目薬
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7部分:第七章
第七章
「ヤマトンチューの堅苦しさとはまた別だからなあ」
「ヤマトンチューは」
「それって」
「所謂日本人ってことよ」
また佐野が二人に対して説明する。
「沖縄は昔違う国だったから」
「ああ、琉球王国ですね」
「それですね」
「そうよ」
また二人に対して話す。
「別の国だったからそうした表現になるのよ」
「成程」
「そうなんですか」
「さて、どうなるかしらね」
佐野もまた興味深い顔でその桐野を見ていた。
「マネージャーの地は」
「むっ、何か出してきたぞ」
部長はその桐野の動きを見て述べた。
「あれは」
「お弁当?」
「みたいだけれどあれは」
「こうしたものをこそこそ食わないといけないのは悲しい」
彼は言いながらその出してきた弁当を食べはじめる。見ればそのメニューはかなり独特のものだった。
「ミミガーに」
「ええと、ゴーヤに」
「ラフテーね」
「どれも沖縄料理だな」
四人は桐野が事務仕事をしながら食べはじめたその弁当の中身を見ながら述べた。四人共沖縄料理についての知識はしっかりとあった。
「それを急に食べはじめるなんて」
「そういえばマネージャーって今まで人前で食べていたことってないけれど」
「実は違っていた」
「そうだったのか」
「あけっぴろげに山程食べないと駄目なんだよ」
桐野は四人に対しても言う。
「いつもね」
「ううん、まさかマネージャーって」
「実は開放主義?」
「そうみたいね」
三人はここでこのことを悟った。
「どうやら」
「そうだったのか」
「わからないものだな」
部長は自分の顎に手を当てて考える顔になって述べた。
「本当にな」
「わからないっていいますと?」
「いや、だから本当の自分というものはだよ」
それがわからないと。佐野に対して話すのだった。
「実際にね。わからないものだね」
「それが、ですか」
「実際になんですね」
「うん、本当の自分自身は中々見えない」
あらためて麻里子と響に対して話す。
「桐野君にしてもね」
「正直ですね」
その桐野からも言ってきた。
「ありのままの自分を人前で出すのなんて」
「はじめてだったか」
「はい」
まさにその通りだという。言葉は標準語に近いがそれでも訛りは確かに沖縄のものだ。そうした意味で彼は確かに沖縄人であった。
「本当に」
「そうか。しかし悪い気はしないな」
「それはありません」
桐野はその沖縄のアクセントで答えた。
「むしろ気分がいいです」
「そういうものだな。とにかくいい薬だよ」
部長はその薬を見ながらまた話した。
「ありのままの自分を出させてくれるんだからな」
「そうですね。それは確かに」
麻里子は部長のその言葉に頷いた。
「これからも時々使ってみます」
「いいことね。ただ」
「ただ?」
「できれば昔の鹿児島の言葉も聞きたいわね」
佐野がくすりと笑って麻里子に言ってきた。
「それはね」
「勉強してみます」
「どんな言葉かね。聞きたいわね」
そのありのままの自分を出した麻里子への言葉だった。この目薬はヒット商品になった。誰もがありのままの自分を出したい時があるからこそ。
目薬 完
2010・7・27
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