| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

浮気者!?

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「そんなに美味いのか。それなら」
「何頼む?」
 ここでまた後ろから声が聞こえてきた。
「そうね。バナナチョコクレープがいいわね」
「じゃあ私は苺クリームにするわ」
「バナナチョコに苺クリームか」
 僕はその二つを耳にした。耳にすると自然と心がそちらに向かう。言葉と食べ物の持つ魔力だった。
「じゃあどちらかにするか」
 どっちにするかまではまだ決めていなかった。けれどウェイトレスさんを呼ぶことにした。何か吉川ひなのをもっと明るくして利発にした感じの背の高い女の子だった。胸の名札が目に入ったけれどそこには高添とあった。何か名前と同じでやけに背が高いのだなと思った。その他数さんに注文するのだった。
「はい。御呼びですか?」
「クレープ下さい」
 その高添さんに言った。
「ええと」
「ええと?」
「バナナチョコを」
 とりあえずそれにした。心の中でやっぱり苺クリームの方がよかったかとも考えたけれどとりあえずそれにした。賽は投げられた、そんな気持ちで頼んだ。
「わかりました。それじゃあ」
「御願いします」
 こうしてバナナチョコクレープを頼んだ。何かクレープを頼むのに随分と逡巡した。その逡巡の間に向こうではまだ話が続いていた。
「何処に行くの?今度は」
「そうね。いつものお店ね」
「この浮気者」
 その浮気者は何処かの店員かと思った。話を聞いていて。
「入り浸ったら駄目よ」
「けれど今はあそこにしかないから」
(ない!?)
 今の言葉は僕の聞き間違いかと思った。そうでなれけば向こうの言い間違いか。
(一体何なんだ)
「だからあそこに行くしかないのよ」
「わかったわ。じゃあ付き合ってあげるわよ」
「有り難う」
「目付けよ」
 釘が刺された。
「断っておくけれど」
「厳しいわね」
「こう続けて浮気されたら呆れるのも通り越して顎が外れるわ」
 また凄い表現だった。
「だからなのよ」
「そうなの」
「そうよ。わかったら行くわよ」
 随分と物凄いやり取りだった。今の間だけでも。
「これ食べたらね」
「わかったわ」
 何か随分と物凄いやり取りだった。僕はそれを聞きながら目の前に置かれたクレープを食べた。そのクレープは確かに美味かった。
 その美味いクレープを食べてから店を出た。席を立つ時にふと話していた方を見ると随分と奇麗な人が二人いた。歳は僕より三つ位上で顔はどちらもよかった。そのうちの垂れ目の人が苺クリームを、茶髪の人がチョコバナナを食べていた。それを見て僕はその浮気者は茶髪の人かしらと思った。理由は簡単でぱっと見た外見でだ。派手そうだったからだ。
「遊んでいる感じだよな、確かに」
 そんなことを思いながら僕は店を出た。けれどそれについてはすぐに考えるのを止めてクレープのことに考えを移した。今度は苺クリームを食べようと。そう考えていた。
 それでまた来た。今度は苺クリームを頼むと決めていた。またあの高添さんが来て注文を窺ってきた。まずクレープは決まっていた。飲むのもだ。
「苺クリームのクレープとロシアンティーを」
「それのセットですね」
「はい、御願いします」
 その言葉に応えた。これで決まりだった。
 暫くしてそのロシアンティーとクレープが来た。早速クレープを食べようと銀色のフォークとナイフを手に取ったその時だ。たまたま空いていた右隣の席に。不意に二人やって来た。
「おや」
 僕はその二人を見て小声をあげてしまった。あの時の二人だった。
「また来たんだ」
「何頼むの?」
「決まってるじゃない」
 二人は向かい合って座るとまずこう言い合った。
「クレープよ。それと紅茶」
「そうよね。やっぱりそれよね」
 あの垂れ目の女の人が茶髪の女の人の言葉に頷いていた。この人達も頼むのは同じだった。もっとも僕はこの人達の話を盗み聞きして決めたことだけれど。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧