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どっちが誰だか

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5部分:第五章


第五章

「けれどの特徴は」
「まさか貴方は」
「そう、そのまさかだよ」
 二人に応えて右手の人差し指をビュン、と振りビシッ、と止めてみせる。
「僕はね。カメレオン脇坂さ」
「カメレオン脇坂さん!?」
「あっ、そういえば」
 ここであらたなことを思い出す二人であった。
「脇坂さんも今」
「そうそう、お仕事でここに来てるんだったよね」
「そういえばそうよ」
「それじゃあ」
「いやあ、ラーメンはやっぱり博多だよね」
 カメレオン脇坂は笑顔で二人に言ってきた。
「あの豚骨はね。ここならではだよね」
「それじゃあやっぱり脇坂さんで」
「そちらの方は」
「その通りだよ」
 左の藤井さんが気さくに笑って二人に応えてきた。
「もうわかるよね」
「はい、藤井信太郎さんですよね」
「本物の」
「本物って。じゃあ僕は何なんだよ」
 カメレオン脇坂がまた苦笑いになって二人に問う。
「藤井さんが本物なら」
「ええと。本物の脇坂さん!?」
「そうじゃないんですか?」
 何処となく滑稽な二人の返答であった。
「だとするとやっぱり」
「そうじゃないんですか?」
「まあそうだけれどね」
 本物と言われると確かにそうなので頷くしかなかった。
「カメレオン脇坂だよ。僕はね」
「そうだったんですか」
「そうだよ」
「ところで君達」
 今度は藤井さんが二人に尋ねてきた。
「どうしてここにいるんだい?」
「見たところどちらのスタッフの人でもないみたいだけれど」
 脇坂さんも同じことを二人に問うてきた。
「それだけれどどうしてここにいるの?」
「何か用かな」
「えっ、ええとそれは」
「そのですね」
 悶着の後になったのでそれまでの威勢は完全に消えてしまっている二人であった。最初はしどろもどろ、後も結構狼狽しながら二人に話す。どうしてここに来たのかを。
「何だ。そんなことだったの」
「それでだったんだ」
「はい、そうだったんです」
「それで」
 廊下で小さくなって二人に話す晶子と朋子だった。
「悪気はないんです」
「ただ。サインを」
「いいよ、それはね」
「僕もね」
 このことは気さくに応じてきた藤井さんと脇坂さんだった。
「それならこちらとしても願ったり叶ったりだよ」
「何時誰のサインでも受けるよ」
 真面目な感じの藤井さんに対し脇坂さんはあるプロレスラーの物真似を入れてきていた。その入れ方がかなりナチュラルなのは流石であった。
「ただね」
「ただ?」
「やっぱりこういうのはね」
「プライバシーだからね」
 二人が言うのはこのことだった。
「そこまで僕のことを思ってくれているのは有り難いけれど」
「そこはちゃんとして欲しいかな」
「すいません」
「つい・・・・・・」
「わかればいいから」
 二人もそこまで言うつもりはなかった。笑顔で謝罪は受け入れた。
「それはね。これで終わり」
「それでいいかな」
「はあ」
「何て言いますか」
「それじゃあさ」
「サインだよね」
 そしてあらためてサインの話に入った。
「何処にサインして欲しいのかな」
「そこの色紙?」
「色紙とですね」
 晶子が焦ったようにして二人に応える。
「あの、今着ているティーシャツにも」
「私もです」
 朋子もまた少し焦った感じで言ってきた。
「私も。同じで」
「そう。それじゃあ二人共色紙とティーシャツだね」
「両方にだね」
「御願いします」
「宜しければ」
 必死の声と顔で二人に言う。最早嘆願だった。
「是非共両方に」
「図々しいけれど」
「まあそこまでは言わないけれどね」
「それじゃあ」
 また苦笑いになる二人だった。しかしそれでも懐からサインペンを出してきた。黒いサインペンである。
「まずは僕からかな」
「は、はい」
「ここに」
 晶子と朋子はわざわざティーシャツを拡げ色紙を出して藤井さんに応えた。
「どうか」
「宜しくです」
「わかったよ。じゃあまずは僕で」
「次は僕だね」
 脇坂さんも既にサインペンのキャップを抜いていた。何時でも書けるようにスタンバイしているということだ。その辺りの動作が実に馴れたものであった。
「いいね」
「ええ。それで」
「是非」
 こうして晶子と朋子は二人のサインを受け取った。結果は喜ぶべきものであった。しかしそれまでの騒動は。どうにもこうにもドタバタとした。爽やかな結果の後だからこそ言えることであった。


どっちが誰だか   完


                   2008・10・13
 
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