英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第79話
~???~
「……ここ……は……」
「………エステル…………」
何もない真っ暗な空間にエステルが目覚めると、聞き覚えのある声がした。
「ヨシュア!?」
声がした方向にエステルが振り向くと、そこにはヨシュアがいた。そしてエステルはヨシュアに向かって走って行ったが、いくら走ってもヨシュアの元に行けなかった。
「な……なんで……?」
「いいんだ……。……もういいんだよ……」
いくら走ってもヨシュアに近づけない事にエステルが戸惑っている中、なんとヨシュアの片腕がヨシュアの体から外れて、地面に落ちた!
「ああっ……!」
「元々……僕は壊れた人形だから……」
それを見たエステルが悲鳴をあげ、そしてヨシュアのもう片方の腕もヨシュアの体から外れて、地面に落ちた!
「人間には戻れないから……」
そしてついには、ヨシュアの身体が完全にバラバラになってしまった!
「だから…………もういいんだよ……」
「……………あ………………」
そしてヨシュアは体を震わせながらバラバラになったヨシュアに近づき、ヨシュアの頭を拾い上げた。
「ありがとう……。さよならエステル……」
そしてヨシュアは目を閉じた。
「い……いや……。いやあああああっ!」
~???~
「……あ……………………」
ベッドの上で眠っていたエステルは目を覚ました。
「大丈夫ですか、エステルさん!悲鳴を上げたので心配していたのですが………」
(何か怖い夢を見たの?)
目を覚ますと目の前にはテトリとパズモが心配そうな表情でエステルを見つめていた。
「テトリ……パズモ……… うん……もう最悪な夢……。だいたい、あんな人形なんか出てくるから変な夢を―――」
2人の言葉に答えかけたエステルだったが、ある事に気付いた。
「って!ここ、どこ!?確か、あたし、ガスを吸ったせいで………!」
(………落ち着け。今、説明してやる。)
「永恒……うん。一体、何があったの?」
周りを見回して慌てているエステルにサエラブは静かな様子で念話をし、サエラブの念話に頷いたエステルは真剣な表情でサエラブを見た。そしてサエラブ達はエステルが眠ってしまった後、レーヴェに浚われ、結社の拠点らしきところに連れてこられたことを説明した。
「ここが結社の”拠点”………」
「…………窓を見て、エステル。」
「へ?窓………?」
ニルの言葉を聞いたエステルはベッドから降りて窓から外を見た。
「な…………!」
窓の外を見たエステルは驚いた。なぜなら、エステルは巨大な赤色の飛空戦艦の中にいて 、そして戦艦は空を飛んでいた!
「………………(パクパク)」
「”紅の方舟”グロリアス……。この飛行艇だけで、一国の軍隊を圧倒することが可能だそうよ………」
窓の外を見て、呆けているエステルにニルは真剣な表情で説明した。
「なんでニルがそんな事を知っているの………?」
(………”あの男”………我等がいると知っているのか、眠っているお前にまるで誰かに話すかのように自慢げに説明していたからな。我等がいるとわかっていてわざと説明するあの口……その喉を喰いちぎってやろうかと思ったほどだ………)
「”あの男”………?」
サエラブの念話にエステルが首を傾げたその時
「ようこそ、エステル君。寝心地はいかがだったかな?こんな場所に連れて来られてさぞかし混乱しているだろう。だが、我々は君に対して危害を加えるつもりはない。安心してくれて結構だ。」
部屋中に誰かの声が聞こえた。
(!!この声……”あの男”のものだ!)
(気をつけて、エステル!)
「………………………………」
声を聞いたサエラブとパズモはエステルに警告し、エステルは真剣な表情で黙っていた。
「どうだろう、一度ゆっくり話してみるつもりはないかね?結社のこと、我々の目的、そして共通の友人について……。色々な疑問に答えてあげられると思うよ。」
「……いいわ。聞かせてもらおうじゃない。」
声の話を聞いたエステルは怒りを抑えた表情で答えた。
「よろしい、待っているよ。そこの部屋を出ると、見張りの兵がいる。彼が案内してくれるだろうから、大人しくついて行ってくれ。」
そしてエステルはパズモ達を一端体に戻し、部屋を出た。部屋を出ると見張りの紅蓮の猟兵がいて、エステルをある大部屋まで連れて行った。そしてエステルは大部屋に入った。
~グロリアス・聖堂~
エステルが入ると、奥でワイスマンがオルガンを弾いていた。そしてエステルの気配に気づくと、オルガンを弾くのをやめた。
「ようこそ……”紅の方舟”グロリアスへ。久しぶりだね、エステル君。」
「アルバ教授……。やっぱりあなただったんだ。さっき声を聞いてようやく思い出せたわ。」
「フフ、さすがは”剣聖”の娘といったところかな。軽くとはいえ、封鎖された記憶を自力で思い出してしまうとはね。」
エステルの話を聞いたワイスマンは凶悪な笑みを浮かべながらエステルに感心していた。
「………………………………」
「ちなみに本当の名前は、ゲオルグ・ワイスマンという。”身喰らう蛇”を管理する”蛇の使徒”の一柱を任されている。」
「”蛇の使徒”……。”結社”の最高幹部ってとこ?」
「まあ、そのようなものだ。さてと―――先ほど言ったように私には君の疑問に答える用意がある。何か聞きたいことはあるかね?」
エステルの疑問に答えたワイスマンはエステルに尋ねた。
「………………………………。……聞きたいことがあり過ぎて何から聞こうか迷うんだけど……」
「焦ることはない。ゆっくりと考えたまえ。よかったら一曲、弾かせてもらおうか?」
「結構よ。ていうか、そんな趣味を持ってる人とは思わなかったんだけど……。貧乏な考古学者っていうのは完全に嘘っぱちだったわけね。」
ワイスマンの申し出を断ったエステルはジト目でワイスマンを睨んで言った。
「フフ、貧乏はともかく考古学を研究してるのは本当さ。ちなみにパイプオルガンは教会にいた頃、嗜んでいたものでね。あの帝国人ほどではないが、それなりの腕前だっただろう?」
「きょ、教会にいた……?」
「いわゆる学僧というやつさ。”盟主”と邂逅したことで信仰の道は捨ててしまったが……。その時に学んだ古代遺物アーティファクトの知識は今もそれなりに役立っている。そう、今回の計画においてもね。」
「………………………………。大佐をそそのかしてクーデターを起こさせたのも……各地で《ゴスペル》の実験をして色々な騒ぎを起こさせたのも……全部……あんただったわけね。」
エステルは真剣な表情で尋ねた。
「その通り―――全ては”福音計画”のため。」
「『福音計画』……。あの研究所のデータベースにもそんな項目があったけど……。要するに”輝く環”を手に入れる計画ってわけ?」
「手に入れるというのはいささか誤った表現だが……まあ、そう思ってもらっても構わないだろう。」
「”輝く環”って何?女神の至宝って言われているけど具体的にはどういうものなの?」
「”輝く環”の正体に関しては現時点では秘密にさせてもらおう。せっかくの驚きを台無しにしたくはないからね。」
「驚きって……」
ワイスマンの答えを聞いたエステルは呆れた表情をした。
「計画も第3段階に移行した。もう少しで、その正体は万人に遍く知れ渡ることになる。フフ……その時が楽しみだよ。」
「………………………………」
「そして”環”が現れたその時……我々は、人の可能性をこの目で確かめる事ができる。」
「人の可能性……。”レグナート”もそんな事を言っていたような……」
「ほう、あの聖獣からそこまでの言葉を授かったか。ふむ、あながちお父上の七光りだけではないようだね。」
エステルの話を聞いたワイスマンは感心した表情でエステルを見た。
「お世辞は結構よ。何よ……色々質問したってはぐらかしてばかりじゃない。」
「これは失礼……そんなつもりじゃなかったのだが。だが、君が一番聞きたい質問にははっきり答えられると思うよ。」
「………………………………」
「おや、何をそんなにためらっているのかな?恐れることはない。勇気をもって訊ねてみたまえ。」
「………………………………。ヨシュアは……どこにいるの?」
ワイスマンに促されたエステルは不安げな表情で尋ねた。
「フフ……それは私にも分からない。どうやら空賊たちと一緒に何かを画策しているようだが……。いまいち動きが掴めなくてね。今のところ、生きているのは間違いないだろう。」
「そ、そうなんだ……」
「ヨシュアの能力は、隠密活動と対集団戦に特化されている。そのように調整したのは私だが予想以上の仕上がりだったようだ。フフ……どこまで頑張ってくれるか楽しみだよ。」
「あんた……」
楽しそうに語るワイスマンをエステルは睨んだ。
「ああ、そんなに怖い顔をしないでくれたまえ。私の元に預けられた時、ヨシュアの心は崩壊していた。そんな心を再構築するなど私にも初めての試みだったのだ。その成果を気にかけるのは研究者として当然とは思わないかね?」
「………………………………。……あの生誕祭の時、ヨシュアに何を言ったわけ?」
「封じた記憶を解除して真実を教えてあげただけだよ。君の家に引き取られた彼が無意識のうちにスパイとして”結社”に情報を送っていたこと……。そして、彼の情報のおかげでリシャール大佐のクーデターが成功し、我々の計画の準備が整った事をね。そのご褒美として、改めて”結社”から解放してあげたんだ。」
(……こ奴………!)
(なんて、卑劣な男……!)
「………………………………。……やっと分かった……。ヨシュアがどうして……あの夜……姿を消したのか……。どうしてあんな顔で……さよならって言ったのか……」
ワイスマンの話を聞いたサエラブとニルはエステルの体の中から睨み、エステルは頭をうつむかせて、身体を震わせながら、静かに呟いた。
「いや、それについてはさすがに遺憾に思っているよ。自分を取り戻したヨシュアが君たちの前から姿を消すとはね。そのまま素知らぬ顔で君たちと暮らしていくといいと勧めておいたのだが……。フフ、親切心が仇になったかな?」
「よくも……そんな事が言えるわね……。そんな道を選ぶしかないようヨシュアを追い詰めたくせに……。あんな顔をして……ハーモニカをあたしに渡して……。さよなら……エステルって……」
そしてエステルはワイスマンを睨んで、棒を構えた、そして!
「全部、全部ッ!あんたのせいじゃないかああ!」
エステルは叫びながら、棒を持って、ワイスマンに襲いかかって攻撃しようとした!
「…………………」
「あうっ……」
しかしレーヴェがワイスマンの前に現れて、剣を振るって、エステルを吹っ飛ばした!
「”剣帝”レーヴェ……。い、一体どこから現れたの……」
「……最初からここにいた。お前が気付かなかっただけだ。」
信じられない表情で尋ねるエステルにレーヴェは静かに答えた。
「やれやれ……何とも品のない振る舞いだ。」
さらに聞き覚えのある声がした。すると、”怪盗紳士”ブルブラン、”痩せ狼”ヴァルター、”幻惑の鈴”ルシオラがエステルの目の前に現れた!
「クカカ、そう言うなよ。”白面”に殴りかかれるなんざ並の度胸じゃできねえはずだぜ。」
「ふふ、腕はともかく度胸だけは大したものね。それとも鈍いだけなのかしら。」
ヴァルターは不敵に笑い、ルシオラは妖しげな笑みを浮かべていた。
「あ……う……」
”執行者”達がいっきに現れた事にエステルは思わず、後ずさりした。
「ウフフ……君が”剣聖”のお嬢さんか。」
そしてさらにカンパネルラも現れた!
「フフ、初めましてかな。執行者No.0―――”道化師”カンパネルラさ。以後、ヨロシク頼むよ♪」
「くっ……」
カンパネルラも”執行者”と知ったエステルは呻いた。
「ハハ、心配しなくてもいい。君を始末するために集まった訳じゃないよ。」
「へ……?」
ワイスマンの言葉を聞いたエステルは驚いた。
「どうだろう、エステル君。”身喰らう蛇”に君も入ってみる気はないかね?」
「へ……。……ごめん。聞き違えちゃったみたい。もう一度、言ってくれない?」
ワイスマンの提案を聞いたエステルは呆けた後、言った。
「君も”身喰らう蛇”に入ってみる気はないかと言った。まずは”執行者”候補としてね。」
「あ、あ、あ……あんですってー!?」
そしてもう一度言ったワイスマンの提案を聞いたエステルは驚いた表情で大声で叫んだ。
「フフ、そんなに驚くことではないだろう?考えてもみたまえ。君が”結社”に入ればヨシュアも意地を張らずに戻ってくるとは思わないかね?」
「あ……でも………あたし…………」
ワイスマンの説明を聞いたエステルは顔を俯かせた。
「フフ、ゆっくりと考えたまえ。この後、我々はしばらく艦を留守にする必要があってね。帰ってきたら、その時にでも返事を聞かせてもらおうか。」
ワイスマンが指を鳴らすと、紅蓮の猟兵が2人現れた。
「申し訳ないが、それまでは君の自由は制限させてもらうよ。足りないものがあれば彼らに希望を伝えるといい。」
そしてエステルは紅蓮の猟兵達に自分が眠っていた部屋に連れていかれた…………
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