英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第21話
~ツァイス市・発着所~
「さてと、何はともあれツァイス支部に行くとしますか。キリカさんに挨拶しなくちゃ。」
「えへへ………キリカさんに会うのも久しぶりだね!」
定期船から降りたエステルは早速提案をし、それを聞いたミントは嬉しそうな表情をした。
「ほう、名前からすると東方系の女性のようだね。どのようなご婦人なんだい?」
「また始まったか……」
「ま、並のタマじゃねえ女さ。シェラザード以上の女傑だから火傷したくなけりゃ手を出すなよ。つーか、とばっちりを食らいたくねえから止めてくれ。」
オリビエのいつもの癖が始まった事にエステルは呆れ、アガットも呆れた表情で忠告した。
「フッ、それを聞いたらますます興味が湧いてきたよ。それじゃあさっそくギルドに……」
アガットの忠告を気にせず、オリビエがギルドに向かおうとしたその時
ゴォォォォォ…………!
なんといきなり地面が激しく揺れ出した!
「おおっ……!?こ、これはひょっとしてそのキリカさんの怒りなのか!?」
「そ、そんなわけあるか~!」
「地震……みたいですね。」
オリビエの叫びにエステルは突っ込み、クロ―ゼは不安そうな表情で揺れている地面を見ていた。
「ふえええ~………!怖いよ、ママ……!」
「大丈夫よ!何があってもミントはあたしが守ってあげるんだから!」
怖がっているミントにエステルは元気づけた。
「た、助けてー!」
「お、落ちてしまうわ!」
「み、皆さん!どうか落ち着いてください!この発着場は、直下型の大地震にも耐えられるように設計されています!大した地震ではありません!どうかご安心を!」
また、慌てている周囲の乗船客に受付が説明した。そして地震はしばらくすると収まった。
「と、止まった……」
「も、もう大丈夫だな……。さあ皆さん。慌てず騒がず受付までどうぞ。」
「やれやれ……。地震とは久しぶりじゃの。」
「えへへ、すごかったねぇ!」
そして受付は乗船客を案内して行った。
「はあ……ビックリしちゃった。それほど大きくなかったけどこんな不安定な場所で揺れるのは勘弁して欲しかったわね。」
「ふふ、そうですね。それにしても、リベールで地震なんて珍しいですね……」
「ミント、ずっとリベールに住んでいたけど、地震なんて初めてだよ。」
一方エステルの言葉にクロ―ゼやミントは頷いた。
「ほう、そうなのかい?」
「ああ……。滅多にあるもんじゃねえ。被害状況を確かめるためにもとっととギルドに向かうか。」
エステル達の話を聞き首を傾げているオリビエの疑問に答えたアガットはエステル達を促して、ギルドに向かった。
~遊撃士協会・ツァイス支部~
「ふむ、中央工房では大した被害はなかったと……。市街も大した騒ぎにはなってないのでご安心を。ええ、その件についてはよろしくお願いします。それでは。」
キリカが通信器を置いたその時、エステル達がギルドに入って来た。
「ふふ……。妙なタイミングで到着したわね。」
そしてキリカはエステル達に振り向いた。
「よく来たわね。エステル、アガット、ミント。発着場ではさぞ驚いたでしょう?」
「あ、あはは……。お久しぶり、キリカさん。」
「ったく、相変わらず見透かしてやがるな……。まあいい、よろしく頼むぜ。」
「こんにちは、キリカさん!これからは遊撃士としてよろしくお願いしま~す!」
キリカの相変わらずの様子にエステルは苦笑し、アガットは感心し、ミントは元気良く挨拶をした。そしてミントは受付で準遊撃士としての手続きをした。
「こちらこそ助かるわ。そちらの2人が姫殿下とオリビエさんね。私はキリカ。ツァイス支部の受付を勤めている。以後、お見知りおきを。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
キリカに対してクロ―ゼは礼儀正しく挨拶をした。
「フッ、それにしても予想以上の佳人ぶりだ。このオリビエ、貴女のために即興の曲を奏でさせてもら……」
一方オリビエはキリカの容姿を見て、いつもの調子でリュートを出したが
「ジャンによれば、貴方たちは正式な協力員になったそうね?協力員は、遊撃士と同じように上の休憩所を自由に利用できるわ。待ち合わせに使うといいでしょう。」
「はい、わかりました。」
キリカはオリビエを無視して説明をクロ―ゼにした。
「えーと、即興の曲を……」
無視されたオリビエは慌てて、自分の存在をアピールしたが
「リュートを奏でたいなら上の休憩所で、どうぞご自由に。ただし、常識の範囲内でお願いするわ。」
「シクシク……分かりました。」
キリカの態度にオリビエは肩を落として、リュートを弾くのを諦めた。
(シェラ姉より確かに容赦がないかも……)
「はあ、とりあえず……。溜まっている仕事の状況を早速、教えてもらえるか。」
オリビエの様子を見たエステルは苦笑し、アガットは溜息を吐いた後尋ねた。
「掲示板の仕事は溜まっているけど、今のところ緊急の仕事はないわ。貴方たちのやりやすいように片付けてくれて結構だけど……。………………………………」
説明を続けていたキリカだったが、急に口を閉じた。
「???どうしたの、キリカさん?」
「何か、気になる事があるの?」
キリカの様子にエステルとミントは首を傾げた。
「これは通常の依頼ではなくギルドからの要請なのだけど……。貴方たちを、『結社』の調査班と見込んで調べて欲しいことがあるの。」
「なに……?」
「ふえ!?」
「い、いきなり直球で来たわね。」
「あの……どういう事なんでしょうか?」
キリカの依頼にアガットやミント、エステルは驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「調べて欲しいのは他でもない。先ほど起こった『地震』についてよ。」
「地震について調べる?それって被害がどの程度かみんなに聞いて回るってこと?」
キリカの依頼を聞いたエステルは確認した。
「それもあるのだけれど……。実は3日ほど前、ヴォルフ砦で同じように地震が発生したらしいの。時間でいうと10秒くらい。特に被害はなかったらしいわ。」
「なるほど……。さっきの地震と似ているな。」
「ただ、奇妙なことが1つ。ヴォルフ砦で地震が起きた時、ツァイス市は全く揺れなかった。」
「え……」
「ふむ、それは妙だね。地図で見るとヴォルフ砦とツァイス市はそれほど離れていないはずだ。そこが揺れたのならばこちらでも、多少は揺れは感じるはずなのだが。」
キリカの説明を聞いたエステルは驚き、オリビエは珍しく真剣な表情で答えた。
「ごく小さなものだったから気付かなかったのかもしれない。ただ、そうね……虫の知らせというのかしら。何となく嫌な感じがするのよ。」
「言いたいことは分かるかも……。幽霊騒ぎもそうだったけど変な現象はあたしも気になるわ。」
「いいだろう、引き受けた。ツァイス市とヴォルフ砦の双方で聞き込みをした方が良さそうだな。」
「まあ、気になる程度だから緊急性はないと思ってちょうだい。掲示板の依頼をこなしながらゆっくり進めてくれても構わない。それに……挨拶したい人たちもいるでしょう?」
エステル達に伝えたキリカは口元に笑みを浮かべて尋ねた。
「あ……うん。新しい『ゴスペル』の件もあるし博士とティータに会わなくちゃ。」
「そうですね……。その方がいいと思います。」
「えへへ………こんなにも早くティータちゃんと再会できるなんて、思いもしなかったよ!」
エステルの提案にクロ―ゼは頷き、ミントは嬉しそうな表情で頷いた。
「フッ、ギルドの仕事をするのは挨拶をしてからということだね、では、ティータ君と再会するためいざ出発するとしようかっ!」
「なんでてめぇがいきなり仕切ってやがる……。まあいい、ラッセル工房に行くぞ。」
いつの間にかちゃっかり仕切っているオリビエを睨んだアガットだったが、気にする事をやめ、先に促した。
そしてエステル達はラッセル家に向かった。
~ラッセル家・リビング~
「さてと……。博士とティータはいるかしら………」
「もしかしたら中央工房に行ってるかもしれねぇな。」
ラッセル家に入ったエステル達が玄関で会話をしていると
「おじいちゃ~ん。2階のお片付けは終わったよ。」
「おう、すまんな。それじゃあ、そっちの部品の整理をしてくれんか?」
「は~い。」
隣の部屋からティータと博士の声が聞こえて来た。
「ふふっ、2人とも研究所の方にいるみたいね。」
「ああ、行ってみるか。」
「えへへ………相変わらずのようだね、ティータちゃん。」
そして5人は隣の部屋に向かった。
~ラッセル家・研究部屋~
「んしょ、んしょ……」
隣の部屋に入るとティータが棚の整理をしていた。
「よう、邪魔するぜ。」
「あ、アガットさん!えへへ、いらっしゃい。今日はどうしたんですか。」
アガットに話しかけられたティータは嬉しそうな表情で尋ねた。
「なんじゃ。来たのか、不良青年。」
一方博士はぞんざいな言い方で言った。
「来ちゃ悪いかよ。しかし、相変わらずゴチャゴチャした工房だな。どうせさっきの地震で部品の山が崩れたんだろう?」
「えへへ……よく分かりましたね……」
アガットの話を聞いたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。
「2人とも、お久しぶり」
「ティータちゃん、久しぶり!」
その時エステル達が遅れて部屋に入って来た。
「あ……」
エステル達に気付いたティータは思わず声を上げて驚いた。そしてエステル達はティータ達に近付いた。
「えへへ……。ご無沙汰してゴメンナサイ」
「おお、エステル……」
「お、お姉ちゃん……ミントちゃん………。エステルお姉ちゃんっ!ミントちゃんっ!」
エステルの登場に博士は驚き、ティータは泣きそうな表情をした後、2人の名前を叫んでエステルとミントにしがみついた。
「わわっ、ティータ?」
「どうしたの?ティータちゃん?」
ティータの様子に驚いたエステルとミントは声をかけた。
「エステルお姉ちゃん……ミントちゃん………。よかった……本物のお姉ちゃんとミントちゃんだよぅ……」
「な、なによ本物って……」
「ミントはミントだよ?」
安心しているティータの呟きを聞いたエステルは苦笑し、ミントも頷いた。
「だってだって……。ヨシュアお兄ちゃんがいなくなっちゃったって聞いて……。2人まで外国のどこかに行ったって聞いて……。このまま会えなかったらどうしようって、わたし……ずっと不安だったの……」
「そっか……。ごめんね……挨拶もしないで遠くに行って。」
「心配をかけて、ごめんね。ティータちゃん。ミント………手紙ぐらい、書くべきだったよ………」
自分達を心配しているティータをエステルは優しく抱きしめ、ミントはティータの手を握って言った。
「確か、レマン自治州にある訓練場に行っておったそうだな。いつ帰国したんじゃ?」
そこに博士がエステル達に話しかけて来た。
「帰ってきたのは少し前かな。今までルーアンで仕事をしててツァイスに到着したばかりなのよ。」
「そうじゃったか。おや、お前さんがたは……」
エステルの話を聞き頷いた博士はクロ―ゼとオリビエに気付いた。
「お久しぶりです。博士、ティータちゃん。」
「フッ、お邪魔させてもらうよ。」
「クローゼさん……。それにオリビエさん……。」
「2人とも、あたしたちの調査に協力してくれてるの。ルーアン地方で色々あってね。」
何故2人がエステル達と共にいるかの理由をエステルはティータ達に説明した。
「ふむ、そうか……。こんな所で立ち話もなんじゃ。居間の方に移るとするか」
そしてエステル達はリビングに移動した。
~ラッセル家・リビング~
「クーデターの黒幕どもがすでに活動を始めていたか……。しかも再び『ゴスペル』を持ち出してきたとはのう……」
「空間投影装置が生み出した映像を遠く離れた座標に転送する……。そ、そんなことどうやったら可能なんだろ……」
ルーアンの話を聞いた博士は考え込み、ティータは未知なる技術に驚いた。
「空間投影装置そのものは決して不可能じゃないはずじゃ。ワシもいずれは造ってみようと思ったからな。じゃが、生み出された映像を遠くの座標に転送するのは……。ううむ……さっぱりカラクリが判らんわい。」
ティータに説明した博士は自分の知らない仕組みがある事に唸った。
「敵の男は『新型ゴスペル』の実験をしてたって言ってたのよね。確かに、一回り大きかったし導力停止現象は起きなかったけど……」
「そういえば、クーデターの時に使われていた『ゴスペル』はどうなんだ?ちったあ何か判ったのかよ?」
アガットはある事を思い出し、尋ねた。
「むう……それがな。解析を進めれば進めるほど奇妙なことが分かってきてな……」
アガットに尋ねられた博士は唸りながら答えた。
「奇妙なこと?」
「ほえ?」
博士の話を聞いたエステルとミントは首を傾げた。
「うむ、結論から言うとな……あの『ゴスペル』そのものに『導力停止現象』を起こす機能があるとは思えなくなってきたんじゃ。」
「へ……?」
「で、でも……。実際に、あの黒いオーブメントが導力停止現象を起こしたのですよね?」
博士の説明を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「うむ、あくまで表面的には。じゃが、先ほど言ったように内部の結晶回路を解析してもそんな事ができるとは思えんのです。『導力場の歪み』らしきものを発生させるのは確かなんじゃが……」
「『導力場の歪み』……」
「えと、『導力場』というのは導力エネルギーの周囲に形成される干渉フィールドのことを言います。大抵は、一定の法則で力線が描かれるんですけど……。おじいちゃんが解析した結果、『ゴスペル』が生み出す導力場はこの法則から外れているらしくて……」
あまり理解できていない様子のエステル達にティータは説明したが
「むむ、ちょっと話が専門的になってきたかな。」
「あたしもチンプンカンプン……」
「ごめん、ティータちゃん………ミントもわからない………」
話が専門的すぎるため、エステル達は理解できなかった。
「まあ、ありていに言うと既存の法則にあてはまらない歪んだ導力場を発生するのじゃ。じゃが、導力場というのはあくまでも一定の時空間における導力エネルギーの在り方にすぎん。方向性が与えられない限り、『導力停止現象』のような具体的な作用が起こるはずがない……。正直、困り果てていたんじゃがルーアンでの事件を聞いて新たな可能性が開けたかもしれん。知らせてくれて礼を言うぞ」
「あはは……。どこがどう役に立ったのかいまいちピンとこないけど。」
「敵が使っていた投影装置は王国軍が調査しているはずだ。興味があるなら連絡してみろや。」
博士の話を聞きお礼を言われたエステルは苦笑しながら答え、アガットはある提案をした。
「うむ……そうさせてもらおうかの。そういえば、お前さんたちはこれからどうするつもりじゃ?しばらくツァイスで仕事をするつもりなのか?」
「あ、それなんだけど……」
そしてエステル達は地震の件も含めて博士達に説明した。
「ほう……。先ほどの地震についてか。確かにリベールで地震が起きることは滅多にない。しかも3日前に、ヴォルフ砦で同様の地震が起こっていたのか……」
「3日前……。うーん、ツァイスの市内は揺れたりしなかったと思うよ。確かにちょっとヘンかも……」
エステル達の話を聞いた博士は驚き、ティータは首を傾げていた。
「自然現象だし『結社』が関係してるか判らないけど……。調べるだけは調べてみるわ。」
「ふむ、地震か……。ひょっとしたらアレが使えるかもしれんな。」
「え……」
「ま~たケッタイな発明を持ち出すつもりかよ?」
博士の呟きを聞いたエステルは驚き、アガットは呆れた表情をした。
「うむ、数年前に造ったある装置があるんじゃが……。あれにトランスミッターを付けて『カペル』に解析させられれば……。ふむふむ……イケるかもしれんの!」
そして博士は一人で勝手に頷いていた。
「もう、博士ったら1人で納得しないでよ~」
「いや、お前さんたちの調査に協力してやろうと思ってな。お前さんたちはヴォルフ砦に調査に向かうがいい。その間に『良い物』を用意しよう。」
「そ、それは助かるけど……。『良い物』って一体何なの?」
博士の話を聞いたエステルは博士が用意する物が気になって尋ねた。
「むふふ。それは後のお楽しみじゃ。それではさっそく中央工房に行こうかの。ティータも手伝ってくれんか?」
「あ、うん……。ごめんなさい。お姉ちゃん、ミントちゃん、アガットさん。せっかく久しぶりに会えたのに……」
博士に頼まれたティータは頷いた後、申し訳なさそうな表情で謝った。
「あはは、いいって。とりあえずティータの顔を見れただけでも嬉しかったしね。」
「うん!ミント、ティータちゃんとまた会えて、凄く嬉しいよ!」
「エステルお姉ちゃん、ミントちゃん……」
「ま、しばらくツァイスを拠点に仕事をするだろうからな。ゆっくりできる機会はあるだろ。」
「エヘヘ、そうですよね。あのあの、みなさんもお構いできなくてごめんなさい。」
アガットの言葉に頷いたティータはクロ―ゼとオリビエを見て、言った。
「ふふ、とんでもないです。」
「フッ、機会があったらまた寄らせてもらうよ。その時はぜひともボクのことをお兄ちゃんと……」
「だ~から、アンタはやめい!」
未だに諦めていないオリビエにエステルはすかさず突っ込んだ。
「あ、あはは……それじゃあ、またあとで!」
「準備ができしだい、ギルドに連絡するからの!」
そして博士とティータは中央工房に向かった。
その後エステル達は他の仕事を手分けして片付けた後、ヴォルフ砦に向かい、兵士達から地震や不審者についての話を聞いた後、さらにセントハイム門でも地震が起こったのでそちらでの話も聞いた後ツァイス市に戻って来た…………
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