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真田十勇士

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巻ノ四十 加賀の道その一

                 巻ノ四十  加賀の道
 幸村主従は今は店で酒と魚を楽しんでいた、兼続が紹介してくれた店に旅の途中で入りそのうえでなのだ。
 ここでも十一人で車座になり酒そして馳走を囲んでいる、その中で。
 十勇士達は刺身を口にしつつだ、唸って言った。
「いや、この刺身は」
「実に美味ですな」
「伊勢の刺身もよかったですが」
「大坂や駿河、相模でも魚は楽しみましたが」
「北陸の魚もです」
「実にいいですな」
「うむ、実にな」
 幸村もその魚を食べつつ言う、刺身を箸で持って山葵醤油に付けてそのうえで口にする。そうしてこう言うのだ。
「美味いな」
「酒とも合いまする」
「これはどんどん箸が進みますな」
「北陸も魚がいいと聞いていましたが」
「噂以上ですな」
「全くじゃ」
 その通りだとだ、幸村は笑みを浮かべて答えた。そのうえで彼も食う。
 そしてだ、彼は自身の家臣の十勇士達にあらためてこう言った。
「それでなのじゃが」
「はい、それでとは」
「一体何でしょうか」
「うむ、酒も美味いか」
 彼が今度話すのはこちらのことだった、言うまでもなくそちらも楽しんでいる。
「その酒を飲んで思ったことじゃ」
「酒、ですか」
「この酒をですか」
「思えば謙信公は大層酒を好まれた」
 上杉家の先の主である彼のことを言うのだった。
「それも我等より遥かにな」
「確か毎日でしたな」
「酒を飲まれたとか」
「それも相当な量だったとか」
「無類と言っていい程でしたな」
「そうじゃ、しかしその酒の飲み方はな」 
 それはというと。
「縁側に座られ夜空を楽しまれつつ梅や塩と共に飲まれていたという」
「質素だったのですな」
「こうして刺身を楽しまれることなく」
「塩ですか」
「そして奮発して梅ですか」
「梅はまだ高い」 
 彼等の間ではだ、昔に比べて安くなったとはいえまだまだ高価なものと言える代物だ。
「しかし塩で飲まれるとは」
「普通の民と同じですな」
「どうにも質素ですな」
「酒は楽しまれても」
「質素な方だったのですな」
「その様じゃ」
 まさにというのだ。
「あの方はな」
「酒も質素であられた」
「飲まれることはお好きでも」
「そうした方でしたな」
「その様じゃ、しかし我等はどうもな」
 ここで苦笑いになって言うのだった。
「こうした美味な刺身と共に酒を飲んでおる」
「思えば我等が巡り合った旅でもですな」
「何かと馳走を食っていましたな」
「それを考えますと」
「我等は贅沢ですな」
「実に」
「これはよくないかのう」
 こうも言うのだった。
「我等は」
「まあこれは直江殿のご紹介です」
 霧隠が言って来た。
「ですから」
「受けるべきか」
「確かに。才蔵の言う通りです」
 根津も言う。 
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