異世界にて、地球兵器で戦えり
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第十七話 イタリカの戦い3
戦闘は夜中に入り始まった。時刻は午前三時に盗賊達が南門ではなく東門に攻めてきた。実際に本来なら既に寝ているはずの時間帯でも警戒を継続しなければいけないのだが、それでもやはり睡魔が警備兵の集中力を散漫にしていたせいで対応が遅れた。弓による一斉射撃が東門にいる警備兵たちに襲いかかったのだ。
「敵襲!!ピニャ殿下に伝令!東門に敵襲だ!」
東門を指揮しているピニャの騎士団の一人であるノーマが指示を飛ばす。ノーマの指示を受けた伝令兵は直ぐにピニャのもとに向かい、東門に敵が攻めてきた事を知らせる。
「なに、敵は東門に攻めてきているだと!?」
自分の予想が外れて驚くピニャ。
「姫様!早く東門に向かいましょう!」
「東門の現状の戦力では敵を防ぎきれません」
騎士団達はピニャに直ぐに東門に向かおうと進言して、ピニャも頷いて直ぐに東門に向かおうとした時に、新たな伝令兵がピニャの所に走ってやってきた。
「報告!東門に緑の人が向かっています!」
これを聞いてピニャは安心した。これで市民兵達の士気はもとに戻せると確信したのだ。
「妾達も東門に向かうぞ!」
『はい!』
ピニャの言葉に騎士団達は、そう返事を返した。
ーーー。
伊丹と島田率いる第三偵察隊は東門に向かっていた。とはいえ流石に全員で来ると南門で警護している市民兵達を不安にさせてしまう恐れがあるため援軍としていく人数を限定した。編成は伊丹、島田、清水、栗林、富田、ロウリィ、アナのメンバーに決まった。当初はロウリィとアナは現状の立場は自衛隊とアカツキ帝国軍の民間協力者であるため連れていけないと言ったが、今にも南門に行きそうな二人を見て、島田は仕方ないといった感じに、二人の同行を許可を出した。
そこで南門の指揮は、古参曹長である桑原に担当してもらう事にした。
「東門が見えたぞ!戦闘用意!」
高機動車から全員降りて、小銃の64式小銃と68式突撃銃の安全装置を解除して銃剣を取り付ける。そして清水は他の隊員と違い、68式汎用機関銃を装備しており、200発入りのボックスマガジンを装着する。全員が武器を取って人込みの中を駆け抜ける。
「緑の人だ!」
住民達が伊丹達の存在に気がつき、急いで道をあける。住民達が道を空けてくれた事により伊丹達は直ぐに東門の近くに到着した。東門は盗賊達の猛攻で直ぐにでも陥落しそうであった。
「全員射撃準備!」
伊丹達は木のバリケードの外にいる盗賊達に照準を合わせた。
「撃て!」
小銃と機関銃の射撃音と共に、6・8mmSPC弾と7・62mm弾が一斉に盗賊達に襲いかかる。まだバリケードの外にいる市民兵達は、突然と盗賊達が倒れていく光景に驚きが隠せなかった。
「早く中に!」
「は、はい!」
バリケードの外にいる市民兵は急いで柵の中に入っていく。それを逃がさないと言わんばかりに迫る盗賊達だが、それも伊丹達の銃撃によって無駄に命を落としていくだけに終わった。伊丹達は銃撃だけでなく手榴弾をバリケードの所に何とか迫ろうとする盗賊達に向けて投げつけた。
その数秒後に突然と爆発を起こして、密集していた盗賊達は手榴弾の爆発に巻き込まれて負傷、または死亡した。
「な、なんだこれは!?」
「いてええよ!!」
「魔法か!?」
訳も分からず自分達が次々と命を落としていく光景に盗賊達は混乱するが、更なる悲劇が盗賊達を襲う。今まで静かにしていたロウリィが突然とハルバートを掲げて盗賊達に突撃していき、更に栗林もロウリィに続けて言わんばかりに突撃を実行に移して、アナも剣を取り出して同じように盗賊達に切りかかった。
「あの突撃馬鹿!」
「くそ、三人を援護しろ!絶対に後ろを取らせるな!」
「了解!」
特地でも有名な死神ロウリィが戦線に加わり、第三偵察隊……いや自衛隊きっての近接戦闘の猛者である栗林にブルーム王国の異才と称された将軍であるアナまで参戦した事により、事態は混乱する。数ではこっちが勝っているのに、たった数名の援軍だけでここまで自分達が劣勢になっている事に盗賊達は驚きが隠せなかった。
だが、盗賊達の不幸は更に続く。上空から突然の銃撃が盗賊達に襲いかかったのだ。
ーーー。
自衛隊の第四戦闘団より先にアカツキ帝国空軍の第23航空団が到着した。レシプロ機とはいえ、最高速度ではヘリよりも早い為に、第23航空団が先に東門に集中している盗賊達に向けてパイロンに装着しているロケット弾を撃ち込んだ。
流星によるロケット弾攻撃により、東門の外にいた盗賊達は吹き飛ばされていく。そして烈風と既にロケット弾を撃ち終わった流星達による20mm機関砲は、地上に向けて機銃掃射が行われた。烈風と流星の機銃掃射により盗賊達は次々と命を落としていく。
そしてこれに続けと言わんばかりに、今度は健軍一等陸佐率いる第四戦闘団が到着して攻撃を開始した。
「アカツキ帝国軍に負けるな!地上攻撃は、俺達ヘリ部隊が十八番だって教えてやれ!」
健軍一等陸佐は無線で部下達に激を飛ばす。第四戦闘団のヘリであるUH-1やAH-1を筆頭としたヘリ部隊はAH-1は、20mmガトリング砲とロケット弾の雨が襲いかかり、UH-1のドアガンナーのM2重機関銃の12・7mmNATO弾が盗賊達に襲いかかる。空中からの突然の機銃掃射とロケット弾の雨に、盗賊達は混乱の極みに達する。
「くそ!」
中には上空にいるヘリ、戦闘機、攻撃機に向けて弓矢を放つが、しかし高速で移動するヘリや飛行機に攻撃しても届くことなく盗賊の弓兵は銃撃を受けて絶命した。
ーーー。
「なんだ、これは?」
ピニャは、現在起きている光景が現実のなのかと思う程に唖然としていた。初めは緑の人達が装備している鉄の杖から発生した突然の音で盗賊達がバタバタと倒れていき、この時点でピニャはどうして盗賊が倒れたのか理解できていなかった。そして次は死神ロウリィに続くように緑の人と、そしてもう一人は帝国の属国であるブルーム王国の女将軍であるアナ将軍であった。戦死したと報告を聞いてどうして生きている事に驚きつつも、たった三人によって先ほどまで威勢を放っていた盗賊達が翻弄されている。
そしてそれを正確無比な攻撃によって柵の中にいる緑の人が援護して三人の死角から攻撃してくる盗賊達の攻撃を防いでいる。東門を侵入した数百名の盗賊達が、十名にも満たない援軍によって翻弄されている。こんな非常識があるのかと、ピニャは今起きている状況を理解しようとするが、更なる常識を破る第二幕が空から来た。
鉄の剣、鉄の箱、鉄の蜻蛉から繰り出される攻撃は、ピニャが見てきたどの攻撃よりも破壊的で、そして残酷な物であった。緑の人と同じ武器を所持しており、それが空中から攻撃は想像を絶するほどに盗賊達に襲いかかる。盗賊達の鎧も盾も問題とせずに貫き、そして鉄の蜻蛉からの攻撃で地面が爆発して盗賊達の肉片が形成されていた。
わが物顔でイタリカを襲っていた盗賊達を次々と赤子の手をひねるかのように、盗賊達の反撃も許さずに命を許しも慈悲もなくあの世に送っていく。今まで帝国こそが最強であり、それ以上の強者など存在しないと信じていたピニャにとって、想像を超える武力に対して唖然として見ている事しかできなかった。それは、ピニャだけでなく、東門の援軍に駆けつけた騎士団たちも同じだ。
「化け物」
誰が発した言葉を気にしないまでにピニャは茫然としている。そして、騎士団の誰かが発したその言葉は、この場にいる誰もが感じた本心だとピニャは思っていた。
「ひ、姫様……」
「今度はなんだ!?」
ハミルトンが上空に指さすと、そこにはアカツキ帝国軍の大型輸送機が三機ほど飛んでいた。輸送機を知らないピニャからすれば鉄の巨鳥がイタリカに来たと思っただろう。そして、第四戦闘団と第23航空団から遅れる形で第3空挺装甲歩兵中隊がエアボーンして、次々と10式戦術装甲歩兵機が降下してくる。ピニャからすれば更なる非常識が襲いかかる。どうして4メートルはある全身を鉄の鎧で纏った巨兵が空から降ってくるのだと、翼もないのにどうしてだ?
もはや異世界の軍勢とアカツキ帝国軍の非常識すぎる行動に対してピニャはついに考える事を放棄した。
一方変わって第3空挺装甲歩兵中隊は12機が全員無事に降下が完了した。
「隊長。既に自衛隊の第四戦闘団と空軍の第23航空団が盗賊達を蹂躙つくしてますぜ」
「俺達っていらない子ですかい」
部下達の言葉を聞いて、この第3空挺装甲歩兵中隊の隊長である村雨 秋人中尉はニヤリと笑いながら呟く。
「まだ俺達の出番はあるぜ。いま、逃げ出している盗賊達に正義の鉄槌を下すだよ。俺達は、盗賊から市民を守る軍人なんだからな」
それを聞いた部下達もニヤリと笑う。上からの命令でイタリカを襲った盗賊達に対して一切の容赦はするな。やるなら徹底的にやれという下された命令を実行に移すだけだと、第3空挺装甲歩兵中隊は呟き。ローラーダッシュで逃げ出す盗賊達に接近する。
「逃げても無駄だぜ!」
「へへへ、ぶっ殺せ!!」
標準装備の30mmアサルトライフルで逃げ出す盗賊達に向けて掃射する第3空挺装甲歩兵中隊。30mmという普通なら対人相手にはオーバー過ぎる攻撃は、弾の一発でもあたれば直ぐに即死して人体は肉片となっていく。
「ハンバーグ用のひき肉の出来上がり!早く食いたいもんだぜ!」
「おいおいこれみてハンバーグを食うのかよ!」
「どんな神経してんだテメーは!」
ブラックジョークを飛ばしながら攻撃を続ける第3空挺装甲歩兵中隊。盗賊達は逃げる事も許されずに蹂躙されつくされる。
「み、認めんぞ」
「あ?」
第3空挺装甲歩兵中隊の隊長である村雨中尉が、虫の息で辛うじて言葉が喋る盗賊に目を向ける。彼はそこで足を止めて盗賊の言い分を聞いた。
「こんなものが……戦いであってたまるか」
「……戦いに名誉も栄誉もねえんだよ。お前達のやってきた戦争は、ただのごっこ遊びだ」
村雨は銃口を虫の息の盗賊に向けてフルオートで射撃した。盗賊の原型は留まっておらず、そこには地面にこびりついた血と肉片だけであった。
陸と空の容赦のない波状攻撃を受けて、イタリカを襲った盗賊達は殆どが戦死した。生き残りは数えて分かる程であった。
ーーー。
銃弾と爆発のオーケストラが終わってしばらくして、盗賊団の脅威がなくなった事を理解した市民達から歓喜の声があがった。
「町は救われたんだ!!」
そして町を助けてくれた立役者に対してありったけの感謝の言葉をあげる。その歓声は町全体に広まり、特に最も早く自分達を助けてくれた緑の人である伊丹達は市民兵達から感謝の言葉が次々と口にするのだった。
だが、感謝の言葉は騎士団たちに来ることはなかった。当然のように今回のイタリカの盗賊討伐に貢献したのは死神ロウリィと、敵国であるアカツキ帝国と自衛隊による所が殆どだからだ。そのため騎士団達はイタリカの住民達のように素直に喜べなかった。盗賊の脅威が去った次は、盗賊達を蹂躙したあの武力が自分達に向くのではという恐怖心があったからだ。
「この後の交渉でどんな条件を要求されるのか……」
「でも、帝国人である私達が敵に弱みを」
「あれに対して敵対でもすると……」
この後の自衛隊とアカツキ帝国との交渉について不安でいっぱいになる薔薇騎士団。自分達は騎士団といっても全てが貴族出身者で構成されているのだ。帝国の常識からすれば、自分達が敵国の奴隷にもなりかねないのだ。
そして交渉で失敗すれば武力がこっちに向き、市民達は何の貢献もしなかった騎士団など簡単に見限ると分かっているので、余計に不安でいっぱいであったのだ。
騎士団の団長であるピニャは、これからの事を思うと気が重くて仕方なかった。
「……どうすればよいのだ」
ピニャはそう呟く。だが、ピニャの答えに対して誰も明確なアドバイスを送れるものはいなかった。
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