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目薬

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3部分:第三章


第三章

「CMじゃわからなかったけれど」
「そげん思われますか、チーフは」
「ええ、それでね」
「はい」
 麻里子は佐野の言葉を受けて応える。
「その目薬何処にあるかしら」
「ここでごわす」
 言いながらすぐにその目薬を差し出した。
「使われるとですか?」
「よかったらね」
 実際にそうするというのだった。そうして彼女も使ってみる。部長も同時にだ。するとであった。
「それで言葉遣いどんなのなってるけえ?」
「まんま広島弁やで」
 部長が佐野に返す。
「どっからどう聞いてもな」
「そうですね。これ間違いないですけえ」
「何か広島弁って怖いんだべ」
 響は佐野の広島弁を聞いて呟いた。
「仁義なき戦いみたいでおっかないんだべ」
「まあそれは否定しないけえ」
 佐野は本当に広島弁そのままだった。
「けれど私はずっとこれ使ってたけえのお」
「そうだったんだべ」
「そうじゃけえ。ついでに言えばカープ命じゃけえ」
「カープって最下位になりそうだべな」
 響は余計なことを言ってしまった。
「まあ横浜あるから大丈夫だべな」
「そうでごわすな。今年はピッチャーが酷いでごわす」
 麻里子も言ってしまった。
「監督とコーチがやばいでごわす」
「その話はいいんじゃけえ」 
 佐野は二人を嗜めた。しかしそれだけで、あった。
「まずは仕事はじめるけえのう」
「やっぱり凄く怖いんだべ」
「その筋に聞こえるでごわす」
「まあなあ。広島いうたらそれやからな」
 部長もそれは否定しない。
「まあしかしや。仕事はじめるで」
「わかりましたけえ」
「そうするでごわす」
 こう話してだった。この日全員方言丸出しで仕事をした。するとであった。
「何か昨日は随分能率がよかったわね」
 佐野は自分の席から話した。
「何でかしら」
「あの目薬のせいですかね」
 響は仕事をしながら佐野の言葉に応えた。白と青の冷暖房の効いたオフィスには今は標準語が流れている。昨日とは違う。
「やっぱり」
「そうよね。私も何か」
 佐野は仕事を続けながら話す。
「昨日は気持ちよく仕事できたわ」
「方言だと何かあるんでしょうか」
 麻里子もそれを言う。彼女は今はパソコンのボードを叩いている。
「やっぱり」
「少なくとも開放的になりましたよ」
 その名古屋の後輩も言う。
「地元にいるみたいで」
「そうかもね。横浜はね」
 実はこの会社は横浜にある。
「方言あまりないしね」
「都会とか以上に」
「何か違いますしね」
「本社は神戸だけれどね」
 このことも話される。八条グループというグループの中の一社なのだ。
「神戸も方言弱いかしらね」
「まあ大阪程じゃないですね」
 名古屋の後輩もそれを話す。
「大阪はどぎついまで凄いですし」
「部長って大阪出身ですよね」
「住吉なのよ」
 佐野は麻里子の問いに答えた。
「そこでずっと生まれ育ってる人だから」
「何かあまり方言出てないですけれど」
「苦労してなおされたみたいよ。私も実際大学卒業までずっと広島だったし」
 佐野自身もそうだったのである。
「広島弁なおしたけれど。どうもねえ」
「方言の方がしっくりきますよね」
 響は言った。
 
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