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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic1-E移ろいゆく季節~Determination of Testarossa~

†††Sideアリシア†††

フェイトが執務官、そしてわたしが執務官補佐になってから1年ちょっと。今日はお母さんのリンディ提督、お兄ちゃんのクロノ、そして今はまだただの同僚なエイミィが乗るアースラに臨時の戦力として乗艦して、今日もまた事件解決に奔走した。
未だに嘱託だからそんなに忙しくはないけど、でも次元艦に乗って(任務によって乗る艦はまちまち)結構遠い世界に行くことも増えてきちゃったから、学校を休むことが多くなったし、取れる休みの日もバラバラ。だからチーム海鳴のみんなと逢うのは基本的に学校だけになってきてる。それが少し、ううん、かなり寂しい。

「アリシア。今回の事件の報告書、本局に着くまでに終わらせておいてね」

「ほーい」

一応はわたしの上官になる妹(うん、妹。これ大事なことね♪)のフェイトからそう言われたわたしは返事をして、早速書類の作成に入る。お姉ちゃんとして補佐官として、フェイトの夢を支えるのがわたしの役目だから、迷惑はかけられないよね。

「フェイト~、アリシア~、お茶だよ~」

小さな子供姿になってるアルフがえっちらおっちらとトレイを持って、アースラの居住区に作ったまま残ってるわたしとフェイトの部屋にやって来た。フェイトと2人で「ありがとう、アルフ」お礼を言って、トレイからコップを取った。

「ふぅ。零すんじゃないかって冷や冷やしたけど、なんとか持って来れたな」

トレイをデスクに置いたアルフがそう言って汗を拭う仕草をした。だからわたしは「仕事の時以外にもフルフォームに戻ればいいのに」って言ってみた。執務官としての仕事中には、アルフも昔みたく大人姿のフルフォームになる。で、普段は小っこい子供フォーム&子犬フォームになる。

「いやまぁ、フェイトも魔導師ランクSになるし、魔力の量もグッと増えたけどさ。でもやっぱりあたしの維持にはどうしても魔力を消費しちまうだろ? だったら普段くらいは、フェイトの負担を減らそうって思ってさ」

使い魔を維持するのは、使い魔を生んだ魔導師自身の魔力だ。だからアルフが大人姿になると、その分フェイトの魔力の消費が大きくなる。とは言っても、アルフはとっても優秀な子だから、その消費量はフェイトの魔力量におけるたった数%なんだけどね。だから「そんなこと気にしないのに」フェイトもそう言う。

「いんや。こいつはあたしの使い魔としての意思だからさ。このまんまで良いんだよ。ま、そういうわけさ、アリシア」

「ん。そっか」

アルフを交えてお喋りしながら報告書を作成を続けること20分。最初に「ふぅ。終わった」フェイトが終わって、さらに数分後に「お~わり!」わたしも無事にお仕事終了。背筋を伸ばして凝った筋肉をほぐす。そんなところに・・・

『クロノだ。すまないが本局へ戻る前に寄り道することになった。ブリッジに来てくれ』

クロノからそんな通信が入って、「了解!」わたしとフェイトは即応じた。通信が切れた後、「はぁ~・・・」2人揃って溜息を吐く。本局に戻ったらすぐに特別保護施設へ行こうと思ってたのに。アルフも「残念だなぁ・・・」しょぼーんと肩を落としてる。

「エリオ、悲しんじゃうよね? やっぱり・・・」

「やっと心から笑ってくれるようになってたところなのに、約束破っちゃったら・・・」

エリオ。エリオ・モンディアル。5歳の男の子。わたしとフェイトとアルフの3人だけで請け負った何度目かの任務で赴いた研究施設で、研究用素体として軟禁されてたのを救出・保護した子だ。どうして研究施設に居たのか。その理由は、プレシアママがフェイトを生み出した際に使った技術・“プロジェクトF.A.T.E.”によって生み出されたクローンだったから。

(プライソンとかいう次元犯罪者が生み出したプロジェクトF.A.T.E.・・・。プレシアママ以外にも、未だにその技術を使ってる人が居る・・・)

それが判ってから、わたしとフェイトは改めてプライソンを筆頭に“プロジェクトF.A.T.E.”を使っている連中全員の逮捕を決意した。そして、エリオみたいに事件に巻き込まれた子供たちを助ける、それもまたわたし達の目的だ。

「とりあえずブリッジに行こう。寄り道の内容がどんなのか判らない以上、特別保護施設に連絡できないし・・・」

「ん、だね。急ごう」

そういうわけで、ブリッジへと向かったわたし達。そしてそこで、寄り道の内容をクロノから伝えられた。曰く・・・

「ヘンリー・ヨーゼフ・リー・メンゲレ。通称はプロフェッサー・ヘンリー。かつては次元世界に名を馳せた生物学、特に遺伝学などの権威だったが、18年前に広域指名手配を受けた。彼の下には数名のスタッフが居り、その連中も指名手配を受けている」

ブリッジのモニターに映し出された顔写真と名前。プロフェッサーは正に研究者って言った感じな、目つきの鋭い禿げたお爺さんだった。

「管理・管理外世界問わずに特別なスキルなどを有した子供たちを拉致、もしくは高額で買い取り、そのスキルを再現できないかを研究するため人道に外れた実験を行っている犯罪者集団だ。何人もの犠牲者も出ていて、死を免れたとしても再起不能状態だったりする」

そんなとんでもない○○○ヤローが所有する次元航行艦が今、アースラが航行してる航路付近の次元空間内に居るとのことだった。ここ数年、尻尾を掴めなかったらしい。そんなプロフェッサーが今、管理局の捜査網に引っ掛かった。何としても確保してほしいって、支局からアースラに要請が入ったとのこと。

「子供を実験体に・・・!」

「拉致、お金で買う・・!?」

わたし達にとって一番許せないタイプの犯罪者。当然わたし達の怒りボルテージは一瞬にして臨界点突破。わたしは「そいつを捕まえるんだったら手伝わせて!」クロノにそう言って掴みかかる。

「そんな犯罪者は絶対に許せない! クロノ、お願い!」

「あたしからもお願いするよ」

フェイトとアルフも、クロノに事件捜査の協力を申し出た。すると「ああ。だから君たちをここへ呼んだんだ」って、始めからわたし達の参加を決めてたって言った。んで、これからプロフェッサーの艦と同じ次元空間に進入し、そこで停船・投降要請を行うことを話し合い、大人しく言うことを聴けばそれで良し。ダメなら乗り込んで直接確保する、と決めた。

「ではこれよりアースラは、広域指名手配犯プロフェッサー・ヘンリーおよびスタッフの確保のため、次元空間に進入します。あなた達はトランスポーター前で待機を」

お母さ――じゃなかった、仕事中は提督や艦長って呼ばないといけないんだ。えっと、艦長の指示に従ってわたし達はブリッジの艦長席、その背後にあるトランスポーター前で待機。そしてアースラは次元空間内に入って、支局の観測室から送られてくるターゲットの現在位置を目印にして航行。

「艦長! ターゲット艦を捉えました! モニターに出します!」

エイミィがブリッジ前面にモニターを展開させて、これから乗り込むことになるかもしれないターゲット艦を映し出した。全長100mほどのタンカーのような艦で、武装兵器らしき物が甲板にズラッと並んでる。

「エイミィ。あの艦って一般販売されてるタイプだよね。見取り図とか出せないかな?」

「あ、うん、すぐに問い合わせてみるよ」

フェイトがエイミィにそう伝えてる中、「こちら時空管理局・次元航行部所属艦アースラ。ただちに停船せよ」艦長が停戦勧告を出す。

「敵艦甲板の砲台に魔力集束反応!」

オペレーターのアレックスからそんな報告が入った。すぐにアースラの防護シールドの出力を上げて攻撃に備えると、すぐにターゲット艦から砲撃が発射されてきた。グラグラ揺れるアースラ。でもそう易々と墜ちる艦じゃないよ。

「攻撃確認! クロノ、フェイト、アリシア、アルフ! 敵艦へ突入! プロフェッサーの確保を!」

「「「了解!」」」「あいよっ!」

攻撃が続く中でわたし達は変身を終えて、ターゲット艦の甲板へと転送。そして「ぶっ壊~す!」わたし達は砲台の無力化を始めた。フェイトは“バルディッシュ”で砲身を斬り落として、アルフは殴って潰して、クロノは凍らせて砕いて。わたしは“フォーチュンドロップ”が内包する数あるデバイスの内の1つ・・・

「ハリセン・・・スマァァァーーーッシュ!」

ハリセン型のストレージデバイス・“ハリセンスマッシュ”を振るって、放たれた砲撃を砲台に撃ち返すことで壊してく。砲台全てを無力化したのを確認した後は艦内へと突入だ。艦内へと降りるための入り口がシャッターで塞がれちゃってるけど・・・

「ブレイズカノン!」

「トライデントスマッシャァァァーーーーッ!」

クロノとフェイトのマジな砲撃を受けて、シャッターは大きくひしゃげたうえで艦内に吹っ飛んでった。内部の防衛戦力からの攻撃を警戒をしつつ艦内に突入。内装は普通の客船みたいで、ここが犯罪者の拠点だって何も知らなかったら普通に楽しめれそうな程に平和なものだった。ただ1つ、それを拒むものがあるけど。

「早速お出ましか!」

艦内を防衛する浮遊兵器がうじゃうじゃと各部屋の扉から飛び出して来た。球体状のソレには丸いクリスタル状の魔力発射光が設けられてて、そこから魔力弾が放たれた。

「邪魔だよ、さっさと退きな!」

すぐ近くの部屋から飛び出して来た浮遊兵器をアルフがパンチして破壊。わたし達はその部屋に入って、前後から挟み撃ちされた魔力弾幕から逃れる。

「アリシア、援護お願い!」

「オッケー! ドロップ、ラッキーシューターを!」

≪ほーい!≫

“ハリセンスマッシュ”を飴玉のような丸い待機モードにして“フォーチュンドロップ”に戻す。次に飛び出して来た飴玉をキャッチして、「いくよっ!」2挺の小型拳銃型のデバイス・“ラッキーシューター”を携える。

「アルフ、盾役を頼めるか!」

「任せときな!」

わたしはフェイトと組んで、クロノはアルフと組む。魔力弾幕が途切れるのを見計らって、まずはフェイトとアルフが部屋から飛び出して「ラウンドシールド!」防御魔法を展開。間髪入れずにわたしとクロノも部屋から飛び出して・・・

「「スティンガーレイ!」」

わたしとクロノ、同じ射撃魔法を発射。元はクロノの高速射撃魔法で、わたしのはクロノ直伝。そんな魔力弾を浮遊砲台へと向けて連射して、次々と破壊してく。わたしだって対ルシル戦以降からずっと厳し過ぎる模擬戦を、チーム海鳴メンバーとして繰り返してきた。

(魔導師ランクだってようやく陸戦Bになったし、魔力量だって成長期だからか急激に増えてきた。まぁそれでもまだまだAだけど)

そんなわたしが、単なる機械兵器に負けるわけにはいかないもんね。とまぁ、そうゆうわけでわたしとクロノは、フェイトとアルフが盾役になってくれたことで安全に浮遊砲台を全機破壊できた。

「こちらクロノ。エイミィ、この間の見取り図を出してくれ」

『りょ~かい!』

わたし達の前に展開されるモニター。表示されるのはこの艦の全体見取り図で、上から見たものと横から見たものの断面図だ。さらにエイミィは『生命反応を捉えたから、そっちのマップに映すね』そう言って、今この艦内に居る生命体の反応も映しだしてくれた。

「僕たちが今居るのは左舷上層階。数は4。右舷上層階に1人。中層に10人。下層に2人、か」

「右舷と左舷の連絡通路は・・・っと」

「一番後ろと・・・あ、あそこの角だね」

わたしが指差す方には、右舷へと繋がる連絡通路があることを示す案内プレートが壁に付けられてる。クロノが「二手に分かれて挟み込もう」そう言ってチーム分けをしようとした時、わたし達と同じように上層階に居た1人が中層階に下りてくのをマップで確認した。

「クロノ、私たちも降りよう!」

「ああ! 二手に分かれる時のチームは、僕とアルフ、フェイトとアリシアでいくぞ!」

「うん!」「オーライ!」

中層階に降りるための階段を駆け下りて、わたし達も中層階に到着。でもそんな時、「え? あれ? なんか生命反応、少なくなってない・・・?」フェイトがマップを指差した。さっき見た時は10人、プラス1人の11人だった。でも今は8人になっちゃってる。

「くんくん。・・・なんかヤバいよ。血の臭いがし始めてきた・・・!」

「「「っ!」」」

消えてく生命反応。嗅覚の鋭いアルフが言う血の臭い。明らかに「殺人が起きているかもしれない、急ぐぞ!」駆け出したクロノに、「了解!」わたし達も続く。マップを観ながら廊下を走る中・・・

「ぎゃぁぁぁ!」

「ひ、ひぃぃーーー!」

「た、助け、ぐぎゃあ!」

年老いた男の人の声による悲鳴と、耳を塞ぎたいほどの嫌な音が聞こえてくる。アルフが「その角の先、フェイトとアリシア、覚悟しときな」鼻を押さえながらそう言った。覚悟。それだけでこの先に待ってるものが何かが嫌でも判った。

「うっ・・・!」

そして、角を曲がった先には3人の死体があった。明らかに斬殺されてて、その、上半身と下半身が離れた死体が1つ、お腹に大穴が開いた死体が1つ、壁に叩き付けられて潰されちゃってる死体が1つ。ここまで酷く損傷した死体なんて初めてだから「うぷ・・・」吐き気を催した。

「大丈夫かい? アリシア。吐いた方が楽になる場合もあるよ?」

背中を擦ってくれるアルフに「ありがとう」お礼を言う。けど吐くわけにはいかない。執務官補佐として現場を保存することも大事な仕事。それを荒らすようなことは出来ないよ。

「ひどい・・・!」

「3人とも指名手配を受けてるスタッフだな・・・」

クロノが死体に近付いてしっかりと顔を確認した。そんな中でも「どんどん生命反応が消えてくよ!」スタッフが次々と殺害されてってる。現場を踏み荒らさないように注意しながらわたし達は駆け出して、さらに発見した死体の中を突き進む。そして・・・

「あと少しで追いつくぞ!」

スタッフを殺害し回ってる犯人の反応にようやく追い付いた。だけそれまでに多くに人が殺された。残る生命反応はわたし達を除外しての下層2人、それプラスに2人の4人。そう。わたし達は今、下層階に来てる。

「ま、待ってくれ! お前たちの施設から子供を拉致したことは詫びる! し、知らなかったのだ! プライソンの研究材料が集められた屋敷だったなんて!」

「父プライソンは大変お怒りなんですよ。謝罪だけで済ますような方ではありませんもの。だから娘である私に、あなた達の殲滅を命じたのですよ」

「ひぃ! だ、誰かぁぁぁーーーー!」

ある部屋の中から聞こえてきたしわがれた声と、若い女の人の声による会話。その内容だけで、今回の連続殺人事件の全容が判った。プロフェッサーが、わたし達の追うプライソンが研究で使おうとしてた子供たちの収容所(この時点で怒髪天だよ)から、子供たちを拉致したってこと。
それを知ったプライソンが、娘って言う女の人に指示を出してプロフェッサー一味の殲滅を命じて、こんな事態になっちゃってるってこと。それと同時に、今この艦の中には拉致された子供が居るってことも判った。

「突入するぞ・・・!」

「「了解!」」「おう!」

クロノの合図で、わたし達は一斉に会話が漏れ聞こえてくる部屋へと突入した。まずアルフが木製の扉を蹴破って、「一切の行動を取るな!」クロノが“デュランダル”を室内に向けて、最後にわたしとフェイトで「チェーンバインド!」を発動、プロフェッサーらしきお爺さんと、女子高校生みたいな女の人を拘束する。

「だ、誰だ!? い、いや、そんなことはどうだっていい! 頼む、助けてくれ!」

「あらあら。どちら様?」

全く違うリアクション。プロフェッサーは恐怖からか真っ青で、女の人は余裕に満ちてる。

「時空管理局、クロノ・ハラオウン執務官だ。プロフェッサー・ヘンリー。僕たちがここに来た理由は話さなくても解るな? そして、広域次元犯罪者プライソンの関係者。君からも事情を窺おう。ここまでに見てきた死体についてなどをだ」

クロノがそう告げるとプロフェッサーは「判った! 何でも話す! だから助けてくれ!」必死に命乞いをしてきた。これまでに何人も子供を殺しておいて・・・。でも管理局員としてわたしは、わたし達は、どんな不条理でも理不尽でも、アイツを助けなきゃいけない。

「困るなぁ。邪魔されるのは・・・。あぁ、そうだ。こうすればいいんだ」

女の人がコントロールパネルのようなモニターを展開したと思えば、「よいしょっ」そんな掛け声を発するとフェイトのバインドを粉々に砕いた。ブレイク魔法なんて使われてないのは確か。今のは間違いなく単純な筋力だけでバインドを破壊したんだ。

「動くな!」

クロノから停止勧告を受けても「その指示には応えられないから、ゴメンね」軽快にキーを叩き続ける女の人。そして「フェイト、アリシア、撃て!」攻撃命令がクロノから降りた。だから魔法を放とうとした。だけどその直前に・・・

「「「っ!?」」」

「ぅあ・・・!?」

全身が急に重くなって、しかも魔法であるわたしのバリアジャケットが強制解除されちゃった。

†††Sideアリシア⇒フェイト†††

急に体が重くなって全身から力が抜けた。咄嗟に“バルディッシュ”を杖代わりにして、片膝立ちを維持するだけで精いっぱい。クロノも私みたいにデバイス――“デュランダル”を支えにかろうじて立っている感じだ。アリシアに至っては防護服が解除されているし、アルフはぐったりと床に倒れ伏してる。

「アンチ・マギリンク・フィールド・・・!」

AMFだ、これ。魔力結合と魔力効果発生を無効にするAAAランクの防御魔法。研修中に習ったし、実際に体験もしている。だけどここまでキツイAMFなんて初めてだ。

「あっ! アルフ、子犬フォーム! 少しでも良いから魔力消費を減らして!」

「お・・・おー・・・」

使い魔は魔力生命体だ。その存在を保つには、主人から常時魔力を供給されていないといけない。だからAMFの影響で私からの供給が減っている今、アルフは今まさに生命の危険に陥っている。

「わ、わしは知らんぞ! に、逃げさせてもらうからな!」

プロフェッサーを拘束してたアリシアのチェーンバインドも見事に消滅していて、自由になった彼は一目散に部屋の出口に向かって駆けだした。制止しようにも全身がだるくて動きづらい。それほどまでに強力なAMFだ。

「逃げられると思っているの?」

――ISメタルダイナスト――

「「「っ!?」」」

「うひぃ!?」

壁の内層を突き破って伸びて来た金属の壁がうねうねと蠢いて出口を覆い隠した。このAMFの中で発動させた何らかの力。おそらく魔力に依存しないタイプの固有スキルだ。最悪な展開。私たちは魔法が発動できないどころか身動きすら難しいのに、相手は魔力に依存しないスキル持ち。いま戦闘になると確実に負ける。

「ヘンリー・ヨーゼフ・リー・メンゲレ。父、プライソンの命によりお前を殺します♪」

「い、い、いやだぁぁぁぁぁーーーー!」

女性がプロフェッサーに向かって突進。プロフェッサーは出口だったところから動こうとせずに目を瞑り、ひたすら叫ぶのみ。今まさに目の前で殺人が起きようとしているのに、何も出来ないなんて。

「うごけ・・・うご、け・・・動け・・・!」

魔法を発動しようとするけど、魔力結合が上手くいかない。そして女性の振りかぶられた右拳が、「うわぁぁぁぁぁぁ!」顔面をグチャグチャに濡らしてるプロフェッサーに向かって繰り出された。当たる。思わず目を瞑りそうになったその時・・・

――ISディープダイバー――

「セインさん、颯爽登場~♪」

ピッチリとした全身タイツの防護服を着たセインの上半身が壁の中から飛び出してきた。セイン・スカリエッティ。第零技術部のジェイル・スカリエッティ少将(愛称はドクター)の娘の1人だ。どうしてここに居るの?とか、いろいろと考えたいところだけど、今はただプロフェッサーを殺されないようにしてほしい。あの人は、ちゃんと法で裁かないといけないんだ。

「暴れないでよおじいちゃん!」

「なんじゃ!?」

セインがプロフェッサーの腰をガッシリと掴んで、そしてまた壁の向こう側へ消えて行った。その直後に女性の拳が壁に打ち込まれて、「いった~い!」手首がグキッとなった。さらに、ドカーン!と壁が爆発を起こして、「きゃ~ん!?」女性は大きく吹き飛んで、「きゃいん!?」執務デスクに突っ込んだ。

「クロノ執務官、フェイト執務官、アリシア執務官補、アルフ!」

――ISライドインパルス――

濛々と上がる煙の中から「トーレ・・・!?」が飛び出して来た。トーレ・スカリエッティ。セインと同じドクターの娘で、娘だけで構成された部隊シスターズの中でトップの実力者だ。

「あいたた・・・。ジェイル・スカリエッティの兵隊ですか。これは予想外です」

「執務官たちは、チンク、セインと共にプロフェッサー・ヘンリーの護送を! この偽者は私が撃破します!」

チンクも来ているんだ。とにかく「今の僕たちでは足手まといだ、行こう・・・!」クロノが不確かな足取りで出口に向かって歩き出した。私も“バルディッシュ”で体を支えて歩きだす。

「アルフはわたしが抱っこしてく・・・!」

ぐったりしたままのアルフをアリシアが抱きかかえてくれた。

「偽者とは、酷い言い草ですね! 言うなれば私たちは姉妹になると言うのに!」

――メタルダイナスト――

「姉妹だと? ドクターが長年掛けて生み出した医療技術を盗み、それを兵器開発に転用したプライソン! そして初めから戦闘兵器として造られたお前たちと我々を・・・一緒にするな!」

――ライドインパルス――

そしてトーレと女性が戦闘を開始したのを横目で見ながら廊下から出た。

「こちらです、クロノ執務官! 私が先導します!」

――ISランブルデトネイター――

廊下に出てすぐに目の前に飛び込んで来たのは、銀髪とコートを翻しながらスローイングナイフ・“スティンガー”を投擲し続けるチンクと、その“スティンガー”を受ける者たちだった。
全身が真っ黒な上下一体の服(ライダースーツって言うのかな)を着て、ところどころに分割装甲を装着してる。頭はフルフェイスのヘルメット。目を覆うバイザーも装甲に覆われてるけど、いくつもの穴――カメラレンズが付いてる。口の部分は上顎と下顎が開閉式みたいで、半開きになってる人の口や歯が見えてる。

「なんだ・・・こいつらは・・・!?」

「コイツらもプライソンの兵器です!」

チンクは問答無用で“スティンガー”をその黒い人たちに投擲。黒い人たちは、前腕部分に装着してる装甲から剣を出して“スティンガー”を迎撃するんだけど、触れた瞬間にチンクが「無駄だ!」そう言って、“スティンガー”を爆発させた。
チンクは、触れた金属を爆発物に変化させるスキルを持ってる。そのスキルで“スティンガー”を爆発物に変えて、チンクは攻撃する。だけど、それは魔法じゃないから非殺傷設定は無い。だから黒い人たちは爆発に呑まれて・・・死んだ。

「チンク! 何やっているの!?」

「いくらなんでも殺すのはダメだぞ!」

私とクロノでそう注意するけど、チンクは廊下を進みながら“スティンガー”を投げては黒い人たちを攻撃して、爆破させて殺害。戦争映画みたく色々な物を撒き散らしながら黒い人たちは倒れ伏していく。

「チンク!」

「安心しろ! 連中はすでに死んでいる! 人間の死体をベースに改造して造られたサイボーグ! コードネーム、LAS・・・Livingdead Arms Soldier!」

――ランブルデトネイター・オーバーデトネイション――

チンクの側に10本の“スティンガー”が展開されて、廊下の先からこちらに向かって突撃して来る黒い人たちに向かって発射した。そして指をパチンと鳴らして一斉に爆破させて一掃した。

「人道を大きく外れた禁忌の存在だ。死してなお辱められる哀れな亡者。ここで弔ってやるのが救いだ」

「死体を改造するなんてそんな・・・」

「プライソン。そこまでの外道だったとは・・・!」

「絶対に捕まえよう、フェイト・・・!」

「うん!」

そうして私たちはチンクの先導で甲板まで戻って来られた。そこでセイン、手錠とバインドで拘束されてるプロフェッサーと合流した。セインと手を振り合っていると、『クロノ君、フェイトちゃん、アリシアちゃん。アルフ!』AMFの効果範囲から出られたことで、涙声なエイミィからの通信が入った。

『良かったわ。突然通信が切れるから、何かあったのかと思ったわ』

「AMFを艦内全域に発動されてしまいました。失態です」

『いいえ。無事で良かったわ。さぁ、プロフェッサー・ヘンリーを連行して、本局へ戻りましょう』

それから私たちだけでアースラへと帰還。セインとチンクとトーレは、プライソンが造ったって言うあの女性の捕獲と、拉致された子供2人の救出が任務だということもあって、艦に残ることになった。
緊急任務を無事にとは言えないけど終えた私たちの乗るアースラは再び本局へ向かう。私たちの部屋に設けられたシャワー室で汗や、艦内で染み付いちゃった血の臭いなどを洗い流す。30分も掛からなかった任務だったけど、その内容はあまりにも酷いものだった。そして改めて・・・

「ドクター・プライソン。必ず捕まえてやる・・・!」

決意が出来た。人の命を単なる道具程度にしか考えていない犯罪者。絶対に捕まえて罪を償わせてやる。シャワーを浴びた後は、「エリオに連絡しておかないと、だね」今日逢いに行くよ、って約束していたのに、それを破ることになっちゃうことを謝らないと。

「あぅ~。泣かれちゃうと辛いよね~・・・」

「だな~」

アリシアとアルフも辛そうに顔を歪ませる。しょぼ~んと肩を落としてるところで『3人とも~、ちょっとブリッジに来て~』エイミィから一方的な通信が入った。何か急ぎの用事だといけないから、すぐにブリッジへ向かった。

「そういうわけで、3人はこれからトランスポーターを使って本局へ飛びなさい。ちなみに艦長命令よ」

ブリッジに着いた瞬間に母さ――艦長がそんなことを言ってきた。そういうわけで、ってどういうわけかは判らない。だけど「あの、まだ護送も済んでませんし・・・」プロフェッサー・ヘンリーを護送し、なおかつ聴取とか書類作成とかやる事が山積みだから少し渋る。

「ありがとー! お母さん♪」

「リンディ、ありがとー!」

アリシアとアルフは満面の笑顔で母さんに抱き付いた。本当は嬉しいけど、やっぱり仕事のこともあるから私は素直にお礼が言えなくて。

「元々はアースラが請け負った仕事だ。それに、第零技術部も協力してくれたことだし、彼女たちと一緒に事後処理を行うよ」

「そうそう♪ だからフェイトちゃん達は、あとの事は心配しないで、エリオ君に逢いに行っておいで♪」

「ええ。これはアースラ艦長としての命令でもあり、あなた達の母としてのお願いでもあるわ」

母さん達のその言葉で、「ありがとう!」私もようやく決心。アースラのトランスポーターから中継ステーションを跨いで、本局のトラスポーターホールへ飛ぶ。そこから特別保護施設まで「ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ~!」アリシアの掛け声通りに全力で走る。そして・・・

「間に合った~!」

無事に到着。転送移動によって大幅に時間的余裕が生まれたことで、約束の時間の40分前に施設に到着することが出来た。そこは学校みたいな施設で、校舎のような建物、運動できるグラウンド、周囲は緑地公園みたいなものになってる。それに、ちゃんと世に出ていけるように勉学や、希望者には魔法の授業も行われる。

「「「エリオ!!」」」

「あっ! フェイトさん、アリシアさん、アルフ!」

グラウンドを右往左往していたエリオが、満面の笑顔になって駆けて来た。エリオは、私とアリシアとアルフの3人、チーム・テスタロッサの仕事の時に保護した子だ。私と同じ“プロジェクトF.A.T.E.”によって生み出された子供。
実の親に裏切られて、連れて行かれた研究施設で軟禁されてた。私たちが見つけた時は心も体もボロボロで、世の中すべてが敵、信じるものなんて何も無い、ってとても荒みきってしまっていた。

・―・―・回想です・―・―・

「この前保護した子、エリオ。やっぱり暴走しちゃってるみたい。このままじゃ医務局から追い出されちゃうよ」

アリシアがそう言って、医務局でのエリオの様子を録画した映像を観せてくれた。小さな体から放電させて、看護師さん達を困惑させてしまっている。出自と親御さんから引き離された経緯、研究施設で受けた非道な実験の数々からすれば、人間不信になるのは当たり前過ぎた。

「アリシア。私・・・」

「何か考えがあるなら言ってフェイト。わたし、お姉ちゃんだから。悪い事じゃないなら何でも付き合うよ♪」

「ありがとう、お姉ちゃん♪」

エリオを守りたい。その為にいくつか案を考えた。その内の1つが、保護責任者。エリオの保護責任者になって、あの子が独り立ちするまで守る。そう伝えたら「その話に乗った!」アリシアは快諾してくれた。

「じゃあさ、早速伝えに行こうよ♪」

「うんっ!」

エリオにその事を伝えるために医務局へ。そこではいつものように暴れちゃってるエリオが、看護師さん達を困らせていた。私とアリシアは入室して、「ダメだよ、エリオ。あんまり暴れちゃ・・・」怒鳴るようなことはせず、そっと窘める。

「そうそう。そんな無茶をやってると、エリオ自身も辛いでしょ、苦しいでしょ?」

「・・・っさい・・・、うるさい・・・うるさいんだよ!!」

エリオが大声を発してさらに電圧を上げた放電を行う。看護師さん達は「あの、コレを・・・」耐電グローブを差し出してくるけど、それを首を横に振ることで断った。私は電気変換資質を持ってるし、何より拒絶しているみたいではめる気にはなれなかった。

「関係ないだろ、あんた達には! 放っとけよ!」

「放っておかないよ」

「うん。それに関係なくないよ。私とアリシアは、エリオに幸せになってほしいと思ったから、あそこから連れ出したんだし」

「頼んでない、そんなこと! どうせあんた達だって、ぼくのことなんてホントはどうだっていいんだ! どうせすぐにうらぎって、放りだすんだ! 要らないって、すてるんだ!」

エリオがそんな悲しいことを言う。だから「そんなことない・・・!」エリオの左手を取った時、「さわるなぁぁぁーーーー!」エリオからさらに強力な放電が発せられた。

「フェイト!」

「大丈夫!!」

駆け寄ろうとしたアリシアを止める。さすがにアリシアにはこの電撃は辛い。今はエリオに誰かを傷つけさせるわけにはいかない。この時のシーンが、いつかエリオを苦しませると思うから。そっと左手を両手で包み込むと、放電が治まってくれた。今しかない。エリオに私の、私たちの思いを伝えるチャンスは。

「ねえ、エリオ。エリオが今その胸に抱いてる、悲しい気持ちも許せない気持ちも、たぶん・・・私はその全部を解りきってあげることは出来ないと思う。だけど、少しでも解りたいって思う。辛く悲しい気持ちも、分け合いたいって思うんだ。・・・エリオはどこか私に似てる。生まれ方もそうだし、親に拒絶されてしまったこともそう・・・」

「・・・え・・・?」

「一番大好きで、その人のためなら世界だって敵に回せるって思っていた。だけど、要らない子だって、失敗作だって拒絶された。それがすごく寂しくて、悲しくて、死んじゃいそうな程に辛かった」

最終的に私はプレシア母さんから愛を貰えた。だけどエリオが親から愛を貰うことはきっともう無い。

「どれだけ悲しくても、苦しくても、許せないことがあっても、それが永遠に続くことはないんだよ。楽しいこと、嬉しいこと、探していけばきっと見つけることが出来る。私だってそうだった。手を差し伸べてくれる人が居た。エリオにもきっとそういう人が現れるよ。最初は私と、後ろに居る私のお姉ちゃん。一緒に探していこう? エリオ。そして、お願い。悲しい気持ちで一を傷つけないで。それはエリオ自身も傷ついちゃうから。ね?」

「・・・うん・・・」

抱きしめてあげると、エリオは大きな声で泣いた。

・―・―・終わりです・―・―・

あれ以降、エリオは人を傷つけることがなくなったし、私やアリシア、次に一緒に会いに行ったアルフにも、たどたどしいけどちゃんと話をしてくれるようになった。それに、ちゃんと保護責任者の事も受け入れてくれたし。

「フェイトさん、アリシアさん、アルフ! 今日早かったね!」

「まあね♪ お仕事をササッと片付けて来たんだよ!」

「だから、今日はいっぱい遊べるぞ!」

「やったー!」

あの頃と比べるまでもないとっても良い笑顔。私、この笑顔を守り続けたい。いつか私の代わりにエリオを支えて上げてくれる子が現れてくれるまで。ううん、現れてからも陰ながら、ね♪
 
 

 
後書き
ブオン・ジョルノ。ブオナ・セラ。
今話の前半にて、エピソードⅣの主要な敵キャラとなるプライソン製の戦闘機人の1人・アルファと邂逅。さらに新たにプライソン製の非人道的な兵器・LASも登場させました。腐食しかけた死体の体内外に機械を埋め込んだ、半自立型の戦術兵器。
コイツにはモデルがありまして、マッグガーデン出版、空廻カイリ著の「MOTHER KEEPER」というコミックの終盤に登場する、LASと同様に死体を利用したサイボーグです。見た目もまんまソレなので、一読してみてください。すぐにイメージ出来ます。

後半は、エリオ初登場回ですね。コミック版のSTRIKERSの第2巻を参考にさせていただきました。
 
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