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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第34話

エステル達が城に出ると、既に夕方になっており、エステル達は最後の尋ねる場所である、リベール通信社に向かった。



~リベール通信社3階・資料室~



「あ、いたいた。お~い、ナイアル。こんにちは~。」

「あん……?なんだなんだ!お前さんたちかよ!」

資料を調べていたナイアルはエステルに話しかけられ、エステル達を見て口元に笑みを浮かべた。

「こんにちは、ナイアルさん。」

「フッ、お邪魔させてもらうよ。」

「は~、姫殿下に演奏家に『不動のジン』までいるのか。ずいぶん賑やかじゃねえか。」

エステル達の顔ぶれを見たナイアルは驚いた。

「えへへ………あの後、また色々あったのよね。ナイアルは市長選の取材、無事終わったみたいじゃない?」

「フフン、あたぼうよ。それで今日はどうした?何か美味しいネタでもあるかよ。」

エステルに尋ねられたナイアルは得意げに胸を張った後、期待した表情で尋ねた。

「いや、どちらかというとあたしたちの方が知りたくてねここに届けられた脅迫状について聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ、お前らもそいつを追ってやがるのか?てっきり王国軍が調べてると思ったんだが……」

エステルの話を聞いたナイアルは意外そうな表情をした。

「うん、その軍からの依頼で調査を手伝っているんだけど……。何か情報は入ってないかな?」

「うーん、俺の方も王都に戻ってきたばかりで大した情報は入ってねぇんだ。どちらかというとお前らに聞きたいくらいだぜ。」

「なんだ、使えないわね~。」

「君もマスコミの人間だろう。犯人の見当くらい付いてるんじゃないのかね?」

「ぐっ……失礼な連中だな。」

エステルとオリビエの指摘にナイアルは唸った。



「お2人とも、失礼ですよ。あの、ナイアルさん。無理を承知でお願いします。ささいな情報でも構わないので教えて頂けないでしょうか。」

「ちょ、ちょっと姫殿下!頭を下げないでくださいよ!ああもう……仕方ねえなあ。」

頭を下げるクロ―ゼを見たナイアルは慌てて話し出した。

「これはオフレコだが……脅迫状がどうやらここだけじゃないらしい。まずはレイストン要塞……そして大聖堂に飛行船公社にホテル・ローエンバウム……さらにはエレボニアとカルバードの大使館にグランセル城、エルベ離宮、そして……メンフィルの現皇帝、シルヴァン皇帝陛下宛にもう一枚、グランセル城……。全部で10箇所も届けられたらしい。」

「「「「…………………」」」」

「ん、どした?」

何の反応も示さないエステル達に首を傾げたナイアルは尋ねた。

「あの、ナイアル……。その情報ならとっくに軍の人から教えてもらったんだけど……」

「なぬ~っ!?し、仕入れたばかりの最新のネタだっつーのに……」

エステルから話を聞いたナイアルは驚いた後、肩を落とした。

「こりゃ、聞くだけ無駄か。」

「うん、他を当たった方がいいかもしれないわね……」

そしてエステル達が帰ろうとしたその時

「ちょ~っと待ったあっ!そこまでコケにされちゃあリベールきっての敏腕記者、ナイアル・バーンズの名がすたるぜ。いいだろう……現時点での俺様の推理をお前さんたちに聞かせてやるよ!」

ナイアルは慌ててエステル達を呼び止めた。

「ふーん……」

「フッ、手短に頼むよ。」

「ぐっ……いいかよく聞け。俺はな、今回の事件は愉快犯の仕業だと睨んでいる。」

あまり乗り気でないエステル達に唸った後、ナイアルは話しだした。

「うーん、それはあたしたちも考えたけど。」

「そう確信する理由を聞かせてもらいたいもんだな?」

「記者としての経験から言うと……あの脅迫状にはリアリティがないのさ。そもそも脅迫状ってのは具体的かつ現実的な要求を掲げて初めて意味があるもんだ。だが、あの脅迫状にはそれがない。」

「フム、確かにそれはそうだね。単に『災いが起こる』だけじゃ関係者としても対応しようがない。」

ナイアルの話を聞いたオリビエは頷いた。



「そういうことだ。とても本気で、条約そのものを妨害するつもりだとは思えねぇ。誰だか知らんが、世間を騒がして喜んでいるだけだと思うのさ。」

「な、なるほど……」

「一理ありそうですね。ただ、脅迫状が10箇所、それもシルヴァン皇帝陛下宛にも届いたのが気になりますけど……。どれも条約に関係している所ばかりのようですし。」

「確かに、ただの愉快犯にしちゃ事情を知りすぎているようだ。」

「うーん、それを言われると……。ただ、そうした事情ってのはその気になれば調べられるもんだ。とりあえず、俺は愉快犯の前提で情報を集めてみようと思っている。お前さんたちは、別の視点から動いてみるのもいいだろうさ。」

クロ―ゼやジンの話を聞いたナイアルは考え込んだ後、答えた。

「うん、そうね。ありがと、ナイアル。結構、貴重な意見だったかも。」

「フフン、そうだろ?まあ、何か分かったらお互い情報交換するとしようぜ。俺も不戦条約の締結までは王都に腰を据えるつもりだしな。」

「あ、そうなんだ。そういえば……ドロシーはどうしてるの?」

ナイアルの今後を聞いたエステルは社内にいなかったドロシーの事を思い出して、尋ねた。

「ああ、あいつならボースに出張中さ。ちょいと写真を撮ってきてもらいたくてな」

「特集?」

「王国軍関連の特集さ。空賊どもが使っていた中世の砦があっただろう?今、あそこは王国軍の訓練基地になっているんだ。飛行船の操縦訓練なんかが行われているらしいぜ。」

「へえ、そうなんだ。それじゃ、その基地の取材に行ってるわけね。」

「まーな。いまだに1人に任せるのはちょいと心配なんだが……」

エステルに答えたナイアルは疲労感が漂う様子で溜息を吐いた。

「うーん……確かに否定できないわね。あ、そうだ。ナイアルに聞きたいことがもう1つあるんだけど。」

「あん?」

そしてエステルは今までと同じようにレンの両親の事を尋ねた。

「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。うーん、聞いたことねぇな。ウチの『尋ね人』欄にも載せてなかったと思うぜ。(にしても”レン”か……どっかで聞いた事があるんだがな………?)」

「そっか……」

「ま、サービスのついでだ。どうしても見つからなかったら俺の方でも力になってやるよ。『尋ね人』欄に載せるなりクロスベル方面の知り合いに聞いてみるなりできるだろ。」

「ありがと、ナイアル。えへへ、なんだか今日はいつもよりも頼もしいわねぇ。ちょっぴり見直しちゃったわ。」

「そーだろ、そーだろ。って、いつもは頼もしくないってことかよっ!?」

エステルに感心されたナイアルだったが、ある事に気付いて、突っ込んだ。



「や~ねえ。言葉のアヤだってば。」

「よし、それじゃあそろそろギルドに戻るか。アガットのやつも戻ってきてるだろう。」

「フッ、そうだね。」

「ナイアルさん。どうもありがとうございました。」

「いやいや、また来て下さいよ。」



その後エステル達は今まで手に入れた情報を報告する為に、ギルドに向かった。

~遊撃士協会・グランセル支部~



「ただいま~。」

「おっと、戻ってきやがったか。」

エステル達がギルドに戻ると既にアガットが戻っていた。

「ゴメン、ゴメン。ちょっと遅くなっちゃった。えっと……ミント達は?」

「つい先ほど戻ってらっしゃいましたよ。ミントさんは先ほど入った依頼の対応でちょうど出て行きました。2人は今2階で、お買い物の戦果を見せ合っているみたいですね。」

「そっか。楽しんできたみたいね。ミントも頑張っているわね。えっとそれじゃあ、あたしたちも報告しようかな。」

「ええ、よろしくお願いします。」

そしてエステル達は集めて来た情報をエルナンとアガットに説明した。



「なるほどな……。ずいぶん色々な情報を掴んできたじゃねえか。」

「ええ。それにしてもまさかシルヴァン皇帝陛下達とお会い出来たとは……リフィアさん達と親交のあったエステルさんのお陰ですね。」

「あはは………まあ、決定的なことは何も分かってないけどね。アガットの方はどうだった?」

アガットとエルナンに感心されたエステルは苦笑した後、アガットに尋ねた。

「正直、どこもハズレでな。大聖堂、ホテル、飛行船公社……どこも脅迫状を送ってきた犯人の心当たりはないそうだ。飛行船公社は、空賊事件みたいに後からミラの要求があることを警戒しているみてぇだが……。今の所、その要求もないらしい。」

「そっか……。結局、犯人の可能性は色々と考えられるんだけど……。『結社』の仕業って可能性はどこまであるのかしら?」

「……何とも言えませんね。これまでの事件を見る限り、彼らは今のところ『ゴスペル』の実験以外の活動はしていません。そして、『ゴスペル』は普通では考えられない現象を引き起こすことが分かっています。」

エステルの言葉にエルナンは真剣な表情で頷いた。

「フム、その意味で今回の脅迫事件は確かに毛色が違っていそうだね。」

「現時点で、結社の関与を示す兆候は見られないってことだな。」

「うーん……。警戒のしすぎなのかしら。」

オリビエやジンの意見を聞いたエステルは悩んだ。

「いえ、警戒しておくに越したことはないと思います。とりあえず、今できる調査は全てやったと考えていいでしょう。皆さんの報告は、私の方でレポートとしてまとめておきます。明日、それをエルベ離宮にいるシード中佐に届けてもらえますか?」

「うん……。結局、犯人は分からなかったから申しわけないけど、仕方ないよね。そういえばアガット。レンちゃんの方はどうだった?」

エルナンの言葉に頷いたエステルはレンの事で何か進展があったのかをアガットに尋ねた。

「そっちは幾つか判ったことがある。まずはホテルだが……あの子と両親は4日ばかり王都に滞在していたようだな。その間、ずっとホテルの同じ部屋に泊まっていたらしい。で、今朝、チェックアウトしたそうだぞ。」

「なるほど……」

「次に大聖堂だが……。滞在中、何度か大聖堂に礼拝に来ていたみたいだな。で、応対した司祭が言うには両親の様子が変だったそうだ。礼拝中、上の空だったらしい。」

「ヒルダ夫人の話と同じですね。」

「うん……」

アガットの話を聞き心配そうな表情のクロ―ゼの言葉にエステルは頷いた。



「最後に飛行船公社だったが……。……実はな。見つからなかったんだ。」

「へ……何が?」

けげんそうな表情のアガットの話にエステルは首を傾げた。

「クロスベル出身のヘイワーズ夫妻とレン………ここ半年くらいの乗客名簿には該当者が見当たらなかったんだ。」

「ええっ!?」

「フム……ミステリーだね。となると、陸路を通ってリベールに来たということかな?」

「いや………さすがにそれはありえないな。クロスベルとリベールは遥かに離れている。陸路で来るにはとてつもなく手間もそうだが、時間がかかりすぎる。」

アガットの話を聞いたエステルは驚き、オリビエは推測をしたが、ジンは首を横に振って否定した。

「そうですね…………だとすれば、ご両親が偽名を使っていたのかもしれませんね。」

ジンの意見に頷いたエルナンは真剣な表情で言った。

「ぎ、偽名……」

エルナンの推測にエステルは信じられない表情をした。

「後ろ暗いことがあったのか、トラブルを恐れていたのか……。いずれにせよ、旅に出る前から危険は予測していたみたいだな。」

「………………………………」

アガットの推測を聞いたエステルは心配そうな表情をした。



「レンさんのご両親については各地のギルドにも連絡しました。今はあせらず、情報が入るのを待った方がいいかもしれませんね。とりあえず、レンさんですが……しばらくギルドで預かった方がいいかもしれません。」

「うん……トラブルに巻き込まれる危険もあるしね。えっと、よかったらあたしに預けてくれない?他人事とは思えないし……」

「そう言って頂けると助かります。王都滞在中、皆さんの宿泊はギルドが手配させていただきます。レンさんの宿泊費も持たせて頂くのでご安心を。」

「正直、助かっちゃうわ。あ、そういえばヒルダさんの話があったっけ?」

そしてエステルはアガット達に王城に泊まってはどうかという申し出があったことを説明した。

「ほう、そんな話が……」

「……俺は遠慮するぜ。何度も泊まるにはさすがに堅苦しそうだ。ホテルの方が、何か起こった時ギルドと連絡がつきやすいしな。」

「それは確かにそうかも……。レンちゃんの両親の連絡が入ってくるかもしれないし。クローゼ、悪いんだけど……」

アガットの話を聞いたエステルは頷いた後、申し訳なさそうな表情でクロ―ゼを見た。

「ふふ、お気になさらずに。ヒルダさんの方には私の方から説明しておきます。」

「ボクとジンさんはそれぞれの大使館泊まり。姫殿下はグランセル城泊まり。君たち2人と年少組はホテル泊まりというわけだね。その前にどうだろう。せっかくだから、ミント君が戻って来たら酒場で一緒に夕食を共にしないかい?」

「あ、いいかもね。オリビエのピアノも久しぶりに聞いてみたいし。ミントも喜ぶと思うわ。」

オリビエの提案にエステルは頷いた。

「フッ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。エステル君もようやく大人の味が判ってきたようだね♪」

「いかがわしい言い方するんじゃないわよ。」

「しかし、そういう事ならすぐに出かけた方がいいな。これだけの大所帯だ。席がなくなる可能性もある。」

「じゃあ、あたしは残ってミントを待っているね。」

「わかった、チビたちを呼んでとっとと俺達は先に酒場に向かって席を確保するとするか。」



その晩、エステルたちはレンと共に『サニーベル・イン』で夕食を取ることになった。その内、当然のように酒盛りとオリビエのピアノ演奏が始まり……しまいにはナイアルとミュラーまで酒場に呼び出されて参加する始末……。王都の夕べは、そうして楽しく過ぎていった。



~王都グランセル・北街区・夜~



「さてと……あたしたちはここまでね。クローゼ。気を付けて帰ってね。」

ホテルの前に到着したエステル達はクロ―ゼと一端別れる事にした。

「ふふ、近くですから大丈夫ですよ。」

「あら、お姉さん?このあたりに住んでいるの?(うふふ……シルヴァンお兄様達が城にいるんだから、お姫様は戻って対応しないと不味いものね。)」

クロ―ゼの話を聞いたレンは内心わかっていながら首を傾げて尋ねた。

「え、ええ。親戚の家に泊まるんです。それでは皆さん、失礼します。」

「ああ、また明日な。」

「「クローゼさん、さよーなら!」」

そしてクロ―ゼはグランセル城に帰って行った。

「それにしても……。やたらと盛り上がったわねぇ。オリビエに呼び出されてミュラーさんまで来ちゃうし。」

「ミントは凄くにぎやかで楽しかったよ!」

エステルの話を聞いたミントは嬉しそうな表情で語った。

「そういうお前だってあの記者を呼んだじゃねえか。」

「あはは……どうせだったらと思ってね。レンちゃんの方はどうだった?」

アガットの指摘に苦笑したエステルはレンに尋ねた。

「うふふ、楽しかったわ。お料理も美味しかったし、面白い話もいっぱい聞けたし。ピアノも凄くステキだったわ。」

「うんうん、オリビエさんってピアノがとっても上手なんだね。ちょっとビックリしちゃった。」

「ミントは前に少しだけ聞いた事があるけど、最初から聞いたのは初めてなんだ。やっぱりオリビエさん、凄く上手いね!」

「ま、一応演奏家を名乗っているくらいだからね。アガットの方は切り上げてもよかったの?まだジンさんたちは盛り上がってたみたいだけど。」

レン達の感想を聞いたエステルは頷いた後、アガットに尋ねた。

「あいつらに付き合ってたらいつまでもキリがねぇからな。散々歩き回って疲れたし、とっとと休むことにするぜ。」

「そうね。あたしたちもホテルの部屋を取りますか。」

そしてエステル達はホテルに入った。



~ホテル・ローエンバウム~



「遊撃士協会の方ですね?お話は伺っております。生憎ですが、5人全ての方が泊まれる部屋はありませんので……。2人部屋を2つ、1人部屋を1つという形でお願いできませんでしょうか?」

エステル達が受付に近付くと受け付けは部屋割りをする許可を尋ねた。

「あ、そうなんだ。アガット。どういう風に分かれる?」

「俺はどこでもいい。お前らで好きなように決めろや。」

「だったらレンはお姉さんと一緒がいいわ。ずっとお仕事ばっかりであんまり話せなかったんだもの。」

「あ、レンちゃんズルい。私もお姉ちゃんと一緒に部屋がいいのに……」

「そうだよ~。ミントもママと一緒に寝ようと思ったのに……」

エステルとアガットの話を聞いたレンは真っ先に申し出、それを聞いたティータとミントはレンを恨めしげな目線で見た。

「ふふん、言った者勝ちよ。何だったら一緒のベッドに寝てもいいけど?」

「えへへ、うそうそ。今夜はレンちゃんにお姉ちゃんを譲ってあげる。」

「うん。ミントはいつもママと寝ているから、いいよ。ティータちゃん、今日は一緒におしゃべりしながら寝よう!」

「うん!」

「うふふ。ありがと、2人とも。」

「うーん……。譲られちゃったわ。」

ミント達の会話を聞いていたエステルは苦笑していた。

「だったら俺は1人部屋だな。じゃあ、とっとと休むぞ。」

そしてエステル達はそれぞれの部屋に向かった。



~エステルとレンの宿泊部屋~



「わぁ、パパたちと一緒に泊まった部屋とは違うわね。むこうの窓からはおっきな建物が見えるし……」

「あ……」

部屋に入ったレンが周りを見渡している中、エステルはヨシュアとホテルに泊まった時の事を思い出していた。そしてエステルの様子に気付いたレンは尋ねた。

「どうしたの、お姉さん?」

「あ、うん、ちょっとね。それよりも……レンちゃん、ごめんね。パパとママのことなかなか見つけられなくて。」

「ううん、いいの。だってパパたち、ちゃんと迎えに来てくれるってレンに約束してくれたもの。別にお姉さんたちが無理をして捜すことないわ。」

「でも……」

自分を慰めているレンにエステルは申し訳なさそうな表情をした。

「レンのパパとママはかくれんぼが上手だったの。もちろん、レンほどじゃないけどね。だから簡単には見つからないと思うわ。」

「あはは、そっか。それじゃあ無理はしないでノンビリ捜すことにするわね。」

「ええ、それがいいわ。それよりも……レン、お姉さんに2つお願いがあるんだけど。」

「お願い?なに?」

レンの頼みにエステルは首を傾げて尋ねた。

「あら、だめよ。お願いを聞いてくれるって約束してくれなければ言えないわ。」

「そうきたか……。あたしに出来ることなら何でも叶えてあげるわよ。」

「ほんと?うれしい!最初のお願いはね……レンのことは、レンって呼んで。」

「???ああ……!呼び捨てでいいってこと?」

レンの頼みに意味がわからなかったエステルだったが、すぐに気付いて尋ねた。



「ええ、そうよ。ティータやミントは呼び捨てなのにレンだけ“ちゃん”付けなのはちょっと納得いかないわ。」

「あはは……そういうもん?うん、別にいいけど……。何だったらあたしのこともエステルって呼び捨てにする?」

「お姉さんを?エステル……エステル……うん、いいかもしれないわ♪(なるほどね。エステルが無意識に持つこの親しみやすい雰囲気にお姉様達は感じて、すぐに親しくなったのね。フフ……さすがはお姉様達が友達になっただけあって、ただの人間じゃないわね。)」

「あはは……だったらそう呼んでよ。よろしくね、レン。」

「よろしく、エステル。うふふ……うれしいな。」

「ふふ、そっかそっか。それでレン。もう1つのお願いって?」

嬉しそうにしているレンを見た後、エステルは尋ねた。

「ええ、あのね……。さっき、部屋に入った時驚いた理由を教えてくれる?」

「あ……」

「エステル、ちょっとだけ哀しそうな顔をしてたわ。だから気になっちゃたの。」

「……そっか。前にね、この部屋にある人と泊まったことがあるの。その人のこと、ちょっと思い出しちゃってね。」

「わあ!それってやっぱり恋人!?」

エステルの話を聞いたレンは目を輝かせて尋ねた。

「ふふ……残念ながらそうじゃないわ。家族として一緒に暮らしていたあたしの兄弟みたいな人かな。今はちょっと一緒にいないんだけど……」

「ふーん……。その人ってどういうお兄さんなの?名前は?見た目は?(うふふ……実はお姉様達から話を聞いているから、知っているけど、やっぱり一番近しい人から聞かないとね♪)」

そしてレンは興味津々にエステルが話す人物の事を尋ねた。



「あ、うん……。ヨシュアっていうんだけど。黒髪に琥珀色の瞳をしててかなりのハンサムだったかな。んー、ハンサムっていうより美人って言うべきなのかしら。」

「美人さん?(あら?確か、ヨシュア・ブライトは男のはずなんだけどな……)」

エステルの言葉にレンは首を傾げた。

「ふふ、だってお芝居とかでお姫様の格好とかしちゃってね。これがまた、恐いくらいに似合っちゃうようなヤツなのよ。」

「うわぁ、いいわねぇ~。レンもその人に一度会ってみたいわ。ねえねえ、いつ会えるの?」

「あ、うん……。それはちょっと分からないな。」

「………………………………。ひょっとして、いつ会えるか分からないから哀しいの?(……どういう事かしら?お姉様達の話だと、2人はいつ恋人になってもおかしくない雰囲気だったし、2人が離れるなんてありえないほど仲がいいって聞いていたけど……そう言えば、エステルが正遊撃士になってから、ヨシュア・ブライトの情報が無いのが気になっていたのよね……)」

エステルの話を聞いたレンはプリネ達から聞いていた話と違う事や疑問に思っている事に内心首を傾げて、考えている事を顔に出さず、エステルに尋ねた。

「……ううん、それは平気。何年かかっても絶対に連れ戻すって決めているから。」

「それじゃあ、どうして?」

「きっと今ごろヨシュアは無理をしていると思うから……。なのに……支えてあげられないのが……ちょっと哀しいかな。」

「………………………………(ヨシュア・ブライト……確か”剣聖”が突如養子にした少年で、出身等は全て不明……その辺りが関係しているのかしら?)」

「あはは、ゴメンゴメン。こんな話、事情を知らないレンには面白くないよね。」

自分を見て黙っているレンを見たエステルは苦笑しながら謝った。

「ううん、そんなことないわ。そのヨシュアってお兄さん、本当にステキなヒトみたいね。」

「素敵ねぇ……。けっこう酷いヤツだと思うけど。あんな勝手な別れ方をして……あ、あたしの初めてを……」

「?初めて?」

「わわっ、何でもない!今日は疲れちゃったしそろそろ寝るとしましょ!」

「あ~、ごまかした!もう、全部聞き出すまでゼッタイに眠らないんだから!」

「うう、しまったなぁ……」



その後、エステルとレンはベッドに入ってからも他愛のないお喋りをしていた。やがて、レンがうつらうつらとして穏やかな寝息を立て始めた頃……疲れの溜まっていたエステルも自然と眼を閉じ、そのまま寝息を立て始めた…………



一方その頃、エステル達と別行動で結社を調べているシェラザードとアネラスはある目的の為にラヴィンヌ廃坑を見張っていた………






 
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