英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第67話
~東ボース街道・メンフィル帝国軍野営地~
街道の開けた場所にエステル達が到着するとそこには大勢のメンフィル兵達が野営の準備をしており、さらにその中にはイーリュン教の紋章が描かれたテントもいくつかはってあった。
「な、何よ、これ…………!」
「………この大勢のメンフィル兵達は一体何じゃ………!?」
「………野営地の中にあるテントのいくつかにイーリュン教の紋章が描かれてありますね………恐らくあのテントの中にイーリュン教の方々がいるのでしょうけど………なぜ、こんなにも大勢のメンフィル兵がいるのでしょうか………?イーリュン教はどの国に対しても公平な態度を取っていると聞きますが………」
状況を見たエステルは信じられない表情をし、ルグランとメイベルは驚いた表情で見ていた。
「あの紋章は………なるほど。」
一方プリネは野営地に建てられてあるいくつかの旗の紋章を見て納得した表情で呟いた。
「プリネ?もしかして、ここにいるメンフィルの兵士さん達ってみんなプリネかティアさん、ツーヤの護衛部隊の人達なの………?」
「いいえ。ラヴェンヌ村に行く前にもいいましたが一部ですが”私達”の護衛部隊が到着するのは明日です。………ここにいるメンフィル兵達はエステルさん。貴女とミントが呼んだお二人の護衛部隊の方達ですよ。」
エステルの疑問にプリネは微笑んで答えた。
「あ、あんですって~~~~!?」
プリネの答えを聞いたエステルは驚いた表情で叫んだ。
「こ、ここにいるメンフィル兵達全員がエステルとミントの護衛部隊…………見た感じ、少なくとも2個小隊は超えているわよ!?本当なんですか、プリネさん!」
シェラザードも信じられない表情でプリネに尋ねた。
「ええ。あそこに建っている旗の紋章を見てください。」
「へ?あ……………!………でも、さすがにいすぎじゃない!?多くてもせいぜい、10人ぐらいだと思っていたのに………!」
プリネの説明を聞いたエステルは野営地に建っているいくつかの旗の紋章――”ファラ・サウリン”と”ルーハンス”家の紋章を見て、目を見開いて驚き、そして護衛部隊の兵の数が余りにも多いことに驚いていた。
「………リウイ皇帝陛下に事情を説明して、エステルさんとミントちゃんの護衛部隊を出して頂いたのですが……陛下は”現状すぐに出せる”のは”これだけ”とおっしゃられていました。」
驚いているエステルにクローゼは苦笑しながら説明した。
「こ、”これだけ”って………まだいるの!?」
クローゼの説明を聞いたエステルは信じられない表情で尋ねた。
「ええ。エステルさんとミントの護衛部隊に配属されている総員数はエステルさんは約250名、ミントは約200名――どちらもほぼ1個中隊に値する数です。その内、ファーミシルス様率いる親衛隊員や”竜騎士”、”水竜騎士”が数名配属されており、さらに一般兵達も実戦で叩き上げた精鋭揃いですよ。その中には”百日戦役”で活躍した兵もいます。」
「………………………」
プリネの説明を聞いたエステルは口をパクパクさせた状態で固まった。
「エステルさんが驚くのも無理ないですよ………あたしも自分の護衛部隊の数を知って驚きましたし………」
エステルの様子を見たツーヤは苦笑しながら言った。
「あ、あのエステルさん、一体どういう事なんですか………?」
一方訳がわからなかったメイベルは恐る恐るエステルに尋ねた。そして驚いて固まっているエステルに代わって、クローゼが説明した。
「エ、エステルさんがメンフィルの貴族に………!それも爵位持ちだなんて………!今までの御無礼、お許しください!」
クローゼの説明を聞いたメイベルは驚いた後、エステルに向かって頭を深く下げた。
「あ、頭を上げてよ、市長さん!それに今まで通りの接し方でいいし!今のあたしは遊撃士なんだから!」
我に返ったエステルは慌てててメイベルに言った。
「フッ。”爵位持ちの”もしくは”貴族の”だけどね。」
「そこ!余計な事は言わない!」
オリビエの呟きが聞こえたエステルはオリビエを睨んだ。そしてミントを見て言った。
「だからミント、そのマントを付けていて、それであたしにも付けるように言ったのね…………」
「うん。せっかくミントがいるから、”ルーハンス”家の当主として直々に指示を出すべきだってプリネさんのお父さんに言われて………ママの護衛部隊の人達はプリネさんのお父さんが指示して、ここまで来たんだ………それでボースに到着してからの指示は”エステル”に従うようにって………」
「そ、そうなんだ………(リウイの奴~!そんな指示をするんだったら自分がボースまで来て、指示すればいいでしょーが!どうせイリーナさんとどこでもイチャイチャしているんだから、イリーナさんと一緒に来て指示すればいいでしょーが!)」
ミントの話を聞いたエステルは頷き、心の中でリウイに怒った。
「それにしてもほぼ1個中隊とはとんでもない数じゃの………」
「エステルやミントでその数となると、プリネさん達の護衛部隊はどのぐらいいるのですか?」
一方エステルとミントの護衛部隊の数を知ったルグランは驚いた表情で呟き、シェラザードはプリネに尋ねた。
「ツーヤはミントと一緒で、他の方達は存じていませんが私は約450名、レンは約300名。マーシルン家の長女であるティアお姉様は2個大隊――約2000名。さらにマーシルン家の跡継ぎの第一候補であるリフィアお姉様はその2倍の約4000名。そしてお父様とシルヴァンお兄様はそれぞれ2個旅団――約2万人余りの護衛部隊とファーミシルス様率いる親衛隊全員が総員数となり、そして全軍の指揮権を持っています。ですから、エステルさん達の護衛部隊の数は一番少ないのですよ。」
「いやはや……さすがはメンフィル。エレボニアとも比べ物にならないねぇ…………皇族の護衛部隊だけで、そんなにもいるとは………」
「それぞれの護衛部隊に加えて、他の軍団や正規軍もあるだろうから………リベール、エレボニア、カルバードの3国の軍人の数を合わせても、まだ足りないだろうな………しかも全員が精鋭揃い………メンフィルの真の強さが白兵戦である事も頷けるな……」
「ええ………エステルさんとミントちゃんの護衛部隊の数だけで既に王国親衛隊の総員数を軽く超えていますし………他国出身のエステルさんとミントちゃんにそれほどの人数を割り当てられるなんて、メンフィルの人口がすざましく、そして人材が豊富な証拠ですね………」
プリネの説明を聞いたオリビエは感心した様子でメンフィル兵達を見て、ジンやクローゼは真剣な表情で頷いた。
「ティ、ティアさんにもそんなにいるの!?」
「ええ………イーリュンの信徒として活動している私には必要ないのですが、皇家の………それも初代皇帝であられるお父様と正式な側室として認められているお母様の娘であり、マーシルン家の長女でもありますから名目上、配属されているのです。………まあ、今回のように私の権限で私に配属されている方々の一部を信徒の方達の護衛にあてられますから、よかったと言えばよかったのですが………」
驚いた表情のエステルに尋ねられたティアは苦笑しながら答えた。
「え………お話から察するにティア様もメンフィル皇家の方なんですか……!?」
話を聞いていたメイベルは驚いた表情でティアを見た。
「ええ。………私はお父様――リウイの子供の中では一番最初に産まれた子供で、腹違いですがシルヴァンさんやプリネさん達の姉にあたります。」
メイベルに見られたティアは苦笑しながら頷いた。
「な、なんと…………!それにしてもそれほどの身分でありながら、何故イーリュンの信徒としての活動を……?」
「事情がある………とだけ言っておきます。ですが、決してお父様達と不仲とか皇家と断絶した訳ではありませんので、気になさらないで下さい。」
ルグランに尋ねられたティアは静かに答えた。そしてそこに2名のメンフィル兵達がエステル達に気づき、駆け足で近づいて来た。
「ミント様!ご指示通り、イーリュン教のテントを守るように兵達を配備させました!」
兵の一人がミントに敬礼して報告をした。
「え、え~と………ご苦労様です。交代で休んで、明日イーリュン教の人達をボースまで送った後、ボースの街とラヴェンヌ村の復興をして下さい。既にクローゼさん……じゃなく王国には説明してあるので、市長邸に向かってここにいる市長さんに具体的な復興が必要な場所を聞いて下さい。」
敬礼されたミントは戸惑いながら言った後、メイベルに目を向けた。
「………わたくしがボース市長ですわ。夕方に王国軍から復興のメンフィル兵の方々が来ると連絡を受けていましたが………まさかこんなにも早く来ていただけるとは思いませんでした。今日はお休みになって、明日からお願いします。具体的な事については明日、説明しますので………」
「ハッ!失礼いたします!」
そしてメンフィル兵は敬礼をした後、野営地内に向かった。そして残っていたもう一人のメンフィル兵がエステルに敬礼をして話しかけた。
「エステル様!陛下のご指示通り、現在ミント様の護衛部隊と同じ行動をしていますが、我々は今後、どうすればよろしいでしょうか!」
「(う”、今度はあたしか………)………今日は疲れた体を休ませて、明日からボースの復興を。復興の必要な具体的な場所はこちらのメイベル市長に聞くように。メイベル市長からも説明されると思うけど、被害はボースだけでなく、ラヴェンヌ村もあるから2つの部隊に分けて、それぞれ復興をするように。」
「ハッ!失礼いたします!」
エステルの指示に敬礼したメンフィル兵も野営地内に向かった。
「フウ………緊張するし、疲れるわ~!」
「ママはまだいいよ~!ミントなんか、大勢のメンフィルの兵士さん達に敬礼をされたんだよ~!すっごく、びっくりしたんだから~!」
エステルが疲れた表情で溜息を吐くと、ミントは頬を膨らませて言った。
「フフ………それにしてもエステルさん、立派で、そして的確に指示をしていましたよ?私ではあんな風に指示できませんよ。ミントちゃんも初めてとは思えないほど、的確な指示をしていましたし………」
2人の様子を見たクローゼは苦笑しながら言った。
「フフ、そうかな?遊撃士をやっているお蔭かな?」
「あ、あはは………(ハア。ラピスとリンの記憶で兵を率いた経験があって、よかった~!なかったらあたし、混乱していたわよ………)」
クローゼの言葉を聞いたミントは恥ずかしそうな表情で微笑み、エステルは冷や汗をかいて苦笑していた。
「フム。確かにこれなら、護衛はいらんようじゃの。」
「ええ。………ボース復興にこんなにも多くのメンフィル兵達を派遣して頂き、本当にありがとうございます、エステルさん。」
一方ルグランは野営地を見て頷き、メイベルはエステルに感謝した。
「あはは………あたしはあたしのできることをしただけよ、市長さん。まあ、あたしもこんなに来るとは思わなかったけど。」
メイベルの感謝をエステルは苦笑しながら受け取った。
そしてエステル達は野営地に残るティアと別れてボースに向かい、疲れた身体を休ませた。一方気絶して、ラヴェンヌ村の自宅で眠っているアガットはある夢を見ていた…………
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