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深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

作者:null*
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妖精および乳児との接触記録

会話記録─1936年5月8日
非公式聴取
■■■■■■(検閲および削除)から取得。

伊賀崎:敬語と丁寧語についてはこれで分かったかな?
乙姫:はい、ありがとうございます。
伊賀崎:よろしい、では私はこれで。明日は露木くんの担当だ。
乙姫:あの伊賀崎さん。お話したい事があります。
伊賀崎:どうした?
乙姫:前にお話しましたよね。私がこの世界に来た時の話。
伊賀崎:ああ。
乙姫:その時に仲間とも離ればなれになったことも。
伊賀崎:そうだね、話をした。
乙姫:実は彼らが私の居場所を見つけて合流したがっています。
伊賀崎:ふむ……。少し疑問がある。
    その"彼ら"はどうやって君の居場所を見つけたのか。
    それとどうやってコンタクトを、話をしたのか。
乙姫:居場所に見つけた事については本当に分かりません。
   彼らについては私でも分からないことが多いです。
   どうやって話をしたのかですけどそれは……えっと……とても説明しずらいですね。
   彼らはとても特徴的な話し方をします。
   それはとても遠くまで言葉を届けることが出来ます。
伊賀崎:彼らについてもっと教えてくれ、姿や話し方以外の特徴など。
乙姫:そうですね……、小さくて可愛らしい方々ですよ。
   この世界でいうと妖精さんと言った方が姿を思い浮かべやすいかもしれません。
   羽はありませんが……。
   私達の言葉ではprimiðs(※1)と呼びます。

(※1)先駆者、さきがけなどの意味も含まれるようです。

乙姫:とても手先が器用で宝飾品なんかも作ってくれましたよ。
   それと故郷では私達の生まれる遥か前から栄えていたとか。
   こんなところです。
伊賀崎:彼らは白ちゃんと合流して具体的に何を?
乙姫:彼らは私に仕えていましたが従者というよりは大切な友人でしたから。
   親友と会うのに理由はいらないでしょう?
伊賀崎:分かった。上と掛け合ってみるがあまり期待はしないでくれ
乙姫:あっ、それともう一つ。
伊賀崎:何かな?
乙姫:彼らと共に赤ん坊が、男の子が一人います。
   その子も一緒に。
伊賀崎:男の子?その子は一体どういう……。
乙姫:えっと……日本語で言うと……あっ、そうそう。
   私の甥になる子ですね。

記録終了


1936年5月10日
伊賀崎特務調査員の提言により統括委員会が招集。
乙姫の友人であるとされる"妖精"と彼女の"甥"の受け入れについて議論されました。
結果的には受け入れは容認され同時に施設警備予算と資源の増加を決定しました。


施設内に"敵"を受け入れるとして不安を持ち、今回の決定に納得しない者も多いだろう。
だが今一番大事なのは"知る"ことだ。彼らがもたらしてくれる情報を逃してはならない。
─統括委員会

同日の午後10:00にモールス符号による電信で正体不明のメッセージを受信。
内容は以下の通り。


・・- -・-- ・- ---  ・-・・ ・-・-・ --・-・ ・--  --・-- --・-・ -・  - ・-・・ ・・- -・- -・ ・--・-・ -・・・- ・--・-・
ウケイレ カンシャ アシタ ムカウ Σd@-@


彼が優秀な通信士であることを願うよ。─伊賀崎



収容行程─1936年5月11日
午前12:11に巡回中の警備員が施設東の林の中から移動してくる37体の妖精と車輪付きの揺り籠で妖精たちに運ばれる乳児を発見。
即座に収容部隊が出動しました。

警戒態勢の中、収容部隊は妖精のリーダーと思われる個体と交渉。
彼らは協力的な態度をとり、無事収容に成功しました。





収容した乳児について
乳児は生後7か月の男子です。
髪は黒、目は茶色、身長は73.0cm、体重は8870gです。
名前は飛峰和 蒼太郎(聴取記録─1936年6月18日を参照)。
検査の結果、異常はありませんでした。
現在は乙姫や妖精たちの希望により彼らと同じ収容室にいます。
経過観察が進行中です。



妖精について
識別名"妖精"は小型の人型存在です。
現在は全部で37体を収容しています、平均身長は21cm、平均体重は523gです。
収容において各個体に1から37までの番号が割り振られます。

彼らは互いのコミュニケーションや乙姫との会話に小鳥の鳴き声のような音を使用します。
乙姫はこの"言葉"を理解しているようです。
我々に対しては筆談によって会話を行おうとします。
地球上の言語もある程度は理解しているようで実験において英語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語の会話能力を見せました。
その他にもサンスクリット語、ノルド語、ラテン語、ヘブライ語の単語への理解も示しましたが、これらは個体番号7番、16番、25番、34番のみに見られました。
日本語も理解しており彼らに筆記用具と紙を渡せば会話が可能です。

身に着けている服や髪形や装飾品などにそれぞれに個性があり、なおかつ現代的で女性的な服装しています。
この世界の概念や法則、道具の利用法などにも理解を示し乙姫と同様に高水準の知識と文明を備えていると思われます。

また彼らは食事をしますが排泄は観察されませんでした。
収容時は薄茶色の固形物を所持しておりこれは恐らく緊急時の食料と思われます。
毒物検査の後に職員による試食が行われ手触り、食感、味などがクッキーに似ているとのことでした。

身体的特徴としては各個体における性差がなく乳房、性器、肛門が観察されませんでした。
雌雄同体と考えられており、今まで生殖行動や妊娠が確認された例はありません。



行われた観察実験一覧。
コミュニケーションの手段として紙と鉛筆が用意される。





#1
方法
個体番号8番に鉛筆と紙を渡す。
結果
対象は紙に■■■■■■■(検閲および削除)と書き、大きく紙を広げて我々に見せた。
直後に個体番号1番に頭を叩かれ畏縮する。
対象は個体番号1番に叱責されているように見える。
叱責の後、対象は紙に「ごめんなさい」と書き我々に見せた。



#2
方法
個体番号16番に様々な動物の写真を見せる。
結果
対象は犬の写真に興味をもつ。
対象は犬の付けている首輪を指さし、
「彼はマゾヒズムの傾向があるのか?」と書かれた紙を我々に見せた。



#3
方法
個体番号2番、9番、12番、30番に数種類の和食を提供。
結果
納豆において2番、9番、30番が拒否の姿勢を示す。
ただし12番が納豆を積極的に消費する。
マグロの刺身が提供されるが4体とも消費はせず、困った様子を見せる。
その後、30番が「火は無い?」と書かれた紙を我々に見せた。
その他の料理は問題なく消費された。

補遺
彼らにも食事を楽しむ文化があるようだ、生食を除いて。



#4
方法
個体番号26番、32番に児童書を提供。
本の内容は主人公と飼い犬の別れ。生と死を題材にしたもの。
結果
32番は号泣。
26番は平静を装っているがわずかに涙を浮かべている。
「今どんな感情か?」という質問を投げかけた。
32番が「悲しい。かわいそう。この犬はどうやったら救える?」と筆記で回答。

補遺
異なる種への慈愛、情動性の涙の分泌。この結果は興味深い。



#5
方法
個体番号15番に積み木を提供
結果
三角形の積み木、および紙と鉛筆を使って我々にピタゴラスの定理を解説した。
その後、「どう、すごいだろ」と書かれた紙を我々に見せた。


#6
方法
個体番号25番に様々な西洋美術品の写真を提供。
結果
25番は黙々と全ての写真を見た。
我々が感想を聞くと、「素晴らしい。だが皆もうちょっと痩せた方がいい」と筆記で回答。



#7
方法
個体番号34番に"スワンプマン"の思考実験を実施。
結果
詳細を説明し、34番に自分の考えを述べるように求めた。
34番は「何を言っているんだ?泥が動くわけないだろ」と筆記で回答。


#8
方法
個体番号1番に"トロッコ問題"の思考実験を実施。
結果
詳細を説明し、1番に自分の考えを回答するように求めた。
1番は「see no evil」と筆記で回答。


#9
方法
個体番号1番にファンタジー小説を提供。
内容は冥王の支配から逃れる為に主人公が戦うというもの。
結果
1番に作品の感想を求めた。
1番は「この指輪欲しい。」と筆記で回答。
作品中に出てくる物品を指していると思われる。



事を起こす前に言っておく。"妖精"は君達のおもちゃじゃない、区別は付けるべきだ。
─伊賀崎


破損データ
不完全な文書化。管理部に問い合わせてください。
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個体番号1番に水鬼の写真を提供。
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写真を見せ情報を求めた。
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Error528125[]/\/^@生体装備を指し、情報を求め��
266��「かつては我々の友だった」@@@��回答NULL。
1番はこれ以降の回答を拒否した。/\/EOF





特記事項
個体番号1番について
肩まで伸びる灰色の髪と白色の羽織を着ている個体です。
羽織に模様は無く背の部分に翼を広げた鳩のような鳥類が青色の糸で刺繍されています。

1番はその他36体の妖精のリーダーと考えられています。
彼らの観察において他の個体への指示や叱責、激励でまとめ上げ、他の個体も1番に逆らわず忠誠心が見てとれます。
また妖精の中では乙姫との接触頻度が高く側近としての役割もこなしていると思われます。

乙姫と共に飛峰和 蒼太郎の世話もしており、我々と蒼太郎との接触をあまり快く思っていない様子が観察できます。
飛峰和 蒼太郎の定期健診にも必ず同席を求め、警戒した様子で我々を監視しています。


聴取記録─1936年6月18日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:妖精 個体番号1番

コミュニケーションの手段として対象者に紙と鉛筆が提供されます。



伊賀崎:個体番号1番、君にいくつか質問したい。大丈夫かな?
個体番号1番:個体番号1番とは私の事か?
伊賀崎:そうだ。よければ名前を教えてほしい。
個体番号1番:青鳥 あおどり
伊賀崎:青鳥か。
    えらく日本風の……えっと、こちらの世界の住人のような名前だが何か理由が?
個体番号1番:こちらの言葉に訳した。
伊賀崎:そちらの言葉で書けるか?
個体番号1番:書けない、我々には文字が無い。
伊賀崎:発音は出来るか?

<個体番号1番が鳴き声を上げる。鳥の囀りのように聞こえる。>

個体番号1番:理解出来たか?
伊賀崎:すまない、我々には判別できないようだ。
個体番号1番:仕方ない。
伊賀崎:話題を移そう。まず確認したい。
    乙姫からの情報によれば君達は彼女と一緒にここに逃げてきたという事だが。
    それは正しいかな?
個体番号1番:正しい。女王陛下と共にこちらに逃れた。
伊賀崎:ふむ。君達と乙姫との関係について教えて欲しい。
    失礼、女王陛下と呼んだ方が良いかな?
個体番号1番:そちらの呼び方で構わない。
    我々は女王陛下の従者であり庇護者であり世話係、そして友。
    我々は自身の存在を懸けて女王陛下と陛下の居られる世界を守る。
    伝わったか?
伊賀崎:ああ、大丈夫だ。
    次の質問だ。君達はどうやってここに辿り着いた?
個体番号1番:無線傍受と偵察活動。
    そちらの暗号方式は変えた方がいい。
伊賀崎:なるほど、後で担当の者に伝えよう。
    ではここに来た目的は?
個体番号1番:女王陛下との合流。
    それと他の者達をあなた達の保護下に入れたかった。
    あなた達は安全と判断して連絡した。
伊賀崎:君達と一緒にいた子供について教えて欲しい。
    まず名前は何というんだ?
個体番号1番:飛峰和 蒼太郎。
伊賀崎:彼との関係は?
個体番号1番:陛下の妹君の子。我々が庇護すべき方の一人。
伊賀崎:彼もこちらの世界の名前のようだがそちらの言葉の訳か?
個体番号1番:違う。
    殿下には名前が2つある。
    一つは母君、もう一つは父君から。
    先ほど教えたのが父君からの名。
    母君からの名はエラノスドール。
    かな文字はちゃんと書けているか?
伊賀崎:ああ、とても上手だ。
    個体番号1番:覚えるのに苦労した。
    次の質問はあるか?
伊賀崎:蒼太郎君の父親について聞きたい。
個体番号1番:彼は"亀裂"から来た。
    我々の住んでいた世界とは異なる所。
    今いるこの世界の出身と聞いている。
伊賀崎:彼は日本人なのか?
個体番号1番:分からない。
    これ以上は知らない。
    我々は陛下やご家族の生活には干渉はしない。
    プライバシー。
伊賀崎:乙姫に聞けば答えてくれるだろうか?
個体番号1番:恐らく。
    だが無理には聞かないで欲しい。
伊賀崎:分かった。
    質問に答えてくれてありがとう、今日はこのぐらいにしておこう。
個体番号1番:ちょっといいか?
伊賀崎:どうした?
個体番号1番:今日の夕食について聞いた。
    ピーマンはやめてくれないか?
伊賀崎:それはちょっと難しいな。

<個体番号1番は苦悶の表情を見せる>

個体番号1番:解せぬ。

記録終了



聴取記録─1936年6月20日

露木研究員による聴取が行われました。

対象者:乙姫および妖精 個体番号1番

個体番号1番にはコミュニケーションの手段として紙と鉛筆が提供されます。


露木:少し質問させてね。大丈夫かな?
乙姫:いいですよ。
   個体番号1番:問題ない。
露木:聞きたいのは蒼太郎君について。
   彼の事について教えて欲しいの。
乙姫:蒼太郎は私の妹の息子になります。
   日本語だと"甥"で良いんですよね?
露木:そうね、その通りよ。
乙姫:蒼太郎は私達の世界で生まれました。
   程なくして私達は追い詰められこちらに来ました。
個体番号1番:我々は妹君から蒼太郎を任された。
露木:妹さんの事は聞いたわ。
個体番号1番:妹君は実に勇敢だった。
露木:彼の父親について聞きたいの。
   教えてくれる?
乙姫:最初に彼に会った時はとても混乱していました。
   名前はヒブワ ソウジと言っていました。
露木:ヒブワさんはどうやってそちらに?
乙姫:"亀裂"から迷い込んできたんです。
   今思えば日本語を喋っていましたしここの世界から来たのでしょう。
   異世界の住人に懐疑的な者もいましたが私達は彼を助けました。
露木:言葉は大丈夫だったの?
個体番号1番:我らにかかれば造作もない。
乙姫:そうね。あの時のmiθraŋdir(※1)はとても頼もしかったわね。
   私もそのときに少し覚えたんですよ。

(※1)憶測の域を出ませんが"歩き回る"、"彷徨う"の意。
乙姫は個体番号1番を呼ぶのにこの名称を使います。

個体番号1番:異世界の言葉は興味深い。
    だが大変だった。
露木:まぁ、コミュニケーションは問題なかったようね。
   ヒブワさんと妹さんの関係はどうだったの?
乙姫:妹はとても心優しかった。
   ヒブワさんのお世話もしていたから仲良くなるのにそう時間はかかりませんでした。
露木:彼は今どこに?
乙姫:残念ですが亡くなりました。"最後の時"に……。
個体番号1番:彼もまた勇気ある男だった。
露木:そう……。こちらに来てから蒼太郎君の世話は誰が?
個体番号1番:陛下とは来た当初にはぐれてしまって、最近まで我々が世話をした。
    子を育てることのなんと砕身なことか
乙姫:大丈夫よmiθraŋdir これからは私もいるから。
露木:これからは白ちゃんも蒼太郎君の世話を?
乙姫:はい、そのつもりです。
   大事な家族ですから。
露木:そう。頑張って。
   私達もサポートするわ。
乙姫:子育ては大変ですか?
露木:ええ、そうね。あまりアドバイスできる立場でもないけれど。
   辛い事もあるけど楽しい事もたくさんあるから。頑張って。
乙姫:はい、頑張ります。

<個体番号1番が鳴き声を上げる。乙姫は理解したように見える。>

露木:何と言ったの?
乙姫:"ミルクをあげるのは続けさせてくれ"ですって。

記録終了



観察報告
結論から言えば"妖精"たちと蒼太郎君の受け入れは正解でした。
家族や大切な仲間との再会は乙姫の精神状態に良い影響を及ぼしています。
カウンセリングにおいても前向きな言動が増えており、"妖精"たちや蒼太郎君とのこれからの生活に希望を見い出しています。
我々に寄せる信頼も厚くなり、これまで以上に良好な関係が結べています。






ヒブワ ソウジについて
名前は飛峰和 蒼司。
海軍所属の軍人です。
1931年に沖大東島周辺において哨戒の任務に就いていた巡洋艦 時貞の乗組員であり、
当時は22歳でした。
時貞は1931年8月に行方不明になり、記録上は"水鬼の襲撃により沈没"となっています。
飛峰和 蒼司についてもこの事件で死亡という事になっています。
現在において飛峰和氏の親族はいないか、もしくは見つかっていません。
父親は飛峰和氏が8歳の時に他界。
母親は翌年の1932年6月に死亡、死因は首吊りによる自殺です。
兄弟姉妹はいません。
当時の記録担当者への聴取では有益な情報は得られませんでした。
水鬼の船の襲撃における特徴(1個分隊で攻め、船の残骸を残さない)によって他の沈没船と同様に扱われたと思われます。
 
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