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虹のお好み焼き

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3部分:第三章


第三章

「裏地が赤の白いロングコートに青い背広を着ていて」
「ふんふん」
「赤いネクタイと白いワイシャツの人なんだって」
「随分キザな人!?」
 全体の服装を聞いてこの言葉が出て来た。
「その人って」
「多分ね。けれどそっちの筋じゃかなり有名な人なんだて」
「そうなの」
「タロット占いで占わせたら百発百中」
 語るその言葉が弾んでいる。話す少女にとってはそういうことは憧れであるらしい。それが何処となくわかる弾んだ言葉であった。
「凄いらしいのよ。お薬の販売もやっていてね」
「それがあのお薬なのね」
「何でもどんな毒も効果がないそうよ」
 そういうことであるらしかった。
「ユニコーンの角らしくてね」
「ユニコーンの角ねえ」
 女の子達はユニコーンの角と聞いて首を傾げさせた。それぞれ右と左に分かれているその動作がやけに滑稽なものとなっている。
「そんなもの本当にあったの」
「何処かで見つけて来るらしいわ」
「まあそれでも毒には効果があるのよね」
「それは間違いないらしいわ」
「じゃあ先生あれを食べても大丈夫よね」
「多分ね」
 こういう話になるのだった。
「多分だけれど」
「何かあやふやね」
「しかも味はね。それで防げないから」
 まだその問題があった。だから先生は今芙美子が焼いたお好み焼きのお皿を手に取ってもまだ動きが鈍かったのだ。その顔全体に脂汗までかいている。それはまるで蛇に睨まれた蛙であった。より悪く言えば蝦蟇の油そのものになってしまっていた。
「だから。戸惑っているのよ、先生も」
「でしょうね、やっぱり」
「まずくて死ぬってことあるかしら」
 よく漫画等で出て来る表現について述べられた。
「そういうのはあるかしら」
「あるんじゃないかしら」
 このことに関しては誰もはっきりと答えられなかった。流石にそこまで極端な話は現実ではお目にかかったことは誰もなかったからだ。
「やっぱり。だとしたら」
「あれよね」
「そう、あれ」
 その不気味に七色が混ざったお好み焼きを見て言う。美しい筈の虹の配色も混ざり、しかもその位置によりここまで不気味になるものだと皆内心唖然としていた。少なくともそれは最早お好み焼きではなくゴッホの絵画を思わせるものになってしまっていた。
「あれでしょうね、多分」
「先生食べて生きられるかしら」
「毒に関しては大丈夫じゃないの?」
 いささか無責任な言葉であった。
「ユニコーンの角飲んだし」
「それはクリアーしているのね」
「それはね」
 あくまでそれは、という限定的なものであった。限定されたものでしかないのがまた実にこの問題を複雑にしていた。ただ食べるだけというこの問題を。
「まあ大丈夫でしょ」
「だといいけれどね」
「とにかくよ。いよいよよ」
「いよいよね」
「そう。さて鬼が出るか蛇が出るか」
 最早料理を食べる話ではなくなっていた。
「先生の幸運を祈ってね」
「見守ろうね」
「ええ」
 あくまで自分達が食べないから言える言葉であった。食べる先生はまだ脂汗を流し続けている。それでそのまま風呂ができそうな位だ。箸を手に取りその動きを止めてしまっている。
 
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