夜空の武偵
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プロローグ3。最強! 筋肉伝説⁉︎
祖父と父親の会話を盗み聞きした俺は話を聞いたことを後悔していた。
なんだよ、なんなんだよ。
赤ん坊に何を求めてんだ、あの人達は?
げっそりとした表情に、死んだ魚のような目をしながら母親に抱かれていると。
ホールの壇上に一人の男性が上がった瞬間、ホール内は静寂に包まれた。
「ご来場の皆様、本日は私の主催する『美しい日本を作る会』の会合及び、娘の誕生記念パーティーに参加していただき誠にありがとうございます。
娘は無事に1歳を迎えることができまして、これは常日頃の皆様の……」
男性が話し始めたが、内容は、主に最近の娘の様子やら、パパと呼んだやら、親バカ的な発言が繰り返された辺りから俺はうたた寝をすることにした。
ぶっちゃけ興味ないし。
他人の家のことよりも、自分のことでいっぱいだからな。
ああ、本当。
あの人外達どうしようか……。
普通の生活を送るには、なんとかしてあの人外達を説得……もしくは物理的に排除しないと、安息の日々を送ることが出来ない気がしてきた。
『生身で弾を弾く人間』を物理的に黙らせるにはどうしたらいいか?
その問いに対する答えなら一つある。
……嫌だが。本当はもの凄く嫌だが。
未来の平穏な普通の生活を送る為に、俺は敢えて彼らの師事を受けようかと思う。
物理で殴って黙らせる為に!
全ては平穏な日常を送る為に!
よーし、そうと決まれば頑張るぞー!
俺はそんな決意をして母親の腕の中で惰眠をむさぼる。
二、三年後から。
二、三年後から頑張るから。
だから今は安眠させてください!
お願いします!
そんは俺のお願いは叶う______筈もなく、突如、会場内に銃声が響いた。
「おとなしくしろ! われわれは『日本救世軍』!
死にたくなかったら、全員両手を後ろに回して床に座れ!
誰かと話したり、泣き喚いたり、抵抗するそぶりを見せたら殺す!
抵抗したり、泣き喚く奴は誰だろうと容赦しない。
われわれは本気だ!
われわれの本気を見せるとしよう。
そうだな。そこのお前。
そこの赤ん坊を______連れて来い」
銃器片手に入り混んできた人物の数は合計10人。
全員顔をマスクで隠している為、身元はわからない。
手に持っている銃声はおそらくイスラエル製のアサルトライフル。
腰にはナイフらしきものが携帯されている。
男達の中にはアラビア語かなんかか?
発音が英語や中国語とかとは違う。
今の時代だと、前世でいう湾岸戦争とかの辺りかな?
外国語が飛び交う感じから多国籍で結成されているみたいだな。
なんて他人事のように考えていると、男達の一人が俺の母親の前に来て、その腕から俺を強引に引き離した。
母親は必死に抵抗するも、眉間にアサルトライフルを突き付けられて、俺を手放してしまった。
おい! マミー! もうちょい頑張ろうよ⁉︎
「われわれは本気だというところを見せよう。
これからわれわれはそこにいるこの国の指導者、内閣総理大臣。風斬颯に要求を行う。
その要求が通らない場合、見せしめとしてこの会場にいる人を順番に殺していく。
まずは、この餓鬼の命を対価にアメリカ合衆国とお前らの国が交わしている思いやり予算の全面凍結。
並びに、日米安保条約の撤回を審議しろ!
期限は三時間。
それが行われない場合……この会場にいる奴らの身の保障はない」
無茶苦茶な要求だな。
そんなもん、通るわけないだろ。
日本がアメリカに逆らえるはずないんだから。
内閣総理大臣も大変だよな、こんな馬鹿の相手をしないといけないんだから。
と思っていると、その内閣総理大臣と目が合い。
パチパチパチン、とアイコンタクトされた。
すまんが、全くわからん。
まだマバタギ信号とかは習ってないし、そもそも赤ん坊だし。
俺は普通の人間を目指すただの赤ん坊ですことよ?
俺は内閣総理大臣にテキトーにマバタキを返す。
すると内閣総理大臣の顔が真っ青になっていた。
何故だ?
テキトーにマバタキしただけだぞ?
何故あんな顔をするのか気になる。
「……私にはこの国を守る義務がある。
君達の要求には答えられない」
「ふむ、われわれの要求を拒否……この赤ん坊を殺してもいいということだな?」
「ああ、出来るものならね。
君達では彼に勝つことなんて出来ない。
比嘉の戦力差もわからない可哀想な君達など……
赤ん坊な彼に無残に散らされるといいさ」
内閣総理大臣は俺の方を見ながらそう言った。
いや、あの……誰が扇げと言いました?
「なっ、き、貴様!
われわれを馬鹿にするとは……死にたいようだな」
「馬鹿になどしていないさ……あくまでも事実を言っただけさ」
内閣総理大臣は俺に向けてマバタキ信号を送ってきた。
『ほら、お膳立てはしといたから君の力を見せるチャンスだよ?』というかのように。
いや、あの総理……俺。
た だ の 赤 ん 坊 な ん で す が⁉︎
「くっ、馬鹿にしやがって!
殺せー、赤ん坊をブチ殺してしまえー!!!」
キレた男(アサルトライフル付き)が襲ってきた。
コマンド
にげる。→だが、逃げられない!
戦う→素手で? 赤ん坊のぷにぷにボディで? どうしろと?
アイテム→涎掛け、ポケットに入ってるおしゃぶり。 使えない!
必殺→泣く! しかし、何も起こらない……。
必殺②→赤ん坊のウルウル瞳攻撃→テロリストには効かなかった。高い耐性を持っているようだ!
俺が必死に打開策を考えるも、無情にも。
テロリストの男は俺の額にアサルトライフルを突き付けつけて。
そのトリガーを引いた……。
あっ、俺死んだ……。
突きつけられたアサルトライフルの銃口から弾丸が発射されるのを俺を見ることしかできなかった。
床に座らされたというより、床に置かれたといった方がいいような状態。
手足は縛られていないが、赤ん坊の体では回避もできない。
いや、大人の体でも避けることなどできないだろう。
弾丸の速度は亜音速。
人間が避けれるはずがない。
ましてや、ただの赤ん坊の俺が避けれるはずがない。
だから、俺はただただ、迫り来る弾丸を見つめることしかできなかった。
(ちきしょう。せっかく転生したのに……俺はまた死ぬのか?)
そんなことを考えることしかできなかった。
普通の赤ん坊の俺には弾丸を回避する術などないのだから。
そう思っていた。
そう思っていたのに!
不思議なことに……テロリストが放った弾丸は俺の頭に当たることなく、『ギィン』という音を残して逸れていった。
え? なにが起きたんだ?
なんで俺生きてんの?
頭の中に浮かぶのは幾つもの??。
何故という疑問。
そして、右手に感じる熱さとチクチクした痛み。
訳がわからないまま、視線をテロリストに向けるも。
撃った張本人ですら唖然としていた。
『今、俺の前で何が起きたんだ?』といった顔をしている。
周りの人質達も訳が解らないとばかりに、唖然としていた。
そんな中、この状況でも冷静に分析している人がいた。
「へえ。凄いな、亜音速で飛ぶ銃弾を手の甲で弾いて軌道をずらしたのか。普通の人間なら銃弾の速度に反応できないし、出来たとしても衝撃に体が耐えられないけど、さすがは僕の息子だね。
先祖代々受け継がれた強靭な肉体の耐久性があった上で赤ん坊特有の体の柔らかさ、柔軟な関節を生かして衝撃を鞭のように弾くことで逃がしたんだね」
他でもない。俺の父親、星空光一その人だった。
「僕達の一族は普通の人に比べて高い持久力と高い耐久性持って産まれ、それに先祖代々先天性筋形質多重症を遺伝的に受け継ぐ一族だからね。出来なくはないか……うん、手出しはいらなそうだね」
『まさに、武偵憲章第4条だね』と笑う父親。
え? なにそれ?
先天性筋形質多重症?
それなんだ?
「こ、このバケモノがああああぁぁぁ」
と、父親が呑気に解説してる合間に。
錯乱したテロリストの一人が手に持つアサルトライフルを乱射した。
あっ……今度こそ死んだわ。
と思った俺だが。
その銃弾が俺や周りの人に当たることはなかった。
何故なら……
「やれやれ、そんなオモチャがなければ戦えんとはなさけないのう」
いつの間にテロリストの前に移動していたのか、爺ちゃんが放たれた銃弾を全て防いでいた。
弾丸を両手の掌を使い指と指との間に挟み込むようにして、受け止めていた。
「『銃弾挟み』……昔、戦友から教わった箸でハエを掴む技を真似たものじゃが、役に立つ日がくるとはのう」
持つものは戦友じゃな、と笑う爺ちゃん。
「馬鹿な……」
そんな爺ちゃんを見て戦意を失くすテロリスト。
「おおっ! さすがは生ける伝説」
「『一騎当千』の名は伊達じゃないですなぁ」
爺ちゃんの人間離れした技を見て感心する人質達。
……感心してる場合か!
もっと突っ込めよ!
素手で銃弾受け止めるとか、人間じゃないだろ!
「馬鹿な……ありえん。夢だ、これは悪い夢だ……」
現実逃避するテロリスト。
そんなテロリストに爺ちゃんは告げる。
「さあ、どうした? かかって来い! 儂と一緒に筋肉を極めようではないか!
なあに、筋肉を極めれば銃弾くらい誰でも掴めるようになる。さあ、儂と楽しい楽しい稽古をしよう!」
いや、無理だから!
筋肉極めても銃弾受け止められないから!
人間辞めてるアンタらと同じにするな!
「父さん、それはさすがに無茶ですよ?」
おおっ、さすがに父さんにも常識があったかー。
だよなー。いくら人間離れした父さんでもただの人間に銃弾掴みは出来るわけない、って解ってるよなー。
「む、そうか?」
「ええ、最初は腕を亜音速で動かす練習からしないと。
いきなり銃弾掴みは危険ですよ」
「バブバブ〜(一から常識学び直せ、コラ!)」
と、突っ込み入れてると。
「くっ、馬鹿にしやがって……おい、アレ。アレ、持って来い!」
テロリストのリーダーがそう叫び、テロリストの一人が駆け出し、戻るとリーダーの手にそれを渡した。
あれは間違いない。
いわゆるロケットランチャー。
某ラノベの主人公が『地球嘗めるな、ファンタジー』とか言いながらぶっ放したアレだ。
室内でぶっ放していい物じゃない。
「ふん、懲りない奴じゃな。どれ儂の筋肉を見せてやるか……」
「嘗めやがって……死に晒せ。あばよ、糞爺」
テロリストのリーダーがそう言いながらロケットランチャーを放つ。
爆音を鳴らして弾頭が発射された。
「爺ちゃああああぁぁぁぁぁぁん⁉︎」
俺は木っ端微塵になる光景を想像したが……。
爆音が鳴り響き、奇跡的にも爺ちゃんの周りには爆発の衝撃がない、やがて会場内を覆っていた黒煙が晴れるとそこには……。
「ふんぬ! 効かん、効かんぞ。足りん。火薬が足りんぞ。
儂を倒したいなら軍艦でも引っ張って来ぬと倒れんぞ」
無傷姿の爺ちゃんが立っていた。
「まったく、弾頭を筋肉解体するのは正直面倒なんじゃぞ?
男なら拳でこんか。拳で」
爺ちゃん……アンタ、本当に人間か?
筋肉解体って、何?
会場は壮絶となった。
余談だが、筋肉解体というのは『胸筋、腹筋、背筋、脊柱、関節を同時に動かし高速で連動させて、衝撃波を生み出し物資を破壊する解体方法』らしい……。
爺ちゃん、父さん曰く、『鍛えれば猿でもできる』とのことだが……出来てたまるかー!
と、突っ込んだ俺は悪くない!
結局、戦意を完全に喪失したテロリストを無効化するのに、爺ちゃんと父さん二人がいれば十分だった。
いや、爺ちゃん一人で十分だった。
なにあの強さ?
人間? 爺ちゃんの半分はバグで出来てんの?
いろいろと突っ込みを入れたい衝動に駆られるも、それを抑えて。
こうして、初めての社交界デビューは終わった。
星空家に新たなる伝説を残して。
それから四年後。
俺は五歳になっていた。
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