ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第38話友情のゲンコツ
前書き
突然ですが、SAOヒロインの中でシノンさんって結構優遇されてる気がします。
理由はアバターです。アスナさん、リズベットさん、シリカちゃん、リーファちゃんのアバターは原作、ゲームを含めてもSAOとALOしかありません。ですがシノンさん、原作やゲームを合わせて、SAO、ALO、GGOという代表的なゲームのアバターを全部持ってるんです。それだけでも結構優遇されてる気がするんです。僕としてはSAOのデンジャラスな装備のシノンさんが好きです。
これは余談なんですが、「SAOコードレジスタ」をプレイしていらっしゃる方々、「ゼロ」というプレイヤーがいたら、よろしければ使ってください。実はソレ、僕なんです。その時は小説を書こうかなとは思わなかったのでそんな名前ですが、助っ人に使っていただけたら嬉しいです。
今オレは東京の御徒町にある「ダイシー・カフェ」に向かっている。そこはオレと一緒にSAOを生き抜いた戦友、エギルがマスターをしている店だ。エギルの本名はアンドリュー・ギルバート・ミルズといって、長ったらしい名前なので引き続きエギルと読んでいる。ここには恐らくアイツもーーーやっぱり来たか。
ファーがあしらってある黒いジャンパーに黒いジーンズ、背中に剣がないという所以外はほぼ違和感のない見馴れた男。そうーーー
「ひさしぶりだなキリト・・・いや、桐ヶ谷和人」
「そうだなライリュウ・・・神鳴竜」
SAO時代の戦友であり親友、《黒の剣士》キリトこと桐ヶ谷和人。SAO時より少し髪が短い気がするけど、きっと二年の間にビックリするくらい髪が伸びてたんだろうな。オレもそうだったから分からなくもない。
オレ達は軽く話し合い、エギルの店に入った。そこには言うまでもなく、ガタイのいい色黒の外国人男性、エギルがカウンターでグラスを拭いていた。他にもオレ達と同年代の男二人と女二人の集団がいたーーーん?あの四人組もしかして、いや、まさか、そんな訳ーーーないと思ったけどあるな。オレを見た瞬間急に取り乱したもん。
「おう、早かったな」
「珍しいな、お客がいるなんて」
「そっとしといてやれよ和人」
エギルの店は雰囲気的に昼間は入りにくそうな店だからな、昼間は滅多にお客さんが来ない事がよくある。エギル曰く、「夜は繁盛してる」らしい。とりあえずエギルの前のカウンター席にキリトと並んで座る。さて、本題に入ろうーーー
「で、例の写真はどういう事なんだ?」
「キリトならともかく、何でオレにもあの写真を送ったんだ?」
キリトのーーー和人の発言から始まり、呼び出された理由はオレと同じだという事が分かる。今朝送られてきた例のーーー大きな鳥籠に閉じ込められているアスナさんに瓜二つの女性の写真。
ちょっと長い話になるがーーーとエギルは言って、カウンターテーブルでオレ達の前に滑らせて何かを渡してきたーーーって、コレ!
「《アルヴヘイム・オンライン》!?」
「ライリュウは知ってたのか」
「何だそれ?」
「北欧神話をモチーフにしたVRMMORPG、《アルヴヘイム・オンライン》。ウチの嘘ベタな両親がオレに隠してたゲームだ。細かい内容は知らないけど・・・」
エギル曰く、《ナーヴギア》の後継機、《アミュスフィア》対応のゲームだそうだ。ちなみに、《アルヴヘイム》というのは北欧神話に登場する妖精の国という意味らしい。
「妖精の国か・・・まったり系か?」
「まったりってのはちょっとヤだな~・・・」
「そうでもないらしいぜ。「どスキル制」、「プレイヤースキル重視」、「PK推奨」」
『「どスキル制」?』
ALOの「どスキル制」とは、SAOのようにレベルは存在しないシステムで、各種スキルが反復使用で上昇するだけで、戦闘はプレイヤーの運動能力に依存するらしい。基本システムのアシストが存在しない、謂わばソードスキルなし魔法ありのSAOと言ってもいい。このゲームが今大人気らしい、その理由はーーー
「飛べるからだそうだ」
「飛べる?」
「妖精だから羽がある、って事か」
フライトエンジンとやらを搭載していて、慣れると自由に飛び回れるシステムになっている。昨日は全く興味なかったけど、確かにこれは面白そうだな。大人気なのもよく分かるーーー
「相当難しいらしい」
「そりゃそうさ。人間には存在しない羽を操るんだ!」
「背中の筋肉を動かすのか・・・?」
完全にゲーマー談義に入ってしまったオレとキリトをエギルが咳払いをして、本題に戻す。
「・・・で、大人気ゲームがアスナと何の関係があるんだよ?」
キリトの質問に対し、エギルが例の写真と他にもう一枚の写真をオレ達の前に出してきた。
「どう思う?」
「・・・似てる、アスナに」
「偶然にしては出来すぎだよな・・・」
「やっぱりそう思うか」
「早く教えてくれ、これはどこなんだ!?」
「ゲームの中だよ。《アルヴヘイム・オンライン》のだ」
この写真は《アルヴヘイム・オンライン》ーーーALOで撮られた物らしく、その世界の中心に存在する《世界樹》という大きな樹の上で偶然見つかった物だそうだ。
《世界樹》の上には伝説の城が存在し、プレイヤーは九つの妖精種族に分かれて、どの種族が最初に城に辿り着けるかを競うらしい。
「飛んで行けばいいじゃないか」
「それじゃ面白くねぇだろ、滞空時間があるんだろ?」
「あぁ、だから無限には飛べならしい。でだ、体格順に五人のプレイヤーが肩車して、ロケット式に飛んでみた」
「・・・なるほどね、バカだけど頭いいな」
「あぁ、頭いいけどバカだな」
その作戦を実行してみたが、結局《世界樹》の一番下の枝にすら届かなかったそうだ。でもその作戦は結果的にオレ達の手助けになった。その五人で肩車ロケット作戦で何枚か写真を撮影したその中の一枚の鳥籠の写真、ソレを解像度ギリギリまで引き伸ばしたのがーーーこの目の前にある写真。
NPCだと思うがかなり怪しい。現実世界の人物のモデルにして作ったNPCだとしても、いくらなんでもアスナさんと瓜二つってのはピンポイントすぎる。
「でも、何でアスナがこんな所に・・・」
「そのゲームを作った企業名、見てみろよ」
オレはキリトにALOのパッケージに書かれている企業名を見せる。これはアスナさんが絡んでいると言われても信じられる名前だ。「レクト」ーーーその名前を見たキリトの顔は少し、いや、心の中に強い怒りが籠っているかのように染まった。
「やっぱり須郷と接触済みか・・・」
「ライリュウも会ったのか・・・?」
「あぁ、随分なゲスの極みだよ。多分未来も須郷に生かされてるような状態だ・・・」
須郷伸之は「レクト社」のフルダイブ研究部門の主任、ALOが「レクト社」の製品だとするなら確実に関係ある。
オレが未来の名前を出した時、先ほど気になっていた四人組の中の一人の男が一瞬身震いした。そうだよな、お前が気にならない訳ないよなーーー
「おいそこの四人組、今の話聞いてたろ?」
オレはそろそろあの四人組に話し掛ける事にした。キリトとエギルは他の客に迷惑掛けんなって言うけど、迷惑なんて今更だ。オレは構わずその四人組の下に歩み寄った。今度龍星をシバいておこうーーーコイツらの事を教えなかった事について。
「生きてたんなら連絡くらいよこせよ・・・《リトルギガント》」
「なっ!?」
「ライリュウ、《リトルギガント》って確か・・・!」
そう、一年半前《笑う棺桶》に殺害されたはずのオレの友達。明石翼、霧島弾、雨宮かんな、河村亜利沙。もう絶対に会う事は出来ないと思っていた友達が今ーーー目の前で生きてる。
「・・・何で気づいたん?」
「オレがお前らを忘れるような人でなしだとでも思ってたのか?」
「違う!そんな事思ってない!」
かんなの言葉にオレはそう返し、亜利沙が短いながらも必死に弁護する。とにかく聞きたい事が沢山あるんだ。全部答えてもらうぜーーー
「ひどい話だけどよ、オレと未来はお前らが完全に死んだと思ってた。でもよ、オレの兄貴が《ナーヴギア》に数分間通信する手段を持ってたんだけど、それでお前らもオレと話せたんじゃないかな~・・・全部吐け。お前らが今現実世界で生きてる理由を」
『は、はい・・・』
オレはちょっと怒気を含めた顔と声で軽く四人を脅し、理由を話させた。少し気が引けるけど、これは仕方ないと思ってほしいなーーー
「・・・まず、俺達はゲームオーバーになって死ぬはずだった」
「そうだろうな、現にその原理で4000人が死んだんだから」
「でも、オレ達はなぜか現実世界に戻ってきた」
まずは弾が口を開き、あの夜の出来事で自分達が死ぬはずだったと言う。でも翼の言葉で、《リトルギガント》だけがオレ達より早く現実世界に帰還したと発言した。
「ウチらの《ナーヴギア》に細工がしてあったんや。なんや分からんけど、アンタのお兄ちゃんが作った回路やったで」
「アイツか犯人は」
龍星のヤロー、そんな発明したなら教えろよバカヤロー。そしてみんなが生きてるならあの疑似テレパシーで教えろよコノヤロー。
「でも、お兄さんはそのアイデアをボツにしたらしいよ」
「は?龍星が作ったんだろ?だったら・・・」
「《ナーヴギア》の解除でも脳が焼かれるって言ってたでしょ?だから回路を《ナーヴギア》の中に仕込むのはリスクが大きいからやめたんだって」
あー、そういえば二年間HPが0にならないように戦ってたからソレを忘れてた。確かに《ナーヴギア》の中にその回路を仕込むとなると、一部を解体する事になるだろうからな。一歩間違えればあっという間にアーメンだなそれ。だとすればその回路を仕込んだのはーーー回路の事を知っている別の人間?
「まぁお前らが生きてる理由は分かった。でも・・・何で連絡の一つもくれなかったんだ?」
『・・・』
オレはそれが一番引っ掛かる。生きていたのなら龍星に頼んで疑似テレパシーで声を送れたはずだ。なのにそれをしなかった。コイツらは、何かを抱えてるーーー
「・・・私達、気まずかったから」
「はぁ?」
「竜達があの世界で命懸けで戦ってるのに、俺達は《ナーヴギア》を取り上げられて・・・」
「何も出来ひんかった自分らがイヤやった・・・」
「だから・・・」
コイツら、そんな事気にしててーーー
「・・・ハァ~~~~・・・」
呆れて物も言えないぜ。
「お前ら、歯ァ食い縛れ」
『へ?』
「お、おい・・・」
「ライリュウお前ナニする気だ・・・?」
何をキョトンとしてるのかな?やる事なんて決まってんだろーーー
「とにかくお前歯ァ食い縛れ。オレは今からお前達を殴る!」
『えぇーーー!?』
「いくぞぉぉぉ!!」
オレは右の拳を上げ、このバカどもに向けて降り下ろす。狙いは歯を食い縛ったコイツらのーーー頭にゲンコツを降り下ろす。
「いったぁ!」
「顔じゃねぇのかよ!?」
「オレら歯を食い縛る必要あったか!?」
「というか女の子相手にゲンコツってどない神経しとんねん!」
うん、歯を食い縛る必要はない。顔面を殴る訳じゃないからな。それよりもーーー
「生きてたんなら!オレと未来の中で!お前らを死なせたままにすんじゃねぇよ!!」
『!?』
オレと未来は翼達がずっと死んだと思ってた。オレはみんなが死んで、未来まで戻って来ないかもしれないって思ってた。オレはーーー何も守れなかったって本気で思ってた。
オレはこの店の床に座り込み、頭を下げた。
「今度はお前らの番だ・・・」
『!!』
「オレはお前らを殴った。だからお前らもオレを・・・一発ずつ殴れ」
オレは意思を証明しなけりゃならねぇ。だから、コイツらを許すために顔面に四人の拳を受けーーーって!!
「オレは顔面なのグウェヘェッ!?」
「当たり前や」
「顔面殴ると見せ掛けてゲンコツしたお前に拒否権はないぞ」
「ごめんなさい、私もそれに賛成だから顔に・・・」
まあ仕方ないけどよ、痛ェなこれ。オレ完全に同じ所に拳が来ると思ってたーーー
「まぁとにかく、これで・・・」
「!」
オレの目の前に弾が手を差し伸べた。つまりコイツらはオレを、お互いをーーー
「これで許そう!」
「お互いに恨みっこなしだ」
「仲直りや!」
「また・・・友達になろう?」
オレはーーー奇跡を見てるのかもしれない。絶対に叶うはずもない再会が目の前で叶い、お互いを確かめ合った。また友達に、そんなのーーー
「とっくの昔にもうなってるよっ!!」
オレは弾の手を握り、失った物を取り戻した。
「みんな、さっきの話聞いてたか?」
「全部聞こえたよ、竜くん」
「《アミュスフィア》とALO、持ってるか?」
「おう!オレ達みんなALOプレイヤーだ!」
「手伝ってくれるか?」
「当たり前や!未来がいなかったら、人生が一気につまんなくなりそうや!」
「弾、お前は絶対に来い。未来は・・・」
「絶対取り戻す」
『決まり!』
翼、弾、かんな、亜利沙はみんなALOプレイヤーだった。オレは家にある《アミュスフィア》とALOを貰ってログインしよう。あとはキリトが来るかどうかーーー
「エギル、このソフト貰って行っていいか?」
「構わんが・・・お前ら全員行く気なのか?」
「確かめないと・・・俺も連れて行ってくれ」
ーーーくだらない心配だったな。
「オレからも頼む、キリトも連れてってくれ。コイツ、ビーターなんて名乗ってたけど・・・」
「分かってるよ」
「友達なんだろ?」
「アンタが悪い奴と友達になるなんて、ある訳ないやん」
「行く所も目的も同じなんです。よろしくお願いします、キリトさん」
「《リトルギガント》・・・ありがとう」
キリトもアスナさんの事がある。ダメだと言われても絶対に行くはずだ。ビーターっていう悪名はコイツらも知ってる。受け入れてくれるか心配だったけどーーーみんな、キリトの事を悪く思わないでくれててよかった。
「オレ達はあの世界で生きてきた。時間とか、いつ帰還したとか関係ねぇ。オレ達は命懸けの戦いを知ってる・・・」
「あぁ、そうだよなライリュウ・・・」
これはオレとキリト、二人が初めて無意識ではなく、重ねた言葉だーーー
『死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ!!』
そう叫び、オレ達全員はテーブルに乗っていた各自の飲み物を飲み干し立ち上がる。キリトはまだ《ナーヴギア》を持っているからそれで入るらしい。《アミュスフィア》は《ナーヴギア》のセキュリティ強化版でしかないため、《ナーヴギア》でもALOに入る事が出来るらしい。
《ナーヴギア》はSAO事件終了後、総務省仮想空間管理課という部署の役人に回収処分される事になり、全SAO生還者やその他《ナーヴギア》所持者は《ナーヴギア》を回収された。オレも一応その役人に《ナーヴギア》を渡したから、《アミュスフィア》がなかったらやばかったな。
「助け出せよ?アスナとミラを・・・そうしなきゃ、俺達の戦いは終わらねぇ」
「あぁ、いつかここでオフ会をやろう」
「絶対に助けるぞ!」
『おう!』
オレ達はそう言い、みんなで拳をぶつけ合った。あの二人が戻らなかったら、オレ達のSAO事件はまだ終わらない。さあ、行こうーーー
「待ってろよ未来、アスナさん・・・オレ達が助け出す!!」
ページ上へ戻る