英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第59話(4章終了)
~マルーダ城・バルコニー~
「……こんな所で何をやっている?お前にとっては滅多に体験できないパーティーだぞ?」
「………あなた。エステルさんにとって今日は色々ありましたから、疲れて1人になりたい時もありますよ。」
なんと近付いて来たのはリウイとイリーナだった。
「あ……リウイ………それにイリーナ様も。」
リウイ達に気付いたエステルは微笑みの表情で2人を見ていた。
「?俺達がどうかしたか?」
エステルの微笑みを見たリウイは不思議そうな表情で尋ねた。
「えへへ……やっぱり、2人はお似合いよね!イリーナ様が目覚めてよかったね!」
「………何故、その事を………?2人の記憶ではその事は知らないはずだが。」
「武術大会でカーリアンと戦った時、あたしが”ラピス”になった時、カーリアンが教えてくれたもん。」
「………全く………あれほど機密だと言ったのに、口の軽い奴だな………」
「フフ、いいではないですか。ラピス姫達ならば、教えてもいいと思ったんではないですか?」
エステルの説明を聞いたリウイは呆れて溜息を吐いたが、イリーナは優しい微笑みをリウイに向けて言った。そしてイリーナは改めてエステルを見て、微笑んだ。
「……こうして貴女と話すのは初めてですね、エステルさん。もう私の事は知っているとは思いますが、改めて自己紹介をさせて頂きます、私の名はイリーナ。イリーナ・マーシルン。……リウイの正妃です。もう一つの名はイリーナ・マグダエルです。」
「は、初めまして!エステル・ブライトです!えっと……もう一つの名前ってイリーナ様が転生した人の名前ですか?」
イリーナに微笑まれたエステルは緊張した様子で答えた後、尋ねた。
「ええ。偶然にも私と同じ名前なんです。フフ……けどそのお陰であなたは幼い”私”があなたと出会った時、”私”だと気付いてくれたんでしょう?」
エステルの疑問にイリーナは頷いた後、上品に笑ってリウイを見た。
「…………別に名前が同じだからという理由ではない。あの時、感じた雰囲気から”イリーナ”があの時出会った少女に眠っていると気付いただけだ。」
「えへへ……それだけリウイがイリーナ様の事を思っている証拠ね!よかったね、イリーナ様!」
リウイの答えを知ったエステルは微笑んだ後、イリーナに笑顔を向けた。
「フフ、ありがとう、エステルさん。……もし、よければ私の事も気軽な呼び方にしてくれないかしら?”私”が目覚めてから気軽な呼び方をしてくれるのはツーヤぐらいですもの。貴女とは貴女がリウイに接しているように気安く接してもらいたいですから………」
「えっと…………じゃあ、イリーナさん!」
イリーナにある事を頼まれたエステルは考えた後、ある呼び方でイリーナの名を呼んだ。
「ありがとう。…………フフ、私が”さん”付けでリウイが呼び捨て。そしてペテレーネが”聖女様”だっていう人は貴女ぐらいね。」
イリーナは上品に笑いながら答えた後、凛とした表情でエステルを見た。
「エステルさん……”魔”に堕ちようとしたリウイを止めてくれて本当にありがとう……貴女が止めてくれたお陰で、今のリウイがいるのですから……」
「あ、あはは……そんな大した事はしたつもりではなかったんだけどな………そう言えば、あの時のリウイ、かなり怒っていたけど、やっぱりイリーナさんが眠らされたからあれだけ怒っていたんでしょ?プリネだけなら、そんなに怒るような気がしないし。」
イリーナにお礼を言われたエステルは恥ずかしそうな表情で答えた後、リウイに尋ねた。
「………………………………ああ。また、”あの時”のようにイリーナを失うのかと考えてしまって……な……………」
エステルに尋ねられたリウイは少しの間黙っていたが、やがて溜息を吐いて答えた。
「……あなた。私の事を思ってくれるのは嬉しいですが、復讐心に狩られて、殺戮者になるのだけはやめて下さい……そんなの、本当のあなたではありませんし………私達が誓った”理想”も遠のいてしまいますし………」
「……わかっている。お前と誓った理想がようやく実現できたのだ。俺の為にも………そしてお前の為にも、もうそんな真似はしない。」
イリーナに静かに問いかけられたリウイは重々しく頷いた。
「えへへ……よかった。」
2人の様子を見たエステルは微笑ましそうに2人を見ていた。
「………エステル・ブライト。以前からお前には聞きたい事があった。」
「ん?何??」
静かに問いかけて来たリウイの言葉にエステルは尋ねた。
「…………何故、お前は俺達”闇夜の眷属”を”友”になろうとし、俺達に歩み寄ろうとする?普通の人間なら、俺達の事を畏怖、或るいは敵意を持つのが普通だ。なのになぜお前は最初からそんな感情を持たず、普通の人間に接するような態度で俺達に歩み寄る?」
「そんなの、決まっているじゃない!同じ”人”だからよ!人間とか闇夜の眷属とかそんなの関係ないわ!みんな同じ”人”なんだから!」
「「…………………………」」
エステルの答えを聞いたリウイとイリーナは驚いた表情をしていたが
「フッ………」
「フフ………」
やがて2人はそれぞれ口元に笑みを浮かべた。
「??2人とも、どうしたの?あたし、何かおかしなことを言ったかな??」
2人の様子を見たエステルは首を傾げた。
「いや……………幼い頃からそこまでの考えを持っているとは思わなくてな………プリネ達も本当によい友を見つけたものだ………」
「フフ、そうですね。……世界中の人達がエステルさんと同じ考えを持つ方達ばかりなら、争いもなくなるんですけどね………」
「あ、あはは……言いすぎよ~。」
リウイとイリーナの言葉にエステルは照れながら答えた。
「~~~~~~♪」
~~~~~~~~♪
その時誰かの歌声と共に音楽が聞こえて来た。
「あれ………この曲って………」
聞き覚えのある曲に気付いたエステルは音楽や歌声が聞こえて来た方向を見た。
「~~~~~~♪」
~~~~~~~~♪
~~~~~~~~♪
~~~~~~~~♪
~~~~~~~~♪
そこではエリザスレインが玲瓏な歌声で『星の在り処』を歌い、オリビエはピアノで、アムドシアスは竪琴で、ツーヤがフルートで、そしてプリネがヴァイオリンで『星の在り処』を合奏していた。
「ハハ……エステルの仲間達が歌える人を捜していた時、俺がエリザスレインを紹介したら『なんで私が』って最初は文句を言っていたけど、エリザスレイン、真面目に歌っているね。……さすがは伝説になっているだけあって、素晴らしい歌声だね。」
「ええ………人間、闇夜の眷属、魔神、竜、そして天使の合奏………これも”共存”しているからこそ、その身に実感できるすばらしい芸術ですね………」
エリザスレイン達の合奏を聞いていたウィルは笑い、セラウィはウィルに寄り添って微笑んでいた。そしてしばらくすると、合奏は終わった。
パチパチパチパチパチ…………!
合奏が終わると大きな拍手がエリザスレイン達に向けられた。
「フフ、まさに聞きほれるような歌声だね、エンジェル?」
大きな拍手の中、オリビエは拍手に酔いしれながらエリザスレインを見た。
「……これでも私の歌声は伝説として語り継がれるほどの歌声よ。当然の評価ね。」
オリビエに見られたエリザスレインは澄ました表情で答えた。
「他種族が協力し合い、演奏する合奏………ウム!誰も再現した事がない、素晴らしい音楽にして芸術!その中に芸術を愛する魔神たる我がいて当然だな!」
「フフ……こんな素晴らしい舞台に参加できるとは思いませんでした………」
「はい。マスターのようになる為に楽器を練習していましたが、まさか最初の本番がこんな凄い舞台で演奏する事になるとは夢にも思いませんでした……」
アムドシアスは自己陶酔になり、プリネは微笑み、ツーヤは苦笑していた。
「フム……せっかく、こんなにも素晴らしい役者が揃ったんだ。まさか一曲だけで終わらせようだなんて、思ってないよね♪」
「当然だ!」
「……はい!」
「フフ……私でよければ皆さんの気が済むまでお付き合いしますよ。」
「ハア……まあ、いいわ。人間達に語り継がれる私の歌声………闇夜の眷属達にも特別に聞かせてあげるわ。」
オリビエの言葉にアムドシアスやツーヤは大きく頷き、プリネは微笑み、エリザスレインは溜息を吐いた後、口元に笑みを浮かべて答えた。
「フフ……得とご覧あれ!他種族が協力し合う最高のハーモニーを!」
そしてオリビエ達は楽譜を見ながら別の曲の合奏を始めた。
「うわ~………凄い!!光と闇の種族が協力し合って、合奏するなんて………!」
オリビエ達の演奏を見ていたエステルは目を輝かせた。
「フフ……あれこそが私達が目指した理想によって実現した物の一つですね、あなた。」
「………そうだな。」
イリーナの微笑みにリウイは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「……リウイ。」
「?どうした。改まって。」
エステルに静かに見つめられたリウイは同じように見つめ返し、尋ねた。
「イリーナさんが蘇った事だし………ラピスとリンの思い………今、伝えるね。」
「…………聞こう。」
エステルの話を聞いたリウイは静かな表情で促した。そしてエステルは2人の力を同時に解放し、先端に金が混じった黒髪、瞳は翡翠と紫紺のオッドアイになり、静かに言った。
「……『お2人とも末永く、お幸せに。』………これが2人の今の思いよ。」
「………ラピス姫………………リン姫……………」
「………………………………そうか。……………2人の思い…………確かに受け取った。」
エステルの言葉を聞いたイリーナは涙を流し、リウイは目を閉じ、静かな笑みを浮かべて頷いた。
「じゃ、伝えたからね!2人の理想が世界にも広げる為に、あたしはあたしの出来る事で頑張るわ!」
「……ありがとう、エステルさん。」
「………”魔”に堕ちようとした俺を止めた事……2人の思いを伝えてくれた事………そして俺達の理想を理解する新たな同志となってくれた事………礼を言う。………戦友よ。」
「えへへ………じゃ、あたしは他の人達と話してくるわ!」
エステルは太陽が輝くような眩しい笑顔をリウイ達に見せた後、リウイ達に背を向けて、どこかに向かった。
(陛下。私達はこの娘と共に貴方達を見守っています………)
(……いつか、陛下達と”あの時”のように肩を並べて戦う日が、また来る事を楽しみにしているぞ……)
「…………………!!」
去っていくエステルの背中から、ラピスとリンの微笑みが一瞬見えたリウイは目を見開いて驚いた。
「あなた?どうしたのですか?」
「いや………………何でもない。………そろそろ俺達も広間に戻るぞ。」
「はい、あなた。」
そしてリウイとイリーナも広間に戻って行った。その後、パーティーを楽しんだエステル達はマルーダ城に泊まり、そして翌日リウイ達に見送られ、元の世界に戻った。元の世界に戻ったエステル達は次なる目的地、ボースへ旅立つ用意の為にロレントに1日だけ滞在し、その翌日。
~ブライト家~
「…………よし!」
鏡に写っている自分を見たエステルは頷いた後、部屋を出た。
「あら、エステル……?…………フフ、似合っているわよ。」
「わあ………前もそうだけど、今もとっても似合っているよ、ママ!」
リビングに降りて来たエステルを見たレナは一瞬驚いた後、微笑み、ミントも頷いた。
「えへへ、そうかな?………じゃ、行くわよ、ミント!」
「うん!」
エステルに言われたミントはエステルと共にレナを見て笑顔で言った。
「「いってきます!!」
「フフ、いってらっしゃい。」
そして2人はブライト家を出て、集合場所である空港に向かった。
~ロレント発着所~
「お待たせ、みんな!」
「あら、エステル。それにミントもようやく来たわね………え!?」
「まあ…………!」
「お、お姉ちゃん………!?」
エステルとミントに気付いて振り向いたシェラザードはエステルを見て驚き、クロ―ゼやティータも驚いた。
「フム………髪型を変えたみたいだね、エステル君。一体、どういう心境があってその髪型にしたんだい?」
オリビエはシェラザード達が驚いた理由――ツインテールから、ラピスそっくりの髪型に変わったエステルを見て尋ねた。
「えへへ………もう、みんなも知っているけど、あたしの中にはラピスとリン………2人がいるの。だから2人とずっと一緒に生きて行くって言う意味でこの髪型――ラピスの髪型にしたんだ。リンはあたしより髪型が短いから、これしかなかったんだけどね………似合っているかな?」
オリビエの疑問にエステルは答えた後、苦笑した。
「フフ……前より大人しげに見えていいんじゃないかしら?」
「とてもお似合いですよ、エステルさん。」
「う、うん……!前より大人っぽく見えるよ、お姉ちゃん!!」
「えへへ……そっか。」
シェラザードとクロ―ゼ、ティータの言葉を聞いたエステルは照れた。
「…………どうやら、間に合ったようですね………」
そこにプリネ、ツーヤ、そしてリタがエステル達に近付いて来た。
「あれ?プリネ。どうしたの??」
「はい。………エステルさん達の旅のお手伝いをさせてもらおうと思って、ここに来ました。」
「へ!?なんで!?」
プリネの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。
「……エステルさん達には今回の件でお世話になりましたから、”私個人”としての恩を返したいですし……何より、エステルさんとヨシュアさんの力になりたいんです。」
「プリネ………ありがとう!」
「ハハ。心強い仲間が増えたな。」
プリネの話を聞いたエステルは笑顔になった。また、ジンは笑いながらプリネ達の加入を快く迎えた。
「フフ……また一緒に旅ができるね、ツーヤちゃん!」
「うん……また、よろしくね、ミントちゃん。」
ミントは嬉しそうな表情でツーヤに話し、ツーヤも微笑んで頷いた。
「フフ……それにレンが大分迷惑をかけてしまったようですし、姉としての責任もとっておきたかったから、お礼なんて良いですよ。……本当ならリフィアお姉様やエヴリーヌお姉様も手伝いたかったようなのですが、お2人はユイドラの件の会議でお忙しくて……」
「あ、あはは……プリネが気にする事ないって!それにリフィア達だって、色々あるだろうし、別にいいわよ。あ、そう言えば、プリネ。一つ気になったんだけど。」
申し訳なさそうな表情で話すプリネを見て、エステルは苦笑した後、ある事が気になり、尋ねた。
「なんでしょうか?」
「ツーヤの叙任式でプリネ、自分のミドルネームで”K”ってあったけど、あれって、どういう事??以前名乗った時はミドルネームなんてなかったよね?」
「………ええ。少し事情があって、ある名前の頭文字だけを今、名乗る事にしたんです。」
「ふ~ん………それでその名前って?」
「……今は言えません。ですが、いつかは教えますので。」
エステルに尋ねられたプリネは一瞬辛そうな表情をした後、凛とした表情で答えた。
「プリネにも事情があるのね………わかったわ!それでツーヤはわかるけど、なんでリタまで??」
プリネの答えに頷いたエステルはリタを見た。
「…………私にはある事情があって、この世界に来たんです。」
「ある事情って??」
そしてリタはエステル達にゼムリア大陸に来た理由を説明した。
「し、死した魂が集まる場所、そして”冥王”………まさかこっちの世界では幻想みたいな存在があるなんて…………神や天使が実在するといい、異世界はなんでもありね………」
「こ、こんなガキがその門番って……し、信じられねえ………」
リタの説明を聞いたシェラザードは驚いた後疲れた表情で溜息を吐き、アガットは信じられない表情でリタを見ていた。
「フフ……私はこう見えても、”幽霊”ですから数百年は生きていますから、子供ではないですよ?」
「ふ、ふええええ~!?リタちゃんって、幽霊さんなの!?」
リタの話を聞いたティータは驚いた表情で尋ねた。
「フフ、できればそんなに怖がらないでもらえるとありがたいです。幽霊といっても理性や自我はありますし、皆さんと同じように飲んだり食べたりすることもできますよ?」
「ほう…………どうやら普通の幽霊とは違うようだな。……見た所、槍に座っているようだが、その槍で戦うのか?」
リタの説明を聞いたジンはリタが座っている槍――”魔槍ドラブナ”に目を向けて、尋ねた。
「ええ。それと冷却魔術も使えますし、戦闘ではお役に立ちます。皆さんの足手纏いにはなりませんので、どうか同行を許してくれませんか?」
「そんなのこっちが頼みたいぐらいよ!これからよろしくね、リタ!それとあたしの事は”エステル”でいいよ!……まさか幽霊の友達までできるとは思わなかったけど。」
「フフ、ありがとう、エステル。私も貴女の”友達”として、貴女の力になるね。”魔槍のリタ”、これより貴女達の旅を助力させて頂きます。」
エステルの笑顔を見たリタは可愛らしく微笑んで頷いた。
「ハア……闇夜の眷属に精霊、幻獣、竜に天使、魔神、そしてついには幽霊とも親しくなるなんて、あんたは一体どれだけの種族と親しくなるつもりよ………この様子だと、その内”神”とも親しくなるか、契約をするんじゃないかしら?」
「フフ……それがエステルさんなんでしょうね。」
疲れた表情で溜息を吐いて呟いたシェラザードの言葉にクロ―ゼは微笑みながら答えた。
ボース方面行き定期飛行船、まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください。
「さて………出発の時間が来たようね!みんな、行こう!」
離陸の放送が聞こえたエステルは仲間達を促して、飛行船の中に入って行った。エステル達が飛行船の中へと入り、その場にはプリネしかいなくなった。
「………………ヨシュア。…………レーヴェ。………………絶対にあなた達を闇から救って見せる…………!」
決意の表情で空を見上げて呟いたプリネは、その後飛行船の中へと入って行った。
そしてエステル達は次なる目的地、ボースへと向かった…………………
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