虹のお好み焼き
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1部分:第一章
第一章
虹のお好み焼き
室町芙美子はあることで学校中の有名人になっていた。これは悪い意味においてである。
「今日も凄かったのよ」
「そんなにかよ」
「ええ、そんなになのよ」
皆が今日も彼女は凄かったと話をしている。丁度彼女のクラスは家庭科で調理実習をしていた。その日の調理実習が終わってからの話である。
「今日はね。八宝菜だったのよ」
「へえ、八宝菜か」
「普通じゃね?」
男の子達は料理名を聞いてまずはこれといって驚きは見せなかった。
「八宝菜だったらよ」
「普通になるがよ」
「ところがね」
「これが違うのよ」
女の子達はまずはそれ程危険視していないのに対して言ってきた。
「もうね。イカが殆ど特撮の触手みたいになっていて」
「触手!?」
「また随分と過激だな」
男の子達はまずそれに驚くが話はそれで終わりではないのであった。まだ続くからこそ彼女が有名人になっているのであった。
「おまけに白菜も椎茸も真っ黒で」
「真っ黒!?」
「椎茸はわかるけれど白菜もか」
「そうよ。当然鶉の卵もね」
「葱は真っ赤」
「真っ赤・・・・・・」
白菜の真っ黒以上にこれがわからない男の子達だった。
「葱が真っ赤かよ」
「そうよ。言っておくけれど人参は入れてないわよ」
「それはわかっておいてね」
「それで何で真っ赤になるんだ?」
「葱が」
話を聞いてもさっぱりわからない。それも無理はないことだった。
「緑色だろ?普通は」
「何でそれでなんだ?」
「しかも豚肉も同じ色で」
「わかんねえな」
「豚肉も真っ赤かよ」
「火は通してるんだよな」
「もうじっくりとね」
返答はこうであった。
「じっくりとやってたわよ」
「強火でね」
中華料理の基本だった。それは守られているようである。
「けれど海老は真っ白」
「それ普通に火が通ってねえだろ」
「どうなってんだよ」
「しかも鶉の卵も真っ黒よ」
「何がもう何だか」
色彩感覚がおかしくなりそうな話であった。
「わかんねえな」
「どうなってんだ?」
「大蒜も生姜も入れてね」
「八宝菜超えてるな」
とりあえず八つでないのは間違いなかった。
「何がもう何だか」
「無茶苦茶だろ、それって」
「しかも切り方だってもう壮絶で」
「量も山盛り」
「うげえ、食いたかねえな」
「それで食えるのかよ」
「さあ」
男の子達の言葉に首を横に振る女の子達だった。
「食べてるのはフミだけだし」
「私達食べてないから」
「食ってねえのかよ」
「外見想像できる!?」
「何処の宇宙映画の怪獣なんだろうな」
男の子達の返答はこうであった。
「それってな」
「怪獣、食べられる?」
「その宇宙映画の怪獣」
「まあそれはな」
「ちょっとな」
首を傾げて答える男の子達であった。
「遠慮はしたいな」
「やっぱりな。健康は大切にしたいし」
「だからなのよ。全く」
「それ以外はいい娘なのに」
実は芙美子は嫌われ者ではない。むしろかなり好かれている方だ。明るくて面倒見のいい性格なのでクラスでも学年でも男女問わず人気がある。だが料理においてはそれは全く別の話となるのであった。
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