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深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

作者:null*
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出自聴取

聴取記録─1935年10月2日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:乙姫
補佐、注釈執筆:露木 洋子 研究員







伊賀崎:君とこうやって話すのは久しぶりだね。
    私達は白ちゃんに協力したい、その為には情報が必要だ。
乙姫:はい、私も伊賀崎さんに伝えたい事あります。
伊賀崎:ありがとう。
    では率直に聞こう。君達水鬼の正体は?
乙姫:伊賀崎さん。勘違いしてる。
伊賀崎:というと?
乙姫:私と"子供たち"……。えっと、水鬼は違うものです。
伊賀崎:説明してくれるかな?
乙姫:はい、まずは私のことから話します。
   私達は自分のことをnikɑːrmubiθ(※1)と呼んでいます。

(※1)乙姫の種族自体を指す言葉です。 nikɑːr(母なる水、偉大な水、恐らく海?) 
mu(ɑːrmuで一語の可能性あり。前進、進む、(自由な)行動) biθ(自分自身、私、我ら)

乙姫:私達はこことは違うところに住んでいました。
   suwokmɑːrhe(※2)という場所。

(※2)suwok(聖なる、神格) それ以外は現在翻訳できず。乙姫の故郷を示す。

伊賀崎:そこはどんな所かな?
乙姫:ここと一番違うのは土がないこと。地面無いこと。
   全てがnikɑːrに包まれていました。
   そこでwzink……じゃなくて……仲間と暮らしていました。
   私には役割がありました。皆からdagsalaʃɑːrda (※3)と呼ばれた。
   私達はmoʌdfeus(※4)と一緒にsuwokmɑːrheを守っていた。

(※3)かなり上位の地位や位の高い女性を表すようです。恐らく姫や女王などが該当。
"dag"は現地に伝わる龍に似ている神性とのことです。
(※4)宗教的な意味合いでの"父"、創造主。信仰する神性を表す語だと思われます。

伊賀崎:私達?ほかにも誰か?
乙姫:えっと、日本語では……そう姉妹。私には姉と妹がいました。
伊賀崎:姉妹も同じ役割を?
乙姫:はい。3人とも同じでした。
   その頃は平和でした。だけど後に問題が起こりました。
   moʌdfeusは死にかけていた。
   moʌdfeusとsuwokmɑːrheは一つ……えっと、一心同体。
伊賀崎:つまり君達の世界自体が死にかけてたと。
乙姫:moʌdfeusはとてもとても長い間suwokmɑːrheを支えて、もう限界でした。寿命。
   moʌdfeusが死んだ後は私達3人の力で支えた。
   でも私達の力はとても弱い、moʌdfeusに遠く及ばない。
   suwokmɑːrheは壊れていきました。
伊賀崎:続けて。
乙姫:最初は"亀裂"が現れました。他の世界に繋がる亀裂。
伊賀崎:それがこの世界への入り口に?
乙姫:ここだけじゃない、色々な所に繋がる亀裂。でも誰も行かなかった。
伊賀崎:どうして?
乙姫:皆怖がったからです。
   moʌdfeusは私達が外の世界に旅立つのを嫌がる方でした。
   もしかしたら私達自身が外を怖がるように作られたかもしれない。
   地面を怖がるのも多分そのせい、ここに来るまで地面は見たことがないから。
   私達姉妹は色々な所に出た"亀裂"を力を使って塞ぎました。
   でも新しい問題が……、nikɑːrが汚れていった。
   汚れたnikɑːrに触った仲間達は苦しんで死んでいった。
   私達は必死に抑えたけどその時には大勢の仲間達が犠牲に。
伊賀崎:それがここに来る直接の原因に?
乙姫:違います。
   汚れたnikɑːrを止めて、"亀裂"も出続けていたけど何とか保てていました。
伊賀崎:ではなぜ?
乙姫:次に起こった一番悪い事。moʌdfeusが閉じ込めていた怪物が這い出てきました。
   私達はɑfbjuːndou(※5)と呼んでいます。

(※5)ɑfb(深い、最深部、深淵) juːndou(下劣、汚れた、悪魔、怪物)

乙姫:私達は仲間と一緒に戦ったけど勝てなかった。
   勇気がある者から死んでいきました。
   姉は残った者を集めて戦いに挑んだけど戻らず、妹は"最後の時"に
   私達を逃がすために犠牲に。
伊賀崎:"最後の時"とは?
乙姫:ɑfbjuːndouが私達の隠れていた場所に攻めてきた。
   suwokmɑːrheはほとんど支配されていてそこが最後の場所。
   妹は自分の命と引き換えに"亀裂"を開けて、私達を逃がしました。
伊賀崎:その"亀裂"の先がここだった?
乙姫:そう、ここに来た。
伊賀崎:さっき"私達を逃がした"と言っていたが他にも仲間が?
乙姫:いた、同じ姿はしていない大切な仲間。
   でも"亀裂"から来たときに離ればなれになった。
伊賀崎:ここに来てからは何を?
乙姫:■■■■■■■■(検閲および削除)の人達に助けられました。
   伊賀崎さん達が迎えに来るまでそこにいた、皆良い人達でした。
伊賀崎:来た直後だが土は大丈夫だった?地面に対しての恐怖は?
乙姫:それは……あまり思い出したくない。
   最初の一歩はとても……とても辛いものでした。
伊賀崎:ふむ。白ちゃんの事は分かったが水鬼は?
    彼女達の正体を教えてくれないか?
乙姫:"子供たち"はdagsalaʃɑːrdaの力で生まれる。
   使っちゃいけない力の使い方の一つ、自分の血を使って"子供たち"を作る。
伊賀崎:水鬼達が全員女性なのはなぜ?
乙姫:力を使っているのが女の人だからです。
   本当の意味での"子供"じゃない、ただの複製。性別も同じになる。
   もちろんあの"子供たち"は私のじゃない。
伊賀崎:では君達姉妹以外に力を使えるものがいるのか?
乙姫:それはない。
   伊賀崎さん達が持ってきた"子供たち"の死体と対面したときにはっきり分かった。
   あれは姉の"子供たち"、そう感じた。姉はここに来ている。
伊賀崎:君の姉さんは生きているということか。
乙姫:分かりません、姉はɑfbjuːndouに侵食されている、他の仲間がそうだったように。
   "子供たち"の姿を見たら分かります。
   それを"生きている"と言っていいのか分からない。
伊賀崎:水鬼が君のお姉さんによって生まれているのなら彼女を止めなければならない。
    君には辛い事だと思うが。
乙姫:そう……です。姉は止めなければ皆が傷つきます。
   でももっと根っこの所、ɑfbjuːndouを……。
   あの怪物も殺さなければいけません。
   姉はただの尖兵。ɑfbjuːndouが来るまでのここを混乱させるのが役割です。
   ɑfbjuːndouがよくやる攻め方。
伊賀崎:なるほど、そのɑfbjuːndouがここに来るのを防ぐには?方法はあるのか?
乙姫:残念だけど手遅れ、もうここに来てる。
伊賀崎:だとすれば早々に見つけなければ大変な事になる。
乙姫:もうすでに見つけています、"子供たち"の後ろにくっついてる。
   少し姿は違っていたけどあの剥き出し歯と灰色の腕は変わっていない。
   赤い息を吐きながら命を奪うことを楽しんでいます。
   伊賀崎さんも見たことがあるでしょ?

記録終了



事件記録─1936年1月29日

午前11:00に突如、乙姫が意識不明の状態になり、その10分後に回復しました。
乙姫は直後に「"姉"が"子供たち"を迎えに来た。3人を連れて行った。」と証言、警備員が安置所を確認したところ、回収した水鬼の遺体5体すべてが消失していました。


証言と消失した数が合わない。約200kgの物体をしかも2つも誰が持ち去ったんだ?─大野



 
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