英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
外伝~それぞれの動き~前篇
同日、23:00――――
~夜・エレボニア帝国・帝都ヘイムダル・バルフレイム宮某所~
「―――まだ起きていたのか。明日の出発は早い。いい加減、寝たらどうだ?」
エレボニア帝国の帝都―――ヘイムダルのある場所で黒髪の軍人は机で書類仕事をしているオリヴァルト皇子に近づいて来た。
「あー……うん……一応、こちらの報告にも目を通しておきたいからねぇ。」
「士官学校か……まさかお前がそこまで真面目に職務に励むとはな。」
目の前の人物から出る言葉とは思えない発言を聞いた軍人は口元に笑みを浮かべてオリヴァルト皇子を見つめた。
「フフ、あくまで名目上の理事でしかないけどね。あの子達も頑張ってるみたいだし、このくらいはさせてもらわないと。」
「フ……まあいいだろう。―――しかしどうやら例の話は確かなようだな。カイエン公の手の者が密かに手を回しているようだ。」
「あのヒトか……そんな所じゃないかと思ったけど。規模の方は掴めているのかい?」
軍人の話を聞いたオリヴァルト皇子は考え込んだ後尋ねた。
「いや、そちらは不明のままだ。情報局もその辺りは掴み損ねているようだな。」
「アハハ、自業自得とは言え宰相殿も災難だねぇ。フフ、意外とボクもまとめてターゲットにするつもりかな?」
「……洒落になっていないぞ。やはり第七師団からの護衛を増員した方がいいのではないか?今からねじ込む事も可能だろう。」
ふざけた様子でとんでもない事を口にしたオリヴァルト皇子に溜息を吐いた軍人は真剣な表情で提案した。
「いや、それには及ばない。宰相殿ならともかく。ボクのキャラでそれをやったら築いたイメージも台無しだろう。それに――――」
しかしオリヴァルト皇子は静かな表情で軍人の提案を否定し
「ボクにはキミがいるからね♪キミの腕の中で守ってもらえればもうそれだけで十分さっ!」
両手を広げ、輝かしい笑顔で軍人を見つめて言った。
「―――さて、俺も早く寝るか。」
しかし軍人はオリヴァルト皇子の言葉に返事せず、背を向けて言った。
「スミマセン、調子に乗りました。いずれにしても、明日の内に姫殿下やリフィア殿下達と話をしておきたいかな。そちらの段取りはどうだい?」
「ああ、准佐殿とエリゼ嬢と連絡は取れている。明日の昼食会の後――――夕方くらいの時間になるだろう。」
「そうか……フフ、1年ぶりくらいか。エステル君達が残っていたら同窓会が開けたんだけどねぇ。シェラ君も忙しそうだから出張できる余裕はなさそうな上ティオ君もまだクロスベルには戻って来ていないようだし。」
「……そうだな。……だが、その代わりお前にとって話が合う人物がクロスベルにいるだろう?」
オリヴァルト皇子の言葉を聞いた軍人は静かな笑みを浮かべてオリヴァルト皇子に言い
「話が合う人物……ああ、ヴァイスか。いや~……彼の事を知った時は驚いたねぇ。しかもあの宰相殿の謀略すらも利用した挙句反撃ができるとんでもない人物達―――”六銃士”という心強い仲間までいるし。女神も中々面白い奇蹟を起こしてくれたものだね♪………おっと。この場合はエステル君が起こしたと言うべきかな?」
「……おい。”彼女”の最高機密をみだりに口にするのは止めておけ。」
嬉しそう表情で言ったオリヴァルト皇子の言葉を聞いた軍人は真剣な表情でオリヴァルト皇子を見つめて忠告した。
「おっと、そうだったね。フフ、しかしヴァイスがいるなら、彼と共に最先端のアーバンリゾートで満喫しながらリゾートで解法的になっているレディ達と仲良くするのもいいね。あ、キミと准佐殿の逢引を邪魔するつもりはないから安心してくれたまえ♪何だったら噂のテーマパークでデートしてきたらどうだい?」
「―――余計なお世話だ、阿呆。しかし、いつも以上に下らん戯言が多いようだが。……まさか良からぬ事を考えてるんじゃないだろうな?」
「ギクッ……ハハハ、ヤダナア。ソンナワケナイジャナイカ。」
軍人に睨まれたオリヴァルト皇子は片言で答えた。
(……明日は首に縄でも付けておくか。)
一方オリヴァルト皇子の反応を見た軍人は考え込んでいた。
「―――まあ多分、これが最後の外遊になるだろう。宰相殿の狙いを探りつつ、大陸全土の動向も見極める……相変わらず苦労をかけるけどよろしく頼むよ―――親友。」
「フッ、無論だ。―――それよりプリネ姫達の件は本当によかったのか?」
そして真面目な表情で言ったオリヴァルト皇子の言葉に軍人は静かな笑みを浮かべて答えた後すぐに表情を引き締めて尋ねた。
「プリネ姫達の……?ああ、あの件か。いや~、最初に聞いた時は驚いたね~。フフ、こんな形で”Ⅶ組”が”彼ら”と関わるなんてね。」
「……そうは言うが、状況から考えて二人は”Ⅶ組”のクラスメイトとして実習に赴くのではなく、メンフィル帝国の思惑で実習に赴くとしか考えられんぞ。」
静かな笑みを浮かべているオリヴァルト皇子を見た軍人は真剣な表情で忠告した。
「まあいいじゃないか。二人とレーヴェ君だけがクロスベルで”特別実習”をする真の理由についてはクロスベルで直接会って説明してもらう事になっているんだし。」
「そうだったな……しかしナイトハルト少佐の話では”剣帝”―――いやメンフィルが”六銃士”の動きについて何か知っている事を考えると”六銃士”とメンフィルが何らかの仕掛けをしてくる可能性が高いぞ。」
「少なくともヴァイス達をそんなに警戒する事はないと思うけどねぇ?ヴァイス達は少なくとも宰相殿にとっては目障りな存在だから、ボク達の”敵”ではないよ。」
「……だといいのだがな。」
オリヴァルト皇子の推測に軍人は重々しい様子を纏って頷いて外を見つめた。
~リベール王国上空・高速巡洋艦”アルセイユ”~
「……いい風……この雲の流れ具合だと……向こうの方も晴れなのかしら?」
白を基調とした美しい巡洋艦―――”アルセイユ号”の甲板でクローディア姫は外を見つめて独り言を呟いた。
「ピューイ!ピュイ、ピュイ、ピューイ!」
するとその時一羽の白ハヤブサが飛んできてクローディア姫の肩に止まって鳴いた。
「ふふ、いつもご苦労様。」
白ハヤブサに微笑んだクローディア姫は白ハヤブサの足に括り付けてある紙を取って内容を読み
「…………………………やっぱり共和国方面でも火種がくすぶっているみたい。そして”黒月”の存在と大陸有数にして”異変”の時にも現れた猟兵団の介入……やはり”鉄血宰相”の配下として働いているのは……そして1週間前にメンフィルが持ち掛け、リベールも了承したあの話を考えると……もしかしてメンフィルは……………」
真剣な表情で黙り込んだ後独り言を呟き、再び考え込んだ。
「ピュイ?」
「ふふ、何でもないわ。明日は北東に向かうからこのまま船に乗っていてね?いくらあなたでも外国まで付いていくのは大変でしょうから。」
「ピューイ!」
クローディア姫の言葉に答えた白ハヤブサが甲板の手すりに止まったその時
「―――殿下。こちらにいらっしゃいましたか。」
ユリア准佐が娘に近づいてきた。
「ふふっ……風に当たりたくなって。どうやら明日からの会議に少し緊張しているみたいです。」
「ふふ、ご冗談を。ああ、ジーク。戻ってきていたのか。」
「ピュイピュイ。」
「……これを。R&Aリサーチからの報告を届けてくれました。」
「リシャール殿からの……!拝見させていただきます。」
ユリア少尉は娘から紙を受け取って内容を読んだ。
「………急進的な民族主義者……それに共和国政府の動きですか。どうやら想定外の事態が各方面で進行しているようですね。」
「ええ、皇子やリフィア殿下達とお会いしたらそのあたりもご相談しないと。それと―――ちょっとしたツテを頼らせてもらうかもしれません。」
「ツテ……ですか?」
「ええ、本当に頼っていいのか見極める必要がありますけど。もしかしたら私達の助けになってくれるかもしれません。そちらにはヴァイスさんやティオちゃんもいますし……」
「ああ、エステル君達が言っていたという……なるほど、ギルド方面とは別に当たってみる価値はありそうですね。」
「ええ……―――お祖母様が主導された”不戦条約”が結ばれて2年。戦争は回避できましたが大陸全土で、目に見えぬ圧力が高まりつつあるようです。何とか不戦条約に代わる新たな枠組みを模索しないと―――」
ユリア准佐の言葉に頷いたクローディア姫は決意の表情で空を見上げて考え込んでいた。
ページ上へ戻る