英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第69話
~ボース上空・アルセイユ・会議室~
「―――では、王国軍による、『竜捕獲作戦』の説明を始める。」
アルセイユ内の会議室に集まったエステル達は作戦の説明を聞き始めた。
「本作戦は飛行艦隊によって遂行されるものだ。地上部隊はリベール各地の警戒・防衛に徹するのみとする。」
「リベール各地ということはボース地方だけじゃないわけね?」
「昨日の一件で、竜の飛行能力がかなりのものであることが判明した。いつ他の地方が襲われぬとも限るまい。」
エステルの質問にモルガンは重々しく頷いて答えた。
「うん、確かに……」
「そこで今回の作戦には、この『アルセイユ』に加えて警備飛行艇12隻を投入する。これは全警備艇の5分の2に相当する数だ。」
「あの警備艇が12隻も……」
「それは大盤振る舞いだねぇ。」
モルガンの説明を聞いたシェラザードは驚き、オリビエは感心していた。
「―――ユリア大尉。」
「は。」
モルガンに言われたユリアは頷いた後、モニターを起動させた。
「わわっ……」
モニターにリベール王国の全土が表示された。
「これは……今回の作戦行動図ですな。」
地図を見たジンはモルガン達に確認をした。
「うむ、その通り。今、この『アルセイユ』はボース上空を巡航しておる。本作戦で『アルセイユ』は作戦司令部として機能する。そして実際の哨戒活動は……広域レーダーを搭載した警備艇8隻に当たらせる。竜が上空に現れたら確実に捕捉できるはずだ。そして竜が発見された場合……警備艇が急行し、ガトリング砲で牽制しながら竜をヴァレリア湖上空に誘導する。そして竜発見と同時に、麻酔弾を搭載した警備艇がレイストン要塞から緊急発進し……。―――追い立てられた竜を迎撃。ありったけの麻酔弾をもって竜を沈黙させるというわけだ。これが『竜捕獲作戦』の概要だ。」
「うわ~……」
「さすがにギルドとは作戦のスケールが違うわね……。竜が麻酔弾で倒れなかった場合、捕獲から退治に切り換えるのかしら?」
作戦内容を聞いたエステルは驚き、シェラザードも驚いた後、尋ねた。
「うむ……。全艦隊による集中砲火をもって撃破するしかあるまい。最悪はメンフィルに援軍要請をして”百日戦役”にて、すざましい破壊力を見せつけたメンフィル独自の”機工軍団”や飛行能力を持つ”竜騎士軍団”と共に協同戦線を張っての撃破も考えている………女王陛下は、退治よりも捕獲を優先して欲しいとの意向だが……」
シェラザードの質問にモルガンは重々しく頷いて答えた。
「へ……どうして?」
モルガンの話を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「竜といえば、伝承にも登場する極めて珍しい生物だからな。退治は忍びないと仰っていた。」
「そうですね……。『結社』に操られている可能性も高そうですし……」
モルガンの話を聞いたクローゼは心配そうな表情で頷いた。
「そっか……確かに。そ、そういえば!竜を操っていたレーヴェって男、『ゴスペル』を持ってたわよ!?」
「うむ……。導力停止現象の危険だな。ラッセル博士によれば導力停止現象の範囲はおよそ5アージュだという。故に各艦艇には10アージュ以上、竜に近づかないように徹底させる。そうすれば問題ないはずだ。」
「な、なるほど……」
「うーん、恐れ入った。万全の対策というわけだね。」
王国軍が万全な対策をしていることにエステルとオリビエは感心した。
「我らも、伊達に『百日戦役』を経験したわけではないからな。まあ、この作戦が失敗したらさすがに打つ手に困るところだ。その時はよろしく頼むぞ。」
「殊勝なこと言っちゃって……。作戦が失敗するなんて思ってもいないんじゃない?」
モルガンの話を聞いたエステルは呆れた表情で言った後、ジト目で睨んで尋ねた。
「フフン、当たり前だ。この作戦、問題があるとすれば竜が発見されるまで辛抱強く待たねばならんことくらいだからな。」
「確かに……。無駄足だった場合はどうするの?」
「いや、これまでの『結社』の手口を考えたらそれはないだろう。必ずや、あの竜を使って何かしでかすつもりに違いない。」
「そっか……確かにそうね。」
竜が現れなかった場合の事を心配したエステルだったが、ジンに言われて納得して頷いた。
「それでは遊撃士諸君……。竜が発見され次第、アナウンスでお知らせする。それまでは艦内でゆっくり寛がれるといいだろう。」
そして作戦の説明は終わり、エステル達は一端自由行動にした。
~ブリッジ~
自由行動にした後、一人で艦内を歩いていたエステルはブリッジにいるクローゼに話しかけた。
「あら、エステルさん。もしかして落ち着かないんですか?」
「うん、ちょっとね。じっとしてられなくて。」
クローゼに尋ねられたエステルは苦笑しながら答えた。
「そういえば、定期船でもいつもお散歩されてましたね。」
「あはは……。言われてみれば確かに。行儀よく座ってるのってなんか窮屈なのよねえ。」
「クスクス……。エステルさんらしいです。でも、『アルセイユ』ではそんな心配はいりませんよ。」
「え、どういうこと?」
「王家の所有とはいえ、この船は巡洋艦ですから……。一般の飛行客船とは運動性能が段違いなんです。最大船速での飛行となれば立っているのも無理なくらいです。」
「そ、そんなにすごいの!?」
クローゼの説明を聞いたエステルは驚いた。
「ふふ、きっと驚かれますよ。まるで嵐に遭ったようですから。」
「そ、そうなんだ……。じゃあ、さながら今は嵐の前の静けさってトコね。」
「ええ、仰るとおり……つかの間の平穏かもしれません。艦内をご覧になるなら、今の内だと思いますよ?」
「あっと、言えてるわね。じゃ、あたしは散歩を続けるとするわ。」
「はい、では後ほど。」
そしてエステルは他にも散歩をして仲間達やユリアやナイアル達と会話をした後、会議室を覗き、会議室の中で一人モニターを見続けているモルガンに気づいて話しかけた。
~会議室~
「………なんだ、おぬしか。」
「どうしたのモルガン将軍。こんなとこに1人だなんて。」
「うむ。改めて作戦計画を見直していたところだ。完璧に見える計画でも時を置いて見返せばアラが見つかるものでな」
「それで………何か欠点は見つかった?」
モルガンの話を聞いたエステルは真剣な表情で尋ねた。
「いや、今のところはない………よほど不測の事態がない限り、本作戦は成功を収めるはずだ。残念ながら、さすがに今回はおぬしらの出番もないだろう。」
エステルに尋ねられたモルガンは重々しく答えた後、不敵な笑みを浮かべた。
「ま、だと良いんだけど………でも、いざとなったらあたし達も手を貸すわよ。乗艦を許可してくれたんだもん。少しは期待されてるってことよね?」
「無論、そのつもりだが……おぬしらが自由に動けるのは我々の作戦が終了した後の話。作戦行動中はあくまでこちらの指示に従ってもらうぞ。」
エステルの言葉に頷いたモルガンは忠告をした。
「大丈夫、わかってますって。まずは大人しく、お手並みを拝見させてもらうわ。」
「フン………小娘が言いおるわい。………そういえばおぬしに一つ尋ねたい事があった。」
「ん?何?」
モルガンの言葉にエステルは首を傾げた。
「クローディア姫の伝令で現在ボースの復興をしているメンフィル兵達はプリネ姫とティア殿の他に、メンフィル皇家と縁が深いメンフィル貴族の”ファラ・サウリン”卿と”ルーハンス”卿のご好意によって、派遣されたと聞くが………おぬしはその方達の事を知っているか?後でプリネ姫達にも挨拶をし、礼を言うが……できれば、その方達にも一度お会いして女王陛下の代わりに今回の派遣に関する礼を言っておきたいのだ。」
「え”。」
「む?その様子だと知っているのか?」
「う”………え、ええ。勿論知っているわよ。ほら、あたし達この間までロレントにいたじゃない。その時、プリネ達に会う為に大使館にも顔を出したんだけど、その時にあ、会ったのよ………」
モルガンに尋ねられたエステルは唸った後、冷や汗をかきながら咄嗟に考えた嘘を言った。
「ふむ、そうか。……今はどちらにいらっしゃるかわかるか?この作戦が終わったら、会いに行こうと思っているのだが。」
「え、え~と………残念ながら、何か用事があるらしくてメンフィルの兵士さん達に指示をした後、本国に戻るためにロレントに帰ったわ。」
「そうか。それは残念だな……お会いして、今回のメンフィル兵達の派遣の礼を言っておきたかったのだが………」
「あ、あはは………(まさか目の前にその内の一人がいるなんて、将軍さんも思わないだろうな~………ありがとう、クローゼ。あたし達の事を黙ってくれて………)
嘘とは知らず残念そうな表情で溜息を吐いているモルガンを見たエステルは冷や汗をかいて引き攣った笑みで笑いながら、自分の今の身分を黙っていてくれたクローゼに感謝した。そしてエステルはまた艦内の散歩に戻った。
「哨戒艇、『メルダー号』より連絡!マルガ鉱山上空にて飛行中の竜を発見したとのこと!全クルーは直ちに持ち場へ向かえ!ギルド関係者はブリッジに急行されたし!」
エステルが艦内を散歩しているとユリアの声のアナウンスが入った。
「―――来たわね!」
そしてエステルはブリッジへと急いだ。
こうして『竜捕獲作戦』が始まった……………!
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