと思っていた。
全大陸で掃討作戦は9割方完了しており、残す任務は民生支援のみという方面軍まで存在した。
そうであっても無理はないのだが、現実はそう甘くはなかった。
その本当の現実が3日後に起きるとも知らずに

宇宙歴793年 4月19日のことである。 
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